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Asian Legal Insights

Asian Legal Insights 第179号(⁠⁠2025年9月号⁠⁠)【⁠⁠今月のトピ⁠⁠ック⁠⁠】インド、タイ、ベトナム、シンガポール、ミャンマー

Ⅰ. インド:証券預託機関による非公開会社の電子化株式譲渡に係る新たなルールの設定

2025年6月3日、インドの証券預託機関の一つであるNational Securities Depository Limited(NSDL)が、非公開会社の電子化株式の譲渡に際して新たなルール(新ルール)を設定する旨の通達を発出しました。この新ルール設定の背景には、インドの非公開会社株式の電子化が進展している状況があります。そこで本レターでは、インドの非公開会社株式の電子化に関する基本情報をまずまとめた上で、NSDLが設定した新ルールをご紹介します。

1. 非公開会社株式の電子化に関する基本情報

本レター第157号(2023年11月号)でお伝えしたとおり、2023年10月27日、The Companies (Prospectus and Allotment of Securities) Second Amendment Rules, 2023(会社法(有価証券目論見書及び割当て)2023年第2改正規則)により、公開会社(上場会社を含む、株式に譲渡制限が設けられていない会社)に加え、非公開会社(株式に譲渡制限が設けられている会社)においても、株式の電子化に関する義務が定められました。この結果、小規模会社でない全ての非公開会社において、主なものとして以下の義務が課されました。
 

  1. 新たに発行する株式を電子化された形態で発行すること
  2. 株式発行に先立って会社のプロモーター、取締役、主要役職者が保有する全ての株式を電子化すること
  3. 会社の既存株主が保有株式を譲渡するに先立ち当該譲渡対象株式を電子化すること
     

非公開会社におけるこれらの株式の電子化義務の履践期限は、当初は2024年9月30日までとされていました。もっとも、本レター第173号(2025年3月号)でお伝えしたとおり、2025年2月12日のインド企業省(Ministry of Corporate Affairs)からの通知により、同期限は2025年6月30日まで延長されました(なお、この延長は履践期限経過後4か月以上経ってから通知され遡及的に適用されたものであり、今後も同期限が2025年6月30日からさらに延長される可能性も否定しきれません。)。

電子化された株式は、Depositoryと呼ばれる証券預託機関を介して取引されます。インドには、NSDL (National Securities Depository Ltd.)とCDSL (Central Depository Services (India) Ltd.)という2つの証券預託機関があり、株主は、インド証券取引委員会(SEBI)に登録されたDepository Participant(DP)と呼ばれる証券預託制度参加機関に電子化された株式の口座(「Demat口座」)を開設して取引を行います。インドには多くのDPがあるところ、全てのDPは、NSDL若しくはCDSLのいずれか又は両方に必ず登録しています。

2. NSDLによる非公開会社株式の譲渡に係る新たなルール

冒頭で述べたとおり、2025年6月3日、NSDLは、非公開会社の電子化株式の譲渡に関する新ルールを設定しました。この新ルールの下、非公開会社の電子化株式をDemat口座を通じて保有する株主は、電子化株式の譲渡に際し、電子化株式移転の指図書面であるDelivery Instruction SlipをDPに提出することに加え、NSDL所定の様式に沿ったインド法人(対象となる非公開会社)の同意書/確認書もDPに提出しなければならないこととされました。

1.でご紹介したとおり、インドでは、全ての非公開会社において、株式の電子化義務が定められましたが、電子化が進むにつれ、株主が必ずしも取締役会の事前の承認を得ずに、DPに直接指示することで非公開会社の電子化株式の譲渡を行う事例が増えていました。その結果、非公開会社が事前に電子化株式の譲渡を認識することができず、ある基準時点における株主リストであるBENPOS(Beneficiary Position Statement)を事後的に確認して初めて株主による譲渡行為の事実を認識するという事態が生じえます。このような事態に対処するため、非公開会社の電子化株式を譲渡するに際して、インド法人(対象となる非公開会社)の同意書/確認書を得て、それをDPに提出することが義務付けられることとなりました。この結果、非公開会社の電子化株式の譲渡が完了するためには、インド法人による事前承認のエビデンスが必須となりました。

なお、インドに2つある証券預託機関のうち、非公開会社の電子化株式の譲渡に際しての新たなルールを設定したのはNSDLのみであり、CDSLはまだ同様のルールを発表していませんが、CDSLも同様のルールを設定する見込みが高いと思われます。

非公開会社の電子化株式の譲渡に関しては、そのルールと運用について、引き続き注視していく必要があります。

(ご参考)
本レター第157号(2023年11月号)
本レター第173号(2025年3月号)

Ⅱ. タイ:個人情報保護法(PDPA)違反による行政罰の適用事例

タイ個人情報保護委員会(Personal Data Protection Committee:「PDPC」)は、2025年8月1日、2025年に個人情報保護法(Personal Data Protection Act:「PDPA」)の違反に対する行政罰の適用事例が5件あったことを公表しました。

公表された事例の概要は以下のとおりです。
 

事業者の類型事案の概要主な違反内容過料の額
【事例1】
コンピュータ機器販売業者
コールセンター詐欺(いわゆるScam Call)のグループに約100件の個人データが流出した。
  • 情報漏洩時のPDPCへの報告義務違反
  • 適切なセキュリティ対策の不実施
  • データ保護責任者(Data Protection Officer:「DPO」)の選任義務違反
700万バーツ(約3,250万円)
【事例2】
化粧品会社
コールセンター詐欺のグループに個人データが流出した。
  • 情報漏洩時のPDPCへの報告義務違反
  • 適切なセキュリティ対策の不実施
250万バーツ(約1,160万円)
【事例3】
医療機関
医療機関が約1,000件の医療記録を含む書類の破棄を委託したところ、委託先の不適切な破棄方法により、書類が菓子の包装に使用され、個人データが漏洩した。
  • 適切なセキュリティ対策の不実施
  • 情報漏洩時のPDPCへの報告義務違反
  • 医療機関に121万バーツ(約560万円)
  • 委託を受けた個人に1万6,940バーツ(約8万円)
【事例4】
政府機関
政府機関が運営するウェブアプリケーションへのサイバー攻撃により、約20万件の個人データが流出した。
  • 委託先との間のデータ処理契約(Data Processing Agreement)の不存在
  • 適切なセキュリティ対策の不実施
  • 脆弱なパスワードの使用
  • リスク評価・継続的な運用監視の不実施
政府機関とディベロッパーそれぞれに153,120バーツ(約70万円)
【事例5】
玩具販売業者(データ管理者)/システム開発会社(データ処理者)
予約システムへの不正アクセスにより、約20万件の個人データが流出した。
  • (システム開発会社の)情報漏洩時の通知義務違反
  • 適切なセキュリティ対策の不実施
  • 玩具販売会社に50万バーツ(約230万円)
  • システム開発会社に300万バーツ(約1,390万円)


今回の公表事例や昨年の最初の執行事例をみると、いくつかの特徴・留意点が垣間見られます。

まず、医療機関の事例3のように、その取り扱う個人情報がセンシティブ情報を含む場合には、漏洩のデータ数が比較的小さい事例であっても、データ漏洩時等には罰則の対象となり得るといえます。また、この事例3のように取り扱っていた個人データの破棄・削除時に適切な処理がなされないという事例は、比較的事業者において盲点となりやすい(見逃しがちな)場面であり、適切なデータ処理の外部委託先の選別等も今後リスク管理の観点で重要となりそうです。

また、玩具販売会社の事例5において、データ管理者及びデータ処理者の双方が罰せられ、かつデータ処理者にデータ管理者の約6倍の重い罰金が課されたというのは注目に値します。一般的な傾向として、事業者の中には、個人データを取り扱うにあたり、自身はPDPA上の主要な義務を負担するデータ管理者ではなくデータ処理者であるという立場をとろうとする事業者が見受けられます。事例5を踏まえると、仮にデータ処理者であっても適切なセキュリティ対策の実施等、PDPA上の義務を遵守できない場合には罰則の対象となり得ることが見て取れ、データ処理者であっても注意が必要となることが窺われます。

PDPCは、2022年のPDPAの全面的な施行以降、下位規則やガイドラインの未発行等もあり、長らくPDPAの違反に対して罰則の適用を行ってきませんでしたが、昨年8月に初の行政罰(合計700万バーツの過料)の適用を行い、大きな注目を集めました。同事例については、本レター第167号(2024年9月号)でも取り上げており、PDPCがPDPAを周知する段階から違反行為に対して厳格な執行を行う段階に移行したことを示す、大きなマイルストーンという見方もあるとお伝えしたところです。今回の5件の行政罰の適用事例の公表を踏まえると、昨年8月の初の行政罰の適用事例は例外的というわけではなく、今後も特に悪質なPDPA違反に対しては行政罰の適用が積極的に行われていくことが想定されます。

(ご参考)
本レター第167号(2024年9月号)

Ⅲ. ベトナム:企業法の一部改正(実質的所有者に関する規制導入)

ベトナムでは、2025年6月に企業法を一部改正する法律(Law No.76/2025/QH15)が成立し、2025年7月1日から施行されています。当該法律による企業法の改正内容は下記のとおり多岐にわたりますが、その中で特に実務に影響を与える改正点としては、企業の実質的所有者(Beneficial Owner)に関する情報の開示が新たに義務付けられた点が挙げられます。

そこで、本レターでは、この実質的所有者に関する新たな規制の内容について解説いたします。

1. 実質的所有者の範囲

改正企業法上、「実質的所有者(Beneficial Owner)」は企業の定款資本を実質的に所有している個人、又は企業を支配する権利を有する個人(国家が定款資本の100%を保有する企業における直接的な所有者の代表者、並びに、国家資本の管理及び投資に関する法律の規定に基づき、株式会社又は2名以上有限責任会社に投資された国家資本の代表者を除く)と定義されており、その該当性については、①所有関係又は②支配関係を基準に判断することとされています。

この所有・支配関係の有無についての具体的基準は企業登録に関する政令(Decree No.168/2025/ND-CP:「本政令」)で新たに定められており、詳細は以下のとおりです。

① 所有関係:企業の定款資本又は議決権付株式の25%以上を直接又は間接に所有する個人
② 支配関係:以下のいずれかの事項についての決定の承認を支配する権利を有する個人(「支配権者」)
(i) 取締役の過半数若しくは全員、取締役会議長、社員総会議長、法定代表者又は社長の任命、解任又は罷免
(ii) 定款の変更
(iii) 会社の組織構造の変更
(iv) 企業再編又は解散

2. 実質的所有者に関する規制

(1)開示義務
改正企業法上、実質的所有者に関する情報の開示義務が新たに課されることとなりました。具体的には、会社設立のための企業登録申請において実質的所有者の情報(氏名、生年月日、国籍、民族、性別、住所、連絡先、所有割合・支配関係等)に関するリストを含める必要があり、また、企業(上場会社及び証券取引登録会社を除く)の企業登録上の実質的所有者に関する情報に変更が生じた場合には経営登記機関に対して通知する必要があります。

以上の実質的所有者に関する情報の開示義務については、本政令においてより詳細な規定が設けられています。具体的には、各会社形態に応じて以下の実質的所有者の情報を開示する必要があります。
 

  • 株式会社: (i) 議決権付株式の25%以上を所有する個人株主、及び(ii) 支配権者
  • 2名以上有限責任会社: (i) 定款資本の25%以上を所有する個人の持分権者、及び(ii) 支配権者
  • 1名有限責任会社: (i) 会社所有者が個人である場合の当該個人、及び(ii) 支配権者
     

この点、上記本政令上の開示対象となる株式・持分の所有関係上の実質的所有者(すなわち、それぞれの会社形態における(i)記載の個人)については、本政令の文言上必ずしも明確ではないものの、実務上、(上記1.のとおり間接的な所有関係もカバーする実質的所有者の定義とは異なり)あくまで株式・持分を直接所有する個人に限定されると考えられています。この考え方に基づけば、間接的に株式・持分を所有するにすぎない個人は実質的所有者に関する開示の対象とはならないこととなります。

なお、以上の個人に関する開示に加えて、本政令では、株式会社については、議決権付株式の25%以上を保有する法人株主に関しても、その情報(名称、企業ID、設立決定の発行日・発行当局、本店所在地、議決権比率)を開示することが求められました。本政令制定前は株式会社の株主情報は必ずしも公開されていなかったため、本政令制定後は一定の大株主の情報が公開されることとなります。

以上の改正企業法及び本政令に基づく実質的所有者の開示対象を会社形態ごとにまとめると以下のとおりとなります。
 

会社形態開示対象
株式会社(i) 議決権付株式の25%以上を所有する個人株主
(ii) 支配権者
(iii) 議決権付株式の25%以上を所有する法人株主
2名以上有限責任会社(i) 定款資本の25%以上を所有する個人の持分権者
(ii) 支配権者
1名有限責任会社(i) 会社所有者が個人である場合の当該個人
(ii) 支配権者


なお、以上の開示義務に関して、改正企業法の施行日である2025年7月1日より前に設立された企業については、直ちに実質的所有者の情報を開示する必要はなく、7月1日以降に初めて行う企業登録情報の変更に係る登録・通知の手続を行う際に併せて実質的所有者の情報を開示すればよいこととされています。

(2)保持・提供義務
上記開示義務に加えて、改正企業法及び本政令上、企業はその実質的所有者に関する情報を収集・更新し、当局に提出した実質的所有者のリストを書面又は電子文書の形式で保持する必要があり、また、管轄当局からの要請があった場合、実質的所有者の情報を提供することが義務付けられます。

今回の企業法改正により、企業の実質的所有者の情報が公開されることとなるため、企業の支配関係の透明化がより図られることになります。一方で、実質的所有者に関する規制についてはいまだ実務が蓄積しておらず、不明確な部分も少なくないため、今後の実務の動向及び当局によるガイドライン等を注視する必要があります。

また、本レターでは取り上げなかったものの、今回の企業法改正では、非公開株式会社による社債発行に関するデッド・エクイティ・レシオに係る規制(私募債を発行する際、負債総額が自己資本の5倍を超えてはならないという制限)の導入や定款資本の虚偽登録等を禁止行為として明記した点等、他にも重要な改正が行われているため、それらの詳細についても把握することが肝要です。

Ⅳ. シンガポール:詐欺対策法の施行

シンガポールではここ数年、詐欺関連犯罪の急増が社会問題化しています。シンガポール警察の統計によれば、2023年の詐欺件数は前年比で約46%増加し、刑法犯罪全体の約42%を占めるに至りました。特に、フィッシングSMSや偽装バンキングアプリを通じた口座乗っ取り被害の増加・重大化が顕著であり、数百万シンガポールドル規模の損害が多数報告されています。

既存の法制度の下では、銀行や警察が「怪しい口座」に対して直ちに取引を止める権限を持たず、詐欺グループが資金を素早く移動させてしまうケースが後を絶ちませんでした。このため、被害者が口座凍結を求めても、裁判所手続を経る必要があり、実効的な救済に結び付かないという課題がありました。

こうした背景の下、政府は2024年半ばから詐欺対策強化策を検討し、2025年1月に詐欺対策法(Protection from Scams Act 2025:「本法」)を制定し、同年7月1日に施行しました。本レターでは、本法の概要及び実務上の留意点等について紹介いたします。

1. 本法の概要

本法の柱は、警察に対し、裁判所手続を経ずに、詐欺に関連する資金の流れが疑われる銀行口座に対して口座凍結命令(Scam Account Freeze Order:「SAFO」)を発出する権限を付与した点にあります。SAFOの概要は以下のとおりです。
 

  1. 凍結期間:初回30日間、かつ期間満了前に更新申請を行うことで、最大5回まで更新可能(最長150日)。
  2. 対象口座:詐欺に利用された疑いのある口座、又は詐欺被害者名義の口座。
  3. 申立手続:被害者本人も、詐欺被害を理由に凍結を警察に申し立てることが可能。
  4. 異議申立:口座名義人は、凍結の解除を求めて異議を申し立てることができる。裁判所による救済手続も用意されている。
  5. 濫用防止措置:不当な凍結を避けるため、命令発出は「合理的な根拠に基づく疑い(reasonable suspicion)」が条件とされ、また金融機関には適切な通知義務・記録義務が課される。

2. 金融機関への影響

本法の施行により、金融機関は警察の命令に即応するための新たな運営体制の整備が必要になると思われます。具体的には、以下のような対応が必要となります。
 

  • 内部プロセスの整備:SAFOを受領した際の担当部門の特定、即時の口座凍結処理、期限の管理。
  • 顧客対応:凍結命令に伴い顧客から苦情や異議申立が寄せられることが想定されるため、FAQ整備や説明体制の構築を行うこと。
  • 警察との連携:命令通知の受領から実際の執行までの手順を明確化し、報告義務に備えた文書管理体制を整えること。
  • 契約関係への影響:口座凍結に伴い、貸付契約・決済契約の履行遅延が生じる可能性があるため、契約上の責任範囲を整理しておくこと。

3. 日系企業への実務上の留意点

本法は、シンガポールに現地法人や金融子会社を有する日系企業にとっても、以下のような影響があると思われます。
 

  • 日系金融機関:シンガポール支店・現地法人は、SAFOへの対応マニュアル策定が必要と考えられます。また、誤凍結によるreputational risk(信用リスク)も懸念されるため、顧客説明方針を整備することも考えられます。
  • 一般事業会社:現地従業員の給与口座や企業口座が詐欺の巻き添えで凍結対象となるリスクに備え、取引銀行との連絡体制や社内対応プロセスを確認することが推奨されます。
  • 日本本社との連携:グループ全体での詐欺対応方針を統一することにより、グローバルなコンプライアンス体制を確立することも考えられます。

4. 今後の展望

本法は、シンガポールの刑事司法制度におけるスピード感を補完するものであり、ASEAN諸国の中でも最も先進的な詐欺対策スキームの一つと評価されています。本法の導入により、シンガポールは「詐欺被害抑止のモデル国」として注目を集めていますが、運用面では誤凍結への対応や中小金融機関への相応のコスト負担等、一定の課題も残ります。政府は、シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore)及び警察と協力し、ガイドライン策定や実務的FAQの発表を予定しており、今後の運用実績を踏まえた修正も見込まれるため、引き続きその動向に注意が必要です。

Ⅴ. ミャンマー:ミャンマーに対する経済制裁等のアップデート~米国による追加制裁の発表

2021年2月1日のミャンマーにおける国家緊急事態宣言の発出以降の対ミャンマー経済制裁の概要については、本レター第121号(2021年2月号)以降の各号でお伝えしてきました。直近では本レター第178号(2025年8月号)において、米国財務省外国資産管理室(OFAC)による制裁の一部解除についてご紹介しましたが、本レターでは、その後の続報をお伝えします。

OFACは、米国時間2025年9月8日、ミャンマーにおいて組織的に行われているサイバー詐欺ネットワークに関連する個人及び法人を、米国による資産凍結措置等の対象者(Specially Designated Nationals and Blocked Persons:SDN)として指定する旨を公表しました。今回のSDN指定では、ミャンマー東部カレン州Shwe Kokko地域の詐欺拠点と見られている「Yatai New City」プロジェクトに関して、同プロジェクトの主導者や、同プロジェクトを保護してきたカレン民族軍(Karen National Army:KNA)の幹部を含む個人9名(うちミャンマー関係者3名)の他、Shwe Kokkoを拠点とする詐欺ネットワークを支えてきたとされるShwe Myint Thaung Yinn Industry & Manufacturing Company Limited、及びKNAの関連会社とされるChit Linn Myaing Mining & Industry Company Limited等を含む法人12社(うちミャンマー法人5社)が対象とされています。

今回の制裁指定に関して、OFACは、国境地帯の詐欺拠点において、人身売買のような形で連行された労働者が、強制的に国際的な投資詐欺や暗号資産詐欺に関与させられている実態を指摘しました。その意味では、本レター第175号(2025年5月号)でお伝えした、KNAとその関係者に関する制裁指定と同様、国軍による人権侵害への対処という従来の制裁指定の趣旨に加え、国際犯罪や詐欺的取引の根絶を主眼とする側面を持つものといえます。

もっとも、今回の制裁措置が日系企業の現地事業に直ちに重大な影響を及ぼす可能性は高くないと思われます。ただ、OFACによる制裁の射程が、ミャンマー国軍関係者のみならず現地の犯罪ネットワークにまで広がっていることは、ミャンマー情勢が依然として不安定であることを示唆するものといえます。2021年2月以降、4年間にわたって継続した国家緊急事態宣言が2025年7月31日に解除され、12月下旬に予定されている総選挙に向けた準備が進められているミャンマーですが、引き続き予断を許さない状況が続いていると言えそうです。

(ご参考)
本レター第121号(2021年2月号)
本レター第175号(2025年5月号)
本レター第178号(2025年8月号)

今月のコラム ―インドネシアの文化的多様性に寄せて―

※今月のコラムは、弊所ジャカルタオフィス所属のインドネシア人弁護士が執筆したコラムを翻訳したものです。

伝統を守り、次の世代へつなぐ
インドネシアでは、毎年8月17日に独立記念日を祝います。若い世代にとって、この日は過去を振り返るだけでなく、現代化の波の中で失われがちな伝統を思い起こし、自らの文化的なルーツと向き合う大切な機会になっています。

祝いの席では、国旗掲揚が行われ、伝統的な遊びや文化的な催しが続き、最後には地域の名物料理を囲んで締めくくられるのが習わしです。弊所ジャカルタオフィスでも、遊びや食を通じて、独立の精神と多様性を改めて感じることができました。

遊びを通じて感じるナショナリズム
1. プラムカの旗信号

プラムカの旗信号
インドネシアの文化は、プラムカと呼ばれるインドネシアにおけるボーイスカウトの伝統である、「旗信号」の遊びにも表れています。これは、旗の持ち方や角度から文字を推測し、単語を当てるゲームです。

簡単ではありませんでしたが、答えにたどり着いたときの達成感は大きなものでした。オフィスイベントで久しぶりに参加するうちに、学生時代、毎週のように行われていたプラムカ活動の思い出がよみがえってきました。

2. 曲当てクイズ
音楽もまた、インドネシア文化に欠かせない存在です。国を思う愛国歌から、地域ごとの伝統を映す民謡まで、その幅広さは群島国家の多様性を象徴しています。

オフィスイベントでは、歌詞の一部を手掛かりに曲名を当て、さらに皆の前で歌うというゲームも行われました。若い世代のメンバーが積極的に挑戦し、彼らの伝統に関する造詣の深さが年長世代に引けを取らないことが証明されました。

曲当てクイズ

食を通じて感じる多様性
食の多様性もまた、インドネシアの大きな魅力です。ルンダン、サテ、ナシゴレンのような定番料理にとどまらず、各地には個性豊かなデザートやおやつが数多くあります。

食を通じて感じる多様性

オフィスイベントでは、ジョグジャカルタのグデ(ジャックフルーツを甘く煮込んだ料理)や中部ジャワのナシ・ランギ(ココナッツミルク風味のご飯に多彩なおかずを添えたワンプレート料理)等、地方色豊かな料理が並び、最後には、ブブル・クタン・メラ(赤餅粥)やブブル・スムスム(米粉とココナッツミルクの粥)といった甘味に加え、ソシス・ソロ(ひき肉入りクレープ)、レンペル(もち米・鶏ひき肉等をバナナ葉で包んだもの)、ルジャック(果物と甘・辛・酸っぱいソースのサラダ)等の定番のおやつも登場しました。これらの味わいは、文化のルーツを感じるのにぴったりで、イベントの締めくくりを温かく彩ってくれました。

若い世代にとっての独立記念日
若い世代にとって、こうしたイベントは単に楽しいだけのものではなく、自分のルーツを辿るものでもあります。グローバル化が進む社会の中で、伝統を見失わずにつながり続けることは簡単ではありません。だからこそ独立記念日の祝祭は、歴史を祝うだけでなく、文化の豊かさを次の世代に引き継ぐための大切な役割を果たしているのです。

Angelica Edelweis、William Edmund)
(翻訳:花村 大祐

執筆者

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