(田中 亜樹)
Ⅰ. マレーシア:個人情報保護に関する近時の動向
マレーシアでは2024年に個人情報保護法(Personal Data Protection Act:「PDPA」)が改正されました。
改正法のもとでは、①PDPA遵守の責任者であるデータ保護責任者(Data Protection Officer:「DPO」)を、データ管理者が選任する義務の新設(12A条)、②個人データの侵害、滅失、誤用及び無権限でのアクセス(個人データの侵害等)があった場合について、データ管理者が個人情報保護局(PDP)のコミッショナーへ通知する義務の新設(12B条、4条)、③データポータビリティ権(データ主体の側よりデータ管理者に対し通知を行うことで、別のデータ管理者に個人データを移転させることができる権利)の新設(43A条)、④個人データの国際的な移転枠組みの新設(129条)、といった変更が設けられています。
このうち①DPO選任及び②個人データの侵害等の場合の通知に関しては、2025年2月25日に、ガイドラインが発出されました。これらのガイドラインは2025年6月1日から効力を生じる予定です。主要な点につき以下にご紹介いたします。
(1)DPO選任ガイドラインの概要
(a)DPOの選任が必要になるのは、データ管理者及びデータ処理者が、①20,000人を超えるデータ主体のデータを取り扱う、②10,000人を超えるデータ主体のセンシティブデータ(財務情報を含む。)を取り扱う、③個人データの「定期的かつ組織的なモニタリング」が必要になる、いずれかの活動を行う場合であると明示されました。③の例としては、ターゲティング広告等のためにオンライン又はオフラインで個人の追跡及びプロファイリングを行うような場合が挙げられています。
(b)データ管理者及びデータ処理者は、DPOがPDPAの知識、データ管理者及びデータ処理者の事業への理解等を含む一定の技能、質及び経験を有することを確保しなければならないとされています。こうした技能面の要件に加えて、DPOはマレーシア居住者であるか容易に連絡可能な者である必要があり、またマレー語及び英語に通じている必要があるとされています。
(c)DPOの役割として、データ管理者及びデータ処理者の個人データの取扱いへの助言や、これらの者のPDPA遵守への支援及びモニタリングのほか、データ保護の影響アセスメント(詳細は後記(3))への協力等も含まれることが定められています。
(2)通知義務に関するガイドラインの概要
(a)PDPコミッショナーへの通知が義務付けられるのは、個人データの侵害等が「重大な害(significant harm)」を生じさせる又は生じさせると見込まれる場合とされています。このような場合としては、安全性が損なわれた個人データが、身体の傷害や経済的損失、信用への悪影響、財産の毀損・滅失につながるリスク、違法目的で悪用されるリスク、センシティブな個人データであるリスク、個人データと他の個人情報から成り組み合わせることでなりすましを可能にし得るリスク、「大規模である」すなわち1,000人以上のデータ主体に影響があるリスクのある場合が挙げられています。このような場合にはPDPのコミッショナーへの通知及び原則としてデータ主体への通知が必要となります(例外的に、1,000人以上の個人に影響があるリスクのある場合は、PDPのコミッショナーへの通知は必要ですが、データ主体への通知は不要です。)。
(b)コミッショナーへの通知はPDPウェブサイトに設けられた通知フォームを補充する形や、ガイドラインの別紙Bのフォームを補充してPDPに提出する形で行います。通知は可能な限り速やかに行い、個人データ侵害等の発生から72時間以内には行わなければなりません(72時間以内に行えなかった場合は、証拠を添えて、理由の説明をコミッショナーに提出する必要があります。)。これに対しデータ主体への通知は直接かつ個別に、また状況を踏まえてわかりやすい言語で行う必要があります。直接の通知が現実的でない、過大な努力を必要とするといった場合には、データ主体に効果的に通知を行う他の方法を実施することもできます。
また③データポータビリティ権、④個人情報の国際的な移転については、これらのガイドライン案に関するパブリック・コンサルテーション(意見集約手続)が2024年10月18日まで行われており、集約された意見を踏まえたガイドラインの発出が近々行われると見込まれます。またこれと同時期に、個人情報保護基準(Personal Data Protection Standard:PDPS。主にデータセキュリティ、データ保管、データインテグリティの観点からデータ管理者が満たすべき基準を定めるもの)の改訂案についてもパブリック・コンサルテーションに付されておりました。
(3)影響アセスメントに関するガイドライン案
上記(1)のとおり、DPO選任ガイドラインにおいては、DPOはデータ保護の影響アセスメントへの協力を行う役割を有しています。
影響アセスメントとは、行おうとするデータ処理が個人データ保護にどのように影響するかを評価(アセスメント)することを指します。パブリック・コンサルテーション・ペーパーの定義では、このアセスメントには、組織の機能、要件、及びプロセスに基づいて、個人データ保護リスクを特定、評価、及び管理することが含まれる場合があるとされています。
この影響アセスメントに関しては、そのガイドライン案が、2025年5月19日までパブリック・コンサルテーションに付されています。またデータ保護バイデザインに関するガイドライン案及び自動意思決定・プロファイリングに関するガイドライン案も同時期にパブリック・コンサルテーションに付されています。
パブリック・コンサルテーション・ペーパーでは、このアセスメントの主体はデータ管理者であるとされています。また他の法域での取扱いを参考に、アセスメントを必要とする場面に量的・質的基準を設けることが提案されており、量的基準としては10,000超のデータ主体のセンシティブな個人データを処理する場合、10,000超のデータ主体が関与するような自動意思決定のために個人データを処理する場合、20,000超のデータ主体の個人データを処理する場合が挙げられています。質的基準としては多岐にわたるものの、例えばデータ主体に対し法的又は顕著な影響(法的な権利義務の変動や経済状況の変動等)を及ぼし得る場合等が挙げられています。アセスメントのプロセスとしては、データ処理の運用・目的を定める(Describe)こと、目的に照らしデータ処理の必要性・相当性を評価する(Evaluate)こと、データ主体にとっての個人データ保護の観点からの具体的なリスクを特定(Identify)・評価すること、特定されたリスクを軽減し個人データを保護するための手段を検討(Consider)すること、データ処理全体の残存するリスクレベルを分析(Assess)すること、という5つのステップ(DEICA)が想定されています。
(4)データ保護バイデザインに関するガイドライン案
データ保護バイデザインという語自体はPDPAに明記されているわけではないものの、GDPR等、他の法域の個人情報保護に関する法令等において採用されてきた考え方です。パブリック・コンサルテーション・ペーパーでは、データ保護バイデザインを「デザイン、開発、展開から廃止に至るまでのデータ処理活動のライフサイクル全体にわたり、個人データ保護原則を実施するために設計された適切な技術的及び組織的対策を取り入れるアプローチ」と定義し、データ保護バイデザインを実務上遂行するための7つの基本原則(①事後的でなく事前的に、救済的でなく予防的にすること、②プライバシーを初期設定とすること、③プライバシーをデザインに組み込むこと、④十全な機能を提供すること、⑤対象となる個人データのライフサイクルの全てを通じて保護を提供すること、⑥可視性及び透明性、⑦利用者のプライバシーを尊重すること)を定めています。こうした基本原則は1990年代に提唱され広く受け入れられている「プライバシー・バイ・デザイン」の7原則と歩調を合わせるものです。
(5)自動意思決定・プロファイリングに関するガイドライン案
自動意思決定・プロファイリング自体もその語がPDPAに明記されているわけではないものの、近時利用が進んでいることからガイドライン制定に向けた動きがとられるようになりました。パブリック・コンサルテーション・ペーパーでは、自動意思決定を「人間の関与なしに自動化された手段によって意思決定を行うプロセス」と、またプロファイリングを「データ主体に関する特定の個人的側面を評価するために個人データを使用する、あらゆる形態の自動化された個人データの処理を指し、とりわけ、データ主体の仕事のパフォーマンス、経済状況、健康状態、個人的な好み、関心、信頼性、行動、位置情報、又は移動に関する側面を分析又は予測することを含む。」と、それぞれ定義しています。こうした自動意思決定・プロファイリングは、個人に対し法的な又は顕著な影響が生じ得るものである場合、ガイドラインに基づき一定の制限に服することが想定されています。具体的には、そのような自動意思決定(プロファイリングを含む。)については、データ主体に拒絶の権利(right to refuse)、情報提供を求める権利(right to information)及び人間によるレビューを求める権利(right to human review)を与えることとされています。ただし、自動意思決定・プロファイリングがデータ主体とデータ管理者の間での契約の締結・履行に必要な場合や、法令遵守に必要な場合や、事前にデータ主体から明示の同意がある場合には、拒絶の権利及び人間によるレビューを求める権利を付与する義務の例外とすることもあわせて提案されています。
Ⅱ. インドネシア:P2Pレンディングに関する新規則の施行
2024年12月24日、インドネシア金融庁(「OJK」)は、P2Pレンディングに関する新規則(情報技術に基づく共同資金調達サービスに関する規制2024年40号:「本規則」)を公布し、本規則は同月27日より施行されています。本規則の施行により、本レター141号(2022年8月号)で紹介したP2Pレンディングに関するOJK規則2022年10号(「旧規則」)は廃止されています。なお、①本レター158号(2023年12月号)で紹介したP2Pレンディングに関するOJK通達、及び②P2Pレンディングサービス事業者(P2Pレンディングプラットフォームのサービス提供者:「P2Pオペレーター」)に対し個別に発出されたOJK通達(S-21/D.06/2024)については、本規則と矛盾しない範囲において引き続き有効とされています。
P2Pレンディングに関しては、本レター166号(2024年8月号)で紹介したとおり、これまでに旧規則の改正案(「改正案」)が公表されていました。本規則は、改正案と同内容の規定も含みますが、その他の規定も含まれており、内容が拡充されています。
本レターでは、本規則によって改正された重要な事項を紹介します。
(1)借入上限額の引上げ
旧規則においては、あるP2Pプラットフォームを通じて借入人1人/社が貸付人から借り入れることが可能な借入上限額は20億インドネシアルピア(約1,700万円)に制限されていました。
これに対して本規則においては、より多くの借入が必要と考えられる、製品やサービスの生産・提供に関する事業向けの融資(Productive Lending)の上限については、不良債権率等に関する一定の基準を満たすことを条件に、50億インドネシアルピア(約4,240万円)に引き上げられました。他方で、事業目的ではなく、消費目的での融資(Consumptive Lending)の上限は引き続き20億インドネシアルピアに据え置かれています。
(2)P2Pオペレーターの株主の変更・ロックアップ期間制限に関する変更
旧規則においては、P2Pオペレーターが非公開会社(非上場会社を含む。)である場合は、全ての株主の変更(Change of Ownership)についてOJKの承認が必要とされていました。
これに対して本規則においては、支配株主の変更についてのみOJKの承認が必要とされ、少数株主の変更はOJKへの報告で足りるとされています。
また、旧規則においては、OJKからP2Pプラットフォーム運営事業のライセンスを取得した後3年以内の、P2Pオペレーターの新株主の追加及び支配株主の変更が禁じられていました(ロックアップ期間制限)。
これに対し本規則においては、(一切の株主の追加を対象とするのではなく)支配株主の変更のみ、ロックアップ期間制限の対象とされています。
旧規則における株主の変更・ロックアップ期間制限に関する規定は、実務上、事業活動を開始して間もないP2Pオペレーターの資金調達を阻害するものとして批判を受けていましたが、本規則において、合理的な範囲の制限に緩和されています。
(3)支配株主の事業実績要件の追加
本規則による新たな規制として、P2Pオペレーターの新たな支配株主になろうとする者は、株式取得時点までに、少なくとも2年間の事業実績(本規則の文言上は、業種は制限されておらず、国内外も問われていません。)を有することが必要とされています。なお、当該要件は、合併、統合又は会社分割の結果新たな支配株主となる場合には遵守は不要とされています。
(4)外国人労働者の雇用条件の変更
旧規則においては、P2Pオペレーターにおける外国人雇用に関しては、最長3年間(延長不可)とされており、かつ、雇用後20営業日以内にOJKに報告することが義務付けられていました。
これに対し本規則においては、雇用期間が2年間(かつ2年の延長可)とされ、また、雇用前にOJKの許可を得ることが義務付けられています。
その他、改正案でも提案されていた、P2Pオペレーターの新しい財務要件も本規則により導入されています(本規則上、流動性比率120%以上を維持すること等が求められています。)。なお、外資規制に関しては、本規則上、今後制定する政令で詳細に定めることとされていますが、それまでは旧規則同様、直接・間接を問わず、外国資本により保有される資本額の比率上限は85%とされています。
以上のとおり、本規則によるP2Pレンディング規制の改正は実務上も重要であり、今後制定予定の政令・実務動向を含めて注視する必要があります。
(ご参考)
本レター141号(2022年8月号)
本レター158号(2023年12月号)
本レター166号(2024年8月号)
Ⅲ. シンガポール:企業再生・破産制度強化に関する委員会報告書の公表
2025年3月11日、シンガポール法務省が設置した企業再生・破産制度強化に関する委員会は、当該制度強化に係る報告書(「本報告書」)を公表しました。
シンガポールでは、2017年以降、企業再生・破産制度に関する一連の法改正が行われてきました。本報告書は、改正後の制度利用事例や業界関係者からのフィードバックを踏まえ、今後どのような法改正を行うべきかの検討結果をまとめたものです。その内容は多岐にわたりますが、例えば主なものとして、以下のような提言がされています。
(1)司法管理制度(judicial management)は、企業再生のみならず、清算時よりも有利な資産換価等、多様な目的のために使われる制度として導入された。しかし、その目的が多様であるがゆえに、どの利用事例においても意図する結果が明確でなく、それゆえに債権者からの支持が得られない事態が散見された。このことを踏まえ、司法管理制度の位置づけを再検討し、企業再生のための制度として特化させるべきである。
(2)スキームオブアレンジメント(scheme of arrangement。企業再生に用いられる再編手続のひとつ。)において、債権者を複数のグループ(クラス)に分けて再生計画の決議を行った場合において、一部のクラスにおいて賛成が得られなかったとしても、対象債権者全体で、過半数という頭数要件や4分の3以上という金額要件等を満たせば、再生計画は可決されるという制度(クロス・クラス・クラムダウン)がある。しかし、これらの数値要件の閾値が高いことからクロス・クラス・クラムダウンによる再生計画成立が妨げられており、当該閾値は見直されるべきである。
(3)シンガポールでは、2017年に国際倒産に関するUNCITRALモデル法が採択され、国際的な倒産事件に対応するための法整備が行われた。これを補完するものとして、今後、多国籍企業グループ企業倒産についてのUNCITRALモデル法及び倒産関連判決に関する承認及び執行についてのUNCITRALモデル法も採択し、国際倒産事件におけるシンガポールの法制度の有用性をより向上させるべきである。
シンガポール法務省は、上記公表日から2025年4月8日まで、本報告書に対するパブリックコメントを募集しました。本報告書に寄せられたパブリックコメントを踏まえ、最終的にどのような形で法改正が具体化されるのか引き続き注視する必要があります。
※当事務所は、シンガポールにおいて外国法律事務を行う資格を有しています。シンガポール法に関するアドバイスをご依頼いただく場合、必要に応じて、資格を有するシンガポール法事務所と協働して対応させていただきます。
Ⅳ. フィリピン:労働雇用省による外国人雇用に関する新規則の公表
フィリピンの労働雇用省(Department of Labor and Employment:「DOLE」)は、2025年1月21日付けのDOLE省令(Department Order)第248号において、フィリピンにおける外国人雇用に関する新規則(New Rules and Regulations on the Employment of Foreign Nationals in the Philippines)(「本規則」)を公表しました。本規則は2025年2月10日に施行されています。
フィリピンにおいて外国人が6か月を超えて雇用され就労する場合、在外公館の職員等の一定の例外を除き、就労ビザ(通称「9(g)ビザ」)に加え、雇用主の申請により外国人雇用許可証(Alien Employment Permit:「AEP」)を取得することが必要とされています。AEPの取得手続等については、従前、2021年1月6日付けのDOLE省令第221号(Revised Rules and Regulations for the Issuance of Employment Permits to Foreign Nationals)(「旧規則」)が規定していました。外国人労働者の雇用に際しては、同じ職務の遂行がフィリピン人労働者により代替可能でないことを確認するため、労働市場調査(Labor Market Test)と呼ばれる手続を実施することが原則として求められる点、AEPの申請は労働市場調査を実施した後に初めて可能となる点等、大きな枠組み自体に変更はありませんが、本規則は、旧規則の内容を補充するとともに、一部を改訂するものとなります。旧規則からの主なアップデートは下表のとおりです。
(1)AEP申請のタイミング
旧規則 | 本規則 |
雇用契約締結から10営業日以内又は雇用開始前 | Labor Market Testのための公示から15暦日目以降かつ雇用契約の締結又は就労指示から15暦日以内 |
(2)労働市場調査の実施方法
旧規則 | 本規則 |
雇用主は、AEP申請の15暦日前までに、当該外国人労働者の就労に関する求人情報を一般に流通している新聞紙上で公表しなければならない | 雇用主は、AEP申請前に、当該外国人労働者の就労に関する求人情報を、一般に流通している新聞紙上、PhilJobnet及び公共職業紹介所(Public Employment Service Office)又は就職あっせん所(Job Placement Office)に公表しなければならない |
(3)AEPが免除される場合の取扱い
旧規則 | 本規則 |
在外公館の職員等、AEPが免除される外国人労働者(「免除労働者」)は、DOLEに対して、免除証明書(Certificate of Exemption)の発行を請求することができる | 免除労働者は、DOLEに対して所定の申請書類を提出して免除証明書の請求しなければならない |
日本人従業員のフィリピン駐在に際しては、AEPの手続も必要となり得るところ、必要な手続のアップデートについては注意が必要です。
Ⅴ. タイ:カジノ合法化法案の進展と今後の展望
本レター第168号(2024年10月号)において、複合娯楽施設法案(Entertainment Complex Business Act:「本法案」)の概説を掲載しましたが、本号においては、その後の進展と今後の展望についてご紹介します。
(1)本法案の進展と今後の展望
2025年1月13日、タイ内閣は、カジノの合法化に関する本法案の理念を承認し、正式な立法プロセスへと移行しました。その後2回目のパブリックヒアリングの手続を含むタイ法制委員会(Council of State)による審査を経て、同年4月3日、本法案が下院に提出されたことが公表されました。
下院においては、①本法案の大枠の承認、②特別委員会による詳細な審査、③最終的な条項ごとの投票が行われることになりますが、既定の期間は存在しません。下院において可決された場合、本法案は上院に送られ、上院でも可決されると国王の署名を経て官報に掲載され、施行されます。
これらの全行程が完了するまでの期間は、法案の性質や立法過程で生じる修正の有無等により様々であり、数か月から、法案によっては1年以上かかることもあります。
(2)下位法令について
タイ政府は、本法案の下位法令を制定する計画を発表しています。下位法令の案はまだ公表されていませんが、以下の内容を含むことが予想されます。
- 複合娯楽施設のライセンス:複合娯楽施設が認められる区域、ライセンスの基準、ライセンスの発行数の上限、申請手続、手数料、更新手続等
- 複合娯楽施設の運営:許可される娯楽事業の種類と詳細、営業時間、サービスセンターの場所、酒類の販売・消費の制限、喫煙エリアの指定等
- 複合娯楽施設の管理と雇用:取締役、役員及び株主構成や、会社組織の変更に関する規制、タイ人従業員の割合に関する規制等
- カジノ運営:複合娯楽施設のうちカジノエリアが占める割合、カジノの種類、ゲームのプレイ方法、タイ人の入場料、カジノへの入場禁止の基準、広告・宣伝の制限、プレイヤー規則等
これらの下位法令は、本法案の発効日から180日後に施行される予定です。
タイがエンターテイメント及び観光の中心地としての地位を確立する中、カジノの合法化によるさらなる投資機会と経済成長を期待して、政府の強力な主導のもとで本法案の審議が進められている一方、反対意見も根強く存在することから、ホテル、不動産、ゲーム業界を中心に、企業や投資家は、引き続き今後の動向に注視が必要です。
(ご参考)
本レター第168号(2024年10月号)
今月のコラム -5Cから5Gの時代へ(シンガポール成功者の指標)-
筆者が来星した○○年前は(ご想像にお任せします。)、シンガポールの成功者が持つとされるアイテム5つを指す「ファイブ・シー(5C):①Cash, ②Car, ③Credit Card, ④Condominium, ⑤Club Membership」という言葉を巷でよく耳にしました。当時、これらはシンガポールのごく一部のエリートや富裕層が持つものとされ、例えば結婚相手が持っているCの数が多ければ多いほど羨望の眼差しを向けられる(俗にいう玉の輿にのるとみなされる)、シンガポールのMaterialisticな一面を表す言葉でした。ふと思い立ち、現代を生きるシンガポール人にとっての成功の指標とは何かを、若い世代のシンガポール人らと共に検証したところ、携帯電話の電波だけでなく、こちらもどうやら5Gに移行しているという面白い結果が得られましたので、皆さまにも紹介できればと思います。
① Cash➡ Gold / Capital Gain / Income Gain
現金よりも価値の変動が少ないとされるGold、そして投資が成功の鍵と捉え、現金は寝かせずに働かせてなんぼ、のようです。さすがは世界の金融ハブで育った若者たちです。
② Car➡ Grab
Grabはシンガポールで最もダウンロード数の多い配車アプリです。料金はタクシーに比べて割高ですが、配車選択肢も豊富になった現在は「車がなければGrabを捕まえればいいじゃない」という認識も浸透し、国土が小さいシンガポールで維持費のかかる車を所有することが必ずしも成功を表すものではないと捉える若者も多いようです。ちなみに、日本でおなじみのUberはシンガポールから撤退しており、シンガポールにお越しの際にはGrabアプリをダウンロードしてご準備ください。
③ Credit Card➡ Gourmet Event
コロナ禍をきっかけに、シンガポールでは急速に電子マネー取引が主流になり、またスマートフォン等の電子デバイスを使用したタッチ決済により、クレジットカードの色が漆黒でも金色に輝いていようともカードをお財布から出す機会は激減しました。ステータスカードを使ってのスマートなキャッシュレス決済の特別感はすっかり薄れたように感じます。現在は、カードの色よりも、クレジットカード会社が企画する、カード保持者向けの高額な美食イベント(ワインイブニング、お酒のテイスティング、ウイスキーナイト、世界の有名シェフを招いての特別コース、OMAKASE等)への参加とそこでのネットワーキングが重視されているようです。
④ Condominium➡ Bungalow
やや強引にGに含めてしまいましたが、シンガポールでバンガローと呼ばれる一軒家に住む人の割合は、全居住者の4.7%(ご参考:「Department of Statistic Singapore」、2024年データ)であり、同17.7%がコンドミニアムに、同77.4%がHDBと呼ばれる集合住宅に住んでいます。コンドミニアムより高額な超富裕層が住むバンガローには、広いプールや地下に巨大なワインセラーや映画シアターがある物件も多く、まさに成功者の証と言えます。
⑤ Club Membership➡ Singapore Airline Elite Gold Membership
週末は、街の喧騒から離れた国内のクラブハウスで過ごすのではなく、飛行機の上級クラスに乗って近隣諸国リゾートへ。シンガポール航空のGold Membershipになると、ラウンジ利用や優先搭乗の特典が魅力的だそうです。
いかがでしたでしょうか。ちなみに、5C及び5Gには諸説あり、上記は筆者の独断と偏見によるもので、この他にも、Cash以外にCareer(良いキャリアを築くこと)、Being Cultural(様々な国の文化に触れる旅をすること)、Holding Credibility(信頼性を保つこと)、Convenience(便利な生活をおくること)を新5Cとして、Materialisticではない面も取り入れる説もあるようです。5年後、10年後のシンガポールの指標がどうなっているのかを楽しみに、これからも定期的に検証してみたいと思います。
(有馬 潤)