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Automotive Newsletter

タクシー等配車アプリに関する料金規制強化の流れ 独占禁止法上の問題点

Ⅰ. はじめに

2025年3月17日、国土交通省が設置する「自動運転ワーキンググループ」における資料として、「タクシー手配に係るプラットフォーマーに対する規律の在り方案について」1(以下「本資料」といいます。)が公表されました。本資料は、国土交通省に設置された「タクシー及び日本版ライドシェア2における運賃・料金の多様化に関する検討会」における検討を踏まえ、タクシーの運賃及び料金制度に係る今後の方向性を示したものであり、配車アプリに係る手数料について、道路運送法上の運賃・料金規制の対象とすることも検討すべきとされています。

また、2025年4月23日には、公正取引委員会から、タクシー等配車アプリに関する実態調査報告書(以下「本報告書」といいます。)が公表されました3。本報告書は、タクシー等配車アプリに関する取引実態やタクシー乗り場の入構・乗車の状況等についての実態調査の結果を取りまとめ、タクシー等配車アプリに関する公正取引委員会の独占禁止法又は競争政策上の考え方を示したものです。

本号では、本資料及び本報告書に基づき、タクシー等配車アプリに関する料金規制の流れ及び独占禁止法及び競争政策上の問題点について解説します。

Ⅱ. タクシー等配車アプリに関する料金規制強化の流れ

1. タクシー等配車アプリに関する現状の料金規制

(1)配車アプリサービスの取引
通常の旅客運送サービス(タクシー)では、一般に、タクシー事業者と旅客との間で契約関係が成立するのに対し、配車アプリサービスを利用する場合には、配車アプリ事業者と旅客との間及び配車アプリ事業者とタクシー事業者との間でそれぞれ成立することになります。
 


 

(2)配車アプリサービスの対価
配車アプリを通じてタクシーを手配した場合において、旅客が支払うことになる対価は、①「運賃」、②「迎車回送料金」及び③配車アプリの「利用手数料」に大別されます。このうち、①「運賃」及び②「迎車回送料金」は、旅客運送サービスに係るものであり、タクシー事業者の収入となります。これに対して、③「利用手数料」は、配車アプリサービスに係るものであり、配車アプリ事業者の収入となります。

また、タクシー事業者は、配車アプリ事業者に対して、旅客とのマッチングのサービスの対価として、「手数料」を支払っています。

(3)道路運送法及び旅行業法上の料金規制
配車アプリサービスの取引には、道路運送法と旅行業法という二つの法律が関係します。

タクシー事業は、道路運送法上の一般乗用旅客自動車運送事業に該当し、その運賃及び料金は、一部の配車料金を除き、道路運送法に基づく認可が必要とされており4、その上限についても厳格な規制が敷かれています。そのため、旅客からタクシー事業者に支払われる①「運賃」及び②「迎車回送料金」については、道路運送法上の厳格な規制に服します。

一方、配車アプリサービスは「旅行業」に該当するため、配車アプリ事業者は、いずれも、旅行業法上の「旅行業者」としての登録を受けています。もっとも、その収受する旅行業務の取扱いの料金(企画旅行に係るものを除く。)については、旅行者にとって明確な基準を定めなければならないとする旅行業法上の規制5は存在するものの、当該料金の上限等については定められていません。そのため、旅客及びタクシー事業者から配車アプリ事業者に支払われる「利用手数料」及び「手数料」の額について特段の規制はなく、自由に設定することができます。実際に、配車アプリサービス利用時の手数料については、下表のように、各種各様のものが設定されています。
 

2. 現状の料金規制の問題点

前述のとおり、配車アプリに係る手数料については道路運送法の適用を受けず、配車アプリ事業者は、同法による制限を受けないことから、手数料が際限なく高く設定されることもあり得ます。

さらに、タクシーの利用者からみると、道路運送法上の運賃・迎車料金と配車アプリ事業者が収受する利用手数料との区別がわかりにくいとの指摘も存在します。

3. 今後の方向性

上記の問題点を踏まえ、配車アプリ事業者が収受する手数料のうち、利用者から見て道路運送法の運賃・料金との区別がわかりにくいようなものについては、同法の運賃・料金規制の対象とすることも検討すべきとされています。

他方で、特別車両や優良乗務員等の各タクシー事業者によって異なるサービスについて、これらの情報を広く有している配車アプリ事業者が、利用者のニーズに合わせてこれらのサービスをワンストップでマッチングさせることは、まさに旅行商品そのものととらえることが相応しく、道路運送法の規制の対象外と考えることが適当ではないかといった考え方が示されています。

このような考え方を示しつつ、本資料では、今後の方向性として、自動運転タクシーにおいては配車アプリが必須になることや、都市部を中心に配車アプリの利用が引き続き増加していくことを踏まえ、自動運転を含めたタクシーの運賃・料金制度と配車アプリに係る手数料との関係を整理し、制度的に対応することが必要であると示されています。

Ⅲ. 独占禁止法及び競争政策上の問題点

1. 総説

一般に、ある配車アプリを利用する旅客の数の増加は、当該配車アプリを利用するタクシー事業者等の数の増加をもたらし、その結果、旅客にとって当該配車アプリを利用することの価値が増すことになり、当該配車アプリを利用する旅客の数が更に増加することになります。そのため、特定の配車アプリに旅客・タクシー等の利用者が集中する一方で、新規の配車アプリ事業者の参入が困難となる傾向があり、配車アプリサービス市場において独占・寡占に至り得るとともに、利用者との取引において配車アプリ事業者が交渉上優位な立場にもなり得ます。

したがって、配車アプリサービスについて独占禁止法及び競争政策上の対策を講じる必要があるとされています。

2. 問題となり得る配車アプリサービスに関する取引

(1)配車マッチングの基準等における差別取扱い・基準等の一方的変更
市場における有力な事業者である配車アプリ事業者が恣意的に特定のタクシー事業者を有利又は不利に取り扱うことは、取引条件等の差別取扱い等として独占禁止法上問題となるおそれがあります。また、配車アプリ事業者が行った、配車マッチングの基準等の変更が、正常な商慣習に照らして不当にタクシー事業者に不利益を及ぼす場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるおそれがあるとされています。

配車マッチングの基準等は、タクシー事業者の売上げに大きな影響を及ぼし得るため、配車アプリ事業者は、基準等について明確化した上で、これをタクシー事業者側に十分に説明し透明性の維持向上を図るとともに、その基準等を変更する際には、変更内容を事前に通知して十分に説明した上で、変更の通知から適用までの期間を十分に設けるなどの対応を採ることが望ましいとされています。

(2)他の配車アプリの利用制限
市場における有力な事業者である配車アプリ事業者が、タクシー事業者に対し、配車マッチングの際に一定の優遇を受けるための条件として、他の配車アプリを利用しないことを求めること等により、配車アプリサービスに係る新規参入者や既存の競争者の事業活動に悪影響が生じるおそれがある場合には、排他条件付取引又は拘束条件付取引等として独占禁止法上問題となるおそれがあるとされています。

(3)タクシーメーター市場で有力な事業者による自社配車アプリの利用強制
タクシーメーターの市場において有力な事業者が、自身が提供するソフトメーター6利用する条件として、自身が提供する配車アプリを併用すること又は他の配車アプリ事業者が提供する配車アプリを利用しないことをタクシー事業者に求めることにより、他の配車アプリ事業者の事業活動に悪影響が生じるおそれがある場合には、抱き合わせ販売等、排他条件付取引又は拘束条件付取引等として独占禁止法上問題となるおそれがあるとされています。

配車アプリ事業者間の公正な競争の確保の観点からは、タクシー事業者が採用しようとするどの配車アプリでも、ソフトメーターと接続でき、タクシー事業者が複数の配車アプリを採用しようとする場合には、複数の配車アプリがソフトメーターと接続できることが望ましいとされています。

3. タクシー乗り場の入構・乗車

(1)タクシー乗り場のアプリ配車タクシー等の入構に関する公正な競争環境の整備
タクシー乗り場の管理者(地方公共団体・鉄道事業者・空港管理者)の中には、タクシー乗り場へのタクシー事業者の入構の可否やタクシー事業者ごとの入構可能台数について、タクシー事業者から構成される協議会等に意思決定を事実上委ねていることがあります。かかる場合において、既にタクシー乗り場への入構が認められているタクシー事業者が新規参入のタクシー事業者のアプリ配車タクシー等の入構を不当に妨害することは、競争者に対する取引妨害等として独占禁止法上問題となるおそれがあるとされています。

したがって、タクシー乗り場の管理者は、一部のタクシー事業者にのみ入構を認める、又はタクシー事業者ごとの入構可能台数に一定の制限を設ける際には、新規参入の阻害につながらないような基準を設定し、協議会等にこれを遵守させるとともに、タクシー事業者からの個別の申請に対しては適切に対応することが望ましいとされています。

(2)タクシー乗り場のアプリ配車タクシー等の乗車に関する公正な競争環境の整備 
一部の駅前広場や空港等の交通結節点においては、タクシー乗り場での旅客間トラブルの防止のため、アプリ配車タクシー等の配車や乗車が制限されており、このような場合には、交通結節点からある程度離れた場所においてアプリ配車タクシー等の乗車を行わなければなりません。

旅客の利便性の向上やアプリ配車タクシー等とそれ以外のタクシーの間の公正な競争条件の確保の観点から、交通結節点等における管理者が、旅客やアプリ配車タクシー等のタクシー事業者といった利用者のニーズを踏まえ、場所的制約の下でも、タクシー乗り場において旅客ができる限り円滑にアプリ配車タクシー等に乗車することを可能とするための所要の措置を講じることが望ましいとされています。

Ⅳ. 終わりに

タクシー等配車アプリに関する料金規制については、配車アプリ事業者が収受する手数料の一部について道路運送法の規制対象とするか否かを含め、今後、より詳細な検討が進められることが見込まれますので、その動向を引き続き注視していく必要があります。

また、配車アプリに関する取引及びタクシー乗り場の入構・乗車のそれぞれの場面においては、現状、独占禁止法上問題となり得る複数の行為の存在が指摘されているところであり、配車アプリ事業者、既存のタクシー事業者及びタクシー乗り場の管理者等はその点にも配慮しつつリスクを低減する対応をする必要があります。

  1. https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001882994.pdf
  2. 自家用車活用事業(「日本版ライドシェア」)の概要についてはAutomotive Newsletter 2024年4月3日号(Vol.23)をご覧ください。
  3. https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/apr/250423ridehailing_04.pdf
  4. 道路運送法9条の3
  5. 旅行業法12条1項、2項、同法施行規則21条
  6. ソフトメーターとは、位置情報の推移を用いて推定された走行距離より運賃を算出(算出過程で一部車速パルスを用いることがあります。)し、その結果を表示する機能を持つプログラムのことをいいます(第1回タクシー及び日本版ライドシェアにおける運賃・料金の多様化に関する検討会(2024年8月6日)、国土交通省説明資料17頁)。
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