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Automotive Newsletter

「自動運転ワーキンググループ 中間とりまとめ」について

Ⅰ. はじめに

2025年5月30日、国土交通省が設置する「自動運転ワーキンググループ」(以下「自動運転WG」といいます。)、は「自動運転ワーキンググループ 中間とりまとめ」(以下「本中間とりまとめ」といいます。)を公表しました1。本中間とりまとめは、自動運転WGにおいて2024年10月から行われた、主としてレベル4の自動運転タクシー等の迅速かつ円滑な社会実装を念頭に置いた議論の結果をもとに、今後の方向性を取りまとめたものです。

Ⅱ. 自動運転車の社会実装の推進に向けた制度の在り方

自動運転WGでは、「ビジネスモデルに対応した規制緩和等」として、「管理の受委託の運用の明確化」、「特定自動運行時に必要な運行管理の在り方」、「タクシー手配に係るプラットフォーマーに対する規律の在り方」の3つの観点とともに、SWG報告書2を踏まえた「認証基準等の具体化による安全性の確保」、「事故原因究明を通じた再発防止」、「被害が生じた場合における補償」の3つの観点から制度整備の方向性について検討を行っています。以下、それぞれの検討の内容について解説します。

Ⅲ. 個別検討課題に対する今後の対応等

1. 管理の受委託の運用の明確化/特定自動運行時に必要な運行管理の在り方

特定自動運行においては、タクシー事業の許可を有していない者に対しても管理を委託する可能性があり、かかる委託は許可制となっているが許可基準はなく、また、通達3において、「定型業務を除き、特定自動運行事業用自動車の運行の業務に係る判断及び対応を行わないこと。」とされていたものの、この「定型業務」に該当するものとして外部委託可能な範囲は、必ずしも明確ではありませんでした。また、運行管理者の人数に関する要件についても、特定自動運行に適した運行管理者の要件を検討する必要が指摘されていました。

上記のような状況を踏まえ、自動運転WGでは、管理の受委託の運用及び特定自動運行時の運行管理について、以下のような手当てが図られています。

(1)管理の受委託の運用の明確化
自動運転WGにおいて必要な検討のもとで示された骨子を踏まえ、2025年3月31日付で、「特定自動運行旅客運送の管理の受委託について4」が発出され、特定自動運行旅客運送の管理の受委託に係る許可基準が整備されています。その概要は以下のとおりです。

  • 受委託の範囲
    特定自動運行保安員の業務及び運行管理者の業務。但し、委託者と受託者との間で、特定自動運行計画、管理の受委託契約書、運用マニュアル等で具体的な判断及び対応を事前に取り決めたものに限る。
     
  • 受託者の要件
    ・特定自動運行実施者(特定自動運行計画に記載のある者への委託も含む)であること
    ・特定自動運行の管理に関し、運送事業者と同等の安全性及び実施体制を有している者であること
     
  • 受委託の要件
    ・受託者及び委託者は、特定自動運行計画、管理の受委託契約書、運用マニュアル等について、事前に協議の上で定めること
    ・委託者は、受託者において運行管理者及び特定自動運行保安員に求める業務を行う者に対し、法令の遵守及び安全確保に関する助言を行うこと
    ・受託者において運行管理者に求める業務を行う者は、委託者に毎日業務の報告を行うこと
    ・特定自動運行保安員に求める業務の全部又は一部を行う者は、委託者から必ず点呼を受けること
    ・受託者において特定自動運行保安員又は運行管理者の業務を行う者は、特定自動運行保安員又は運行管理者に求める義務を遵守すること
    ・受託者は、事故や故障等により運行を中断したときは、警察や消防への通報と並行して委託者に連絡を行い、旅客の運送の継続について協議の上対応を決定すること
    ・安全上緊急に対処する必要のある事項等について、委託者から指示があった際にはその指示に従うこと
    ・特定自動運行計画、管理の受委託契約書、運用マニュアル等に取決めがない事象が生じた場合においては、協議の上、対応を決定すること
     

(2)特定自動運行時に必要な運行管理の在り方
特定自動運行を行う場合には、運行管理者の業務量は少なくなることが見込まれています。もっとも、システムのレベルにより業務量が異なることから、当面の間は運行管理者の必要な選任数については申請ごとに審査することとされました。本中間とりまとめでの整理を踏まえ、今後、旅客自動車運送事業運輸規則の改正等の制度整備が実施される予定です。

2. タクシー手配に係るプラットフォーマーに対する規律の在り方

自動運転タクシーでは、ドライバーが車両内に存在しないため、配車アプリの利用が必須となることが想定されます。

現状では、配車アプリに係る手数料には旅行業法が適用され、道路運送法の運賃・料金規制の対象外となっているものの、タクシーが公共交通機関として果たす役割を鑑みれば、利用者が運賃料金と区別が分かりにくいような手数料については、道路運送法の規制の対象にすることも考えられるとされています。

本中間とりまとめでは、自動運転タクシーにおいては配車アプリの利用が必須となることが見込まれることや、都市部を中心に配車アプリによる手配が徐々に増加していることも踏まえ、自動運転も含めたタクシーの運賃・料金制度と配車アプリに係る手数料との関係を整理し、必要な対応を検討するとされています5

3. 事故原因究明を通じた再発防止

現在、国内においては、自動運転車に係る事故調査に係る法令上の権限を有する組織は存在せず、関係者からの情報収集の在り方等に課題があると指摘されています。また、SWG報告書においても、「職権行使の独立性が保障されている運輸安全委員会のような組織による事故調査機関の設置に向けた検討」が必要であると指摘されています。

上記の点を踏まえ、自動運転WGでは、事故調査機関として必要な機能を備えるものとして運輸安全委員会を想定することとし、同委員会に必要な検討事項を求めたところ、下図の6つの論点が示されました。
 

運輸安全委員会において自動運転車の事故等調査を行うに当たっての論点(案)

 

上記の各論点について、運輸安全委員会からは、それぞれ下記のような対応の方向性が示されました。

  • 論点1(運輸安全委員会において調査すべきと考えられる自動運転車に係る事故等の範囲)
    調査対象は自動運転レベル3以上(レベル3については、自動運行装置が運転操作の全てを代替している状態(衝突等発生の直前まで代替していた状態を含む)であった場合に限る。)とされ、自動車運送事業には限定されないものとされました。
    調査対象の事故等については、死亡重傷者が発生し、又は発生する可能性があった事故及び重大インシデント(死亡事故が多く発生している道路交通法違反事案(速度違反、信号無視などを想定))とされました。そして、調査対象か否かを問わず、保安基準不適合のおそれがある場合にはリコール制度等により対応することとされています。
     
  • 論点2(運輸安全委員会における事故等の認知方法)
    事故調査の対象について自動車運送事業に限定しないことを踏まえ、現行規定も活用しつつ、国土交通大臣への事故等発生の報告に係る制度を構築するものとされました。その概要は下記のとおりです。

     運輸安全委員会における事故等の発生の認知の在り方
     
  • 論点3から論点5まで(運輸安全委員会における実効性ある事故等調査の実施)
    自動運転車に記録を義務付けるデータ種別等(DSSAD)については、国土交通省、運輸安全委員会、産業界などの緊密に連携のもと、事故調査の観点にも配慮した結論となるよう国際的議論をリードしていくとともに、先行して国内基準への取り込みを検討するものとされました。
    海外関係者からの口述の獲得については、海外関係者と提携関係にある国内メーカーや自動車運送事業者、輸入事業者等の本邦関係者を通じて行うこととされています。
    調査対象となる関係者・関係物件の範囲については、道路交通の関係者は多種多様であり、自動運転車の運行主体、設計者、メーカー、乗車していた者、事故に際して救命救助を行った者等に加えて、道路交通管制を行う警察、道路管理者、整備事業者、販売事業者等に対しても必要に応じて調査するものとされました。また、関係物件については、事故発生現場近傍の防犯カメラ等も含む幅広い物件を必要に応じて調査することとされています。
     
  • 論点6(運輸安全委員会に必要な体制等の整備)
    適切な調査体制の確保及びそのために必要な機材の整備・維持、資格取得・研修等調査に要する予算の確保が必要とされています。
    また、専門技術的な事項については、外部への委託により、合理的な体制構築を図りつつ、必要に応じてメーカー等に対し、保有する特有の機材等を使用した調査への協力も求めるものとされました。

4. 認証基準等の具体化による安全性の確保及び被害が生じた場合における補償

認証基準等の具体化による安全性の確保の観点からは、「保安基準/ガイドラインの具体化」、「改正後の(アップデートした)保安基準/ガイドラインへの適合を求める仕組み」について、「自動運転車の安全性能確保策に関する検討会」において、今後の対応の方向性をとりまとめています。当該検討会の報告書については、Automotive Newsletter 2025年5月号(Vol.28)をご参照ください。

また、被害補償の観点からは、「新たなビジネスモデルにおける自賠法上の運行供用者責任の所在」、「新たなビジネスにおける自賠法上の免責要件」について、「ロボットタクシー導入等に向けた自動運転における自賠法上の損害賠償責任に関する検討会」において検討がなされ、考え方が取りまとめられました。当該検討会の報告書については、Automotive Newsletter 2025年6月3日号(Vol.29)をご参照ください。

Ⅳ. 終わりに

今後は、本中間とりまとめで示された方向性を基本として、必要な制度整備や対応体制の構築など、具体的な取組を進めていくことが重要であるとされており、自動運転の更なる社会実装のために引き続き制度整備に係る検討が進められていくと考えられますので、その動向を注視していく必要があります。

  1. https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001892045.pdf
  2. 2024年5月31日付で取りまとめられた「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ」報告書をいいます。
  3. 旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について(平成14年1月30日付国自総446号、国自旅161号、国自整149号)
  4. 令和7年3月31日付国自安207号、国自旅352号、国自整271号
  5. 配車アプリに係る手数料規制については、次々号のAutomotive Newsletterにおいて、より詳細に取り扱う予定です。
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