本ニュースレターの要点
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Ⅰ. はじめに
2026年3月17日、投資管理制度(外資規制)を改正するため、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」といいます。)の改正法案(以下「本改正案」といいます。)が国会に提出されました。本改正案は、同年1月7日に財務省の諮問機関である関税・外国為替等審議会(以下「外為審」といいます。)から公表された次期外為法改正の方向性を示す答申(以下「本答申」といいます。)を反映したものです1。
本改正案では、大別して、①間接取得に対する事前審査制度の導入、②非指定業種への投資に対する事後介入措置の導入、③リスク軽減措置に関する制度整備、④日本版CFIUS制度の創設、⑤非外国投資家による投資に関する潜脱防止規制の追加が行われます。本改正案のうち大部分は公布日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。一方、日本版CFIUS制度の創設に関する条項は公布日から施行されます2。
本ニュースレターでは、本改正案の概要を解説するとともに、実務上の影響についても検討します。また、本答申で言及されているものの、本改正案で明記されていない点について、今後整備される政省令の方向性についても議論します。
Ⅱ. 間接取得に対する事前審査制度の導入
1. 現行法の概要
現行制度では、大要、①「外国投資家」3が、②指定業種に属する事業を営む発行会社(日本国内の子会社等が指定業種に属する事業を営む場合を含む4。)に対して、③「対内直接投資等」5又は「特定取得」6を行う場合に、事前届出義務が発生します。前記①から③の条件を充足する場合、外国投資家は、原則として、審査付き事前届出を提出する必要があります。
現行法において、「対内直接投資等」・「特定取得」は、日本企業の株式等の直接の取得等に限定されているため、日本企業の株式・議決権を保有する外国法人等の株式・議決権の取得は外為法の規制対象ではありません。
2. 本改正案の概要
本改正案では、「対内直接投資等」の定義に以下の2類型が追加されます(新26条2項9号、10号)7(以下「間接取得規制」といいます。)。
- 新9号:日本企業に対して一定の投資をしている外国法人等の議決権の取得であって、新たに直接保有法人等の議決権の総数を直接又は間接に50%以上保有することとなるもの
- 新10号:直接保有法人等又はその親会社等の役員の選任に係る議決権の行使であって、自ら又は自らの関係者により新たに当該選任に係る法人等の役員等の過半数を占めることとなるもの
また、対内直接投資等は、法律の本文に掲げる行為に準ずるものが政令に委任されているところ、上記2類型に準ずる行為が政令で追加される可能性があります(改正後26条2項11号)。
(1)新9号の詳細
本号では、①外国法令に基づいて設立された法人その他の団体(以下「外国法人等」といいます。)の議決権の取得であって、取得後の直接保有法人等に対する議決権の割合が直接又は間接に50%以上となるもののうち、②当該直接保有法人等が(i)日本の非上場会社の株式又は持分を所有する場合、(ii)日本の上場会社の株式を一定割合以上8保有する場合、及び(iii)日本の上場会社の議決権を一定割合以上9保有する場合を規制しています。
(a)①要件について
直接保有法人等とは、大要、日本企業の株式・議決権等を所有・保有する外国法人等であると定義されている(新26条5項)ところ、日本企業の株式を直接保有する外国法人等は直接保有法人等に該当するものの、その親会社は直接保有法人等には該当しません。
しかし、①要件では、直接又は間接に直接保有法人等の議決権の50%以上を取得することが求められているところ、直接保有法人等の親会社の議決権の取得であっても、①要件を充足します。すなわち、50%の閾値の計算にあたっては、取得者が議決権の50%以上を直接に保有する法人その他取得者と株式の所有関係等に基づく永続的な経済関係を有するものとして政令で定めるものが保有する議決権の数が合算されます。
当該直接保有法人等の親会社について、直接保有法人等の議決権の50%以上を直接に保有している法人(すなわち、直接保有法人等の直接親会社)が対象となることは法文上明らかですが、直接保有法人等の祖父会社や曾祖父会社が規制対象となるかは政令の公表を待つ必要があります。
(b)②要件について
②要件における上場会社の株式・議決権の一定割合とはいずれも法文上、「百分の一を下らない率で政令で定める率」と規定されています。この点、政令では、取得者が、事前届出免除制度を利用できない外国投資家(以下「高リスク外国投資家」といいます。)10であるか、それ以外の投資家であるかに応じて、求められる比率が異なることが想定されます。
すなわち、本答申では、高リスク外国投資家は類型的に審査の必要性が高い外国投資家であるという整理の下、高リスク外国投資家による間接取得については、直接保有者が指定業種を営む日本企業の議決権等の1%以上を保有する場合を広く届出対象としつつ、高リスク外国投資家以外の外国投資家については、直接保有者が指定業種を営む日本企業の議決権等の50%以上を保有する場合のみを届出対象とする方針が示されています。そのため、政令において、高リスク外国投資家については1%、それ以外の投資家については50%の閾値が定められることが想定されます。高リスク外国投資家の詳細については、Corporate / International Trade Law Newsletter 2026年1月号(Ⅲ.1.(3)(a))を参照ください。
一方で、非上場会社の株式又は持分については、閾値が設けられていません。そのため、法文上は、取得者が高リスク外国投資家であるか否かを問わず、直接保有法人等が日本の非上場会社の株式を1株でも取得していれば、当該直接保有法人等の50%以上の議決権の取得は新9号の対象となります。しかし、非上場会社の株式又は持分については、閾値が設けられていないものの、手続不要規定(いわゆる例外規定)において、直接保有法人等が一定の閾値以下の非上場会社の株式又は持分しか保有しないケースが例外とされる可能性もあります11。そのため、政令以下において、上場会社同様に、高リスク外国投資家以外の投資家については50%の閾値が定められる可能性もあります。
(c)ケーススタディ
本改正案により、例えば以下のような取引が新9号の規制対象となります。なお、事例は、政令以下において、本答申記載のとおり、上場会社の株式の間接取得について、取得者が高リスク外国投資家か否かに応じて異なる閾値(高リスク外国投資家については1%、それ以外の投資家については50%)が設けられることを前提としています。
- 事例1:指定業種に属する事業を営む日本企業A(上場会社)の株式を50%以上保有するシンガポール企業B(直接保有法人等)について、議決権の50%以上を韓国企業Cが米国企業D(高リスク外国投資家に該当しない)に対して譲渡する場合
- 事例2:指定業種に属する事業を営む日本企業A(上場会社)の株式を50%以上保有するシンガポール企業B(直接保有法人等)の親会社(議決権50%以上)である韓国企業Cについて、議決権の50%以上を中国企業Eが米国企業D(高リスク外国投資家に該当しない)に対して譲渡する場合
- 事例3:指定業種に属する事業を営む日本企業F(上場会社)の株式を1%保有するカナダ企業G(直接保有法人等)について、議決権の50%以上を米国企業Hが中国企業I(高リスク外国投資家に該当する)に対して譲渡する場合
- 事例4:指定業種に属する事業を営む日本企業F(上場会社)の株式を1%保有するカナダ企業G(直接保有法人等)の親会社(議決権50%以上)である米国企業Hについて、議決権の50%以上をフランス企業Jが中国企業I(高リスク外国投資家に該当する)に対して譲渡する場合
- 事例5:指定業種に属する事業を営む日本企業K(非上場会社)の株式を1株保有するドイツ企業L(直接保有法人等)について、議決権の50%以上をフランス企業MがUAE企業N(高リスク外国投資家に該当する)に対して譲渡する場合
(2)新10号の詳細
本号では、①(i)直接保有法人等であって(a)日本の非上場会社の株式又は持分を所有する、(b)日本の上場会社の株式を一定割合以上保有する、(c)日本の上場会社の議決権を一定割合以上保有するもの、又は(ii)当該直接保有法人等の議決権の50%以上を直接に保有している法人その他の直接保有法人等と株式の所有関係等に基づく永続的な経済関係を有するものとして政令で定める外国法人等の役員の選任に係る議決権の行使であって、②当該選任により、当該行使をしたもの及び当該行使をしたものの役員その他の関係者として政令で定める者が、役員又は代表権限を有する役員の過半数を占めることとなる場合を規制しています。
(a)①要件について
対内直接投資等の類型では、従前から株式・議決権の取得といった純粋な投資行為だけでなく、議決権の行使行為も規制対象行為とされていたところ、一定の直接保有法人等及びその親会社等に対する一定の役員選任の議決権行使が規制対象とされています。
①(i)部分については、前記(1)(b)をご参照ください。①(ii)部分について、直接保有法人等の議決権の50%以上を直接に保有している法人(すなわち、直接保有法人等の直接親会社)が対象となることは法文上明らかですが、直接保有法人等の祖父会社や曾祖父会社が規制対象となるかは政令の公表を待つ必要があります。
(b)②要件について
役員又は代表権限を有する役員の過半数を占めることとなる役員選任の議決権行使のすべてが規制対象となるものではなく、議決権行使者及び議決権行使者の役員その他関係者として政令で定める者が、役員となる役員選任の議決権行使が対象とされています。そのため、議決権行使者と関係を有さないプロ経営者を選任するような場合には、新10号の対象とならない可能性がありますが、詳細な関係者の範囲は政令の公表を待つ必要があります。
(c)ケーススタディ
本改正案により、例えば以下のような取引が新10号の規制対象となります。なお、事例は、政令以下において、上場会社の株式を保有する直接保有法人等やその親会社について、議決権行使者が高リスク外国投資家か否かに応じて異なる閾値(高リスク外国投資家については1%、それ以外の投資家については50%)が設けられることを前提としています。
- 事例6:指定業種に属する事業を営む日本企業A(上場会社)の株式を50%以上保有するシンガポール企業B(直接保有法人等)について、シンガポール企業Bの株主である韓国企業C(高リスク外国投資家に該当しない)が自社の関係者をシンガポール企業Bの役員の過半数以上となるように選任する議決権行使を行う場合
- 事例7:指定業種に属する事業を営む日本企業A(上場会社)の株式を50%以上保有するシンガポール企業B(直接保有法人等)の親会社(議決権50%以上)である韓国企業Cについて、韓国企業Cの株主である米国企業D(高リスク外国投資家に該当しない)が自社の関係者を韓国企業Cの唯一の代表権を有する役員として選任する議決権行使を行う場合
- 事例8:指定業種に属する事業を営む日本企業E(上場会社)の株式を1%保有するスペイン企業F(直接保有法人等)について、UAE企業G(高リスク外国投資家に該当する)が自社の関係者をスペイン企業Fの役員の過半数以上となるように選任する議決権行使を行う場合
- 事例9:指定業種に属する事業を営む日本企業E(上場会社)の株式を1%保有するスペイン企業F(直接保有法人等)の親会社(議決権50%以上)であるUAE企業Gについて、UAE企業Gの株主である中国企業H(高リスク外国投資家に該当する)が自社の関係者をUAE企業Gの役員の過半数以上となるように選任する議決権行使を行う場合
- 事例10:指定業種に属する事業を営む日本企業I(非上場会社)の株式を1株保有するフランス企業J(直接保有法人等)について、フランス企業Jの株主である中国企業K(高リスク外国投資家に該当する)が自社の関係者をフランス企業Jの役員の過半数以上となるように選任する議決権行使を行う場合
(3)間接取得規制の執行方法
間接取得規制では、取得者・議決権行使者に対する措置命令によって国の安全等に係るリスクへの対応が著しく困難であるときは、直接保有法人等に対し、措置命令を行うことが可能とされています(新29条9項)。
そのため、日本企業Aの株式を保有するシンガポール企業B(直接保有法人等)の株式を米国企業Cが取得するような場合には、米国企業Cに対して措置命令が出される可能性があるとともに、シンガポール企業Bに対しても措置命令が出される可能性があります。また、日本企業Dの株式を保有する韓国企業E(直接保有法人等)の親会社である米国企業Fについて、当該米国企業Fの株主であるカナダ企業Gが自社の関係者を役員とする議決権行使を行う場合には、カナダ企業Gに対して措置命令が出される可能性があるとともに、韓国企業Eに対しても措置命令が出される可能性があります(ただし、米国企業Fは直接保有法人等に該当しないため措置命令の対象にはなりません。)。
3. 実務上の影響
高リスク外国投資家に該当するソブリン・ウェルス・ファンドなど外国政府系の投資家や中国の個人・法人又はその子会社等は広く間接取得規制に服することになります(前記事例3、事例4、事例8及び事例9参照)。
一方で、高リスク外国投資家に該当しない外国投資家は、対象となる日本企業が上場会社である場合、間接取得規制の適用対象が限定されます(前記事例1、事例2、事例6及び事例7)。
間接取得規制は、日本企業を子会社として有する外国企業のM&Aを行う際には、同一の国で設立された法人間の取引であっても対象となります。外国企業のM&Aにおけるデュー・ディリジェンスにおいても、日本企業の株式を保有している・子会社として有しているか否か及び当該日本企業が指定業種を営んでいるかを確認する必要があるほか、投資に関する契約書において外為法に基づく事前届出の禁止期間の経過を前提条件にするなどの対応が求められます。
Ⅲ. 非指定業種への投資に対する事後介入措置の導入
1. 本改正案の概要
現行制度では、外国投資家による指定業種を営まない日本企業に対する投資は、事前届出が求められず、10%以上の株式・持分・議決権の取得で事後報告が求められているにすぎません。そのため、勧告・命令などの措置の対象にはなりません。
本改正案では、事前届出対象ではない(すなわち、非指定業種に属する事業しか営まない日本企業への)一定の対内直接投資等又は特定取得に対する事後介入措置が導入されます。
当該事後介入措置では、まず報告徴求が行われ(新29条の2第1項)、当該報告内容に基づき、外為審の意見を聴いて、株式等の処分その他必要な措置の勧告・命令が行われます(新29条の2第2項、6項)12。さらに、国の安全のリスクが著しく大きいため緊急に措置をとる必要があると認めるときは、報告徴求後、外為審の意見を聴いて、新たに対内直接投資等又は特定取得を行わないこととその他の国の安全を損なう事態の発生を防止するために必要な措置を命ずることができます(新29条の2第9項)。
2. 事後介入措置の対象
事後介入措置の対象となる対内直接投資等・特定取得は、いくつかの限定が付されています。
まず、事前届出を提出したもの・提出すべきであったものは、事後介入措置の対象外とされています。すなわち、事前届出制度に基づくクリアランスを取得した後に、事後介入が行われることはありません。また、事前届出の提出漏れは、事後介入措置の枠組みではなく、届出漏れとして別途の措置命令等の対象となります。
次に、事後介入措置の対象となる対内直接投資等の類型が、非上場会社の株式取得、上場会社の株式・議決権取得、居住者からの事業の譲受等による承継等13に限定されています。すなわち、取締役の選任議案に関する議決権行使や前記Ⅱ.で触れた間接取得規制として追加される対内直接投資等の類型は事後介入措置の対象とはなりません。
さらに、事後介入措置の対象となる対内直接投資等・特定取得は、国の安全に係るリスク14が大きいものとして「政令で定める対内直接投資等又は特定取得に該当するもの」に限定されています。すなわち、事後介入措置の対象となり得る対内直接投資等・特定取得の詳細が政令に委任されています。この点、本答申では、事後介入措置の対象は、高リスク外国投資家による指定業種を営まない日本企業の株式・議決権の10%以上の取得等に限定することが提言されていました。そのため、政令では、事後介入措置の対象を①高リスク外国投資家による投資に限定したうえで、②日本企業の株式・議決権の10%以上の取得等に限定する閾値の設定が行われることが考えられます。
最後に、事後介入措置に関する遡及可能期間の制限も設けられています。具体的には、事後介入措置の前提となる報告徴求は、対内直接投資等又は特定取得が行われた日から起算して5年を経過する日までしか行うことができません(新29条の2第11項)。
3. 実務上の影響
本答申を踏まえた政令が整備されると仮定する場合、事後介入措置の対象は、高リスク投資家による投資に限定されます。そのため、高リスク外国投資家以外の外国投資家への影響は限定的になるものと考えられます。
一方で、高リスク外国投資家にとっては、事前届出が求められない投資であっても将来的に事後介入リスクが残ることになります。なお、少なくとも法文上は、事後介入措置の対象になり得る投資について、任意に事前届出を行うことを許容する仕組みは設けられていません。
Ⅳ. リスク軽減措置に関する制度整備
1. 現行法の概要
外為法に基づく事前届出審査の実務では、事前届出書に一定のリスク軽減措置を記載することで安全保障上の懸念等を解消できる投資については、当該記載を条件として変更・中止勧告・命令のプロセスに進まず、審査を終了させる取扱いが一般的です。
具体的には、リスク軽減措置の内容について、審査の過程において、事業所管官庁から案文が提示され、届出者との間で交渉が行われます。当該内容について合意に至った場合、既に事前届出書が提出されている案件では、一度事前届出書を取下げたうえで、リスク軽減措置を事前届出書の「取得又は一任運用に伴う経営関与の方法」に記載したうえで再提出することになります。再提出後、多くは提出日から5営業日以内にクリアランスが出されます。外為当局側としては、届出者が、届出書に記載されたリスク軽減措置に違反する場合は、「虚偽」の届出をしたものとして措置命令の対象になるとの立場を採用しています15。
現状の実務には、届出者側及び外為当局側のいずれにとっても実務上の問題点があります16。これらの問題点は、いずれも、リスク軽減措置という仕組み自体が外為法上明記されておらず、届出者による事前届出書への任意の記載という体裁がとられてきたことに起因しています。
2. 本改正案の概要
本改正案では、リスク軽減措置の仕組みを法律上明確化しています。具体的には、外国投資家は、外為法に基づく事前届出を提出する際に、リスク軽減措置17を講ずる場合には、当該リスク軽減措置を届け出なければなりません(改正後27条1項、28条1項)。事前届出後、禁止期間中にリスク軽減措置の内容を修正する場合には、当該修正を届け出ることもできます(新27条の3第1項、新28条の3第1項)。禁止期間の最終日が、修正届出の受理日から起算して14日を経過する日よりも前であるときは、禁止期間は修正届出の受理日から起算して14日を経過する日まで延長されます(新27条の3第2項、新28条の3第2項)。リスク軽減措置が届け出られた場合であって、当該リスク軽減措置が講じられていない場合、措置命令(取得した株式又は持分の全部又は一部の処分その他必要な措置)の対象となります(新29条1項)。
禁止期間満了後(すなわちクリアランスの取得後、さらには投資の実行後が含まれます。)にリスク軽減措置の内容を修正又は変更する場合は、当該変更のための事前届出を別途提出する必要があります(新27条の4第1項、新28条の4第1項)。当該事前届出の手続きは、通常の事前届出の手続きが準用されており(新27条の4第2項、新28条の4第2項)、当該リスク軽減措置について変更・中止の勧告・命令の対象となります。当該変更・中止の勧告・命令に従わない場合は、措置命令(取得した株式又は持分の全部又は一部の処分その他必要な措置)の対象となります(新29条5項、6項)。
3. 実務上の影響
本改正により、リスク軽減措置が求められる案件において、クリアランスまでの期間が短縮されることになります。具体的には、現行法の実務では、リスク軽減措置が求められる場合、既に事前届出書が提出されている案件では、一度事前届出書を取下げたうえで、リスク軽減措置を事前届出書に記載して再提出を行うことが求められており、それによりクリアランスまでに再提出から通常5営業日の期間を要していました。本改正後は、リスク軽減措置について修正の届出を行うことにより、禁止期間の最終日が修正届出の受理日から起算して14日を経過する日よりも前でない限りは、禁止期間の延長なくリスク軽減措置を含めた形でクリアランスを取得することが可能です。
なお、法文においては外国投資家が自発的にリスク軽減措置の記載を行うことが想定されるような記載となっていますが、リスク軽減措置について、届出者が自発的に安全保障上必要十分な内容を検討することは困難であり、リスク軽減措置の提示・合意プロセスについては、従前の実務が継続されることが想定されます。
また、禁止期間満了後におけるリスク軽減措置の内容を修正又は変更の届出の仕組みが設けられたことにより、外国投資家が、クリアランスを得て投資を実行した後において、事情の変更等のためにリスク軽減措置の一部の削除や変更を求める場合の手続きが整備されたと考えられます。
Ⅴ. 日本版CFIUS制度の創設
外為法に基づく投資管理制度は、財務大臣及び事業所管大臣が所管しています。そのため、現行法において、事前届出審査などは、財務大臣及び事業所管大臣(実務上は特に指定業種を広く所管している経済産業省)が行っています。
本改正案では、財務大臣及び事業所管大臣は、対内直接投資等又は特定取得の審査において勧告・命令の対象となる投資又は事後介入制度において報告徴求の対象となる投資に該当するかどうかを確認するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣、外務大臣その他の関係行政機関の長の意見を求めなければならないとされました(新69条の4)。すなわち、投資審査において、従来の財務大臣及び事業所管大臣に加え、内閣総理大臣、外務大臣その他の関係行政機関の関与を認める枠組みが創設されており、いわゆる米国のCFIUSに相当する幅広い政府機関の合議が予定されています。特に、内閣総理大臣が所管する国家安全保障局(NSS)、外務省及び防衛省は、従前事業所管大臣に含まれていなかったところ、それらの省庁が投資審査に関与する法的枠組みが整備された点で、従前の制度とは異なります。
この点、現在の審査実務でも財務大臣及び事業所管大臣がバラバラに審査をするものではなく、財務省をファシリテーターとして、各事業所管大臣が関係行政機関の意見も事実上聞きながら進めていると思われます。そのため、外国投資家の立場から、直ちに実務上の大きなインパクトは生じない可能性があります。一方で、日本政府として投資審査実務を厳格化する試金石となる可能性もあり、今後の審査実務への影響を注視する必要があります。
Ⅵ. 非外国投資家による投資に関する潜脱防止規制の追加
現行法では、外国投資家以外の者が、外国投資家のために当該外国投資家の名義によらないで行う対内直接投資等又は特定取得は、外国投資家とみなして外為法が適用されています。
本改正案では、かかる潜脱防止規定を拡大し、外国投資家以外の者が行う対内直接投資等又は特定取得のうち、①外国投資家の計算で行うもの(①類型は現行法でもカバーされている)、②契約又は外国の法令その他これに類するものに基づき行われるもの(政令で定めるものに限る。)、③外国投資家と株式の所有関係等に基づく永続的な経済関係、親族関係、雇用関係その他の政令で定める特別の関係にある者が行うもの(政令で定めるものに限る。)が、潜脱防止規定の対象とされました(改正後27条14項、27条の2第7項、28条9項、28条の2第7項、29条の2第13項、55条の5第3項)。
本答申では、潜脱防止規定については、高リスク外国投資家の支配・影響下にあるものに限って事前届出の対象とすることが適当であるとされています。②及び③が政令による限定の対象となることを踏まえると、政令以下において、②及び③については、高リスク外国投資家の支配・影響下にあるものに限定するための一定の手当てが行われることが想定されます。
そのため、高リスク外国投資家以外の外国投資家への影響は限定的になる一方、高リスク外国投資家においては一定の影響が生じる可能性があります。
Ⅶ. 最後に
本改正案は現在国会で審議中であり、通常大きな変更は想定されません。一方で、法令上の重要な要件が政令以下に委任されているところ、本答申の内容から一定の予測は可能ですが、詳細は政省令の公表を待つ必要があります。
また、本答申では、本改正案に含まれていない点として、指定業種の合理化や事後モニタリングの強化(人員の拡充を含む。)なども提言されている18ところ、本改正案の政省令とともに、それらの告示や実務運用の改正についても注視する必要があります。
- 本答申の概要は、Corporate / International Trade Law Newsletter 2026年1月号を参照ください。
- 本改正案附則1条。
- 26条1項。
- 対内直接投資等の種類によっては、日本国内の子会社等が指定業種に属する事業を営む場合を含まないケースもあります。
- 26条2項。
- 26条3項。
- 経過措置が設けられており、施行日から起算して30日を経過した日以降に行う投資から事前届出が求められます(本改正案附則3条1項)。
- 閾値の計算にあたっては、取得者、取得者の密接関係者及び直接保有法人の密接関係者が所有する所有等株式も合算されます。所有等株式とは、自己が所有する株式及び投資一任契約その他の契約に基づき他のものから委任を受けて政令で定める要件を満たす株式の運用又はその指図をする場合におけるその対象となる株式をいいます(改正後26条2項3号)。
- 閾値の計算にあたっては、取得者、取得者の密接関係者及び直接保有法人の密接関係者が保有する保有等議決権も合算されます。保有等議決権とは、自己又は他人の名義をもつて保有する議決権及び投資一任契約その他の契約に基づき行使することができる議決権として政令で定めるものをいいます(現行26条2項4号、対内直接投資等に関する政令2条9項)。
- 直投令3条の2第1項各号。
- そのような対応をしている例として、会社の事業目的の実質的な変更に関し行う同意(26条2項5号)について、法文上は非上場会社に関する閾値が設けられていないにもかかわらず、同意者の株式保有比率等が三分の一未満の場合を手続不要とすることで、実質的に三分の一の閾値を導入しているものがあります(対内直接投資等に関する政令3条1項12号、対内直接投資等に関する命令3条2項6号)。
- 報告徴求命令に正当な理由なく回答しない場合又は虚偽の回答をした場合も同様です(新29条の2第3項、6項)。
- 具体的には、26条2項に定められる対内直接投資等の類型のうち、同項1号から4号若しくは8号又は政令以下に委任されている類型であってそれらに準ずるものに限定されています。
- 対内直接投資等は「国の安全」の他にも、「公の秩序の維持」、「公衆の安全の保護」及び「我が国経済の円滑な運営」の観点からも審査が可能ですが、事後介入措置の対象はそのうち「国の安全」に係るリスクがあるものに限定されています。
- 「経済産業省における外国為替及び外国貿易法に基づく対内直接投資審査等の考え方」大川信太郎(旬刊商事法務No.2247)18頁。
- 当該問題点の詳細は、Corporate / International Trade Law Newsletter 2026年1月号(Ⅱ.2.(1)(b))を参照ください。
- 法文上は、対内直接投資等について「国の安全等に係る措置」、特定取得について「国の安全に係る措置」と定義されます。
- 詳細はCorporate / International Trade Law Newsletter 2026年1月号(Ⅱ.1.及びⅣ.)を参照ください。