Ⅰ. デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 青少年保護ワーキンググループ第一次報告書案
総務省のデジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 青少年保護ワーキンググループは、2026年6月、「第一次報告書(案)」(以下「本報告書案」といいます。)を取りまとめ、同月17日から7月8日まで意見募集を行いました。本報告書案は、本ニュースレター2026年5月号Ⅵ.で紹介した「論点整理案」を踏まえ、青少年のインターネット利用について、安心・安全の確保を前提に、総務省が今後取り組むべき方向性を示すものです。
本報告書案は、青少年を巡るリスクが、有害情報の閲覧にとどまらず、長時間利用や依存、SNS上での発信・拡散、犯罪への関与等へ多様化・複雑化しており、携帯電話事業者によるフィルタリングを中心とする現行の枠組みのみでは対応が困難であると指摘しています。他方で、青少年の情報へのアクセス、発信・創作及び社会参加の機会にも配慮し、サービスの利用に一律の「年齢制限」を設けるのではなく、サービスごとの設計・特性及びリスクに応じた保護を基本とする方向性を示しています。
具体的には、SNS等のプラットフォームサービスの事業者について、①サービスごとのリスク評価、これに対応する青少年保護措置、必要なリテラシー、使用適正年齢の設定理由及び年齢確認手法等の実施・公表並びに外部からの再評価、②年齢確認について、利便性、実効性、プライバシー及びセキュリティを考慮しつつ、サービスの設計・特性に応じて自己申告より厳格な手法を用いること、③利用者が青少年であると確認された場合に、保護措置が初期設定で機能するようにすること等が、今後の取組の方向性として示されています。
また本報告書案は、従来の「フィルタリング」を、OS事業者が提供するペアレンタルコントロールやサービス設計上の措置等を含む「技術的保護手段」として再定義し、OS事業者への提供の義務付け等も検討事項としています。
今後、対象サービスの範囲、リスク評価項目、年齢確認の方法及び各取組の実効性を担保する措置等が具体化されることが見込まれるため、青少年による利用が想定されるデジタルサービスを提供する事業者は、制度化に向けた動向を注視する必要があります。
Ⅱ. タイのデータセンター事業に関する近時の規制動向
タイではデータセンターへの投資が急速に拡大する一方、環境への影響や事業の性質上、電力及び水を大量に必要とすることを踏まえ、データセンター案件に対する当局の審査も厳格化されています。以下では、近時導入された二つの制度の概要をご紹介いたします。
1. BOIによるデータセンター事業の審査のための小委員会の設置
外資企業がタイでデータセンター事業を行う場合、タイ投資委員会(Board of Investment:「BOI」)の投資奨励を取得することが一般的です。
BOIは、2026年7月15日、Subcommittee on Energy Management to Support Investment and Screen Data Center Projects(以下「本小委員会」といいます。)を設置しました。本小委員会は、データセンター事業の審査・選定を行うほか、BOIが関係政府機関へ必要な対応を指示できるよう、規制上又は実務上の課題を検討してBOIに報告する役割等も担います。
2026年7月15日以降、データセンター事業についてBOIの投資奨励を申請するためには、その申請前に本小委員会の承認を受ける必要があります。また、同日時点で審査中の申請に加え、同日時点で投資奨励を取得済みの案件においてもIT負荷を30%超増加させる変更の申請については、本小委員会の承認が必要となります。
本小委員会の設置に伴い、2026年3月に導入されたエネルギー規制委員会事務局(Office of the Energy Regulatory Commission)の発行する確認書の取得要件は廃止されました。
2. PEAによる当初株主の持株比率の変更及びPPA上の権利・義務承継の制限
タイ地方配電公社(Provincial Electricity Authority:「PEA」)は、新たな告示により、PEAから電力供給を受けるデータセンター事業者及び電力需要の大きい産業事業者に対し、当初株主の持株比率の変更及び電力購入契約(Power Purchase Agreement:「PPA」)の権利・義務の承継を制限する基準を定めました。当該告示は2026年4月4日から施行されています。
具体的には、実際の電力使用開始日から3年間、当初株主は対象会社の持株比率50%超を維持しなければならないものとされています。また、電力使用開始前又は電力使用開始から3年以内に、PEAとのPPA上の権利・義務が別法人へ承継される場合、承継人は、タイで設立された法人であり、かつ、被承継人(又は承継前法人)と同一の事業を行うことを事業目的としている必要があります。加えて、①被承継人が承継人の株式の50%超を保有し、PPA移転後も3年間その持株比率を維持する場合、②非公開株式会社から公開株式会社への組織変更に伴う承継の場合(タイ法上、非公開会社と公開会社は設立根拠法が異なることから当該組織変更に伴い法人格に変更が生じるため、権利・義務の承継が生じることになります。)、又は③新設合併による新設合併消滅会社から新設合併設立会社への承継であって、当該新設合併消滅会社の株主が新設合併設立会社の株式の50%超を保有する場合、のいずれかに該当する必要があります。また、承継人によるPEAへの履行保証の提供も求められます。
PEAから電力供給を受けるデータセンター案件では、ストラクチャーの検討段階から本制限に留意する必要があると考えられます。
Ⅲ. 知的財産推進計画2026
1. 知的財産推進計画2026の概要
政府の知的財産戦略本部は、2026年6月12日、「知的財産推進計画2026」(以下「本推進計画」といいます。)を決定しました。
本推進計画は、生成AIの急速な社会実装、経済安全保障の重要性の高まり、知財・無形資産投資の拡大及びコンテンツ産業・クールジャパン関連産業の成長等を踏まえ、今後の知的財産政策の方向性と重点施策を示すものであり、今後の知財戦略の方向性として、①知財・無形資産を中核に据えた企業経営や国家戦略の更なる推進、②生成AI等の新たな時代に即した知的財産の保護、③成長戦略と一体的な国際標準戦略の推進、④成長投資によるコンテンツ戦略の推進及び⑤稼ぐ力を牽引するクールジャパンの海外展開の強化という5つの柱が示されています。
2. 知的財産推進計画における主な施策
(1)知財・無形資産を中核に据えた企業経営
企業が保有する技術、ブランド、ノウハウ、データその他の知財・無形資産を、単に保護・管理する対象ではなく、企業価値及び競争力の源泉として経営戦略の中核に位置付けることが重視されています。
具体的には、「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」を2026年度中に改訂するとともに、知財・無形資産への投資・活用が価値創造にどのように寄与するかについて、統合報告書等による自主的な開示を促進し、有価証券報告書の記載事項とすることも含めて開示の在り方を検討することとされています。
また、日本成長戦略上の戦略17分野について、IPランドスケープ等を活用して技術開発競争における「勝ち筋」を特定し、知財投資や国際標準化を戦略的に推進する方針が示されています。
(2)生成AIと知的財産権
生成AIについては、技術の進歩を促進しながら知的財産権を適切に保護するため、「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」(仮称)を制定し、AI開発者・提供者等が講ずべき透明性確保及び知的財産権保護のための基本的な考え方を示すこととされています。また、クリエイター等への対価還元を促す環境の構築も掲げられています。
そのほか、生成AIによるウェブ上のコンテンツの利用に関し、ユーザーエージェントの開示やrobots.txt等の技術的措置の遵守の在り方について課題を整理すること、AI技術の進展による特許・意匠分野でのAI利用の拡大を踏まえ、特許・意匠実務に生じる課題等について検討を進めることが盛り込まれています。
さらに、俳優・声優等の声を模倣した音声コンテンツの無断生成・公開について、パブリシティ権等に関する法的整理やガイドラインの作成を進め、不正競争防止法の改正を含むハードロー整備の必要性についても議論を継続する方針が示されています。
(3)知的財産権の保護及び権利行使の強化
知的財産権侵害に対する救済の実効性を高めるため、損害の回復と侵害者利益の剥奪を確実にする民事救済措置の在り方が検討されます。
また、複数の権利者が有する知的財産権を集約し、集団的・組織的な権利行使を可能とする仕組みの検討も掲げられています。このような仕組みは、生成AIやデジタルプラットフォームの普及等に伴い、侵害が多数の権利者に広範かつ同時多発的に生じ得る状況において、個々の権利者による権利行使の限界を補完するものとなる可能性があります。
このほか、査証制度等の証拠収集手続の充実・強化、その著作権及び営業秘密への拡大可能性並びに海外に所在する証拠への対応等についても検討が行われます。
なお、集団的・組織的な権利行使に関する施策については、当事務所のIntellectual Property Newsletter Vol.26「知的財産推進計画2026~『集団的・組織的な権利行使を可能とする仕組みの検討』を中心に~」も併せてご参照ください。
(4)国際標準及びコンテンツ戦略
国際標準については、日本成長戦略上の戦略17分野における官民投資ロードマップに国際標準化を組み込み、研究開発、知財の取得・活用、国際標準化及び市場形成を一体的に進める方針が示されています。
コンテンツ分野では、2033年までに日本発コンテンツの海外市場規模を20兆円とする目標に向け、人材、制作環境及び海外展開・流通におけるボトルネックを解消するため、大規模・長期・戦略的な官民投資を推進することとされています。具体的には、大規模作品の製作支援、流通プラットフォームの拡大、ローカライズやプロモーションの支援、海賊版対策、次世代クリエイター及びグローバルビジネス人材の育成等が掲げられています。
Ⅳ. 「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」に係る要請について
金融庁は、2026年5月22日、日本銀行と連名で、金融機関等に対し、「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」を要請しました(以下「本件要請」といいます。)。
2026年4月に発表されたAnthropic社のClaude Mythosを始めとするフロンティアAIモデルの登場により、サイバー攻撃が劇的に加速・大規模化し得る状況となっています。また、フロンティアAIにより、サイバーセキュリティの脆弱性が、短期間に大量に発見され得る状況になっています。このような状況を受け、金融庁は、同月24日に「AI 脅威に対する金融分野のサイバーセキュリティ対策強化に関する官民連携会議」を開催し、同年5月14日には実務者レベルの作業部会を実施しました。本件要請は、金融機関等に対し、当該作業部会で取りまとめられた短期的対応を求めるものです。
本件要請は、国家サイバー統括室が、2026年5月18日、政府全体の対応パッケージとして公表した「AI 性能の高度化を踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化について~Project YATA-Shield~」において、金融機関等を含む重要インフラ事業者等に対し、高性能AIの悪用リスクに備えたサイバーセキュリティ対策の実施や、より高速かつ大量に脆弱性が発見・修正されることを前提とした対策強化を行うこと等が求められていることに対応して、金融分野における、具体的な対応内容を示すものです。
本件要請では、金融機関等において、短期的に、次に掲げる対応(9項目)を速やかに講じる必要があるとされています。但し、本件要請では、9項目の短期的な対応はあくまでも応急的措置であり、中長期的には、脆弱性対応の自動化等への移行に取り組むことが必要であるとされていますので、留意が必要です。また、必要な対応はこの9項目に限定されるものではなく、各金融機関等において、自らのリスク特性やIT・サイバーセキュリティ管理態勢を踏まえ、追加的な対応を主体的に検討・実施することが求められています。
| 番号 | 項目 |
|---|---|
| ① | フロンティアAIへの対応を経営課題として扱う |
| ② | 優先的に対応すべきサービス/ITシステムを特定する |
| ③ | 特定した資産の技術負債を解消しておく |
| ④ | パッチ適用に係る人的リソースを追加する |
| ⑤ | ベンダーとの維持保守契約の内容を確認する |
| ⑥ | パッチ適用プロセスをリスクベースにする |
| ⑦ | パッチ適用以外の対策も強化する |
| ⑧ | 優先サービス/ITシステムの停止に備える |
| ⑨ | 外部との連携を維持・強化する |
近時、サイバーセキュリティ対策の重要性が高まっている中、フロンティアAIモデルの登場により、至急の対応の重要性がさらに高まっているといえます。金融分野は、特に、サイバー攻撃を受けた際の影響が甚大になり得るため、具体的な対応が、今後の重大な課題となります。
Ⅴ. 「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」の公表
1. はじめに
2026年6月24日、公正取引委員会、中小企業庁及び特許庁は、「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」(以下「本指針」といいます。)を公表しました。
本指針は、知的財産取引適正化ワーキンググループにおける議論や、知的財産権等の取引に関する実態調査を踏まえ、知的財産取引に関する業種横断的な考え方を示しており、知的財産権等1の取引環境の整備や、知的財産権等に関するリテラシーの向上を通じて、イノベーションを促進することを目的としています。
以下では、本指針の概要をご紹介いたします。
2. 基本的な考え方
本指針は、まず、①情報の管理、②知的財産権等の価値の適切な評価及び③その他の行為類型について、知財取引に係る「基本的な考え方」を示しています。
| 観点 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| ①情報の管理 |
|
| ②知的財産権等の価値の適切な評価 |
|
| ③その他の行為類型 |
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3. 基本的な対応方針及び実践例
本指針は、上記の基本的な考え方を示すにとどまらず、その考え方を実現するための方策を「基本的な対応方針」として示しています。また、基本的な対応方針等を実施する上で参考となる発注者及び受注者の取組を「実践例」として紹介しています2。
| 観点 | 基本的な考え方 | 実践例 |
|---|---|---|
| ①情報の管理 |
|
|
| ②知的財産権等の価値の適切な評価 |
|
|
| ③その他の行為類型 |
|
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Ⅵ. デジタル化等を踏まえた消費者法に関する動向-「消費者保護ルールの更なる適正化とDX時代への対応の在り方」に係る一部答申(案)に対する意見募集等
1. デジタル化等を踏まえた消費者法に関する動向
近時、デジタル化等の社会情勢の変化を背景として、消費者法の在り方に関する検討が活発に行われています。2026年5月に公表された消費者庁「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」の論点整理では、超高齢化やデジタル化の進展等により消費者を取り巻く取引環境が大きく変化している現代社会の状況を踏まえ、①消費者の多様な脆弱性への対応として必要な規律(事業者及び関係主体のプリンシプルの規定、消費者の解除権等)、②消費者契約の各過程に関する必要な規律(解約妨害の禁止、重要事項の変更時の事前通知義務、消費者の情報・時間・アテンションを提供する取引を「消費者契約」に含む旨の確認)、及び③「解約料」の実態を踏まえた実効的な仕組み(解約料条項の見直し等)の導入を検討しています。
また、2026年1月より開催されている同庁「デジタル取引・特定商取引法等検討会」では、デジタルプラットフォームの台頭やデジタル技術の発展を踏まえ、「ダークパターン」に関する規制・執行の在り方、デジタル上での消費者取引を巡る環境変化を踏まえた新たな取引ルール等に関する検討がなされています。
2. 「消費者保護ルールの更なる適正化とDX時代への対応の在り方」に係る一部答申(案)に対する意見募集の実施
上記1.の消費者法制全体の見直しの動きと併せて、電気通信分野では、総務省の情報通信審議会 電気通信事業政策部会(以下「本部会」といいます。)において、「消費者保護ルールの更なる適正化とDX時代への対応の在り方」に関する検討が進められています。2026年6月には一部答申(案)(以下「本答申案」といいます。)が取りまとめられ、同年7月に意見募集が行われました。
電気通信サービスに関する消費者保護ルールは、2003年の電気通信事業法改正により導入され、以降、累次の検討・見直しが積み重ねられてきています。本答申案は、年間7万件もの苦情が寄せられる状況が続いていること(総務省及び(独)国民生活センターで把握している数字の合計)や、今後予想される傾向(DXの進展等)を踏まえ、消費者保護ルールの更なる適正化を追求していくものです。2027年夏を目処に最終答申を得て、その内容を踏まえ、制度改正等の具体的な対応が検討されることになります。
本答申案で示された今後の検討の方向性の主なポイントは以下のとおりです。
| 項目 | 検討の方向性 |
|---|---|
| ①消費者への説明の充実の在り方 |
|
| ②交渉力の低い消費者の保護の在り方 |
|
| ③法令遵守を確保するための措置の在り方 |
|
| ④DXの進展を踏まえた対応 |
|
| ⑤その他必要と考えられる事項 |
|
本答申案は、最終答申に向けた基本的な方向性を示すものであり、これまでの改正を経てもなお検討を要すると考えられた事項のほか、これまでの改正では検討対象とならなかったDXの進展等新たなトレンドも踏まえた改正の指針を示すものです。関連事業者におかれては、本答申案の動向を注視していく必要があります。
- 本指針は、特許権や著作権等の知的財産権に限らず、知的財産権として保護されていないノウハウや、産業データ、研究開発の過程で生じるデータ、顧客データ等を含む「知的財産権等」を広く対象としています(本指針3頁)。
- 本指針では、上記のほか、独占禁止法の優越的地位の濫用を中心に、「独占禁止法等の考え方及び問題となり得る事例」を示すとともに、違反リスクを未然に防止するための「競争政策上の望ましい対応」を整理しており、「実践例」は「基本的な対応方針」と「競争政策上の望ましい対応」の双方に向けて参考になる取組事例として紹介されています。