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Automotive Newsletter

「令和6年度自動運転の拡大に向けた調査研究報告書」の概要

I. はじめに

本号では、2025年3月に警察庁より公表された「令和6年度自動運転の拡大に向けた調査研究報告書1」(以下「本報告書」といいます。)の内容をご紹介します。

自動運転導入のための道路交通法関係の制度としては、無人自動運転移動サービス(自動運転レベル4)を可能とする改正道路交通法が2023年4月に施行されるなど、整備が進められているところです。2024年5月31日付で取りまとめられた「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ」報告書では、「自動運転車の実装に当たり課題となり得る道路交通法の規定の有無、対応方法等についての検討、及び自動運転車による道路交通法の具体的な遵守方法に係る検討が必要」との指摘がされており、本報告書では、このような指摘も踏まえて、都内での走行を目指すとされているロボットタクシーの実装を念頭に置いて、課題の有無・対応方法について論点整理が行われています。

Ⅱ. 具体的な検討内容

本報告書では、まずは、①自動運転車の走行に当たり課題となり得る道路交通上の場面の具体例と自動運転技術による対応の現状を開発者側から聴取した上で、②当該場面における他の交通参加者の動きも考慮しつつ、道路交通法に基づき自動車の適切な通行方法を整理し、③自動運転車が当該通行方法を採るために必要な対応及びその内容を検討することとしています。

上記を踏まえ、都内での走行を目指すとされているロボットタクシーを想定した場合において、自動運転車の実装に当たり課題となり得る交通上の場面を日本自動車工業会から聴取し、下表のとおりまとめています。
 

令和6年度自動運転の拡大に向けた調査研究報告書(概要)p3


必要な対応の例としては、①自動運転車の開発の目安となるよう、交通ルールの解釈・運用を明確化すること、②自動運転車が走行しやすいよう交通規制や道路環境の整備を行うこと、③インフラからの情報提供を行うこと、④全体の道路交通の安全及び円滑を確保する観点から適切な場合には、交通ルールの見直しについて検討すること等を想定して、検討が行われました。

Ⅲ. 海外調査

本報告書では、米国における、ロボットタクシーを含めた全ての交通参加者の交通の安全と円滑を確保する方策について、法制度(交通ルール)の検討・整備状況、事業者の対応等の観点から調査が行われており、その概要は以下のとおりです。

1.    米国における制度
NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)関係者から、自動運転車の安全基準については、「有能で注意深い運転者(Competent and careful human driver)」(以下「CCD」といいます。)レベルと評価することができる必要があり、CCDについて、①交通ルールの解釈につき、防御的(defensive)で保守的であること、②事後検証に耐え得る十分な衝突回避性(crash avoidance)を有することの2点が特に重要であるといった指摘がなされています。

2.    現場対応における懸念
道路におけるスタック等、必ずしも事故には該当しない事案(incident)が発生した場合の報告義務は特段設けられていないところ、地元警察・消防機関からは、スタック事案等に際し、オペレーター(遠隔監視)との間で上手く連携が取れない、事業者からの情報開示が不十分なこともあるため、捜査業務に支障を来すといった意見が挙げられています。

3.    社会的受容性
関係行政機関としては、自動運転車導入当初には導入に対する批判があり、自動運転車に対する妨害行為等が頻発していたものの、導入後の時間が経過することにより、これらの批判や妨害行為等は減少したと認識しているとされています。

4.    自動運転開発者の意見
自動運転開発者は当局に対して、交通ルールの変更に対する要望を行ったことはなく、「人間の運転者による運転と同様」という観点で道路交通法規を遵守できるようプログラムを構築しているものの、事故を避けるために中央車線を跨いでしまう必要がある場合など、緊急避難的に交通ルールを守れない場合は存在するといった意見が挙げられています。

Ⅳ. 検討結果のまとめ

本報告書における検討の結果、以下の2点が確認されています。
 

1.    交通ルールは、交通の安全と円滑を確保する観点から、自動運転車のみならず、自動運転車を含む全ての交通参加者に対して共通に適用されなければならない。自動運転車の開発・普及のために、既存の交通参加者に負担を強いるような交通ルールの設定は、自動運転車が交通社会で共存するという観点からは、社会の理解が得られない。なお、米国でも、自動運転車の開発等のために交通ルールを変更した事実は確認されていない。

2.    道路交通安全の観点からも、自動運転車は、国際的な承認を得つつある次の安全基準を満たすものが開発されることが望ましい。
①    交通法規を遵守すること。
②    有能で注意深い人間の運転者(CCD)と同等以上の安全性を有すること。


なお、自動運転システムに関する国際的な議論において、2024年6月のWP29で「自動運転システムの安全性能の要件及び評価手法に関する国連文書」が策定されており、本ドキュメントにおいて、自動運行装置に求められる安全レベルとして、(1)交通法規を遵守すること、(2)有能で注意深い人間の運転者(CCD)と同等以上の安全性を有することの2点が規定されており、現在、本ドキュメントをもとに、法的拘束力のある国連基準(UNR/GTR)の策定に向けて議論されています。

また、イギリスにおいて成立した自動運転車法(Automated Vehicles Act 2024)では、自動運転車の走行の安全性の基準においては、実質的に「注意深く有能な人間の運転者と同等かそれ以上の安全レベルであることを確保(authorised automated vehicles will achieve a level of safety equivalent to, or higher than, that of careful and competent human drivers)しなければならないこととされています。

Ⅴ. 今後の課題・今後の対応の方向性

本報告書では、今後の課題として以下の3つの論点を指摘するとともに、それぞれの課題について今後の対応の方向性が示されています。

1.    CCDに求められる安全水準
まず、自動運転の社会実装を進展させるためには、交通ルールの解釈・運用の明確化等が必要となるところ、自動運転車の車両挙動の目安となる「有能で注意深い人間の運転者(CCD)」による運転行動の具体的な内容を明らかにするため、CCDに求められる安全基準について、開発事業者等との間で交通ルールについての議論を行う枠組みを設けること等によって、官民が継続したコミュニケーションを行うことが必要と指摘されています。

2.    事故等の捜査・行政処分に必要となる情報の事業者からの提供
また、上記Ⅲ.2.のとおり、米国における調査では、事故や、事故には至らないが原因を調査して再発を防止すべきと考えられる事案に関し、開発者側から警察等に対し十分な情報が提供されていないとの指摘もあることから、自動運転車による不自然な挙動等を認知した場合に、当該挙動等に関し、事業者側から円滑に情報が提供されることが重要であると指摘しています。特に、特定自動運行許可制度の運用のための報告・検査や捜査上の必要により事故等の情報を入手する必要が生じた場合に、現在の警察の権限により十分な情報を入手することができるのか、具体的に必要となる情報の内容を整理した上で検討を継続していく必要があるとされています。

3.    公道上でスタックした際の警察等との連携のあり方
そして、自動運転車が公道上でスタックすることも想定されるところ、緊急時に、当該自動運転車を適切な場所へと速やかに移動させることが求められることから、欧米等の方法等を参考にしながら、事業者が行うべき対応方法を整理し、緊急時等における警察等との連携を確保するため、平素から事業者と警察等が準備しておく事項や緊急時における連携のための手順について統一的なガイドラインを定めることができないか検討を行う必要があると指摘されています。

Ⅵ. おわりに

今後、警察庁において、本報告書における指摘も踏まえて、更なるレベル4自動運転の進展に向けた制度整備の検討が進められていくと考えられますので、引き続き今後の動向を注視していく必要があります。

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