Ⅰ. はじめに
2025年12月26日に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」に関する改正法案が、2026年3月31日に成立し、同日公布されました。当該改正には、ファンドについてのPE(恒久的施設)課税特例に関する改正(以下「本改正」といいます。)も含まれています1。
本ニュースレターにおいては、組合型ファンド2の外国組合員に適用される日本の税制の概要を確認した上で、本改正の概要と実務上のポイントを取り上げます。
Ⅱ. 外国組合員に適用される税制の概要
1. PE(恒久的施設)帰属所得に対する課税
(1)前提:国内ファンドにおける外国組合員のPE(恒久的施設)の有無
外国組合員(非居住者個人や外国法人)が日本国内にPE(Permanent Establishment:恒久的施設)を有していると扱われる場合、ファンド事業から生じた利益に対する所得税の源泉徴収や、所得税又は法人税の申告納税が必要となり得ます。そのため、投資家である外国組合員や、そこから出資を受けるファンド運営者としては、外国組合員が当該ファンド事業に関して国内にPEを有していると扱われるかどうかが重要な問題となります。
組合を通じて投資をしている外国組合員が、国内にPEを有するかどうかにつき、通達は、次のように定めています(所得税基本通達164-4)。
| 組合契約事業(法第161条第4号に規定する組合契約に基づいて恒久的施設を通じて行う事業をいう。以下、この項において同じ。)は、組合員(令第281条の2第2項(恒久的施設を通じて行う組合事業から生ずる利益)に規定する組合員をいう。)の共同事業であるから、組合員である非居住者が恒久的施設を有する非居住者に該当するかどうかについては、各組合員がそれぞれ組合契約事業を直接行っているものとして判定することに留意する。 |
この所得税基本通達164-4によると、組合契約に基づき、組合の構成員である国内の業務執行組合員がPEを通じて事業を行っている場合には、その他の組合員である外国組合員も国内にPEを有していることになり、以下で解説するとおり、組合契約事業利益につき所得税の源泉徴収が必要となります。国内ファンドに関しては、内国法人等が業務執行組合員であることが通常であると思われるところ3、業務執行組合員以外の組合員も国内にPEを有していることになり、次のとおり、国内源泉所得について、日本における申告納税義務や源泉徴収が生じます。
(2)原則:国内ファンドを通じた外国組合員に対する課税
国内で組合形式の投資ファンドが組成されている場合、通常、①投資先である対象会社から組合に配当が支払われたり、対象会社の株式を処分したりすることによる収益が組合において生じます。②その上で、組合の業務執行組合員が外国組合員に対して現金を支払う等の方法により、利益を分配することになります。
課税関係を見ると、まず、日本法上、組合は「法人」ではなく、パススルー・エンティティと扱われます(法人税基本通達14-1-1、所得税基本通達36-37共-19)。そのため、①の段階で、組合において営まれる事業(組合事業)から生ずる利益又は損失の額は、法人税及び所得税法上、各組合員に直接帰属するものとして扱われます。外国組合員が国内にPEを有しているものと扱われる場合、PE帰属所得に法人税や所得税が課され、申告納税を行う必要があります(法人税法138条1項1号・141条1号イ、所得税法161条1項1号・164条1項1号イ)。その上で、仮に対象会社が剰余金の配当を行う場合、組合が受領した配当は外国組合員に直接帰属するものとして、対象会社により所得税及び復興特別所得税4の源泉徴収がなされます(所得税法161条1項9号イ、212条1項等)5。
また、本来であれば、②の分配は、単なる国外送金であり、外国組合員の所得とならないはずですが、組合契約に基づいて国内のPEを通じて行う事業から生ずる利益で組合契約に基づいて配分を受けるものについては、いわゆる「組合契約事業利益」として、20.42%の税率で、業務執行組合員により、所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されます(所得税法161条1項4号、212条1項・5項等)。なお、この場合の源泉徴収の対象となる利益は、国内において組合契約に基づいて行う事業から生ずる収入から、当該収入に係る費用を控除したものとされています(所得税法施行令281条の2第2項)。そして、この場合の費用には、国内源泉所得につき徴収された所得税を含むものとされています(同項第2括弧書)。そのため、外国組合員が国内ファンドから分配を受ける場合で、①で配当金に係る源泉徴収がなされていれば、源泉税控除後のネットの分配に対して、さらに②として、20.42%の税率で組合分配金に係る源泉徴収がされることとなります6。
なお、外国組合員が組合事業以外の事業について国内にPEを有する場合には、税務署が組合契約事業利益を含めて当該外国組合員の所得を把握できるので、一定の要件を満たすことの証明書(源泉免除証明書)の交付を受けて支払者に提出することにより、組合契約事業利益につき所得税の源泉徴収が免除されます(所得税法180条、所得税法施行令304条)。
(3)例外:外国組合員に対するPE課税特例
外国組合員がPEを有するとされた場合に、上記(2)のような課税負担が生じると、(外国税額控除や租税条約等による二重課税排除がなされたとしても、一定の限界はあること等も踏まえると)国内のファンドに対する外国組合員の出資が妨げられ、ひいては日本に対する投資のハードルにもなり得ます。そのため、これらの課税負担に配慮して、平成21年度税制改正により、主に投資事業有限責任組合(LPS)を念頭に、一定の要件を満たす外国組合員について、投資組合契約に基づいてPEを通じて事業を行うものとされた場合に、当該PEに帰せられるものについては所得税や法人税を課さないものとする例外(すなわち、組合契約事業利益に対する所得税の源泉徴収や、外国組合員による所得税又は法人税の申告納税が不要とされる取扱い)が導入されています(租税特別措置法41条の21、67条の16。以下「PE課税特例」といいます。)。PE課税特例の要件の詳細については、本改正の内容と併せ、下記Ⅲ.において後述します。
2. ファンドが株式を譲渡する場面の課税(PEを通じたものでない場合)
(1)原則:事業譲渡類似株式に係る課税における組合単位での判定
日本国内の組合が、対象会社である内国法人の株式を譲渡する場合、上記1.(2)に記載のとおり国内の組合はパススルー・エンティティとして扱われるため、外国組合員に対して直接、譲渡から生じる損益が帰属することになります。
もっとも、日本法上、日本にPEを有しない外国組合員は、内国法人の株式を譲渡したことによる譲渡益に対して、常に日本で課税がなされるわけではありません。国内源泉所得に該当する株式の譲渡益のみが日本の課税対象となります。その上で、事業譲渡類似株式(所得税法施行令281条1項4号ロ・4項、法人税法施行令178条1項4号ロ・6項)や不動産関連法人株式(所得税法施行令281条1項5号・8項、法人税法施行令178条1項5号・9項)等の譲渡益が国内源泉所得とされ、日本にPEを有しない(ものと扱われる)外国法人や非居住者が内国法人の株式を譲渡した場合でも、これらの株式の譲渡益については日本で課税がなされ、申告義務を負います。
なお、これらの譲渡益については、租税条約により日本での課税が減免されて投資家の居住地(所在地)国のみでの課税で完結する場合や、要件が修正されている場合もあります。以下では、日本法について解説します。
その上で、プライベート・エクイティ・ファンドの文脈で問題となりやすい、事業譲渡類似の株式の譲渡に係る譲渡益課税とは、①株式を譲渡した事業年度終了の日以前3年内のいずれかの時において、内国法人の「特殊関係株主等」が、内国法人の発行済株式の総数の25%以上を所有しており、②当該法人の株式を譲渡した事業年度において当該法人の5%以上の株式を「特殊関係株主等」が譲渡した場合に、譲渡益を法人税の申告納税の対象とするものです(所得税法施行令281条6項、法人税法施行令178条6項)。この「特殊関係株主等」とは、内国法人の一の株主等、及び、当該一の株主等と同族関係者その他これに準ずる関係のある者とされており(所得税法施行令281条4項1号・2号、法人税法施行令178条4項1号・2号)、株主等が組合契約を締結している場合の組合契約の組合員が含まれます(所得税法施行令281条4項3号・5項、法人税法施行令178条4項3号・5項)。したがって、①②の要件は、組合単位で判定されます。すなわち、外国組合員が組合を通じて内国法人の株式を譲渡するときは、日本の組合員を含めた組合員全員が「特殊関係株主等」に該当し、組合が内国法人の株式の25%以上の株式を保有している場合には上記①の要件を満たします。また、組合がある投資対象法人の株式を譲渡した事業年度において、当該法人の5%以上の株式を譲渡した場合には、上記②の要件を満たすこととなります。
このように、組合員単位ではなく、組合単位で上記①②の株式の所有割合及び譲渡株式数の要件を満たす場合には、日本国内にPEがない外国組合員であっても日本国内で課税されるのが、日本法の原則になります。
(2)例外:事業譲渡類似株式に係る課税における組合員単位の判定の特例
このような、組合単位での事業譲渡類似株式の譲渡に係る課税については、海外からの投資を阻害しているという指摘があったことから、平成21年度税制改正により特例が導入されました。
すなわち、保有期間が1年未満である株式等の譲渡や一定の破綻金融機関株式の譲渡を除き、(a)上記1.のPE課税特例(要件は後述)を満たす場合か、(b)株式等を譲渡した日の属する年以前3年内で投資組合契約を締結していた期間において当該投資組合契約に係る有限責任組合員であり、当該投資組合事業に係る業務執行、その決定、又はそれらについての承認、同意その他の行為を行っていない場合((a)(b)いずれも、過去3年以内のいずれの時においても当該外国組合員及びその特殊関係者(※PE課税特例を満たす場合に除外されることとなる他の組合員を除く。)の当該株式等の保有割合が25%未満であることを要する。)には、組合員ごとに計算した株式保有割合及び譲渡株式数によって判定することとされ(租税特別措置法施行令26条の31、39条の33の2)、(1)の①(25%以上所有)や②(5%以上譲渡)の割合要件を、組合員単位で判定することになります。
この、事業譲渡類似株式の特殊関係株主等に関する特例は、国内にPEを有しない外国組合員が、上記の要件を満たした上で、所定の様式7を、(非居住者の場合)譲渡年の翌年3月15日まで又は(外国法人の場合)譲渡の日を含む事業年度に係る申告書の提出期限までに、提出することで適用されます。
Ⅲ. 本改正の概要及び実務上のポイント
1. 本改正の概要
(1)改正の背景
上記Ⅱ.1.で言及したPE課税特例の要件として、本改正以前は、特例を受けようとする外国組合員が、①有限責任組合員であること、②組合事業に係る業務執行又はその決定についての承認、同意その他の行為を行わないこと、③組合財産に対する持分割合が25%未満であること、④無限責任組合員と特殊の関係にある者でないこと、及び、⑤他にPEに帰属する国内源泉所得を有していないことが求められてきました(租税特別措置法41条の21第1項各号、67条の16)。
その上で、手続要件として、外国組合員が、組合の無限責任組合員(GP)であって国内源泉所得の配分の取扱いをする者を経由して、納税地の所管税務署長に対して特例適用申告書8を提出すること(投資組合契約の締結の日からその提出の日までの間継続して、上記の実体要件を満たすことを含みます。)が必要とされています(同法41条の21第5項、67条の16)。
もっとも、従前の要件では、外国組合員の組合財産に対する持分割合が25%未満でなければならないことや、業務執行組合員の利益相反取引に対する非業務執行組合員(LP)の承認が税法上の業務執行に該当してしまうことといった点が、海外から日本のファンドへの大規模投資を阻害する要因となっているとの指摘がありました。そのため、本改正においてPE課税特例の適用要件について、見直しが行われることとなりました。
(2)改正内容
従前の制度におけるPE課税特例の適用要件と、改正の概要は、下表のとおりです。
<図表:PE課税特例に係る改正点の概要>
| 要件 | 改正前 | 改正後 |
| ①組合員の属性 | 有限責任組合員であること | 変更なし |
| ②組合の業務執行 | 組合事業に係る業務執行、その決定、又はそれらについての承認、同意その他の行為(自己取引等に関する承認等を除く)を行わないこと
| 組合事業に係る業務執行の承認等から除外される行為の範囲に、(従来からの、自己取引等に関する承認等に加えて)利益相反取引(「当該業務執行であって、当該業務執行を行う者又は当該業務執行を行う者と特殊の関係のある者その他の当該業務執行を行う者の利害関係人と当該投資組合事業に係る投資組合…の有限責任組合員…との利益が相反する取引を行うこと」)の承認等を追加する。 |
| ③持分割合 | 組合財産に対する持分割合が25%未満であること | 投資組合の有限責任組合員等から構成される一定の合議体(「投資組合の無限責任組合員…が行う当該投資組合に係る投資組合事業に係る業務執行の一部について…有限責任組合員等…が助言をし、意見を述べ、又は承認(当該有限責任組合員等の過半数をもって行われるものに限る。)をすることができる有限責任組合員等から構成される合議体」)を設置している場合、組合財産に対する持分割合の上限を50%未満に引き上げる。 |
| ④GPとの関係 | 無限責任組合員と特殊の関係にある者でないこと | 変更なし |
| ⑤PE帰属所得 | 当該組合以外に他にPEに帰属する国内源泉所得を有していないこと | 本要件を廃止。 |
| ⑥特例適用申告書 | 一定の特例適用申告書等(変更申告書、更新申告書を含む。)を提出する必要 | ①から⑤の改正に伴い、特例適用申告書等の記載事項の見直しを行う(簡素化)。 |
2. 実務上のポイント
(1)組合の業務執行要件の緩和
(i)本改正による利益相反取引に対するLPやアドバイザリーボードによるガバナンスの向上
上記1.(2)の図表②の業務執行要件については、法令の条文上は、LPである外国組合員が組合事業に係る業務執行、その決定、又はそれらについての承認、同意その他の行為(承認等)を行わないこと(のみ)が求められています(租税特別措置法施行令26条の30第1項3号)。もっとも、実務上は、LPやその指名した者を構成員とし、GPの業務執行に対して助言や承認等を行う契約上の機関(「アドバイザリーボード」9)が設けられ、LPの多数決ではなくアドバイザリーボードによる助言や承認等が行われることも多いところ、LPが行った場合に税務上の業務執行に該当してしまう(すなわち、PE課税特例を満たさなくなってしまう)行為に係る権限をアドバイザリーボードが行使した場合でも、当該アドバイザリーボードの構成員であるLPや構成員を指名したLPによる業務執行として、PE課税特例を満たさなくなってしまうものと考えられます(経済産業省が公表しているQ&A10(以下「本Q&A」といいます。)も参照)。
このようなアドバイザリーボードの権限の中には、GPによる(金融商品取引法上のLP承認を要する自己取引や運用財産相互間取引には形式的には該当しない行為を含めた)利益相反取引に該当する取引について、承認、同意その他の行為(承認等)を行うことが含まれることも多いところ、このような権限を有するアドバイザリーボードが設置されている組合に対して外国組合員が出資をし、アドバイザリーボードのメンバーとして指名・議決権を行使させた場合には、税務上の業務執行に該当し、PE課税特例を満たさなくなってしまうおそれがありました。ガバナンスを重視する海外の機関投資家等からすると、このような帰結となる国内ファンドへの出資は難しいところであったと思われます。
本改正により、(これまで税務上も適用除外とされてきた、金商法上LP承認を要する自己取引や運用財産相互間取引への承認等に加えた、広い意味での)利益相反取引の承認等が税務上の業務執行に該当しないこととされました(租税特別措置法施行令26条の30第1項3号ハ)。広く利益相反取引に対してLPの多数決やLPを構成員とするアドバイザリーボードによる承認等を要することと規定する場合でもPE課税特例の要件を満たせることとなったことで、外国組合員が投資の健全性や透明性を確保するためにガバナンスに関与する際の制約が軽減されることとなります。
なお、本改正で業務執行から新たに除外されることとなった利益相反取引は「当該業務執行であって、当該業務執行を行う者又は当該業務執行を行う者と特殊の関係のある者その他の当該業務執行を行う者の利害関係人と当該投資組合事業に係る投資組合…の有限責任組合員…との利益が相反する取引を行うこと」とされており、文言上これ以上の限定がないことから、組合契約において利益相反取引として実務上想定される行為は、これに含まれることが多いものと考えられます。
(ii)本改正後も残る課題:アドバイザリーボード等によるガバナンスの実務と特例の限界
他方で、本Q&A(まだ本改正の内容を反映はなされていないもの)において、例えば投資ガイドライン等でGPに課せられた一定の投資制限を超える投資に対する承認等11は、業務執行等についての承認に該当すると考えられる旨示されています。このような、投資ガイドライン等で一定の投資制限を定めつつ、一定以上の割合のLPやアドバイザリーボードの承認があれば制限外の投資を認めるような規定は、国内海外問わず一般的な規定であると思われます。本改正によっても、このような場面に関する取扱いには変更はないものと考えられるところ、外国組合員が、このような権限が定められたアドバイザリーボード(又はLP承認)において権限を行使する場合は、引き続きPE課税特例の適用を受けられなくなるものと考えられることに注意が必要です。この点については、実務も踏まえ、PE課税特例の要件がさらに緩和されることを含めて検討されることが期待されます。
(2)アドバイザリーボードの設置による外国組合員の持分割合の上限規制の緩和
本改正では、上記1.(2)の図表③のとおり、アドバイザリーボードが設けられている場合には、PE課税特例の適用を受けられる外国組合員による組合財産に対する持分割合の上限を、50%未満に引き上げることとされています(租税特別措置法41条の21第1項3号)。
外国組合員の持分割合の上限を引き上げるために設置されることが求められるアドバイザリーボードは、法令上、投資組合の無限責任組合員が行う組合事業に係る業務執行の一部について、有限責任組合員若しくは無限責任組合員又はこれらの者が指名する者(「有限責任組合員等」)が助言をし、意見を述べ、又は承認(当該有限責任組合員等の過半数をもって行われるものに限られます。)をすることができる有限責任組合員等から構成される合議体とされており(租税特別措置法施行令26条の30第12項)、これ以上の制約はないことから、実務上アドバイザリーボードを設置している事例であれば基本的に該当するように思われます。
上記(1)(i)のとおり、アドバイザリーボードを通じたLPガバナンスはグローバルでは一般的であるところ、このような改正により、海外投資家の呼び込みが促進されることが期待されます。ただし、上記(1)のとおり、アドバイザリーボードの権限の範囲が租税特別措置法施行令上の一定の範囲を超える場合には、外国組合員がアドバイザリーボードの構成員を指名し、権限を行使する場合にはPE課税特例の適用を受けられなくなってしまうという限界には引き続き注意が必要です。
(3)「他のPE帰属所得を有しない」という要件の廃止
本改正では、上記1.(2)の図表⑤のとおり「他にPE帰属所得を有さない」との要件が廃止されることにより、外国組合員が他に日本国内で事業活動を行っている場合や、1つでもPE課税特例を満たさない他のファンドに投資を行っていた場合に、PE課税特例を受けられなくなるといった事態が解消されることとなりました。
(4)特例適用申告書等の記載事項の緩和と限界
税制改正大綱においては、以上の改正に伴い、特例適用申告書等の記載事項の見直しを行うものとされていましたが、特例適用申告書等の記載事項の変更点は、あくまで上記の実体要件の改正を反映するものとなっています(例えば、外国組合員が有する他のPEに関する記載の削除)12。
そのため、実務上負担とされてきた、改正に関係する事項以外の特例適用申告書等の提出に関する負担については、緩和されずに残ることになります。例えば、申告者・特殊関係者の持分割合や損益分配割合といった情報等の記載や、国内ファンドへの直接の出資者が他のファンド(ファンド・オブ・ファンズ:FoF)である場合には最終の出資者まで遡る必要性、組合契約書等の添付書類(FoFによる出資である場合には当該FoFに係る組合契約書を含みます。)、記載に変更があった場合の都度の変更申告書の提出や5年ごとの更新申告書の提出義務といった負担等は、依然として残っており、実務上のさらなる負担軽減が望まれます。
(5)事業譲渡類似株式の譲渡に係る特例
上記Ⅱ.2.のとおり、ファンドに係る外国組合員に対する課税の特例としては、PE課税特例とは別途、事業譲渡類似株式の特殊関係株主等に関する特例が存在します。もっとも、当該特例は、PE課税特例の規定を参照している業務執行の範囲が緩和されたことを除き、本改正では変更されていません。
- 本改正に係る税制改正大綱の概要は「令和8年度税制改正大綱」(Tax Law Newsletter 2026年1月号(Vol.69))をご参照ください。
- 本NLでは、匿名組合を通じたペイスルー型の課税は含まず、民法上の任意組合や投資事業有限責任組合といったパススルー型の課税に限定します。
- 投資事業有限責任組合については、外国会社を無限責任組合員として組合契約を締結することもLPS法(投資事業有限責任組合契約に関する法律)上は適法であるものの、無限責任組合員の氏名又は名称及び住所はLPS契約の効力の発生の登記において登記事項とされていることを踏まえ、会社法上の外国会社(日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定め、外国会社の登記をしなければならないとされています。会社法817条1項、933条1項参照)は別として、外国法人を無限責任組合員としてかかる登記を行うことはできない、とする解釈が、経済産業省産業組織課から示されています(「LPS法の解説」)。
- 2027年1月1日以降は所得税、復興特別所得税及び防衛特別所得税となります。以下、防衛特別所得税については省略します。
- 源泉徴収された所得税は、外国組合員の申告に際して、所得税額控除の対象になります(外国法人であれば法人税法142条1項、68条1項)。
- 源泉徴収義務者及びその時期につき、所得税法では特別な規定が置かれているので、注意が必要です。すなわち、源泉徴収義務者は、非居住者に資産を配分する者(業務執行組合員=GP)であり、原則として、当該資産を交付した日において支払があったものとして、所得税を源泉徴収しなければならないとされます(所得税法212条5項)。他方、組合が資産を分配せずに留保した場合であっても、組合契約で定められている計算期間の末日の翌日から2ヶ月を経過する日までに資産の交付がされない場合には、当該経過する日に支払ったものとみなして、所得税の源泉徴収義務が発生することになります(同項括弧書)。したがって、組合契約に基づき支払をする者(業務執行組合員)は、資産を交付したとき、又は、交付せずに計算期間の末日の翌日から2ヶ月経過した日のいずれか遅い日に、源泉徴収を行わなければならないことになります。
- (非居住者の場合)https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/joto/annai/1647_12.htm
(外国法人の場合)https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1648_58.htm - https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_56.htm
- 組合契約上、「諮問委員会」等の名称が用いられることもあります。実務上は、LPAC(Limited Partner Advisory Board)と呼ばれることもあります。
- 「外国組合員に対する課税の特例、恒久的施設を有しない外国組合員の課税所得の特例における「業務執行として政令で定める行為」について」。本Q&Aでは、「LPS契約において認めるアドバイザリーボードの権限は、LPにも本来認められる権利をアドバイザリーボードに委譲しているものでありますので、当該権限に基づく行為は、先述の整理で税法上の業務執行と看做されない限り、LP自らの権利の行使と同様、税法上の業務執行に該当しないものと考えられます。」とされています。裏返しとして、本Q&Aで整理されている、LPが行った場合には税法上の業務執行に該当する行為をアドバイザリーボードが行った場合には、当該行為も税務上の業務執行に該当するものとして扱われるものと考えられます。
- 本Q&Aでは「契約等で、GPによる一部の投資を原則として制限しつつも、LPの承認等があれば当該投資を行うことができる旨の定めがある場合に、当該定めに基づいてGPの投資についてLPが承認等をすること(例えば、投資ガイドライン等で一定額以上の投資について一定のLPの承認が必要である旨定められている場合の、当該LPの承認等)」とされています。
- https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_56.htm