Ⅰ. はじめに ―取引における環境リスクの責任配分の重要性
近時の不動産取引やM&A実務においては、環境リスクの評価が、取引条件や意思決定に直接影響を及ぼす場面が増えています。以下では、その典型例を紹介します。
国内製造業会社の買収案件において、対象会社が過去に有機フッ素化合物(PFAS)を使用していた可能性が指摘されたことがあります。もっとも、当時、明確な法令違反は確認されておらず、行政当局からの指導や措置命令等もなされていませんでした。
また、デューデリジェンスの過程では、当該物質の使用履歴は一定程度把握できたものの、汚染の有無や範囲は特定できず、また、使用時点の規制状況に照らすと、直ちに違法と整理できる事情も見当たりませんでした。そこで当初は、表明保証及び補償条項を中心とする契約設計により、当該リスクは管理可能であるという評価が共有されていました。
しかし最終検討段階で、検討のポイントが、「現時点で違法かどうか」という点から、「将来当該リスクが問題となった場合に、対応義務や費用負担をどの主体が負うのか」という点へと移行しました。特に問題となったのは、「仮に5年後に当該工場敷地が土壌汚染対策法上の要措置区域に指定された場合に、調査費用や浄化費用、さらには操業制限に伴うリスクを、最終的に誰が負担することになるのか」という点です。
この結果、価格の見直しや長期補償条項の導入に加え、事業の切出しといったスキームの再構成が必要となり、当初想定していた取引条件の前提そのものが見直されるに至りました。
この事例からも明らかなように、環境リスクの評価において重要なのは、現時点における違法性の有無だけではなく、将来において当該リスクが顕在化した場合に、その責任を誰に帰属させるべきであるのか、という点です。
ここでは、当該リスクを事前にどこまで把握できたのか、また把握したリスクについてどこまで対応することが可能であったのかという「制御可能性」も重要となります。制御可能性とは、「買主としてどの程度当該リスクを認識できたか」、また、「そのリスクを契約、価格、スキームを通じてどこまで処理できたか」という二つの観点から評価される概念です。このようなリスクや制御可能性の把握を誤ると、取引後に当初は想定していなかった責任負担が一方の取引当事者に生じ、当初の価格やスキームの前提が維持できなくなるおそれがあります。
Ⅱ. 問題の再定義 ―責任配分は「正当化」の問題であること
環境リスクに関する実務では、「誰が責任を負うのか」という責任主体や責任配分の問題に主眼が置かれることが少なくありません。しかし、不動産取引やM&Aにおいては、責任主体や責任配分の整理だけでは不十分です。というのも、責任主体、責任配分の整理は最終的に誰が責任を負うのかという結論を示すにとどまり、その負担を当該主体に帰属させる理由まで明らかになるわけではないからです。
不動産取引やM&A実務で重要なのは、「誰が責任を負うのか」ではなく、「なぜその主体がその負担を負うことになるのか」という点です。例えば、買主がデューデリジェンスにおいて当該リスクの存在を把握できたにもかかわらず、価格調整や補償交渉を行わずに取引を実行した場合には、そのリスクを買主が負担することは合理的であると評価されやすくなります。
このように考えると、責任配分は、単にリスクを取引当事者の一方のみへ負担させるという問題ではなく、どの主体に、どのような負担を負わせるのが合理的かを検討することが必要であるといえます。かかる責任配分の合理性は、当該リスクを事前にどこまで予測できたか、またそれをどのように取引条件に反映できたかという観点から判断されることになります。
Ⅲ. 従来モデルの限界と法的構造
1. 土壌汚染と原因者負担の原則
従来、環境リスクに関する責任配分は、原因者負担、所有者責任及び契約責任といった枠組みで整理されてきました。しかし、これらの枠組みは、環境リスクの時間的拡張と責任主体の多層化という現代的特徴に、必ずしも十分に対応できません(本稿では、「時間的拡張」とは過去に適法であった行為が将来的な責任に繋がり得ることを、「責任主体の多層化」とは複数主体が関与し得ることをいいます。詳細は、Environmental Law Newsletter 2026年3月号(Vol.22)「2026年度に企業が直面する環境法上のリスク~不動産取引、M&Aにおける意思決定責任の時代へ~」をご参照ください。)。
土壌汚染に関する典型的な公害規制では、原因者が汚染除去の責任を負担する「原因者負担の原則」が採られてきました(水質汚濁防止法3条、大気汚染防止法3条、廃棄物の処理及び清掃に関する法律3条等)。しかし、かかる原則は、汚染源や汚染者が特定できる場合には機能しますが、発生源の特定が難しい場合や複数主体が関与し得る場合には、機能しにくくなります。実務上も、「過去の操業主体が既に解散している」、「複数のテナントが入れ替わっている」といったケースにおいては、原因者負担の原則のみではリスク配分としては不十分です。
加えて、必ずしも「原因者」に限定して責任を配置していない法規制も存在します。例えば、土壌汚染対策法(以下「土対法」といいます。)では、一定の契機(施設の廃止等)において、土地の所有者等に調査・報告が結び付く制度設計が採られています。その結果、過去に汚染原因行為を行っていない買主であっても、取得後に土地所有者として調査義務・措置義務の主体となり得ます。また、土対法3条2項に基づく「通知」について、最判平成24年2月3日(民集66巻2号148頁)は、当該通知が調査・報告義務を生じさせ法的地位に直接影響する以上、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると判断しています1。
2. 水質汚染
地下水汚染の未然防止の観点では、平成24年の水質汚濁防止法の改正により、有害物質を使用・貯蔵等する施設の設置者に対し、地下浸透防止のための構造・設備等の基準遵守、定期点検、記録保存等を義務付ける枠組みが整備されています2。
3. PCBやアスベスト等の有害物質
PCB3廃棄物については、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法において、保管状況の届出(8条)に加え、処分期間内の処分義務(10条)や、違反時の改善命令(12条)などが明確に規定されています。また、PCB廃棄物に関する保管事業者としての地位は、相続や合併、会社分割等によって承継されることが制度上予定されています。そのため、取引や組織再編の局面では、最終的にどの主体が当該義務を負うことになるのかが重要な論点となります。
この他、建築物等の解体等工事に伴うアスベスト(石綿)4対策として、事前調査、届出、作業基準遵守といった手続・実務が大気汚染防止法や労働安全衛生法令(石綿障害予防規則等)において制度化されています。建設アスベスト訴訟に関する令和3年5月17日の最高裁判決群(①最判令和3年5月17日民集75巻5号1359頁、②最判令和3年5月17日集民265号267頁、③令和3年5月17日民集75巻6号2303頁、④最判令和3年5月17日集民265号201頁)では、労働大臣が規制権限を適切に行使しなかったことが国家賠償法上違法となり得ることが認められたほか、建材メーカーについても一定の場合に責任が認められています。これらの判例は、アスベストに関する責任が、国やメーカーを含めた複数の主体に及び得ることを示したものといえます。
4. 適切な責任配分のあり方
以上からいえるのは、環境リスクの責任配分が一つの観点のみから決まるものではなく、各種の法制度や規制が重なり合う中で決定されるという点です。
最判平成22年6月1日(民集64巻4号953頁)は、土地売買の後に規制対象となったフッ素が、対象土地に基準値を超えて含まれていた事案につき、売買契約締結当時の取引観念等を踏まえ、基準値以上のフッ素が含まれていたことは、旧民法570条の「瑕疵」に当たらないと判断しています。
この判決が示しているのは、後から問題となったリスクが存在したかどうかそのものではなく、契約締結時点でそのリスクをどこまで認識できたか、またそれを契約内容にどこまで反映していたかが、責任判断を左右するという点です。
もっとも、債権法改正により、瑕疵担保責任は契約不適合責任へと整理されており(令和2年4月施行)、現在は契約内容との適合性を基準として責任が判断される枠組みとなっています。
したがって本判決は、そのまま結論を当てはめるべきものではなく、契約時点で当事者がどのようなリスクを認識し、それをどこまで契約内容に反映していたかという観点から、責任配分を検討する際の参考となるものといえます。
特に、不動産取引やM&Aにおける環境リスクは、契約によって配分されるものと理解されがちですが、実際には、その前提として法令や行政規制に基づく義務や負担が存在します。この意味で、環境リスクは、制御可能性を踏まえ、①法制度に基づいた負担が発生し、②それを契約で当事者間に分配するという二段階で整理することが重要です。
さらに、このような法制度の構造を統一的に理解すると、環境リスクが現在の状態として存在する以上、それを現実に制御し得る主体に負担を帰属させることが合理的であるという構造が、現行法における責任配分の基礎にあると考えられます。
以下では、この構造を具体化する基準として、制御可能性の概念を提示します。
Ⅳ. 責任配分の原理 ―制御可能性
以上の法制度及び判例から、責任配分は、単に原因行為の有無によって決まるものではなく、その主体が当該リスクをどこまで把握し、どこまで対応することができたのかという「制御可能性」によって判断されるという点を導くことができます。ここでいう制御可能性とは、前記のとおり、①当該リスクを事前に把握できたか(認識可能性)と、②把握したリスクについてどこまで対応することができたか(対応可能性)という二つの要素から構成されます。
重要なのは、制御可能性が、「なぜその主体に当該リスクの負担を負わせてよいのか」を判断する基準となるという点です。すなわち、その主体が当該リスクを事前に把握し、対応することが可能であったにもかかわらず対応しなかった場合には、その負担を当該主体に帰属させることは合理的であると評価されやすくなります。このような意味で、制御可能性は、裁判所が事後的に責任の有無や範囲を判断する際の基準となるだけでなく、取引当事者が事前にリスクをどのように配分するかを検討する際の基準にもなります。
この点について、制御可能性は単なる事後的な評価要素にとどまるものではありません。すなわち、ある主体に対して一定の負担を帰属させることが正当化されるためには、当該主体が当該リスクの発生又は拡大に対して、認識し得た上で、一定の対応を行うことが可能であったという意味において、当該リスクに対する関与可能性を有していたことが必要となります。この意味において、制御可能性は、「誰に負担を帰属させることが許されるのか」という責任配分の正当化根拠そのものを構成する基準として位置付けることができます。
実務においては、取引当事者は、制御可能性を基に、将来当該リスクが問題となった場合に、その責任配分が維持されるかを見据えた上で、価格、契約及びスキームを設計することになります。
また、制御可能性は抽象的に決まるものではなく、行政規制や制度設計の内容に大きく左右されます。そのため、どの主体にどのような義務が課されるのかという法制度の構造を踏まえて評価する必要があります。
Ⅴ. 実務フレーム ―制御可能性の三段階構造
上記のとおり、制御可能性は、認識可能性と対応可能性という二つの要素から整理することができますが、実務上はこれを一つの概念として捉えるだけでは不十分です。むしろ、どの場面でどのように機能するかという観点から、少なくとも三つの段階に分けて理解する必要があります。
1. 正当化の有無
まず問題となるのは、そもそもその主体に環境リスクの負担を負わせてよいのかという点です。認識可能性及び対応可能性がいずれも低い場合には、その主体に責任を負わせることは合理的とはいえず、当該主体に責任を帰属させることは困難となります。
2. 正当化の程度
次に重要なのは、このような制御可能性の評価を、具体的な責任の分担にどのように反映させるかという点です。
例えば、環境リスクの存在は把握できたものの、調査上の制約等により範囲の特定や完全な対応が困難な場合には、価格調整のみで処理することは難しく、補償条項を中心とした契約上の手当による対応が必要となることが多くなります。
このように、制御可能性の評価は、最終的には取引における具体的な判断、すなわち誰がどのようにリスクを負担するかという形に整理されることになります。
3. 配分への変換―実務の核心
そして最も重要なのが、この評価を、最終的に誰がどのようにリスクを負担するのかという具体的な判断にどのように結び付けるかという点です。
この段階では、制御可能性の評価は、取引における具体的な判断、すなわち次の三つの類型のいずれに該当するかという形で整理されます。
(1)リスク引受(買主負担)
認識可能性及び対応可能性がいずれも高い場合には、当該リスクは事前に把握した上で価格に織り込み、買主が引き受けることが合理的と考えられます。
この場合、問題は責任の有無ではなく、当該リスクをどのように価格に反映し、投資回収の中で処理するかという点になります。
(2)契約配分(売主補償)
(1)に対し、リスクの存在は把握できたものの、対応可能性が限定的である場合には、買主のみが当該リスクを負担することは合理的とはいえません。
そのため、補償条項、表明保証、コベナンツ等を通じて、売主にも一定の負担を求める形でリスクを配分する必要が生じます。
(3)構造的対応(再設計・撤退)
リスクの存在自体を十分に把握できない場合や、把握できたとしても対応が困難な場合には、(1)や(2)のように、契約による調整だけでは対応に限界があります。
このような場合には、事業の切出し、リスクの隔離、保険の活用、さらには取引条件の見直しや撤退といった対応が必要となります。
例えば、対象事業から汚染懸念資産を切り離すカーブアウトや、SPVを用いたリスク隔離、環境保険の付保といった手法が実務上検討されます。
以上のとおり、制御可能性は単なる責任論ではなく、「どのような対応を取るべきか」という意思決定の分岐を示す基準として機能します。
Ⅵ. リスク類型との統合
環境リスクは、その種類によって、どこまで対応できるかの程度が異なります(環境リスクの類型化の一例についてはEnvironmental Law Newsletter 2026年4月号(Vol.23)「環境リスクの「質」は意思決定をどのように変えるか―リスク類型と制御可能性からみた不動産取引・M&Aにおける判断構造―」をご参照ください。)。
例えば、重大で不可逆的なリスクの場合には、事前に把握できたとしても、契約や価格の調整だけで十分に対応することが難しい場面があります。そのため、このような場合には、契約でリスクを調整することを前提とするのではなく、そもそも当該資産の取得自体を見送るという判断が合理的となることもあります。
一方、蓄積・不確実型のリスクについては、将来の規制変更を見据えて契約内容を設計しておくことが重要になります。例えば、規制が強化された場合に追加的な費用や調査義務が発生することを前提として、補償期間を長期に設定したり、一定の事象が生じた場合に対応を求める条項(いわゆるトリガー条項)を設けるといった対応が実務上検討されます。PFAS5のように、基準値や検査義務等の制度が将来変更され得る領域では、現時点で違法かどうかだけで判断するのではなく、将来規制が変わった場合に誰がどの対応を行うのかをあらかじめ整理しておくことが必要になります。
また、局所・管理可能型のリスクについては、主として費用と工期の問題として扱われることが多いといえます。例えば、アスベスト除去やPCB処理のように、対応に要する費用や期間を一定程度見積もることができる場合には、価格調整やクロージング前の対応として処理されるのが一般的です。もっとも、解体や改修を伴う不動産再開発の場合には、法令上求められる手続(事前調査、届出、作業基準の遵守等)によって、工期やコストが大きく変動する可能性があります。そのため、この類型においても、実際にどこまで対応可能であるかを踏まえ、費用及び工期の見積もりを慎重に行うことが重要となります。
Ⅶ. 契約設計への展開
当事者間において締結される契約は、制御可能性の評価を踏まえて、誰がどのリスクを負担するのかを具体的に定める役割を果たします。まず、リスクを事前に把握することができた場合には、その内容を開示する義務や、表明保証の対象として整理されることが一般的です。他方で、把握したリスクについて十分な対応が困難な場合には、補償条項、価格調整、エスクロー等を通じて、当該リスクの負担を調整することになります。
また、不確実性の高いリスクについては、契約による調整だけでなく、取引の構造や保険の活用によって対応することが重要となります。例えば、PCB廃棄物のように法令上の義務が承継される領域では、誰が保管事業者としての地位を引き継ぐかによって、最終的に誰が義務を負うのかが決まります。そのため、このような場合には、契約条項だけでなく、取引スキームの設計そのものが責任配分を左右することになります。
Ⅷ. 実務上の帰結
以上を踏まえると、環境デューデリジェンスとは、単にリスクの有無を確認する作業ではなく、当該リスクをどこまで把握できるか、また把握したリスクにどこまで対応できるかを評価する作業であるといえます。また、契約設計とは、その評価結果を踏まえて、誰がどのリスクを負担するのかを具体的に定めるプロセスであると整理することができます。
Ⅸ. 実務チェックリスト
①リスク類型
環境リスクを評価するに当たっては、まず、制御可能性を意識しつつ、リスクの種類を整理することが重要です。具体的には、当該リスクが、①重大な被害につながる可能性があるリスクなのか、②将来の規制や評価の変化により影響が拡大し得る不確実なリスクなのか、③範囲や費用を比較的見積もることができる管理可能なリスクなのかを区別する必要があります。
②認識可能性
次に、当該リスクを事前に把握することができたかを検討します。そのためには、対象会社における化学物質の使用履歴、製造工程、保管状況といった事業情報に加え、過去の土地利用や埋設物、搬入土の有無といった地歴情報、さらに指定区域の指定状況や届出、行政指導の履歴といった行政情報を総合的に確認する必要があります。
③対応可能性
これと並行して、把握したリスクにどのように対応できるかを検討することも不可欠です。具体的には、第一に、補償条項、表明保証、コベナンツといった契約上の手当てによる対応、第二に、費用の価格への織込みやエスクローの活用といった価格面での対応を検討します。さらに、これらで対応が困難な場合には、事業の切出しやリスクの隔離、保険の活用、さらには取引からの撤退といったスキーム上の対応も含めて検討する必要があります。
④判断
これらの検討を踏まえ、当該リスクをどのように処理するかを判断することになります。具体的には、①価格調整により買主が負担するのか、②補償条項等により売主に負担を求めるのか、あるいは③取引条件の見直しやスキームの再設計といった対応を行うのかを選択することになります。そして重要なのは、その配分がなぜ合理的といえるのかを説明できることです。
⑤総合評価(制御可能性)
そして、最終的に、当該リスクにどこまで対応できるかという制御可能性の程度に応じて意思決定を行います。すなわち、制御可能性が高い場合には価格に織り込んで買収を実行し、中程度の場合には契約条件によってリスク配分を調整し、低い場合にはスキームの見直しや撤退も含めて取引自体を再検討することになります。このような責任配分が、後に裁判や交渉の場面でも維持できるかという観点からも検証することが重要です。
Ⅹ. おわりに
環境リスクは、制御可能性を基に、そのリスクの存在自体ではなく、将来それが問題となった場合に、誰がその負担を負うことになるのかという観点から評価する必要があります。
また、この負担の分け方は、当事者間の合意だけで決まるものではなく、法令や行政規制といった制度の枠組みの中で妥当なものといえるかどうかが問われます。
したがって、不動産取引やM&Aの実務においては、誰が、いつ、どこまで当該リスクを把握できたのか、また把握したリスクについてどこまで対応できたのかを具体的に検討し、その結果として当該負担の分け方が合理的といえるかを検証することが不可欠です。
この検討を欠いた場合、契約上はリスクを配分したつもりであっても、その前提が後に崩れ、取引全体の条件が見直しを迫られる可能性があります。
以上のとおり、環境リスクの責任配分における問題は、単に誰が負担するかを決めることではなく、その負担の分け方が合理的といえるかという点にあります。そして、その判断に当たって重要となるのが、制御可能性、すなわち、当該リスクを事前にどこまで把握できたのか、また把握したリスクについてどこまで対応することができたのかという点です。
不動産取引、M&A取引においては、上記で述べてきたような責任配分の際に必要な検討を十分に行い、取引条件やスキームの再設計といった対応を迫られることのないような準備が求められます。
- 環境省「土壌汚染対策法第3条第2項に基づく通知等の運用について」(平成24年3月12日)
- 環境省「水質汚濁防止法の改正~地下水汚染の未然防止のための実効ある取組制度の創設~(平成24年6月1日施行) | 水・土壌・地盤・海洋環境の保全」
- PCBとはPoly Chlorinated Biphenyl(ポリ塩化ビフェニル)の略称で、人工的に作られた、主に油状の化学物質です。PCBの特徴として、水に溶けにくく、沸点が高い、熱で分解しにくい、不燃性、電気絶縁性が高いなど、化学的にも安定な性質を有することから、電気機器の絶縁油、熱交換器の熱媒体、ノンカーボン紙など様々な用途で利用されていましたが、現在は製造・輸入ともに禁止されています(環境省「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」、環境省「環境省_ポリ塩化ビフェニル(PCB)早期処理情報サイト_PCBとは?なぜ処分が必要か?」)。
- アスベスト(石綿)は、天然にできた鉱物繊維です。丈夫で変化しにくいため、吸い込んで肺の中に入ると組織に刺さり、15~40年の潜伏期間を経て、肺がん、悪性中皮腫(悪性の腫瘍)などの病気を引き起こすおそれがあります(厚生労働省「石綿障害予防規則など関係法令について」、環境省「私たちの環境とアスベスト」)。アスベストに関しては厚生労働省が「石綿総合情報ポータルサイト」を公開し、詳細な情報を発信しています。
- 主に炭素とフッ素からなる化学物質で、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物のことを指します。代表的なものとして、PFOAやPFOSなどが挙げられます。PFASに関する各国の規制については、「環境法務ハンドブック」(編著:森・濱田松本法律事務所外国法共同事業環境法プラクティスグループ、中央経済社、2025年)196~197頁、251~252頁、Environmental Law Newsletter 2024年6月号(Vol.7)「PFASをめぐる国内外の近時の規制動向」、Environmental Law Newsletter/中国最新法令 2024年7月号「中国におけるPFAS規制」をご参照ください。