Ⅰ. はじめに
令和7年12月12日、「医療法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第87号)が公布されました。本改正は、地域医療構想の見直し、医師偏在是正に向けた総合的な対策、医療DX推進、美容医療を行う医療機関における定期報告義務の導入など多岐にわたる内容を含みますが、実務上特に注目されるのが、オンライン診療に関する規定の創設です。
これまで、オンライン診療は主に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下「オンライン診療指針」といいます。)という行政通知等により監督・運用されてきましたが、オンライン診療指針を遵守していない運用を行っている医療機関に対する行政指導が実施しにくいという問題点も指摘されていました。また、規制改革推進会議が令和7年5月28日に発表した「規制改革推進に関する答申」1においても、現行の医事法制の解釈運用では限界があることなどを踏まえ、正面から医事法制にオンライン診療を位置付け、その運用基準等を明確化すること等が必要であると指摘されており、令和7年6月13日に発表された「規制改革実施計画」2においてもオンライン診療の更なる普及及び円滑化について措置を講ずることが挙げられていました。
そこで、本改正では、医療法の中で「オンライン診療」や「オンライン診療受診施設」が明確に定義され、オンライン診療の適切な提供のために必要な枠組みが法律上整備されることとなりました。これらオンライン診療に関する規定の施行日は令和8年4月1日とされており、施行が目前に迫っています。
令和8年1月26日に開催された社会保障審議会医療部会(以下「本部会」といいます。)では、オンライン診療に関する改正医療法の施行に向けての議論もされました。これに先立ち公表された資料3(以下「本部会資料」といいます。)では、改正法の施行に向けて政省令等で新たに定める必要がある事項や、施行に併せて検討・周知が必要となる事項について整理されています。また、令和8年4月1日からの施行を控えて、政省令案はパブリックコメント手続き中となっています。
以下では、本部会資料の内容を中心に、改正医療法の施行に向けた検討状況をご紹介します。
なお、「医療法等の一部を改正する法律」のうち、適正なオンライン診療や美容医療の提供のための規制の整備の概要については、Healthcare Newsletter 2026年1月号(Vol.44)「Healthcare Law Updates~2026年1月号~」でも取り上げていますので、併せてご参照ください。
Ⅱ. オンライン診療に関する総体的な規定の創設
本改正では、適切なオンライン診療をさらに推進していくため、現行制度の運用を活かす形で、医療法にオンライン診療の総体的な規定を設けることとなりました。主な改正事項は以下のとおりです。
<オンライン診療を行う医療機関>
<オンライン診療受診施設>
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Ⅲ. 政省令等で定める必要がある事項
本部会資料では、改正医療法の施行に向けて政省令等で新たに定める必要がある事項について、以下の7項目に整理しています4。
| ① オンライン診療を実施する医療機関の届出について ② オンライン診療受診施設の設置に係る届出等について ③ 広告規制等について ④ オンライン診療基準、オンライン診療指針について ⑤ 医療機関の管理者の措置/オンライン診療受診施設の公表について ⑥ 法令違反等への対応について ⑦ オンライン診療受診施設の利用に係る費用について |
以下、各項目について本部会資料で整理された内容をご紹介します。
1. オンライン診療に関する届出について
(1) オンライン診療を実施する医療機関の届出(①)
オンライン診療を実施する医療機関の開設・変更時に届出が必要な事項として、「オンライン診療を実施している旨」を追加する方針が示されています。これにより、オンライン診療を行う医療機関は、改正医療法の施行前からオンライン診療を実施している場合であっても、その旨を都道府県知事に届け出ることが必要となります。
もっとも、事務負担等を考慮して、令和8年4月1日時点で現にオンライン診療を実施している医療機関については、令和9年3月末までにオンライン診療を実施している旨の届出をすれば足りるとする経過措置を設けることが予定されています。
(2) オンライン診療受診施設の設置に係る届出等(②)
改正医療法において、新たに「オンライン診療受診施設」に関する規定が創設されました。「オンライン診療受診施設」とは、「当該施設の設置者が、業として、オンライン診療を行う医師又は歯科医師の勤務する病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院に対して、その行うオンライン診療を患者が受ける場所として提供する施設をいう。」と定義されます。(改正医療法2条の2第2項)。
オンライン診療受診施設の設置者は法人であってもよく、医療従事者であること等の要件は設定しない方向で整理が進められています。設置者や法人が定めた責任者は、常駐・専任である必要はないものの、遠隔で施設を管理等する場合を含め、通信機器の不具合が発生したときや患者が急変した時に、患者、オンライン診療を行う医師や医療機関、都道府県が連絡可能な連絡先を提示し、速やかに対応できる体制が求められるものとされています。
さらに、患者がオンライン診療受診施設を選択することができるよう、オンライン診療受診施設の設置者は、当該施設においてオンライン診療を提供する連携医療機関の名称等を公表することが望ましいものとされています。
オンライン診療受診施設の設置者は、設置後10日以内に当該施設の所在地の都道府県知事に届出を行う必要があります5(改正医療法8条2項)。届出事項は今後省令で定められることになりますが、現在パブリックコメント手続きに付されている省令案では、以下の事項が届出事項とされています。
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また、届出の標準様式についても、施行に向けて今後通知されることが予定されています。
2. 広告規制等(③)
医業・医療に関する広告については、原則として医療法で定められた広告可能事項しか広告することができません(医療法6条の5第3項)。今回新たに「オンライン診療」や「オンライン診療受診施設」に関する規定が医療法に定められたことに伴い、これらに関する広告規制についても改めて整理がされることになりました。
(1) 医業・医療に関する広告規制
まず、医師又は歯科医師がオンライン診療受診施設を利用してオンライン診療を行う病院又は診療所における広告可能事項として「オンライン診療を行う旨」や「オンライン診療の内容に関する事項」が追加されました(医療法6条の5第3項15号)。さらに、同項16号に基づく厚生労働大臣の告示により、オンライン診療基準の遵守に必要な事項を広告可能事項に追加する方針も示されています。
具体的には、オンライン診療を実施する医療機関Aにおいて、急病急変時に救急告示病院の医療機関Bで受け入れる体制を確保していることや、診療前相談の結果としてオンライン診療を行うことができない可能性やその場合の費用が広告可能事項となり、オンライン診療受診施設においては、医療機関Aの医師からのオンライン診療を受診できることや急病急変時に救急告示病院の医療機関Bで受け入れる体制を確保していることが広告可能事項として追加されています。

(厚生労働省医政局 第124回社会保障審議会医療部会資料1「オンライン診療について」8頁)
また、そもそも医業・医療に関する広告規制は、広告をする主体にかかわらず適用されるところ、現行の広告可能事項の中には医師や医療機関が自ら広告する場合を念頭に規定されたものも多く存在します。そこで、オンライン診療受診施設等もオンライン診療を行う医療機関について広告する場合にはこれらの広告規制が適用されることを明確にするために、オンライン診療受診施設等もオンライン診療を行う医療機関について広告可能事項を広告することができることを同項16号に基づく厚生労働大臣の告示に追加することが予定されています。
(2) オンライン診療受診施設に関する広告規制
オンライン診療受診施設は、あくまでも患者がオンライン診療を受診する場所を提供する施設であり、医療を提供するものではありません。そのため、オンライン診療受診施設のサービスに関する不当な表示については、基本的には景品表示法により規制されると考えられています。もっとも、オンライン診療受診施設が医療を提供する施設であると患者が誤認することを防ぐために、医療法上も一定の規制を設ける方針が示されています。具体的には、以下の場合にオンライン診療受診施設に関する広告をすることが可能であることを省令に定めることとされています。
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オンライン診療受診施設が医療を提供する者ではない旨を適切に明示していれば、例えばオンライン診療受診施設の名称・電話番号・所在場所・設置者名、オンライン診療受診施設の施設・設備・従業者に関する事項、オンライン診療受診施設の管理・運営に関する事項を広告することも許容されるものとされています。
なお、オンライン診療受診施設である旨は、オンライン診療受診施設のみが標榜することが可能であり、その他の者はオンライン診療受診施設と紛らわしい名称を付けることはできません(改正医療法3条4項)。いかなる名称がこれにあたるかは、今後通知によって示されることが予定されています。
3. オンライン診療基準、オンライン診療指針等について(④)
改正医療法は、オンライン診療を実施する際に従うべき基準として新たに「オンライン診療の適切な実施に関する基準」(以下「オンライン診療基準」といいます。)を省令で定めることとしています(改正医療法14条の3第1項)。オンライン診療基準では、①オンライン診療を行う医療機関の施設/設備・人員、②患者がオンライン診療を受ける場所、③患者に対する説明、④他の病院又は診療所との連携その他の患者急変時の体制確保、⑤その他オンライン診療の適切な実施に関する事項を定めるものとされており(改正医療法14条の3第2項各号)、従来のオンライン診療指針のうち「最低限遵守する事項」として整理されてきたものを基本として規定されることとされています。
この点、現在パブリックコメント手続きに付されている省令案では、①オンライン診療受診施設の設置者は、患者の所在に関する事項及び十分な情報セキュリティ対策に関する措置を講じる(法人である場合は、管理・運営の責任者を置く)、②オンライン診療受診施設にいる患者に対してオンライン診療を行うときは、医師等は、患者が事後的に確認できる形で、所属する医療機関の名称、担当した医師の氏名、問合せ先等を通知することが、新たな遵守事項として規定されています。
また、本部会資料では、改正医療法の施行に合わせて、オンライン診療指針や同指針への遵守を確認するためのチェックリストについても見直す方針であることが示されています。
オンライン診療を実施するに際しては、新たに省令として定められるオンライン診療基準を確認するだけでなく、引き続きオンライン診療指針やチェックリストについても参照することが重要であると考えられます。
4. 医療機関の管理者の措置/オンライン診療受診施設の公表について
(1) 医療機関の管理者の措置(⑤)
改正医療法において、オンライン診療を行う医師が勤務する医療機関の管理者は、オンライン診療基準に適合したオンライン診療が行われるように必要な措置を講じなければならないと定められました(医療法14条の4)。医療機関の管理者が講じる必要のある措置として省令で定める内容について、本部会資料では以下のとおりとおり定める方針が示されています。
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(2) オンライン診療受診施設の公表
オンライン診療受診施設の設置者は、当該施設がオンライン診療基準に適合していること等を公表する義務を負います(改正医療法14条の5)。公表すべき事項は下記のとおりです。
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公表方法については、ウェブサイトへの掲載その他適切な方法と定めることを予定しています。
5. 法令違反等への対応(⑥)
これまでご紹介したとおり、今回の改正により、オンライン診療に関する規制や遵守すべき基準が法令上より明確化されました。本部会資料では、オンライン診療に関して法令違反等があった場合の対応についても整理しています。
まず、自由診療を含め、オンライン診療を実施する医療機関及びオンライン診療受診施設に対する指導・立入検査等は、原則として、それぞれが所在する都道府県等が実施することとされています。オンライン診療は遠隔で行われるため、医療機関とオンライン診療受診施設の所在地が異なることも想定されますが、あくまでも指導・立入検査等の対象となる施設の所在する都道府県が監督を行う方向で整理がされています。併せて、医療機関とオンライン診療受診施設とが異なる都道府県に所在する場合に必要となる連携についても今後周知徹底を図ることが示されています。
また、オンライン診療受診施設に関しても、法令違反や「運営が著しく適正を欠く(疑いがある)と認める」場合は、当該施設が所在する都道府県等が、当該施設に対して立入検査・是正命令等を講じることが考えられています。「運営が著しく適正を欠く(疑いがある)と認める」場合の例としては、不衛生で危険な環境が放置されているにもかかわらず、次々とオンライン診療を実施する医療機関との連携が進められている状況が挙げられています。
例えばオンライン診療受診施設に問題がある場合は、患者からオンライン診療受診施設が所在するB県に情報提供がなされ、B県として法令違反又は「運営が著しく適正を欠く(疑いがある)と認める」場合、B県からオンライン診療受診施設に対して立入検査・是正命令等を実施することになります。
一方で、オンライン診療受診施設においてなされたオンライン診療の内容に問題がある場合、患者からオンライン診療受診施設が所在するB県に情報提供がなされると、B県はオンライン診療実施医療機関が所在するA県と連携し、A県からオンライン診療実施医療機関に対して立入検査等を実施することとされています。
(厚生労働省医政局 第124回社会保障審議会医療部会資料1「オンライン診療について」15頁)
これまでもオンライン診療指針等において医療機関が遵守すべき事項について定められてはいましたが、今回の改正によりオンライン診療が法令上明確に規定されたことで、医療機関やオンライン診療受診施設に対する監督機能についても強化されることがうかがわれます。
6. オンライン診療受診施設の利用に係る費用(⑦)
オンライン診療受診施設の利用に係る費用負担についても、本部会資料において整理されています。
オンライン診療受診施設の運営経費としては場所代やシステム経費等が含まれると考えられるところ、本部会資料において想定される費用負担の形態としては、オンライン診療受診施設は、医療法上「設置者が、医療機関に対して患者のオンライン診療の受診場所として提供する施設」と定義されていることを踏まえて、医療機関に対して提供の対価として支払を求める場合や、患者が用いるオンライン診療受診施設での端末や通信環境等の経費は、通常患者が自身の居宅でオンライン診療を受ける場合には、患者本人が負担すべきことを踏まえ、患者に対して支払を求める場合等、様々な場合が想定されます。
本部会資料はいずれの形態が望ましいかどうかを示すものではありませんが、費用負担の在り方や利用料等の額については、医療機関・オンライン診療受診施設・患者の契約関係において適切に設定するとともに、あらかじめ患者にとってわかりやすく示すこと、他の費用と区分して請求することが望ましい旨を通知するとされています。
Ⅳ. おわりに
本部会資料は、オンライン診療に関する改正医療法の施行に向けた検討事項の整理・方針を示すものではありますが、今後実際に定められる政省令等も概ね今回の整理に沿ったものになると予想され、実際に現在パブリックコメント手続きに付されている政省令案はそのような案が提案されています。改正医療法の施行日が迫っていることから、オンライン診療を実施する医療機関や、オンライン診療受診施設の設置を検討する事業者においては、本部会資料で示された方針やパブリックコメント手続きに付されている政省令案を踏まえて、施行に向けた準備を進める必要があります。
- https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/opinion/250528.pdf
- https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/program/250613/01_program.pdf
- https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001642125.pdf
- なお、これらの内容を検討し、必要な改正を行うに際しては、衆議院厚生労働委員会及び参議院厚生労働委員会における附帯決議や令和7年6月13日に閣議決定された規制改革実施計画等を踏まえる必要があることも指摘されています。
- ただし、診療所として受診場所を提供する場合は不要であるとされています。
- 医療機関の管理者は、オンライン診療受診施設が記入したチェックリストにより適合状況を確認することが可能であるとされています。