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スイス国に対するAT1債の損害賠償請求に関する近時の裁判例

Wealth Management Newsletter 2024年8月号(Vol.29)では、「スイスに対するAT1債の損害賠償請求における日本の条約の優位性」について解説していたところですが、AT1債保有者が当該条約に基づく損害賠償請求をスイス国に対して行うにあたり、非常に有利に働くと思われる判決がスイス国内の裁判所により下されましたので、以下のとおりご紹介いたします。

2025年10月1日、スイス連邦行政裁判所(FAC)は、クレディ・スイスAT1債保有者らが提起した訴訟のうちの一つにおいて、2023年3月19日付で金融当局(FINMA)が発したAT1債の全額償却命令が違法である旨の判決を下しました(本判決に対してはスイス国によるスイス連邦最高裁への上訴が行われています)。
Unlawful write-off of AT1 capital instruments

裁判所が認定した主要な点は以下のとおりです。
 

  • 無価値化の契約上および法的根拠が存在しないこと
  • クレディ・スイスは十分な自己資本を有しており、契約上の「Viability Event」は発生していなかったこと
  • FINMAが依拠した緊急政令(Emergency Ordinance)の条文は、財産権侵害を構成し憲法に反すること


本判決はAT1債の無価値化そのものを取り消すものではないため、AT1債の効力が復活するわけではなく、投資家の損失状態は継続しています。裁判所も、スイス国に対する補償請求(State-liability claim)が適切な救済手段であると指摘しております。したがって、AT1債保有者が国際仲裁を通じてスイス国に損害賠償を請求する必要があることに変わりはないと考えられます。(また、日本人投資家がスイス国内で訴訟を提起することは、期限を徒過しているため既にできない状態となっていると考えられます。)

なお、AT1債保有者が、(スイス国ではなく)金融機関に対して日本の裁判所等で損害賠償請求をするにあたっては、AT1債の契約に関する説明内容が問題となると考えられるところ、本判決が契約上の「Viability Event」がそもそも発生していなかったと判示したことを踏まえると、説明内容に誤りはなかったという結論が導かれる可能性が高まったように思われるところです。

当事務所は、クレディ・スイスAT1債を保有する日本人投資家を代理して、近日中にスイス国を相手方とする仲裁を申し立てる予定です(原告団へのご参加の申込期限は2025年11月11日(火)となっております)。お申込みやご質問等につきましては、以下までご連絡をいただきたく存じます。

〈連絡先〉
森・濱田松本法律事務所 AT1債国際仲裁担当
mhm_at1@morihamada.com 

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