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1. 「企業破産法(改正意見募集稿)」
Ⅰ. 重要法令等の解説
1. 「企業破産法(改正意見募集稿)」
「企业破产法(修订草案)征求意见」
全人代常務委員会 2025年9月12日公表、意見募集期限2025年10月11日
| 中国の企業破産法について、2006年に制定されて以来、初めての改正意見募集稿が公表された。これまで破産、更生手続きに関する規定に不明確な点があること、債権者による破産、更生手続きに関する規定が十分に整備されていないこと等の問題点が指摘されており、実務上、破産件数、更生件数は低い水準を推移している。本意見募集稿では、破産申請後の財産保全手続きの明確化、管財人の権限拡大、債権者会議の権限拡大、債権者の情報アクセス権の確保、更生手続きにおける事前協議制度の確立、合併破産制度の新設等、破産、更生手続きの効率性及び実行性を高めることを目的とした全面的な改正が目指されている。これらの内容が法制化された場合、破産、更生実務に対して大きな影響があるため、今後の審議状況に注目する必要がある。 |
現行の企業破産法(以下「現行法」という。)は、2006年8月に制定され、2007年6月に施行された。近年企業破産案件、更生案件は増加傾向にあるものの、企業破産、更生手続きの開始が困難であり、手続きに要する期間が長く、具体的な手続きに不明確な点がある等の問題から、破産手続きは十分に利用されてこなかった1。また、民法典、会社法等の規定との整合性の観点、及び司法解釈や実務上のルールを法律レベルに規範化する観点においても、企業破産法を改正する必要があった。
全人代常務委員会は、2025年9月12日に企業破産法改正意見募集稿(以下「本意見募集稿」という。)2を公表した。条文数は、現行法の12章136条から16章216条に増加し、実質的な改正・追加は160条に及ぶ。本意見募集稿の要点は、以下の通りである。
(1) 破産申請後の財産保全等に関する手続きの明確化
現行法の下では、破産申請の提出から破産申請の受理までの期間における、債務者の財産に対する執行中止又は保全措置の可否について、明確な規定が存在していない。本意見募集稿では、申請人による破産申請後、人民法院が受理の裁定を下すまでの間、債務者の財産が減損し又は悪意により移転する等の緊急の状況がある場合、債権者又は債務者は、債務者の財産に対して執行中止又は保全措置を講じるよう人民法院に申請することができ、人民法院でかかる申請を承認するか否かについて裁定を行う(11条)と規定した。一方、破産申請の受理後、管財人は、破産受理裁定書及び管財人指定決定書に基づき、保全措置の解除及び執行中止3を申請でき、その場合、関係機関は、債務者の財産又はその処分権限を管財人に移管しなければならない4(24条)。
(2) 管財人制度の改善
本意見募集稿では、管財人は、債務者の破産事務を管理する主体として、独立に職務を果たすことができると規定し、管財人の法的地位を明確にした(29条1項)。また、管財人の選定メカニズムを追加し、人民法院が管財人を指定するが、債権者会議が職務執行上適切ではないと判断した場合、管財人の変更を人民法院に申請できるほか、新たな管財人を推薦することができるとし、人民法院は、債権者会議が推薦した管財人候補について本意見募集稿に定める管財人として不適切な事由に当たらない限り、当該管財人を指定しなければならないとした(30条2項)5。また、管財人の質と専門性を一定程度確保するため、人民法院は管財人候補者を名簿管理し、定期的に更新することとされた(30条5項)。
なお、本意見募集稿では、管財人の職務範囲を拡大している。現行法で規定されている職務内容に加え、債権者の破産手続き参加の基礎となる財産情報及び管理情報の開示、債務者に代わり納税申告等の義務の履行、債権者会議への列席、債権者会議への職務履行状況の報告、質疑応答等が追加された(33条1項)。
(3) 取消し可能な債務者の行為の範囲の拡大及び相殺できない債務の新設
管財人は、人民法院による破産申請の受理から1年以内の債務者財産に関する一定の行為について、人民法院に対して取消しを申請することができる。本意見募集稿では、現行法に定める債権放棄、財産の無償譲渡や明らかに不当な価格での取引のほか、債権担保の放棄、期限が到来した債権の履行期限の延長、財産権の無償処分行為が新たに規定された(42条)。また、他人の債務に対して担保を提供し、又は他人の債務を負担する行為等についても取消しが可能とされた(43条)。また、受益者と債務者の間に関連関係が存在する場合、破産申請受理前2年以内の行為が取消し可能であるとした。
また、破産申請受理前6か月以内における個別の債権者への弁済について、管財人は、原則として当該弁済を取り消すことができるが、例外的に「その他の債権者の利益を害しない」場合には取消しを請求できない。本意見募集稿では、正常な生産経営活動を維持するための弁済行為や、従業員への給与・経済補償金・賠償金等の支払い、社会保険料・税金の納付等、例外に該当する行為類型を具体的に定めた(45条、46条)。
なお、本意見募集稿では、①出資者が出資未払い又は出資額の不正回収6により債務者に対して負担する債務7、及び②債務者の出資者、実質的支配者が出資者としての権限等を濫用して会社の利益を損なったことにより負うこととなった債務者に対する債務を相殺してはならないと規定した(57条)。出資者等が相殺を利用して法定責任から逃れることを防止し、債務者や他の債権者の利益が損なわれる事態を回避する目的があると考えられる。
(4) 債権者会議に関する制度の改正
債権者による破産手続きへの関与権限が不十分であると指摘されている。本意見募集稿では、債権者会議について、職権範囲の拡大(84条)8、開催手続き(85条、86条)9 、議決方式(87条)、債権者による債務者の財産と経営情報へのアクセス権限(90条)10を規定した。また、本意見募集稿では、債権者会議の執行機構である債権者委員会に関して、構成人数(91条)、債権者委員会の同意が必要な財産処分事項の内容及び管財人による事前報告義務(94条)等に修正を加えている。債権者による破産手続きへの実質的な関与や債権者間の公平性担保が目的と考えられる。
(5) 更生手続きの改正
本意見募集稿は、実務で広く利用されている更生を目的とした事前協議制度(法廷外の再編)を法律レベルで規定し、債務者、その出資者、債権者、出資候補者及びその他の利害関係者が事前協議を行い、更生契約又は初歩的な更生計画案を作成することができると規定した(100条)。更生契約に至った後又は更生計画案を作成した後において、債務者は、人民法院に対して更生手続きを申請し、更生契約の内容を直接更生計画案に組み込むよう申請し、又は初歩的な更生計画案を認可するよう申請することができる(101条)。債務者による初歩的な更生計画案の認可請求を受けた人民法院は、情報開示、初歩的な更生計画案の内容、事前協議の議決手続き等が法律に合致し、かつ債務者から提供された財務報告等の資料に基づき、当該計画案の実行可能性が証明されていると判断した場合、認可の裁定を下さなければならない(102条)11。事前協議に対する人民法院の関与を弱め、また、迅速性、効率性を重視しつつ、事後審査によるデュー・プロセスを確保している。
そのほか、更生期間中の情報開示の義務者と開示内容(103条)、出資候補者の公募等(113条)、債権者による更生計画案の議決方法(116条~121条)、人民法院による更生計画の認可基準(123条)等についても追加された。
(6) 特殊類型の企業の破産、更生手続き
小型微細企業は、財務状況が明らかで、債権債務関係が単純で、債権者の人数も少ないことから、その破産、更生手続きについては、通常の破産、更生手続きより簡易な手続きが適用される。本意見募集稿11章では、小型微細企業の破産案件の審理、管財人の選定、債権者会議の手続き、審理期限、更生手続き等について、特別な規定を定めている。
金融機関の破産手続きに関する特別な手続きも定められている(13章)。
(7) 合併破産手続きの新設12
関連企業の法人格が濫用され、債権者の公平な弁済が著しく害される場合、又は詐欺目的で関連企業が設立された場合等において、実質的合併破産が適用される(184条)。人民法院が申請に基づき実質的合併破産と認めた場合、合併により各関連企業間の債権債務は消滅し、各関連企業の財産を統一的な財産として取り扱い、各関連企業の債権者が法定の順位で弁済を受けることになる(188条)。
(8) 国際破産案件の司法協力
国際破産案件の協力を促進し、公平に債権者・債務者等の利益を保護するため、中国の人民法院は、外国裁判所との間で破産手続きに関する承認、協力、調整を連携すると定められている(202条)。中国の管轄人民法院は、人民法院による管轄が債権者の利益に資する場合に外国所在の債務者による破産手続きを管轄し(203条)、又は債務者の利害関係の中心地(外国)で開始された外国の破産手続きを承認し、協力することができる(204条)。
(9) 自然人の破産、更生手続きの規定
本意見募集稿では、企業法人が破産手続きを開始した場合、企業債務に関して連帯責任を負う当該企業の自然人株主の破産、更生手続きの枠組みを規定した(18条、19条、98条、174条から176条)。
(全216条)
- 本意見募集稿を全人代常務委員会の審議に提出する際に行われた説明によれば、2024年に全国の人民法院が審理を完了した破産案件は3万件を超えるが、登記抹消企業の総数に占める割合は0.5%にとどまっている。また、審理を完了した破産案件のうち更生、和解案件は、わずか4.6%に過ぎない。
- 本意見募集稿は、意見募集を踏まえて内容が修正される可能性があり、正式に公布・施行されるまで法令としての効力を有しない。
- 保全措置、執行手続には人民法院が民事、行政訴訟において講ずる保全措置及び執行手続き、人民法院、行政機関の行政強制において債務者の財産給付を実現するための強制措置及び強制執行、並びに税務機関、税関が講ずる税収保全措置、強制執行が含まれる(24条2項)。
- 現行法19条では、破産申請の受理後、債務者財産に関する保全措置を解除し、執行手続きを中止しなければならないと規定している。もっとも、解除、中止の手続きは、各地で統一されておらず、管財人が申請しても、関係機関が保全措置の解除、執行中止に応じず、その後の破産手続きが難航する状況が生じている。
- 現行法上、人民法院が管財人を指定し、債権者会議は管財人の変更を申請できるとされている。本意見募集稿では、債権者がより広範に管財人の選任手続きに関与できる。
- 出資者が、出資金を払い込んだ後、不正に出資金を引き出すことを言う。
- 人民法院が破産申請を受理した後、出資者が出資義務を履行しない場合、管財人は、出資期限にかかわらず、当該出資者に対して引き受けた出資金を払い込むよう要求しなければならない(50条)。
- 管財人の推薦、事業継続のための借入、債権者利益に重大な影響を与える債務者財産の処分に関する権限が追加された(84条)
- 複雑な案件に関して、人民法院は、初回の債権者会議の開催期限を債権申告期限満了日から30日に延長することができる(86条)。また、債権者はオンライン方式で債権者会議へ参加することも可能とされた(86条)。
- 各債権者は、債務者の財産状況報告、債権者会議の決議、債権者委員会の決議、管財人監督報告等、債務者の財産及び経営情報に関する資料の閲覧権限が与えられた。管財人が正当な理由なく当該資料を提供しない場合、債権者は、人民法院に対して決定を下すよう要求することができ、人民法院は5日以内に決定をしなければならない。当該内容は、現在、最高人民法院による「破産法」の適用に関する若干問題の規定(三)(司法解釈)10条で規定されている。
- 現在の実務においても、事前協議制度は存在するが、実質的に更生計画案の提出期限(原則更生が受理されてから6か月以内)を見据えて事前整理を行う場となっているため、本来の役割を果たしていないと考えられる。
- 合併破産手続きについて、「全国人民法院裁判業務会議紀要」で規定しており、実務上適用された実績がある。本意見募集稿が立法化された場合、より具体的な手続きが、法律レベルで規定されることになる。