Ⅰ. ベトナム:新投資法の施行及び同政令案
ベトナムでは、2026年3月1日、新たな投資法(Law No.143/2025/QH15:「新投資法」)が施行されました。これを受けて、財務省(Ministry of Finance)は、新投資法に関する政令の制定を進めており、2026年3月13日に第3草案(「政令案」)が公表されています。
本レターでは、新投資法及び政令案のうち、日本企業を含む外国投資家に実務上特に影響を及ぼし得る事項について概説します。なお、政令案はあくまで草案段階のものであり、実際に成立する政令の内容が草案から変更される可能性がある点にはご留意ください。
1. IRC取得前の法人設立
外国投資家がベトナムで法人を設立しようとする場合、従前は、実施予定のプロジェクトに関する投資登録証(Investment Registration Certificate:「IRC」)を取得した後、法人設立のための企業登録証(Enterprise Registration Certificate:「ERC」)を取得するという手順が必要とされていました。
これに対し、新投資法では、市場参入条件を満たしていることを前提として、IRC取得前であってもERCを取得し、法人を設立することが可能となりました。
政令案では、法人設立(すなわちERC取得)から12か月以内のIRC取得が求められています。当該期限内にIRCを取得できなかった場合、法人の清算までは要求されていないものの、IRCを取得できるまでの間、事業分野を新規に登録できないものとされています(企業は、実施する特定の事業内容を管轄当局に登録する必要があり、登録していない事業分野に係る事業活動を行うことはできません。)。
2. IPAの変更が必要となる事由の調整
ベトナムでは、住宅開発案件等一定のプロジェクトについて、当局による承認である投資方針承認(Investment Policy Approval:「IPA」)を取得する必要があり、一定の事由が生じた場合にはIPAの変更手続を行う必要があります。
新投資法では、従前と比較し、IPAの変更が必要となる事由の範囲が縮小されました。一例として、新投資法施行前は、IPAに登録されたプロジェクト実施スケジュールを12か月を超えて延長する場合にはIPAの変更が必要とされていました。他方、実務上、住宅開発等のプロジェクトでは、IPAに登録されたスケジュールから遅延が生じることが少なくなく、IPA変更手続が負担となる場面がありました。
これに対し、新投資法では、IPAに登録されたプロジェクト実施スケジュールを24か月を超えて延長する場合にIPAの変更を行えば足りることとされており、スケジュール遅延に伴う手続負担の軽減が期待されます。
3. 条件付投資分野の緩和
新投資法では、事業活動を実施するには(内資・外資問わず)一定の条件を満たさなければならない事業分野(条件付投資分野)のリストが改正され、条件付投資分野の廃止、追加、内容変更等が行われました。その結果、条件付投資分野は合計198業種に減少しています。
廃止、追加された事業分野としては以下のものが挙げられます。
| 廃止 | 追加 |
|---|---|
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|
なお、新たな条件付投資分野リストは、2026年7月1日から施行されます。
4. 事前手続の緩和
新投資法により、工業団地、輸出加工区、ハイテク区、デジタル技術集中区、自由貿易区、国際金融センター、経済区内の機能区域におけるプロジェクトについては、一定のプロジェクトを除き、従前必要とされていた技術評価、環境影響評価報告書の作成、詳細計画案の作成、建設許可の発行、その他建設及び防火・消防分野における承認・許可等の取得を省略することが認められます。もっとも、この場合、投資家は、建設、環境保護、防火・消防に関する法律で定められた条件・基準等を充足する旨の誓約書を当局に提出する必要があります。
5. M&A承認に関する手続
投資法上、外国投資家等がベトナムの非公開会社の持分・株式を取得しようとする場合、一定の基準に該当すれば、ベトナム当局より事前に承認(実務上、M&A承認と呼ばれることが多い)を受ける必要があり、新投資法でもこの手続の必要性は変わらないところです。この点、旧投資法上、M&A承認の所要期間は15日とされているところ、政令案では、この期間を15「営業日」に変更することが提案されています。M&A承認の所要期間が政令案どおりに変更された場合、日系企業を含む外国投資家等によるベトナム企業への投資のスケジュールに影響が生じることが予想されます。
なお、本レター執筆時現在、新投資法は(一部を除き)既に施行されているものの、その詳細を定める政令(Decree)や通達(Circular)がいまだ成立していないため、当局がM&A承認の申請を受け付けない若しくは通常より長期を要するケースや、新たなルールの制定時期や内容等次第では、受付後に改めて当該ルールに基づいた再申請が必要となり得る旨を示唆されるケースが生じており、現時点でM&A承認の申請を行う場合は特に想定以上に時間を要し得る点に留意が必要です。
全体として、本改正は、外国投資家を含む投資家による新規投資を、より迅速かつ容易にする方向性での改正と考えられます。もっとも、上記のとおり、政令案は現時点では草案段階にとどまっており、実際の手続等は今後施行される政令の内容によることになるため、引き続き関連動向を注視することが重要です。
Ⅱ. インド:Press Note 3改定(インド隣国による投資制限の緩和)
1. 背景
インドでは、2020年にCOVID-19パンデミックに伴うインド企業への機会主義的な買収・取得を抑制することを目的として、Press Note 3(「PN3」)と呼ばれる通達が発出され、インドと国境を接する国(「インド隣国」)の企業によるインドへの投資、及びインドへの投資の実質的所有者(beneficial owner)がインド隣国に所在する若しくはインド隣国の国民である場合、政府ルートによる事前承認が必要とされてきました。また、インド国内の企業に対する既存又は将来の外国直接投資の所有権移転により、実質的所有権がインド隣国に帰属することとなる場合についても、政府ルートによる承認が必要とされてきました。
「政府ルート」による事前承認が必要となる場合、いわゆる「自動ルート」の場合と異なり、インド政府の事前承認を取得することが必要となり、また、インド政府が承認に当たり条件を定めた場合には当該条件に従わなければなりません。PN3では、インド隣国の投資家がマイノリティ出資の場合にも事前承認が必要とされてきたことから、PEファンド等のグローバルファンドや上場企業からのインドへの投資活動に影響が出ておりました。
今般、インド政府は、2026年3月10日付で、PN3を含む外資規制の改定(「3月10日改定」)を承認しました。また、当該承認を受けて、同月15日には、PN3を改正する旨のPress Note No.2 (2026 Series)(「PN2(2026)」)が公表されました。
2. 改定内容
(1)「実質的所有者」の定義及び判定基準の明文化
PN2(2026)では、実質的所有者の定義について、2005年マネーロンダリング防止規則(Prevention of Money Laundering Rules, 2005:「マネロン規則」)において使用されている定義及び判定基準と同様のものを用いることとされました。そして、インド隣国の国民又は法人が、直接的又は間接的に、個別又は合計で、単独又は共同して、以下のいずれかの権利又は持分を有する場合には、実質的所有者に該当するとされました。
- インド隣国ではない国で設立又は登録された投資主体に対して、マネロン規則に基づき定められた基準(=10%)を超える権利又は持分を有する場合
- インド隣国の国民及び/又は法人が、上記の投資主体に対して支配権を有する場合
- インド隣国の国民及び/又は法人が、投資先企業に対して最終的かつ実質的な支配権を有する場合
(2)特定の事業セクターへの投資の迅速な承認
3月10日改定では、特定の事業セクター(資本財(capital goods)、電子系資本財(electronic capital goods)、電子部品、ポリシリコン及びインゴット・ウェーハの製造業)における投資については、迅速に(具体的には60日以内に)事前承認の決定がされることとされました。また、3月10日改定では、インド政府が、必要に応じて特定の事業セクターのリストを改訂することができることが明記されています。
ただし、上記の迅速な承認の対象となる場合、投資先のインド企業の過半数の株式保有及び支配権は、常に、居住インド市民(resident Indian citizen)又は居住インド市民が所有・支配する居住インド法人(resident Indian entity)に帰属することが必要とされています。
かかる特定の事業セクターへの投資に関する改定については、本レター執筆時点においては具体的な法令等の改正がなされていないものの、近日中に実際の法令等の改正がなされると考えられています。
3. 終わりに
以上のように、PN3に基づく規制の緩和ないし規制範囲の明確化により、インドへの投資を検討するに際してインド隣国の投資家の有無等の調査の負担が軽減されることが期待され、実務的には重要な改正と考えられます。
Ⅲ. タイ:データセンター投資奨励に関する新ガイドラインの公表
2026年2月6日、タイ投資委員会(The Board of Investment of Thailand:「BOI」)は、データセンター事業の投資奨励(カテゴリー8.2.1)の申請者向けに、新たなガイドライン(「本ガイドライン」)を公表しました。なお、日系企業を含む外資企業がタイのデータセンター事業に参入する際に留意すべき主要な規制枠組み等については、本レター第180号(2025年10月号)を参照ください。
1. 本ガイドラインの概要
本レター第180号(2025年10月号)で概説したとおり、「外国人」がタイでデータセンター事業を行う場合、BOIの投資奨励を取得したうえで外国人事業証(Foreign Business Certificate:「FBC」)を取得する方法が考えられます。BOIの投資奨励を取得するためには様々な条件を満たす必要がありますが、本ガイドラインの公表に先立って、2025年6月5日付の告示により、タイ国内への貢献計画の策定が条件のひとつとして追加されていました。本ガイドラインは、当該計画の策定基準を明確化するものであり、従来の抽象的な要請を実務レベルで具体化した点に特徴があります。
当該計画において、タイ国内への貢献を示すことが求められる分野は、(A)①研修計画、②教育機関との共同カリキュラム開発、③R&D(研究開発)、及び/又は④中小企業支援の分野、並びに(B)国内サプライチェーン支援の分野です。各項目の概要は以下のとおりですが、いずれの項目においても目的、対象者、実施方法等の詳細な指針が示されており、単なる形式的な計画提出では足りず、実質的な内容と継続的実施が求められています。
| (A) | ①研修計画 | 国際基準に沿ったデータセンターの設計、建設、運営における人材スキル開発を通じた、AI及びクラウドインフラ産業の成長支援。技術・ICT分野における熟練労働者、学生、エンジニア等の技術向上を図る計画であることが求められる。 |
| ②教育機関との共同カリキュラム開発 | 大学や職業訓練校、技術専門学校等のタイ教育機関との共同カリキュラム開発を通じた、データセンター及びAIインフラ分野における長期的な人材育成 | |
| ③R&D(研究開発) | AI技術製品やデータセンター内で使用されるシステム又は機器に関する研究開発をタイ国民又は機関との共同で実施 | |
| ④中小企業支援 | タイの中小企業(電気・エネルギーシステム、建設、ITサービス関連企業)がデータセンターサプライチェーンに競争力を持って参加できるよう、その能力強化を目的 | |
| (B) | 国内サプライチェーン支援 | 設計、建設、冷却システムやセキュリティシステム等の各種関連システムに関する知識の伝達、タイ国内製造の機械、設備の設置等 |
タイ国内への貢献計画においては、(A)及び(B)の両分野を含む必要がありますが、(A)のうち①から④については全てを網羅する必要はありません。なお、①研修計画及び②教育機関との共同カリキュラム開発については、当該プロジェクトに従事する人員の総数の10倍以上の参加者を確保することが原則とされ、かつ、法人所得税優遇期間を通じて継続的に実施する必要があるとされています。また、当該人数要件を満たさない場合には、③R&D(研究開発)や④中小企業支援を継続的に実施することが求められる等、代替的義務も明確化されています。
2. 実務への影響
本ガイドラインにより、BOIによる投資奨励の可否判断は、資本投資額のみならず、タイのデジタル・エコシステムへの実証可能な長期的貢献に基づいて行われる方向性が一層明確となりました。タイでのデータセンター事業への参入を検討する日系企業にとっては、本ガイドラインの指針を踏まえた戦略的な早期の貢献計画の立案が重要となります。
(ご参考)
本レター第180号(2025年10月号)
Ⅳ. シンガポール:エージェンティックAIに関するモデルAIガバナンス・フレームワークの公表
1. エージェンティックAIのリスク
2026年1月22日、シンガポール政府は、世界経済フォーラムにおいてエージェンティックAI(Agentic AI)を対象とする「Model AI Governance Framework for Agentic AI」(「本フレームワーク」)を公表しました。従来の生成AIは、ユーザの指示に基づいてのみ返答するという受け身的なものですが、エージェンティックAIは自らタスクを設定した上で、自律的に行動、評価、改善ができるという点に大きな違いがあると言われています。そのため、エージェンティックAIでは、当初の意図に反した行為や与えられた権限から逸脱する行為を行うリスクや、偏った判断を行うリスク、データ漏洩のリスク等、従来の生成AIとは異なる重大なリスクが存在すると指摘されています。
このようなリスクに対応するため、本フレームワークは、組織がエージェンティックAIを導入・運用する際に参考とすべき事項を規定しています。以下では、本フレームワークがエージェンティックAIの導入にあたり、リスク管理のための「ベストプラクティス」として示しているガバナンスの方法の概要を説明します。
2. 本フレームワークが示すガバナンスの方法
本フレームワークが示すガバナンスの考え方は、以下の4つの項目に整理されています。
(1)事前のリスクの評価と境界の設定(Assess and Bound the Risks Upfront)
エージェンティックAIの導入・運用に先立ち、想定されるリスクの評価を行い、エージェンティックAIの導入に適した場面を特定することが求められます。また、エージェンティックAIのツールやシステムへのアクセスを制限し、明確な権限管理の枠組みを設計する等、設計段階においてリスクをあらかじめ抑制するための措置を講じるべきとされています。
(2)人間の説明責任(Make humans meaningfully accountable)
エージェンティックAIの行動に対して、人間が最終的な責任を負う体制を設計するべきとされています。例えば、エージェンティックAIのワークフローの中で関係者の責任範囲を明確にし、一定の重要なポイントで人間による承認を必要とする仕組みを設けること等が挙げられています。
(3)技術的統制(Implement technical controls and processes)
エージェンティックAIに特有のリスクに対応するため、設計・開発、運用前及び運用時の各段階を通じた技術的統制の実装を求めています。その具体的内容は以下のとおりです。
• 設計・開発段階:エージェンティックAIに適切なガードレール(想定外のAIの動作を防ぎ、AIのリスクを軽減するための技術)や計画のリフレクション(AIが、自身の行動を振り返り、その妥当性をチェックする仕組み)等を実装するとともに、エージェンティックAIが外部システムや外部データへのアクセスできる範囲を最小限に留める。
• 運用前段階:本番環境への導入前には、タスク全体の遂行能力、ポリシー遵守の状況、ツール利用の正確性といったポイントについて、網羅的な検証を行う。
• 運用段階:実際に運用する際には、エージェンティックAIを段階的に展開するとともに、本番環境において、リアルタイムの監視体制と継続的にモニタリングを行う。
(4)エンドユーザーの責任(Enable end-user responsibility)
本フレームワークでは、エージェンティックAIを利用し、その結果に依拠するエンドユーザーにも説明責任が及ぶことも示しています。そのため、エージェンティックAIを導入する組織は、エンドユーザーに対して、その機能等に関して十分な情報提供や教育を行うとともに、問題発生時の通報窓口の周知すること等が求められています。
3. 実務上の留意点
エージェンティックAIは、業務プロセスの合理化の観点から今後ますます導入が見込まれるところであり、本フレームワークで示されたガバナンスに関する事項はシンガポールで事業を行う日系企業にとっても参考になるものと思われます。もっとも開発段階から運用まで複数の事業者・当事者が関与することから、問題発生時の責任の帰属に関する議論は残されているとも指摘されており、法的リスクの観点からは不透明な部分も少なからずあるという印象です。
AIに関する実務は今後急速に発展することが見込まれる分野であり、継続的に注視していく必要がありそうです。
※当事務所は、シンガポールにおいて外国法律事務を行う資格を有しています。シンガポール法に関するアドバイスをご依頼いただく場合、必要に応じて、資格を有するシンガポール法事務所と協働して対応させていただきます。
今月のコラム ―ジャカルタのラマダン―街のリズムを変える1か月―
ラマダン(断食月)は、インドネシアで最も待ち望まれている祝祭の一つであるイドゥル・フィトリ(断食明け大祭を指し、2026年は3月21-23日にあります。)を迎えるまでの間、約1か月続きます。ラマダン中、人々の日常は普段とは異なるリズムで進みます。とりわけ、常に活気に満ち、高い人口密度と絶え間ない交通渋滞で知られる首都ジャカルタでは、街の雰囲気が一変します。
ラマダン中の新たな習慣
ラマダン中のジャカルタで最も目を引く変化の一つは、午後の時間帯に現れます。すなわち、通常であれば夕方のラッシュアワーにピークを迎える渋滞が、ラマダン中はもっと早い時間帯から始まるのです。これは、人々が家族とともに日没後の断食明けの食事(iftar)を囲むため、あるいは「ブカ・プアサ・ブルサマ(buka puasa bersama)、通称ブクベル(bukber)」と呼ばれる集まりに参加するために、足早に帰宅ないし移動するからです。
ブクベルは、親族や同じ趣味の仲間、学生時代の友人、職場の同僚等の様々な人と再会し、ともに断食明けの食事をしながら関係を深める大切な機会となっています。ラマダン中は、自身が所属する様々なコミュニティーからのブクベルの招待で、予定表が埋め尽くされることも珍しくありません。
また、多くの企業がラマダン中に独自のブクベルを開催します。私たちのジャカルタオフィスでもブクベルを行い、美味しい料理を囲みながら和やかなひとときを過ごしました(以下はその時の写真です。)。

日没が近づき、断食明けの時刻が迫るにつれて、街は次第に活気を帯びていきます。通りは「ンガブブリット(ngabuburit)」を楽しむ人々であふれます。これは、断食明けの食事までのひとときを、思い思いに過ごすことを指す言葉です。宗教的な集まりに参加する人もいれば、ゆったりと街を散策する人もいます。また、多くの人々がラマダン・バザールへと足を運びます。
ラマダン中、市内の主要エリアにはラマダン・バザールが次々と登場し、この季節ならではの風物詩となります。バザールで親しまれている伝統の一つが、「タクジル・ハンティング(hunting takjil)」です。これは断食明けに口にする軽食「タクジル」を探し求めることを、遊び心を込めて表現した言い回しです。話題のスイーツを求めて行列ができることもあり、最近では、もっちりとした食感が特徴のドバイ風(?)クッキーや抹茶味の春巻き風スイーツが人気を集めています(以下の写真は、人気のタクジルである「ゴレンガン(gorengan、直訳すると揚げ物スナック)」と、通り沿いに設けられたラマダン・バザールの様子を写したものです。)。

バザールでは食べ物だけでなく衣服も数多く販売されています。イドゥル・フィトリを祝う際には新しい服を身に纏うのが慣習とされているため、来場者は祝祭にふさわしい装いを選び、あわせて故郷への手土産となる贈り物を探します。そこには、まさにラマダンらしい雰囲気が広がっています。
待ち望まれるイドゥル・フィトリ
ラマダンが終わりに近づくと、人々の関心は次第にイドゥル・フィトリへと向かい、インドネシアは「ムディック(mudik)」の季節を迎えます。これは、特にジャカルタのような大都市に住む何百万人もの人々が、イドゥル・フィトリを祝うために故郷へ帰省する時期を指します。この頃になると、普段は忙しない都市の動きが目に見えて緩やかになります。いつもは渋滞で埋め尽くされる道路が驚くほど空き、住民が一時的に離れることで、街は束の間の静けさに包まれます。
イドゥル・フィトリは、再会の時でもあります。人々は親族を訪ね、家族の絆を改めて深めます。そして、約1か月にわたる断食と内省を経て、互いに謝罪と赦しの言葉を交わします。それはラマダンの終わりを告げる祝祭であると同時に、象徴的な再出発の機会でもあります。
祝祭が終わり、人々がジャカルタへ戻るとき、彼らは単に日常生活へと立ち返るのではありません。大切なつながりを再確認し、心が整えられ、新たな気持ちで踏み出す準備を整えた状態で戻ってきます。そうして人々が再び集うと、街もまた徐々に、いつものリズムを取り戻していくのです。
(Farisa Azhara、Arneta Nanako)
(翻訳:花村 大祐)