Ⅰ. はじめに
2026年6月12日、金融庁は、同年3月13日から4月12日までの間に実施した「銀行法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)」等に係るパブリックコメント(以下「本パブリックコメント」といいます。)の結果を公表しました1。
本改正は、「地域金融力強化プラン」2及び関係業界団体からの規制緩和要望並びに新リース会計基準の適用等を踏まえ、銀行法施行規則等について、主に以下の事項に係る改正を行うものであり、2026年6月15日(銀行等グループに属するリース会社に係る収入依存度規制の撤廃については2027年4月1日)から施行・適用されています。
Ⅱ. 投資専門会社の投資対象拡充
1. 投資専門会社の株式会社以外への資金供給の容認
銀行が子会社とすることができる会社(以下「子会社対象会社」といいます。)は限定列挙されており、一般事業会社を子会社とすることは原則として禁止されています(銀行法16条の2。銀行子会社の業務範囲規制)。また、子会社対象会社以外の会社の議決権の保有については原則として5%までに制限されています(同法16条の4。5%ルール)3。これらの規制の例外として、ベンチャービジネス会社、特別事業再生会社(事業承継会社を含む。)、地域活性化事業会社に該当する一般事業会社は、銀行が「特定子会社」を通じて議決権を保有する場合に限り、一定期間、子会社とすることや5%超の議決権保有が認められています(銀行法16条の2第1項12号~14号、16条の4第7項)。「特定子会社」とは、これらの会社にエクイティ性・非エクイティ性の資金供給を行うことを業とする会社であって、投資専門会社と呼ばれています(銀行法施行規則17条の2第14項、17条の3第2項12号)。これまで、投資専門会社による投資対象は株式会社又は株式会社への投融資を目的とするファンド(以下「株式会社等」といいます。)に限られており、株式会社等以外のエンティティに対して資金供給を行うことは、基本的に認められていませんでした。
本改正では、「地域金融力強化プラン」において、「投資専門会社による投資先の裾野を広げる観点から、投資専門会社の株式会社以外への資金供給を可能とする」とされたことを踏まえ、投資専門会社が、合同会社の持分を取得することや、国内の会社その他の団体4が発行する信託受益権を取得すること、当該団体に対する投融資を目的とする国内外のファンド出資持分(匿名組合出資持分及び有限責任事業組合出資持分を含む。)を取得することが可能となります(本改正施行後の銀行法施行規則(以下「改正施行規則」といいます。)17条の2第14項1号、17条の3第2項12号。下線部が改正点になります。)。
| 改正前 | 改正後 |
|---|---|
次に掲げる行為により他の株式会社に対しその事業に必要な資金を供給する業務 ホ イからニまでに掲げるいずれかの行為を行うことを目的とする民法第六百六十七条第一項に規定する組合契約又は投資事業有限責任組合契約に関する法律第三条第一項に規定する投資事業有限責任組合契約を締結すること。 | 次に掲げる行為により他の国内の会社その他の団体に対しその事業に必要な資金を供給する業務 イ 当該団体に対し資金の貸付けを行うこと。 ロ 当該団体の発行する社債(法第十条第三項第一号に掲げる短期社債を除く。)を取得すること。 ハ 当該団体の発行する新株予約権を取得すること。 ニ 株式等5に係る配当を受け取ること又は株式等に係る売却益を得ることを目的として当該団体の発行する株式等を取得すること。 ホ 当該団体の発行する信託の受益権を取得すること。 へ イからホまでに掲げるいずれかの行為を行うことを目的とする民法第六百六十七条第一項に規定する組合契約、商法第五百三十五条に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律第三条第一項に規定する投資事業有限責任組合契約若しくは有限責任事業組合契約に関する法律第三条第一項に規定する有限責任事業組合契約又は外国におけるこれらの契約に類する契約を締結すること。 |
2. ベンチャービジネス会社へのクロスオーバー投資の容認
投資専門会社は、原則15年間、ベンチャービジネス会社について、子会社とすること又は5%超議決権を保有することが認められています(銀行法16条の2第1項12号、銀行法施行規則17条の2第5項)。これまで、「ベンチャービジネス会社」とは、大要、①新事業活動を行う非上場の中小企業であって、設立日又は新事業活動開始日から20年以内のもの、及び②銀行又は銀行子会社が議決権を最後に取得6した時点において①に該当していたものをいうとされており、投資専門会社が上場後のベンチャービジネス会社に追加出資を行うこと(クロスオーバー投資)を行うことは、認められていませんでした。
この点、「地域金融力強化プラン」では、スタートアップ・ベンチャー企業は、一般的に時価総額が小さいため機関投資家の投資対象になりにくく、上場後の資金調達が困難な場合があることを踏まえ、これに対応しつつ流通市場に厚みをもたせるため、投資専門会社によるベンチャービジネス会社へのクロスオーバー投資として、保有期限内であれば、非上場会社が上場した後も追加出資を可能とする、との方向性が示されていました。
本改正では、新たに、③投資専門会社による出資時に①に該当していた会社であって、当該出資後7年7を経過した後に上場した会社(中小企業者に該当しなくなった会社を含みます。)が「ベンチャービジネス会社」に追加されました。これにより、③に該当する会社について、上場後に投資専門会社が追加投資を行うことが可能となります(改正施行規則17条の2第9項2号)8。
3. 事業承継会社向け資金供給対象の拡大
投資専門会社は、原則10年間、事業承継会社について、子会社とすること又は5%超議決権を保有することが認められています(銀行法施行規則17条の2第6項10号)。これまで、「事業承継会社」とは、非上場企業であって、「代表者の死亡、高齢化その他の事由に起因して、その事業9の承継のために支援の必要が生じた会社であつて、当該事業の承継に係る計画に基づく支援を受けている会社」とされ、上場企業は事業承継会社とは認められませんでした。
本改正では、「地域金融力強化プラン」において「事業承継に直面する上場企業のニーズも存在するため、事業承継会社については上場企業であっても、投資専門会社による資金供給を可能とする」とされたことを踏まえ、事業承継会社の範囲について、上場企業を含む形に改正されています。これにより、投資専門会社が、事業承継ニーズのある上場企業に対して、事業承継に必要な資金を供給することが可能となります(改正施行規則17条の2第6項柱書・10号)。
Ⅲ. 投資専門会社の業務範囲拡充
投資専門会社は、その業務範囲が、一定の投融資業務や、主として投融資先に対して行うビジネスマッチング業務・コンサルティング業務等に限られていました10。
本改正では、「地域金融力強化プラン」において、「投資専門会社による投資先へのコンサルティングやビジネスモデルに合ったオーナー探索を強化する観点から、投資専門会社の業務範囲にM&A仲介業務を追加する」とされたことを踏まえ、投資専門会社の業務範囲にM&A仲介業務が追加されました。
従来より銀行子会社がM&A仲介業務を営むことは可能とされていますが、投資専門会社においてもM&A仲介業務を営むことが認められたことにより、投資先に対するコンサルティングの延長として、投資先に対してM&A仲介サービスを提供することが可能となります(改正施行規則17条の2第14項3号)。
Ⅳ. 銀行等グループに属するリース会社に係る収入依存度規制の撤廃
銀行又は銀行持株会社(以下「銀行等」といいます。)はリース会社を子会社とすることができますが、銀行等の子会社が営むことのできるリース業務は、「主として」ファイナンス・リースに限られています。具体的には、大要、各事業年度において、リース業務及びリース物件売買等業務11(中古物件の売買・メンテナンス)の収入額の合計に占めるファイナンス・リース業務の収入額の割合が50%以上である必要があります(リース会社に係る収入依存度規制)12 13。
本改正では、リース会社に係る収入依存度規制は撤廃されています(改正施行規則17条の3第2項11号)。これにより、主としてオペレーティング・リースを営む会社についても、銀行等が子会社として保有することが可能となります。もっとも、本改正後も、ファイナンス・リースを全く営まない会社を銀行等が子会社として保有することは認められません(改正施行規則17条の3第2項11号かっこ書)14。また、銀行等のリース子会社が営む不動産を対象としたリースについては、教育・文化施設、社会福祉施設等の公的な施設の整備・運営に係るものを除き、融資と同様の形態(いわゆるファイナンス・リース)に引き続き限られる点については、引き続き留意が必要です(主要行等向けの総合的な監督指針Ⅴ-3-3-1(2)②、中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針Ⅲ-4-7-1(2)②)。
Ⅴ. ローントレーディングの特定取引取扱いの明確化
トレーディング目的の取引(売買益獲得や価格変動リスク管理を前提とする短期売買・市場取引)を一定規模以上行う銀行は、銀行勘定とは別に「特定取引勘定」を設け、特定取引勘定においてトレーディング目的の取引を管理することが求められます。特定取引勘定での管理が求められる取引は、銀行法施行規則上、「特定取引」と呼ばれますが、これまで、特定取引には貸付債権の取得又は譲渡が含まれていませんでした。
しかし、マーケットメイク・トレーディング収益目的で行われるローンのセカンダリートレーディング取引は、性質上、特定取引勘定での管理に馴染むものと考えられ、関係業界団体から、貸付債権の取得又は譲渡を特定取引に追加するよう要望が出されていました15。
本改正では、貸付債権の取得又は譲渡が特定取引に追加されており、これにより、マーケットメイク・トレーディング収益目的で行われるローンのセカンダリートレーディング取引、すなわち、市場で取引されており、短期的な価格の変動又は市場間の価格差を利用して利益を得る目的16で売買する貸付債権17は、特定取引勘定で管理されることが明確化されました(改正施行規則13条の6の3第2項4号)18。
Ⅵ. 地域活性化事業会社の要件明確化及び手続きの簡略化
投資専門会社は、原則10年間、地域活性化事業会社について、子会社とすること又は5%超議決権を保有することが認められています(銀行法16条の2第1項14号及び16条の4第8項、銀行法施行規則17条の2第8項及び17条の7の3)。「地域活性化事業会社」には、「事業の再生又は地域の特性を生かした新たな事業の創出その他の地域経済の活性化に資する事業活動を行うことを目的とした会社」であつて、官庁や弁護士、銀行グループ外のコンサルティング会社等が関与して策定した事業計画を実施している会社が含まれます。
地域活性化事業会社の該当性については、これまで、監督指針上、「銀行からの事業内容の可否に係る事前相談においては、施行規則17条の7の3第1項2号に規定している『地域経済の活性化に資する事業活動を行うことを目的とした会社』に、単に合致しているかにより判断して差し支えない」とされていましたが、「地域金融力強化プラン」において、「地域活性化事業会社の更なる活用を促す観点から、地域活性化事業会社の要件を明確化し、手続を簡略化する」とされたことを踏まえ、監督指針の該当箇所が以下のとおり改正されました(下線部が改正点になります。)。これにより、「地域経済の活性化に資する事業活動を行うことを目的とした会社」に「地域産業の面的な高度化又は活性化に資するもの等」が幅広く含まれることが明確化されました(本改正施行後の主要行等向けの総合的な監督指針Ⅴ-3-3(注4)、中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針Ⅲ-4-7(注7))。
| 改正前 | 改正後 |
|---|---|
| 地域活性化事業会社(法16条の2第1項14号及び法16条の4第8項)について、銀行からの事業内容の可否に係る事前相談においては19、施行規則第17条の7の3第1項2号に規定している「地域経済の活性化に資する事業活動を行うことを目的とした会社」に、単に合致しているかにより判断して差し支えない。 | 域活性化事業会社(法16条の2第1項14号及び法16条の4第8項)について、施行規則第17条の2第8項2号及び17条の7の3第1項2号に規定する「事業の再生又は地域の特性を生かした新たな事業の創出その他の地域経済の活性化に資する事業活動を行うことを目的とした会社」に該当するかの判断にあたっては、「地域経済の活性化に資する事業活動を行うことを目的とした会社」に単に合致しているかにより判断20して差し支えないが、「事業の再生又は地域の特性を生かした新たな事業の創出」以外にも、例えば地域産業の面的な高度化又は活性化に資するもの等21幅広く対象となりうることに留意する。 |
Ⅶ. さいごに
本改正のうち、投資専門会社に関する見直しは、投資専門会社を通じた地域金融機関等による地域企業への資本性資金供給の手法を拡げ、その取組みを一層後押しするものと考えられます。また、リース会社に係る収入依存度規制の撤廃は、銀行グループによるリース事業への関与の在り方に変化をもたらし得るものと考えられます。このほか、ローントレーディングの特定取引取扱いの明確化なども含め、本改正は、銀行グループの業務運営に実務上少なからぬ影響を及ぼし得ることから、今後の制度運用及び実務の展開が注目されます。
- https://www.fsa.go.jp/news/r7/ginkou/20260612/20260612.html
- https://www.fsa.go.jp/news/r7/20251219/20251219.html
- 銀行持株会社又はその子会社については、15%が閾値となります(15%ルール)。
- 「国内の会社その他の団体」は国内のものに限られ、外国のものを含みません(本パブリックコメント回答No.12及びNo.20)。
- 「株式等」とは、株式又は持分をいいます(銀行法2条7項、銀行法施行規則1条)。
- 担保権の実行による株式等の取得など、一定の事由による取得を除きます。
- 「7年」とされた理由は、特許庁の報告書(スタートアップが直面する知的財産の課題に関する調査研究報告書)において、設立から上場までの経過期間について、87ヵ月(中央値)との数字が公表されていることによるものです(本パブリックコメント回答No.11)。
- 非上場の地域活性化事業会社についても、同様の改正が行われています(改正施行規則17条の2第11項)。
- 「その事業」とは、「代表者が営む事業」を指します(本パブリックコメント回答No.9)。
- 投資専門会社とは、銀行法施行規則17条の2第14項各号に掲げる業務及びこれらに附帯する業務を「専ら」営む会社と定義されているところ、ここで「専ら」とは、これらの業務以外の業務を一切営まない趣旨とされています(2008年12月2日付パブリックコメント回答67頁・No.19)。
- 当該リース会社及びその子会社であるリース物件売買等業務を営む会社(リース業務を営むものを除く。)のリース物件売買等業務
- リース業務を営む会社がリース業務を営む他の会社を子会社としている場合における、リース会社集団(リース業務を営む会社及びその子会社であるリース業務を営む会社をいいます。)に属するそれぞれの会社に係る「主として」ファイナンス・リース業務が行われる場合の基準については、本改正前の平成10年11月24日金融監督庁・大蔵省告示9号2条2項(本改正により削除)参照。
- 本改正前の平成10年11月24日金融監督庁・大蔵省告示9号2条1項(本改正により削除)
- ただし、金額の多寡は問われず、場合によってはノミナルな額であってもよいとされます(本パブリックコメント回答No.13)。
- https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/hotline/h_index.html (資料2・令和7年度回答・227番)
- 短期的な価格の変動又は市場間の価格差を利用して利益を得る目的で保有するものかどうかは、取得時点で判断することが想定されます。また、かかる保有目的については、事前に文書化されていることは要件ではありませんが、金融商品会計に関する実務指針(移管指針9号)65項において、「一般に、企業が保有する有価証券を売買目的有価証券として分類するためには、有価証券の売買を業としていることが定款の上から明らかであり、かつ、トレーディング業務を日常的に遂行し得る人材から構成された独立の専門部署(関係会社や信託を含む。)によって売買目的有価証券が保管・運用されていることが望ましい。」とされていることを踏まえる必要があります。さらに、かかる保有目的に事後的な見直しについては、同指針59項において、「保有目的区分の定義及び要件を満たしているかどうかについては、取得時に判断するだけでなく、取得後も継続してその要件を満たしていることを検討することが必要である。」とされていることを踏まえる必要があります(本パブリックコメント回答No.5)。
- 対象債権は、市場流動性が高く市場価格の観測が可能であるもの、時価の価格検証プロセスが確立されているものが前提となります(本パブリックコメント回答No.6)。
- ローントレーディングの特定取引取扱いの明確化に係る改正は、施行日後に取得・保有している貸付債権に適用されます(本パブリックコメント回答No.3)。
- 「銀行からの事業内容の可否に係る事前相談においては、」との文言が削除された趣旨は、投資専門会社から地域活性化事業会社への出資等にあたって、金融庁・財務局への事前相談が必ずしも必要ではないことを明確化する趣旨とされています(本パブリックコメント回答No.23)。
- 「地域経済の活性化に資する事業活動を行うことを目的とした会社」に合致しているかの判断は、銀行において客観的な根拠に照らして適切に行い、判断に迷う場合のみ事前相談を行うことが想定されます(本パブリックコメント回答No.25)。
- 「地域産業の面的な高度化又は活性化に資するもの等」には、例えば、地域経済の活性化に資する事業活動を行っている、又はそれを目的としている①再生可能エネルギー等の脱炭素技術に取組むGX関連会社や、②電力・ガス・石油等のエネルギー関連会社がこれにあたると考えられます(本パブリックコメント回答No.24及び25)。