Ⅰ. はじめに
公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)は、2026年3月12日、「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」改正案等を公表し(以下「本件公表」といいます。)1、意見募集を行いました(意見提出期限、2026年4月13日。以下「本件パブリックコメント」といいます。)。
公取委は、2024年12月に公表された「企業取引研究会報告書」2(以下「本件報告書」といいます。)において示された課題に対応し、取引環境を整備する観点から、2025年7月30日以降、企業取引研究会(以下「令和7年企業取引研究会」といいます。)を開催して議論を重ねてきました。公取委は、令和7年企業取引研究会における議論を踏まえ、本件公表において、「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」改正案(以下「物流特殊指定改正案」といいます。)、「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」案(以下「製造委託等特殊指定案」といいます。)、「『製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法』の運用基準」案(以下「製造委託等特殊指定運用基準案」といいます。)及び「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」改定案(以下「優越ガイドライン改定案」といい、物流特殊指定改正案、製造委託等特殊指定案及び製造委託等特殊指定運用基準案と併せて「本改正案等」といいます。)を作成・公表しました。現在、本改正案等は本件パブリックコメントの結果を踏まえた成案の公表を待っている状況であり、物流特殊指定改正案、製造委託等特殊指定案及び製造委託等特殊指定運用基準案については、2027年4月1日に施行予定とされています。
本稿では、本改正案等の背景について触れた上で、各改正のポイントについてご紹介します。
Ⅱ. 本改正案等の背景
以前、弊所のニュースレター(Antitrust/Competition Newsletter 2023年10月号(Vol.8))でもお知らせしたように、公取委及び中小企業庁(以下「中企庁」といいます。)は、2021年12月27日の「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」3の公表を皮切りに、適切な価格転嫁の実現に向けた様々な取組み等を継続的に行っています。その流れの一環として、公取委及び中企庁は、2024年7月22日から同年12月17日にかけて、適切な価格転嫁を我が国の新たな商慣習としてサプライチェーン全体で定着させていくための取引環境を整備する観点から、優越的地位の濫用規制の在り方について旧下請法を中心に検討することを目的に、企業取引研究会(以下「令和6年企業取引研究会」といいます。)を開催して議論を重ね、同月25日、令和6年企業取引研究会は本件報告書を公表しました。
本件報告書においては、旧下請法の見直し並びに独占禁止法(優越的地位の濫用)及び下請法の運用・執行の見直しの観点から、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁の環境整備や支払条件の適正化、物流に関する商慣習の問題に対する更なる対応などの課題が指摘されました4。その後、本件報告書の内容を反映する形で、2025年3月11日に旧下請法の改正法案が閣議決定され5、同年5月16日には「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(以下「取適法」といいます。)として可決・成立し6、2026年1月1日に施行されました。一方で、適切な価格転嫁をサプライチェーン全体で定着させていくためには、取適法の対象となる取引に限らず、サプライチェーン全体における取引の実態や多様な商慣行にも広く目を向け、実効的な取組みを進めていくことが不可欠と考えられたため、本件報告書において示された課題に対応し、取引環境を整備する観点から、優越的地位の濫用規制の在り方を中心に更なる検討を行うことを目的に、令和7年企業取引研究会が開催されるに至りました。
直近の2026年3月10日に開催された第4回企業取引研究会においては、サプライチェーン全体での価格転嫁・取引適正化の推進に向けた課題に関し、①サプライチェーン全体での適切な価格転嫁の環境整備、②サプライチェーン全体での支払条件の適正化及び③物流に関する商慣習の問題に対するさらなる対応が議論されています7。そして、①に対しては優越ガイドラインの改定(下記Ⅴ.)が、②に対しては製造委託等特殊指定の策定(下記Ⅳ.)が、③に対しては物流特殊指定の改正案(下記Ⅲ.)が、それぞれ解決の方向性として示されました。
Ⅲ. 物流特殊指定改正案
1. 概要
公取委は、荷主と物流事業者の取引における優越的地位の濫用を効果的に規制するため、独占禁止法2条9項6号に基づき、「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(以下「物流特殊指定」といいます。)8を指定しています。
もともと、運送委託においては、①発荷主(部品メーカーや卸売業者等)が元請運送事業者に物品の運送を委託し、②元請運送事業者が下請運送事業者に運送を再委託するケースが一般的にみられるところ、旧下請法では②の再委託のみが役務提供委託として規制対象とされ、発荷主から元請運送事業者への委託(①)については物流特殊指定によって手当てがされてきました。取適法への改正により、発荷主から元請運送事業者への委託のうち一定の要件を満たす一部の類型については、新たに「特定運送委託」として取適法の規制対象に含まれることとなりましたが(取適法2条5項)、これに当てはまらない、荷主による運送事業者への運送・保管の委託一般については、物流特殊指定が引き続き適用されることとなります。

2. 物流特殊指定改正案のポイント
(1)令和7年企業取引研究会において議論された課題
物流分野における取引は、運送委託契約の主体は発荷主と運送事業者であるものの、実際に運送時期や荷姿などの条件を提示しているのは着荷主であり、着荷主が、運送事業者に対し、発荷主と取り決めた取引条件にない契約外の荷待ち・荷役等を要請する行為が問題とされてきました。また、上記1.で述べたように、現行の物流特殊指定及び取適法上の特定運送委託のいずれについても、発荷主から元請運送事業者への委託を規制対象としているため、運送事業者と直接の委託関係にない着荷主の行為については、実効的な対処が困難な状況にありました。こうした課題を踏まえ、物流取引全体の取引適正化を図るため、着荷主による発荷主に対する特定の行為(契約外の荷待ち等を運送事業者を通じて行わせることによって、発荷主の利益を不当に害する行為)を新たに物流特殊指定の対象にすべく、現行の物流特殊指定の対象を拡大する物流特殊指定改正案が作成・公表されるに至りました。
(2)物流特殊指定改正案の内容
物流特殊指定改正案で新設された着荷主規制(物流特殊指定改正案3項)により、特定着荷主(他の事業者から業として行う販売等における継続的な取引の相手方として物品の引渡しを受けるなどする事業者であって、一定の資本金基準又は従業員数基準を満たす者、同備考3項)が物品の引渡しを受ける場合に、以下の行為を行うことにより特定発荷主(特定着荷主に対し物品を引き渡すために行う運送を他の事業者に委託する事業者であって、一定の資本金基準又は従業員数基準を満たす者、同備考4項)の利益を不当に害することは、不公正な取引方法として違法となります(同3項1号及び2号、独占禁止法19条、同法2条9項6号)。上記1.で述べたように、実際に問題となっているのは(下記括弧書内のような)着荷主による運送事業者に対する荷待ち・荷役等の要請行為ですが(下図青色矢印)、運送事業者の負担は取適法や物流特殊指定を介して発荷主の負担となることから、規制対象行為は着荷主による発荷主に対する特定の行為とされています。
- 自己のために運送の役務以外の役務その他の経済上の利益の提供をさせること(特定発荷主が運送を受託する事業者に当該提供の行為をさせる場合に限る)
- 運送の内容の変更をさせ、又はその運送を行った後に運送のやり直しをさせること(特定発荷主が運送を受託する事業者に当該変更又はやり直しの行為をさせる場合に限る)

(第4回企業取引研究会資料29 14頁)
また、物流特殊指定改正案では、上記の着荷主規制のほか、特定荷主(物品の運送又は保管を委託する事業者であって、一定の資本金基準又は従業員数基準を満たす者)から特定物流事業者(特定荷主から継続的に物品の運送又は保管を受託する事業者であって、一定の資本金基準又は従業員数基準を満たす者)に対する以下の行為についても新たに不公正な取引方法として指定されています。これらの規定は、取適法5条1項2号及び同条2項4号において委託事業者の遵守事項として定められた事項と同様ですが、取適法の対象外の運送・保管委託においても遵守する必要があります。
- 代金の手形支払(物流特殊指定改正案1項1号)
- 特定物流事業者から代金額に関する協議を求められたにもかかわらず当該協議に応じないこと、又は当該協議において必要な説明・情報の提供を行わず、一方的に代金額を決定することにより特定物流事業者の利益を不当に害すること(同項7号)
Ⅳ. 製造委託等特殊指定案及び同運用基準案
1. 令和7年企業取引研究会において議論された課題
本件報告書では、下請代金等の支払条件に関する論点における解決の方向性として、旧下請法が適用されない取引においても手形の廃止や支払サイトを短くしていく対策が必要とされました。令和7年企業取引研究会においても、製造委託等の取引の中で、支払条件の決定においては、発注者が優位に立つ傾向があり、その場合に支払サイトが長期化する傾向にあること、特に、取適法対象取引を含め複数の取引段階が連なるサプライチェーンでは、支払期日が遅く設定される傾向にあり、手当の必要性が高いことが議論されています。

(第4回企業取引研究会資料2 7頁)
2. 製造委託等特殊指定案及び同運用基準案のポイント
上記の課題に対応するため、令和7年企業取引研究会では、「製造委託等」の取引を対象に、支払期日に係る具体的な基準を定める独占禁止法上の告示(特殊指定)を新たに策定するという解決の方向性が示され、これに基づいて、製造委託等特殊指定案及び製造委託等特殊指定運用基準案が作成されました。
製造委託等特殊指定案では、取適法2条6項の「製造委託等」をした委託事業者が、受託事業者に対し、給付受領日から起算して60日の期間経過後なお代金を支払わないことを禁止しています。こうした支払遅延の禁止は取適法3条及び5条1項2号でも規制されていますが、製造委託等特殊指定案では規模基準(資本金基準や従業員基準)が設けられておらず、取適法の適用対象外の取引についても規制される点で実務への影響が大きいものといえます。なお、製造委託等特殊指定運用基準案は、製造委託等特殊指定案の適用対象となる発注者及び受注者の範囲を明らかにするとともに、禁止行為の内容を、問題となる行為事例とともに明らかにしています。
Ⅴ. 優越ガイドライン改定案
1. 令和7年企業取引研究会において議論された課題
本件報告書では、適切な価格転嫁の環境整備に関する論点における解決の方向性として、旧下請法上規制される買いたたきとは別途、実効的な価格交渉が確保されるような取引環境を整備する観点から、例えば、給付に関する費用の変動等が生じた場合において、下請事業者からの価格協議の申出に応じなかったり、親事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に下請代金を決定して、下請事業者の利益を不当に害する行為を規制する必要があるとされました。このような問題意識は、取適法への改正において、協議を経ない一方的な価格決定(取適法5条2項4号)という新たな規制を導入するという形で反映されました。しかし、令和7年企業取引研究会では、取適法の対象外取引においても実効的な価格協議を行えないことが一因となって価格転嫁が十分に進んでいない現状があり、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁に向けた環境整備のため、価格協議に関して優越的地位の濫用に係る考え方を整理し、実効的な取組みをより一層推進することが必要とされました。
また、令和7年企業取引研究会における議論とは別に、2025年5月に公表されたフードサプライチェーンにおける商慣行に関する実態調査報告書10において、フードサプライチェーンにおける従来の商慣行について、①3分の1ルール、②短いリードタイム、③日付逆転品の納品禁止、④日付混合品の納品禁止、⑤欠品ペナルティという5つの商慣行が、取引の適正化及び食品ロスの削減との関係で課題があるものとして指摘されました11。
2. 優越ガイドライン改定案のポイント
上記の課題にそれぞれ対応すべく、優越ガイドライン第4記載の「想定例」の記載内容を拡充する形で、優越ガイドライン改定案が公表されました。
まず、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁に向けた環境整備としては、優越ガイドライン改定案第4の3(5)ア「取引の対価の一方的決定」の想定例として、以下の行為が追加されました。
- 量産期間が終了し、補給品として僅かに発注されるだけで発注数量が減少し、製造に要する費用が大幅に上昇していることを理由に、取引の相手方が量産時の大量発注を前提とした従前の単価の引上げに係る協議を求めたにもかかわらず、これを拒否し、又は無視して、従前の単価と同一の単価を一方的に定めること(想定例⑪)。
- 取引の相手方に対し、通常の価格より著しく低い又は著しく高い対価での取引を要請し、要請に応じない場合には取引を減らしたり打ち切ったりすることを示唆することにより、取引の相手方と協議することなく、一方的に通常の価格より著しく低い又は著しく高い対価の額を定めること(想定例⑫)。
- 労務費、原材料費、エネルギーコスト等が上昇し、取引の相手方のコストが大幅に増加したため、取引の相手方が当該コストの増加に関する資料に基づき単価の引上げに関する協議を求めたにもかかわらず、理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、従前の単価と同一の単価を一方的に定めること(想定例⑬)。
- 取引の相手方が発注される前にあらかじめ発注数量を予測して生産しなければ納品期日に間に合わないような短納期発注(例えば、当日発注・当日納品)に応じることを前提とした発注を行い、取引の相手方である納入業者の生産コスト等が大幅に増加したにもかかわらず、通常の納期で発注した場合と同一の単価を一方的に定めること(想定例⑭)。
また、フードサプライチェーンにおける従来の商慣行に基づく行為に関して、優越ガイドライン改定案第4の3(1)ア「受領拒否」の想定例として、以下の行為が追加されました。
- 天災や道路事情等、納入業者に責任のない事情により納期に間に合わない場合であるにもかかわらず、飲食料品の製造年月日から賞味期限までの期間のうち、製造年月日から最初の3分の1に当たる日までに商品を納品しなければならないという商慣行(いわゆる3分の1ルール)や、既に納品した商品の賞味期限等より1日でも前の賞味期限等の商品を納品することは認められないという商慣行(いわゆる日付逆転品の納品禁止)を理由に、納入業者と協議することなく、商品の受領を拒否すること(想定例⑧)。
- あらかじめ納入業者と合意していた発注ロットを守らずに発注し、これに一方的に応じさせ、製造日付順の納品管理を困難にさせておきながら、一方的に、賞味期限等の異なる商品を混合した商品は納品することは認められないという商慣行(いわゆる日付混合品の納入禁止)を理由に、商品の受領を拒否すること(想定例⑨)。
Ⅵ. まとめ
本改正案等は、いずれも本件報告書で示された課題及び令和7年企業取引研究会の議論を踏まえてサプライチェーン全体での価格転嫁や取引適正化の推進を目指すものであり、物流特殊指定改正案、製造委託等特殊指定案及び同運用基準案については、取適法の対象外取引についても取適法と同様の取引適正化を図る規律を適用しようとするものです。特に、製造委託等特殊指定案(及び同運用基準案)については、取適法上の規模基準(資本金基準や従業員基準)が設けられておらず、「製造委託等」を行う事業者に対して広く60日ルールを課すものであることから、同法の適用を受けない委託事業者として60日よりも長い支払サイトを設定していた事業者においてもこれを遵守する必要があると考えられ、資金繰り等に大きな影響を及ぼす可能性があります。
公取委及び中企庁においては、これまでも運用基準の改正や指針の策定、大規模な調査の実施を含む、適切な価格転嫁の促進等に向けた積極的な取組みを継続して行ってきており、本改正案等も、この流れに位置付けられるものといえます。そのため、取適法上の適用を受ける委託事業者に限られず、各事業者においては、本件パブリックコメントの結果を注視しつつ、専門家の助言を得ながら、自社ビジネスへの影響の評価と本改正案等を遵守するための対応を進めていく必要があるといえます。
- https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/mar/260312_pubcomme_kotyokai.html
- https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/feb/250221_kigyotorihiki_1.pdf
- https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/partnership_package_set.pdf
- 詳細は、Antitrust/Competition Newsletter 2025年3月号(Vol.21)もご覧ください。
- https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/mar/250311_kakugikettei.html
- https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/may/250516_toritekiseiritsu.html
- https://www.jftc.go.jp/file/kigyotorihiki_r7_gijiyoshi4.pdf
- https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/tokuteiunsou.html
- https://www.jftc.go.jp/file/01_siryo2_r7_4.pdf
- https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/may/250512_foodsupplychain_houkokusyo.pdf
- 詳細は、Antitrust/Competition Newsletter 2025年6月号(Vol.24)もご覧ください。