Ⅰ. はじめに
海賊版サイトによる著作権侵害は長年問題となっていますが、近年は、海賊版サイトがコンテンツ・デリバリー・ネットワークサービス(以下「CDN」といいます。)を利用することで、匿名性を確保しながら急速に成長していることが懸念されています。令和4年9月には、インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会による現状とりまとめ1も公表されました。
こうした状況の中、出版社4社が、海賊版サイトにCDNを提供していたCloudflare, Inc.に対して、著作権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟を提起していた事案について、令和7年11月19日、判決が言い渡されました(東京地判令和7年11月19日(令和4年(ワ)2388号)。以下「本判決」といいます。)。
本ニュースレターでは、まず、本件の事案の概要を紹介し(Ⅱ)、CDNの仕組みを概説します(Ⅲ)。その上で、本判決の多岐にわたる論点のうち、次の3つに焦点をあてて紹介及び検討を行います(Ⅳ):
- 被告は、自動公衆送信の主体に当たるか(Ⅳ-1)
- 被告は、出版権侵害を幇助したか(Ⅳ-2)
- 本件のキャッシュ型配信は、電子計算機における著作物の利用に付随する利用(著作権法47条の4)にあたるか(権利制限規定の適用はあるか)(Ⅳ-3)
Ⅱ. 本件について
1. 事案の概要
本件は、KADOKAWA、講談社、集英社及び小学館(以下「原告ら」といいます。)が、米国に拠点を有し、CDNを提供する事業者であるCloudflare, Inc.(以下「被告」といいます。)に対して、著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償を請求した事件です。原告らは、原告らが出版権を有する著作物(以下「本件各著作物」といいます。)が配信されていた海賊版サイト(以下「本件ウェブサイト」といいます。)に、被告がCDNを提供したことにより、原告らの出版権(公衆送信権)が侵害されたと主張しました。具体的には、原告らは、主位的に、被告が公衆送信の主体であることを前提とした民法709条の不法行為の成立を、予備的に、被告が公衆送信の主体でないとしても民法719条2項(幇助)の不法行為の成立を主張しました。結論として、本判決は、主位的請求を棄却する一方、予備的請求を認容しました(ただし損害額の一部分のみ減額)。
2. 事案の経緯
被告は、本件ウェブサイトの運営者(以下「本件運営者」といいます。)とCDNの利用契約を締結し(以下「本件利用契約」といいます。)、本件運営者に対してCDNの提供を行っていました(以下、被告が提供していたCDNを「被告サービス」といいます。)。
小学館は令和2年4月7日に、集英社は同年12月7日に、KADOKAWA及び講談社は令和3年11月12日に、被告に対し、本件ウェブサイトにて原告らの著作権が侵害されている旨の通知(以下「本件通知」といいます。)をしました。本件通知には、本件各著作物が著作者及び原告らの許諾なく違法に本件ウェブサイトに掲載されていることが英語で記載され、併せて、原告らの正規の漫画配信ウェブサイト及び本件ウェブサイト中の該当ページのURLが記載されていました。被告は、本件通知の受領後、本件ウェブサイトの一部についてキャッシュサービス停止措置をとったものの、サービスの提供を継続し、本件提訴がなされた後になってから、本件ウェブサイトについて被告サービスの提供を終了しました。
Ⅲ. コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)の仕組み

CDNとは、ウェブサイトのコンテンツを、世界各地に配置されたエッジサーバに複製・保存(キャッシュ)し、エンドユーザーに最も近いエッジサーバから配信する仕組みのことです。エンドユーザーに近いエッジサーバから配信することで、コンテンツ配信を効率化できるとともに、オリジンサーバの負担を軽減することが可能になります。具体的には、下記のような仕組みです:
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以下では、被告の管理するエッジサーバを「被告サーバ」、本件ウェブサイトに係るオリジンサーバを「本件オリジンサーバ」、本件運営者が本件オリジンサーバにアップロードした本件各著作物の複製データを「本件コンテンツ」、ホスト型配信において被告サーバにキャッシュされた本件コンテンツのキャッシュデータを「本件キャッシュデータ」、本件ウェブサイトへアクセスするエンドユーザーを「本件エンドユーザー」といいます。
Ⅳ. 本判決の内容
1. 被告は自動公衆送信の主体にあたるか
(1)自動公衆送信について
「自動公衆送信」とは、著作権法上の「公衆送信」の一形態であり、「公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送以外のもの)」(著作権法2条1項9号の4)をいい、その前段階として公衆送信し得る状態に置く行為(「送信可能化」(同項9号の5))も含まれます(同法23条1項)。
本件では、まず、自動公衆送信の主体(原告らの公衆送信権を侵害している主体)が、本件運営者なのか被告なのかが争われました。誰が権利侵害の主体であるかが争われる類型の事件では、その主体性は、諸般の事情を総合的に考慮して判断する手法がとられています(ロクラクⅡ事件2、音楽教室事件3等)。
原告らは、侵害主体性が争われた過去の裁判例等が挙げた考慮要素を踏まえ、被告によるCDNの提供が本件ウェブサイトの運営に不可欠な役割を果たしていた等と指摘し、被告が自動公衆送信の主体であると主張しました。仮に被告が自動公衆送信の主体であると認められた場合には、被告の行為が侵害幇助にあたるかどうかや、幇助である場合に被告が情報流通プラットフォーム対処法3条1項(以下「情プラ法」といいます。)に基づき免責されるか、といった諸論点の検討が不要になります。また、本件では差止請求はなされていませんが、被告の行為について著作権法112条1項に基づく差止請求を行うことも可能となります。
(2)本判決の判断
本判決は、以下のとおり、ホスト型配信及びキャッシュ型配信のいずれについても、自動公衆送信の主体は被告ではなく、本件運営者であると判断しました。
まず、本判決は自動公衆送信の主体に関し、まねきTV事件最高裁判決(最判平成23・1・18民集65巻1号121頁)の判示を引用しました。具体的には、「自動公衆送信……の主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当である。そして、当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体であり、また、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している当該装置の公衆送信用記録媒体に情報が記録されている場合には、当該記録媒体に情報を記録する者が送信の主体である」との判断枠組みを示した上で、「装置に情報を入力する者」又は「記録媒体に情報を記録する者」に該当するかを検討しました。
そして、本件では、まず、送信の相手方である本件エンドユーザーが公衆に当たること、また、被告サーバを用いて行われる自動送信は、公衆によって直接受信されることを目的とするものであり、被告サーバは自動公衆送信装置(著作権法2条1項9号の5)に当たることを認定しました。その上で、ホスト型配信においては被告サーバへの入力をする者、キャッシュ型配信においては被告サーバの記録媒体に記録をする者が、自動公衆送信の主体であることを前提に、次のように判断しました。
まず、ホスト型配信では、被告サーバへの本件コンテンツの入力は、本件エンドユーザーからの求めに応じ、本件オリジンサーバから被告サーバに本件コンテンツが自動送信されることにより行われています。本判決は、この自動送信は、本件運営者が自ら本件コンテンツを本件オリジンサーバに記録し、被告サービスを利用するための設定をすることにより可能になっているとして、本件運営者が被告サーバへの入力をする者であると認定しました。
次に、キャッシュ型配信では、ホスト型配信の際にキャッシュされたコンテンツが、本件キャッシュデータとして被告サーバからエンドユーザーに対して送信されます。本判決は、被告サーバに本件コンテンツを入力する者が本件運営者であること、及び、被告サーバの記録媒体への記録(キャッシュ)が、被告サーバのキャッシュ機能によって自動的になされるものであることを踏まえ、被告サーバに本件キャッシュデータを記録する者も本件運営者であると認定しました。
これに対し、原告らは、被告が自動公衆送信の主体であることを基礎づける事情として、①被告が本件エッジサーバの設置・維持・管理を行っていたのに対し、本件運営者は、被告サーバへの入力・記録には関与していなかったこと、②被告がCDNの提供により対価を得ていたこと、③被告サービスが本件ウェブサイトの運営に不可欠であったこと、及び、④被告は本件通知を受領後は原告らの公衆送信権侵害を認識していたことを主張しました。しかし、本判決は、上記の仕組みに照らした判断は本件通知の受領の前後を通じて異なるものではなく、原告らが主張する各事情は以上の判断を左右するものではないと判示しました。
(3)本判決の検討
前記まねきTV事件では、事業者が自らベースステーションをテレビアンテナに接続し、当該テレビアンテナで受信した放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定していたため、(総合考慮等の規範的な判断をするまでもなく)同事業者が自動公衆送信の主体であると認定されています。本判決でも、まねきTV事件と同様に、誰が情報を入力・記録したかという観点から、本件運営者が自動公衆送信の主体であると判断されました。
これに対し、原告らは、規範的にみて被告が主体であるという主張を試み、その論拠として上記①~④の事情をあげました。しかし、本判決は、侵害主体性について、条文の文言に即して判断したまねきTV事件の判断枠組みに沿って判断するにとどまり、原告らの主張する各事情に踏み込んだ規範的な判断を行いませんでした。これは、入力や記録についての被告自身の関与が小さく、原告らが主張した各事情だけでは、被告が主体であることを基礎づけるには足りないと判断したものと考えられます。
2. 被告は本件運営者による出版権の侵害を幇助したか
(1)本判決の判断
原告らは予備的主張として、被告が侵害主体ではない場合でも、本件運営者による出版権の侵害を幇助したと主張しました。
幇助による不法行為が成立するためには、幇助行為と過失の存在をそれぞれ主張立証する必要があります。原告らは、幇助行為の存在については、被告は、オリジンサーバのIPが表示されないようにするとともに、利用規約締結時に身元を確認しない運用をすることで、本件運営者の身元を特定できないようにし、また、被告サービスによって大量のコンテンツの送信を可能にしたことから、本件運営者の出版権侵害を物理的及び心理的に容易にしたと主張しました。そして、過失の存在については、被告は、本件通知により被告サービスの提供が出版権侵害を容易にすることを認識でき、被告サービスを停止すること又はキャッシュサービスを停止することで出版権侵害の結果を回避することができたと主張しました。
そして、本判決は以下のとおり、被告の幇助行為及び過失を認め、本件運営者による出版権侵害の幇助を認めました。
まず、幇助行為について、本判決は、本件ウェブサイトのアクセス数は最大で月間3億回を超え、これに対するキャッシュヒット率(キャッシュ型配信で配信した割合)は95~99%であったことから、被告サービスの利用によるオリジンサーバの負荷分散の程度は大きく、本件運営者は被告サービスにより多くの配信を効率的に行うことができたと認定しました。また、被告が利用契約締結時の本人確認手続を簡略化する方針を採用し、本件利用契約に際しても、何らの本人確認手続も行われなかったと認定しました。そうすると、本件運営者は、オリジンサーバのIPアドレスが明らかにならないことに加え、本件利用契約の契約者の情報に関して法的な開示手続がされても権利行使を受けるおそれがないという強度な匿名性が確保された状況で、上記のような効率的な配信をすることができたと認定しました。これらを踏まえ、被告は、被告サービスの提供により、本件運営者による原告らの出版権の侵害を容易にしたとして、被告の幇助行為があったと判断しました。
次に、幇助行為に関する過失について、本判決は、本件ウェブサイトが海賊版サイトであることは一見して明らかであったこと及び本件通知がされていたことから、被告は、著作権法上の権利(公衆送信権)が侵害されていることを知ることができ、また、被告サービスの提供停止によって原告らの出版権の侵害を回避することが可能であったと認定しました。そして、本件通知の受領から被告サービスの提供を停止するまでに必要な期間については、本件通知の受領後、その内容を確認して権利の侵害を判断し内部的な手続をするために必要な期間を考慮し、1か月と判断しました。その結果、被告は、本件通知の受領から1か月を経過した時点で、被告サービスの提供を停止できたから、同時点で被告サービスの提供を停止する義務を負うところ、これを怠ったため過失があると判断しました。
なお、本判決は、情プラ法3条1項2号の免責規定による被告の免責も検討していますが、本件ウェブサイトが一見して明らかな海賊版サイトであったこと等を踏まえ、免責を否定しています。
(2)本判決の検討
CDNを利用することでコンテンツを効率的に配信でき、かつオリジンサーバのIPアドレスを公衆から秘匿できるという点は、CDN全般に共通する性質です。他方、前記のとおり、被告が厳格な本人確認を行わず、その結果、本件運営者がCDN事業者やCDN事業者から契約者情報の提供を受けた者からも身元を秘匿できるという点で強固な匿名性が確保されていたことは、本件特有の事情として注目されます。実際、被告以外のCDN事業者は、利用契約締結に際し、会社名・電話番号・クレジットカード情報等の確認やSMS認証をするなど、被告よりも厳格に本人確認を行っているとされます4。したがって、本判決の射程は、被告よりも手厚い本人確認を実施しているCDN事業者に直ちに及ぶものではないと考えられます。
過失については、CDN事業者は、通信の秘密を守るべき立場にあることから、利用者の通信の内容を積極的に知ること(知得)は原則として禁止されるため、著作権侵害のコンテンツが流通しているかどうかを積極的に監視する責任はないと考えられます。しかし、本件では、本件ウェブサイトが一見して海賊版サイトであることから、本件通知と併せれば被告において本件ウェブサイトが原告らの著作権を侵害するものであることを認識できたという事実を重視し、幇助行為に関する過失の認定がなされたと思われます。本件と異なり、適法なコンテンツと違法なコンテンツが混在しているようなウェブサイトの場合には、本判決の射程外と考えられる点に留意が必要です。
3. 本件キャッシュデータの自動公衆送信が、電子計算機における著作物の利用に付随する利用(著作権法47条の4第1項)として著作物を利用できる場合に当たるか
(1)問題の所在
著作権法47条の4第1項は、「電子計算機における利用に供される著作物は、次に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」と定め、同項2号は、「自動公衆送信装置を他人の自動公衆送信の用に供することを業として行う者が、当該他人の自動公衆送信の遅滞若しくは障害を防止し、又は送信可能化された著作物の自動公衆送信を中継するための送信を効率的に行うために、これらの自動公衆送信のために送信可能化された著作物を記録媒体に記録する」ことを認めています。
このうち2号は、送信の中継の効率化のため、記録媒体への記録(キャッシュ)を付随的利用として許容しています。そのため、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信について、同号により許容されるか争われました。
(2)本判決の判断
ア 著作権法47条の4第1項本文について
本判決は、同条の趣旨を踏まえ、同項2号の「記録」に際して行われる著作物の「利用」である自動公衆送信も、必要と認められる限度で同条による権利制限の対象になると判断しました。その上で、他の要件について順次検討しました。
まず、主体の点について、本判決は、被告サーバが自動公衆送信装置であると判断した上で(Ⅳ-2-(2))、被告は、被告サーバを用いて他人である本件運営者に被告サービスを業として提供していたから、「自動公衆送信装置を他人の自動公衆送信の用に供することを業として行う者」に当たると判断しました。
次に、本判決は、被告サーバへの本件キャッシュデータの記録は、自動公衆送信を中継して送信を効率化するためのものであるとして、「自動公衆送信を中継するための送信を効率的に行うために送信可能化された著作物を記録媒体に記録する場合」に当たると判断しました。
もっとも前記1.のとおり、被告は、被告サーバへ本件キャッシュデータの記録をする主体ではありません(Ⅳ-2-(2))。そのため本判決は、「著作物を記録媒体に記録する場合」には直ちに当たらないとしつつ、その条文の趣旨を踏まえて、「付随する利用に供することを目的とする場合」であれば、引き続き、同条による権利制限の対象となると判断しました。
しかし、本判決は、本件キャッシュデータの自動公衆送信は、本件キャッシュデータが被告サーバに記録された後、本件エンドユーザーから同じコンテンツの送信要求がされた際、同エンドユーザーに対してされるものであるから、本件キャッシュデータの記録に際して本件キャッシュデータの自動公衆送信がされるものではないと述べました。さらに、実質的にも、本件キャッシュデータの記録は、著作物の主たる利用行為(閲読)に付随する行為として独立した対価回収機会を与える必要がないのに対し、本件キャッシュデータの自動公衆送信は、本件エンドユーザーによる本件各著作物の閲読の機会を増加させるという意味で、独立した著作物の利用に他ならないから、これについて著作権者に対価回収機会を与える必要がないとはいえないと述べました。そして、結論として、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信は、「付随する利用に供することを目的とする場合」に当たらないと判断しました。
イ ただし書きについて
上記のとおり、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信は、著作権法47条の4第1項柱書に当たらないため、ただし書きについて判断する必要はないものの、本判決は「念のため」として、本件キャッシュデータの自動公衆送信が「著作権者の利益を不当に害する」(同項ただし書き)といえるかも検討しました。
本判決は、①本件キャッシュデータの自動公衆送信が、本件各著作物の閲読の機会を増加させるものであること、②原告らの許諾を得ることなく本件キャッシュデータが自動公衆送信されることで、本件エンドユーザーは無償で本件各著作物を閲読できたこと、及び、③被告サービスの提供に当たり本人確認が行われなかったことで、本件キャッシュデータの自動公衆送信は、本件運営者からの対価回収が実質上不可能な状況下で行われたことを指摘しました。そして、これらの点を考慮し、本件キャッシュデータの自動公衆送信による本件各著作物の利用を権利制限の対象とすると「著作権者の利益を不当に害する」と判断しました。
(3)本判決の検討
本判決は、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信が、「付随する利用に供することを目的とする場合」に当たらないと判断しました。しかし、著作権法47条の4第1項の立法時には、ミラーリング(メインサーバの著作物をミラーサーバに複製する行為)やフォワードキャッシング(ユーザー側のサーバに一度アクセスしたサイトのデータをキャッシュしておく仕組み)等が同項2号に該当する送信円滑化行為として想定されていた5ところ、CDNにキャッシュデータの送信も、同様に中継のための送信の効率化のために行われているものですので、「付随する利用に供することを目的とする場合」にあたると考える余地もあると思われます6。
また、本判決では、権利制限規定である著作権法47条の4第1項の該当性と著作権侵害幇助との関係も明らかではありません。本件では前記のとおり、被告による著作権侵害の幇助を認めています。幇助はそれ自体では適法といえる行為であっても成立し得ることから、キャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信が著作権法47条の4第1項の権利制限規定に該当するか否かは、被告による著作権侵害幇助の成否には影響しないはずです。そのため、そもそもキャッシュ型配信における本件キャッシュデータの自動公衆送信が同項に該当するか否かを議論する必要があったのか、疑問が残ります。
さらに、本判決は、結論として「著作権者の利益を不当に害する」と認定した点も注目に値します。同じ文言は著作権法において合計19箇所に用いられていますが、当該要件への該当性を認める事例はあまり見当たりません。そのため、本件の事実認定は、別の条文で同文言への該当性が問題となる事案でも参考になると思われます。
Ⅴ. おわりに
違法な著作物を中継したCDN事業者の責任について争われた公表裁判例は、これまで見当たりません。本件は、本件ウェブサイトが一見して明らかな海賊版サイトであった点や、CDN事業者が厳格な本人確認を行っていなかった点において特殊な事案であり、このような事情を踏まえた事例判決であると思われますが、CDNを利用した違法サイトが問題となっている昨今においては数少ない先例です。また、著作権侵害の主体や幇助の成否、著作権法47条の4の制限規定の解釈などの論点も含まれている点でも、今後、CDN事業者に求められる義務や負うべき責任を検討する上で参考となる裁判例といえます。
被告は、本件を不服として控訴しました。今後の知財高裁の判断や本件に関する議論の動向が注目されます。
- 令和4年9月「インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会 現状とりまとめ」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000836399.pdf)
- 最判平成23・1・20民集65巻1号399頁
- 最判令和4・10・24民集76巻6号1348頁
- 前掲脚注1・26頁以下
- 文化庁著作権課『デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方』(令和元年10月24日)(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_17.pdf)
- 海賊版ウェブサイトに係るサーバが海外に置かれ、日本国内からのアクセスが事実上国内のエッジサーバを経由したアクセスに限定されているような実態がある場合、「CDNにおけるキャッシングは、効率的な中継送信のための記録(同項[注:47条の4第1項]2号)に該当する行為と解するのが素直」との指摘もある(丸橋透『プロバイダ責任制限法』ジュリスト1563号(2022年)81頁)。