Ⅰ. タイ:ノミニースキーム規制の厳格化―変更登記申請時の投資確認書の提出義務の導入
ノミニースキーム(名義貸し)の防止を主たる目的として、タイ商務省事業開発局(Department of the Business Development, Ministry of Commerce:「DBD」)から2026年3月16日付で、新たな命令(Order of the Office of the Central Company and Partnership Registration No. 1/2026 Re: Criteria and Procedures for Registration in Cases of Amendment to Allow Foreigners to Become Partners in Partnerships or Amendment to Allow Foreigners to Become Authorized Directors in Limited Companies:「本規則」)が公布され、2026年4月1日付で施行されました。以下では本規則の内容を概説します。
1. 本規則の概要
(1)投資確認書の提出が求められる場合
(a)非公開会社の場合
署名権限をもつ取締役が全員タイ人である会社が、取締役又は署名権限の定めの変更により、外国人取締役に署名権限を与える場合、当該変更のための登記を行う際、登記申請書に署名する取締役はLetter of Investment Confirmation(「投資確認書」)を提出する必要があります。
(b) パートナーシップの場合
全パートナーがタイ人であるパートナーシップ(すなわち、外国人パートナーの出資比率が0%であるパートナーシップ)又は外国人パートナーの出資比率が50%以上であるパートナーシップが、外国人パートナーの出資比率が50%未満のパートナーシップとなり、かつ、外国人のマネージングパートナーがいない場合、当該変更のための登記を行う際、登記申請書に署名するマネージングパートナーは投資確認書の提出が必要になります。
(2)投資確認書の内容
本規則には投資確認書の書式が添付されており、当該投資確認書に署名することにより、会社又はパートナーシップは以下の内容を確認・同意したことになります。
- 全ての株主又はパートナーが実際に出資分を拠出して払込済みであること
- タイ人がノミニーとして外国人による事業運営に関与していないこと
- タイ人がノミニーとして外国人による事業運営に関与した場合には刑事責任がされ得ることを認識していること
- 投資確認書において虚偽の申告をした場合には刑事責任が科され得ることを認識していること
- 登記官や担当官から上記の措置を講じるために関連当局に情報提供がなされること
2. 実務への影響
DBDはノミニースキームの抑止に継続的に取り組んでおり、2026年1月1日付で施行された各規則は、外国人株主が49%等の典型的な外資マイノリティの会社の設立登記申請の場面での規制を定めたものですが、設立後に株主の変更があった場合が抜け穴になるとの指摘もありました。タイ人の株主のみによって設立された会社に、新たに外国人が株主として参入して一定程度会社をコントロールしようとする場合、一般的には外国人取締役に署名権限が付与されると考えられるところ、本規則の会社に関する定めについては、そのような形で株主に変更があった場合を規制する位置付けにあるものと考えられます。他方、外資マジョリティの会社として設立を行い、後からタイ人株主が参入することでタイ内資ステータスを得ようとする場合は依然として規制の適用外と整理されますので、そのような抜け穴を防ぐための規則が今後も制定される可能性が考えられます。そのため、ノミニー規制に関するDBDの動向には引き続き注視が必要です。
(ご参考)
本レター第185号(2026年2月号)
Ⅱ. フィリピン:フィリピンにおけるIPO時の最低公開株式比率に関する規制等の見直し
フィリピン証券取引委員会(Securities Exchange Commission:「SEC」)は、2026年2月、2026年Memorandum Circular第11号において、IPO(新規株式公開)時における最低公開株式比率(Minimum Public Ownership)1に関する新たな枠組みを導入しました。本改正は、従来一律で20%とされていたIPO時の最低公開株式比率を見直し、株式公開に関する規制を市場環境や企業規模に応じた柔軟なものとすることを目的としています。
新制度の特徴は、IPO時点における想定発行価額に応じて必要な最低公開株式比率を段階的に設定する「ティア制」の採用です。その具体的な内容は下表のとおりです。
| IPO時における想定発行価額 | 最低公開株式比率 |
|---|---|
| 5億フィリピンペソ(「PHP」)(約13億2,880万円)以下 | 33% |
| 5億PHP超10億PHP(約26億5,900万円)以下 | 25% |
| 10億PHP超500億PHP(約1,329億1,785万円)以下 | 20% |
| 500億PHP超 | 15% (想定発行価額が2,000億PHP(約5,314億6,520万円)以上の大型案件については、流動性や投資家保護の確保を条件に12%まで引き下げ可能) |
また、IPO後の上場維持基準についても、IPO時の想定発行価額に応じ、最低公開株式比率が下表のとおり定められています。当該最低比率を下回った場合、上場を維持するためには、6か月以内に所定の水準まで公開株式比率を回復する必要があります。
| IPO時における想定発行価額 | 最低公開株式比率 |
|---|---|
| 500億PHP以下 | 20% |
| 500億PHP超(約1,329億1,785万円) | 15% |
本改正の背景として、近年のIPO件数の低迷や、大型案件における株式市場での需給バランス等の問題が指摘されていました。時価総額の規模を問わず最低公開株式比率を一律20%とする従前のルールは、過度に画一的なものであるとの批判がありました。この点、今回の見直しにより、大型テック企業やインフラ企業等によるIPOが促進され、資本市場の活性化につながることが期待されています。
本改正は、フィリピン資本市場の競争力向上を意図した重要な制度変更であり、今後のフィリピン資本市場、ひいてはフィリピン経済に影響を与える可能性があります。フィリピンでの上場やフィリピンの上場企業の株式取得を検討する企業は、今般改正された最低公開株式比率を踏まえた検討が必要となります。
Ⅲ. マレーシア:割賦販売法改正法6月に施行へ
マレーシアのHire-Purchase(割賦販売)法は、2026年6月1日に改正法(Hire-Purchase Amendment Act 2026)が施行され、大幅な制度見直しが行われます。本改正は、従来の制度における利息計算の不透明性や不十分な消費者保護といった課題に対応し、透明性の向上、公平な負担構造の確立、デジタル化対応を主軸とするものです。以下主要な改正ポイントについて、ご紹介いたします。
1. 利息計算方法の変更
従来の割賦販売契約では、フラットレート方式や「Rule of 78」と呼ばれる計算方法が用いられてきましたが、これらは返済初期に利息負担が集中する構造であり、早期返済時における不公平が問題視されていました。改正法では、未払元本に基づく残高方式(reducing balance method)を導入しており、これにより、返済の進行に応じて利息負担が減少する、より実態に即したコスト構造が確立されることになります。
これと併せて、全ての契約において実効金利(Effective Interest Rate:「EIR」)、すなわち、融資期間全体を通じて実際に支払う利率の開示が義務付けられることとなりました。EIRの導入により借入コストの実質的な比較が可能となり、従来の表示方法では把握しにくかった、購入者の利息負担が明確化されることが見込まれます。
2. 電子化の推進
改正法のもとでは、割賦販売契約に関して、電子署名・デジタル署名及び電子通知の利用が明確に認められた点も実務上重要です。
3. その他の改正点
改正法のもとでは、金融機関に対し割賦販売による購入者の素性につき一定のデューデリジェンスを行いその記録を保管することを求めたり、割賦販売の対象物から金融機関が回収できる金額が未払い残高の額を上限とすることを明確化したり、契約書の文字の色・サイズについても規定を設けるなどの一連の改正も導入されています。
改正法の施行は2026年6月1日ですが、割賦販売業者における未払元本に基づく残高方式及び実効金利の適用のために必要なシステム・インフラの整備のために、2027年3月31日まで猶予期間が設けられる予定です。
総じて、本改正はマレーシアの割賦販売制度をより透明かつ公平なものへと転換するものであるといえます。企業としては、利息計算ロジック及び開示資料の見直しを含むシステム改修を行うこと、EIRを前提とした顧客説明や販売資料を整備すること、そして電子契約の活用を見据えた業務フローの再構築を行うことなどが必要となると見込まれます。
Ⅳ. インドネシア:決済システム事業に関する銀行規則等の施行
2025年12月24日、インドネシア銀行は、決済システム事業に関するインドネシア銀行規則2025年10号及びその実施規則としてのインドネシア銀行理事会規則2025年32号(併せて「本規則」)を公布しました。本規則は、2026年3月31日より施行されています。
本規則は、インドネシア銀行の「インドネシア決済システム・ブループリント2030」政策の一環として、インドネシアの決済システム事業規制の枠組みを大幅に見直すものとなっており、決済システム事業者(決済サービス事業者及び決済インフラ事業者を含み、これらを総称して「PSP」)に関し、新たな規制枠組みを設け、また新たな義務を課しています。本レターでは本規則のうち重要と思われる事項を3点紹介します。
1. TIKMIフレームワークに基づく評価
本規則の施行により、PSPは、①取引規模(Transaction)、②他の事業者/システムとの相互接続性(Interconnection)、③適格性(Competency)、④リスク管理(Management Risk)、及び⑤ITインフラ(IT Infrastructure)の各観点(インドネシア語で頭文字を取り、「TIKMI」)、並びにインドネシア銀行が定めるその他の基準に基づき、(各PSPによる自己評価を経た上で)インドネシア銀行により評価され、主要PSP又は準PSPに分類されることになります(主要PSPに分類されれば、より高度の規制に服します。)。
初回のTIKMI評価の結果及びそれを踏まえたPSPの分類は、2027年3月31日までにインドネシア銀行より各PSPに対して通知されることとされています。
2. 決済サービス事業者の業務枠組み及びライセンスの再編
本規則の施行により、PSPのうち決済サービス事業者の業務が大別して①電子マネー発行、カード発行及び決済口座管理を含む資金供給源管理業務及び②決済ゲートウェイ、アクワイアリング、データ転送及び送金サービス(デジタル・非デジタルを含む)を含む決済取引中継業務の2つに整理されています。
その上で、事業ライセンスに関し、従前は各決済サービス事業者が行う個別の業務ごとに付与する枠組みが取られていたところ、本規則により、業務の組み合わせ(バンドル)方式が導入されており、以下のバンドルごとにそれぞれ異なるライセンスが必要とされています。これは、決済サービス事業者の業務の柔軟性を高め、また国際的な決済システムの慣行との整合性を図ることが目的とされています。
(1)バンドル1(1A/1B)
資金供給源管理業務+決済取引中継業務(なお、1Aが主要PSPを、1Bが準PSPを、それぞれ想定しています)
(2)バンドル2
決済取引中継業務のみ
(3)バンドル3
非デジタル送金サービスに関する決済取引中継業務のみ
なお、本規則上、PSPが資金供給源管理事業のみを行うことを想定したバンドルは規定されていません。
既存の決済サービス事業者がいずれのバンドルに該当するかについても、2027年3月31日までにインドネシア銀行より各事業者に対し通知されることとされています。既存の決済サービス事業者としてのライセンスは引き続き有効ですが、本規則に基づいたインドネシア銀行による主要PSP又は準PSPの分類及びバンドルの指定を踏まえ、満たせていない要件等があれば原則として本規則施行後3年以内(インドネシア銀行の許可を得れば5年に延長可)に、是正する必要があります。
3. 事業計画の提出義務
本規則の施行により、PSPに対して、本規則の定める内容(例えば経営方針、事業環境分析、リスク管理体制、財務予測等)を記載した戦略的事業計画(3年分の中期事業計画)及び年次事業計画の提出が新たに義務付けられています。戦略的事業計画についてはインドネシア銀行の承認は不要ですが、年次事業計画についてはインドネシア銀行の承認が必要となります。年次事業計画に対するインドネシア銀行の承認は、当該計画に記載された新規事業の承認も兼ねることになります。
初回の戦略的事業計画及び2026年度の年次事業計画の提出期限は2026年4月30日とされています。2026年度の年次事業計画の提出期限については、本規則の施行のタイミングも踏まえた特例であり、今後は毎年11月30日までに翌年分の年次事業計画の提出が義務付けられ、提出後40営業日以内にインドネシア銀行により承認されることとされています。
Ⅴ. シンガポール:MASによる第三者リスク管理ガイドライン案の公表
2026年3月6日、シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore:「MAS」)は、金融機関における第三者サービスのリスク管理枠組みを強化するため、「第三者リスク管理(Third Party Risk Management)」に関する新たなガイドライン案(「本ガイドライン案」)を公表し、意見公募手続を開始しました。本レター第172号(2025年2月号)でも触れたとおり、銀行・金融機関には、既に外部委託に関する2つのガイドライン(①Guidelines on Outsourcing (Banks)及び②Guidelines on Outsourcing (Financial Institutions other than Banks)(総称して「旧ガイドライン」))が適用されていますが、本ガイドライン案は、これらの旧ガイドラインに取って代わるものとなります。また、本ガイドライン案は、これまで外部委託に限定されていた規制の適用範囲を、金融機関が利用するあらゆる第三者サービスに拡張するなど、包括的なリスク管理体制の構築を求める点に特徴があります。本レターでは、本ガイドライン案の主要な点について概説いたします。
1. 本ガイドライン案の主要な規定
(1)支店・子会社に対する監督
支店又は子会社を有する金融機関(MASによる連結監督の対象である場合又は重要情報インフラを保有する場合)は、海外を含む支店・子会社が利用する第三者サービスが連結ベースの業務に与える影響を評価し、グループ全体で整合的なリスク管理枠組みを採用することが期待されています。
(2)第三者取引の記録・登録
第三者取引におけるリスクを適切に管理するため、第三者取引の記録を作成・更新すること、及び重要な第三者取引を含む登録簿を半期ごと並びにMASの要請時に提出することが提案されています。
(3)第三者取引のライフサイクル管理
本ガイドライン案は、第三者取引の各段階(リスク評価、デューデリジェンス、契約、導入・モニタリング、終了)に関する指針を示しています。また、重要な変更が生じた場合や定期的な見直しの一環として、リスク評価及びデューデリジェンスを再実施することを求めています。
(4)重要な下請業者の利用について
下請業者の利用は追加的なリスクをもたらす可能性があることから、本ガイドライン案では、重要な下請業者との取引については、第三者取引の記録に含めることが提案されています。また、サービスの大部分が再委託される場合にも、適切な管理・監督が行われることを確保するよう求めています。
2. 本ガイドライン案の背景、今後の展望
第三者サービスの活用は、業務遂行の支援及びコスト効率の向上に資する一方で、管理上のリスクをもたらし得ます。本ガイドライン案は、金融機関による第三者サービスの利用が外部委託の範囲を超えて進展していることを踏まえ、これらのリスク管理に関する金融機関への期待水準を示すために提案されたものです。金融機関が本ガイドライン案の期待水準をどの程度実施するかは、当該金融機関の規模及び複雑性、並びに利用する第三者サービスのリスク・重要性に見合ったものであるべきとされています。
意見公募手続は2026年4月20日が期限とされており、本ガイドライン案の発行後6か月の移行期間を設けることも提案されていることから、確定的なガイドラインの策定・公表・施行までには今しばらく時間がかかると思われますが、引き続きその動向に注意が必要です。
(ご参考)
本レター第172号(2025年2月号)
Ⅵ. ミャンマー:新政権発足に向けた動き―ミン・アウン・フライン大統領の選任等
ミャンマーでは、2021年2月に国家緊急事態宣言が発出されて以降、国軍最高司令官の下に国家権力が集中する体制が続いてきました。最終的に同宣言は2025年2月に解除されるまで延長が繰り返され、総選挙の実施や新たな統治体制への移行に向けた準備が進められてきました。
こうした中、総選挙は2025年12月から2026年1月にかけて複数回に分けて実施されました。主要な民主派勢力の参加が認められない中で実施された総選挙では、国軍系政党である連邦団結発展党(USDP)を中心とする勢力が議会の多数を占める状況となっています。
この選挙結果を受けて、2026年4月、国会においてミン・アウン・フライン前国軍最高司令官が大統領に選出されています。同氏は憲法上の要件に従い国軍トップを退任したものの、後任には側近が就任しており、引き続き国軍への影響力も維持する体制とみられます。また、副大統領についても軍又はこれに近い勢力に属する人物が選出されており、政権中枢の構成に大きな変化は見られません。さらに、各省庁の主要ポストを含む主要な政府関連機関のメンバーについても一部交代の動きがみられ、体制の再編が進められています。
現在は、新大統領の下での統治体制の整備に向けた準備が進められている段階にあり、今後の政策運営や規制動向への影響が注目されます。加えて、国内では武装勢力との衝突が継続しているほか、中東情勢の影響による原油供給の不安定化を背景とした燃料不足等、経済・社会面での不確実性も高まっています。このような状況を踏まえ、ミャンマー事業に関しては、政治・治安情勢及び関連規制の動向に関し、引き続き慎重なモニタリングが求められそうです。
Ⅶ. ベトナム:カーボン・クレジットの国際移転に関する新政令を公布-日本企業のJCMプロジェクトへの影響
日本では2026年4月1日に改正GX推進法が施行され、排出量取引制度(GX-ETS)が開始されました。GX-ETSの適格クレジットとして二国間クレジット制度(JCM)クレジットが注目されていますが、期待されたペースでの創出が進まない状況となっています。その理由の一つとして、パートナー国(ホスト国)における法制度の整備状況が追い付いていないという点があります。そうした中、ポテンシャルの高いパートナー国であるベトナムでJCMの実現に向けて大きな動きがありました。
2026年4月1日、ベトナム政府は、温室効果ガス排出削減成果及びカーボン・クレジットの国際移転に関する政令112/2026/ND-CP(「本政令」)を公布しました。本政令は2026年5月19日に施行されます。本政令は、パリ協定6条に基づくカーボン・クレジットの国際移転に関し、プロジェクト登録から移転承認に至るまでの包括的な手続規定を初めて整備するものであり、JCMを含むパリ協定6.2条に基づくプロジェクトをベトナムで実施する日本企業にとって極めて重要な制度的枠組みとなります。
本レターでは、本政令の概要をご紹介した上で、JCMプロジェクトを念頭に、相当調整(corresponding adjustment)付きクレジットの国際移転を行うための主要な手続及びプロジェクト類型ごとの移転割合について解説します。
1. 本政令の適用範囲
本政令は、パリ協定の下での温室効果ガス排出削減成果及びカーボン・クレジットの国際移転を行う機関及び組織に適用されます。具体的には、①パリ協定6.2条に基づく協定(「6.2条協定」)の枠組みでの取引、②パリ協定6.4条メカニズムの下での取引、及び③これらの枠組み外での取引の三類型を対象としています。JCMは、日本国政府とベトナム政府との間の二国間協定に基づく制度であり、6.2条協定の枠組みに該当します。
2. 相当調整(Corresponding Adjustment)の仕組み
本政令において「相当調整」とは、ホスト国が、国際的に移転されたITMOs(Internationally Transferred Mitigation Outcomes)の量に相当する排出量を、自国の温室効果ガス排出インベントリに加算する措置をいいます。相当調整は、農業環境省がベトナム政府を代表して行います。
相当調整付きの国際移転は、移転先国がJCMクレジットを自国のNDC達成に活用するために不可欠な手続です。日本企業がJCMプロジェクトで取得したクレジットを日本のNDC達成に活用するためには、ベトナム政府による相当調整付きの国際移転承認書の取得が必要となります。
3. JCMプロジェクト実施の主要ステップ
JCMを含む6.2条協定に基づくプロジェクトを実施し、相当調整付きでクレジットを国際移転するためには、①ベトナムとパートナー国間での6.2条協定の締結、②プロジェクト・アイディアの登録、③プロジェクト登録、④排出削減成果の算定・報告・検証、⑤排出削減成果及びカーボン・クレジットの認定・発行、⑥相当調整付き国際移転の承認というステップをたどります。これらのプロセス自体は概ねJCMと一致しています。
もっとも、上記①(6.2条協定の締結)について、JCMについては日越両政府間で既に二国間文書が締結されていますが、本政令の施行に伴い、既存の枠組みがそのまま本政令における6.2条協定として認められるのか、今後の動向を注視する必要があります。また、上記②から⑥については、各段階でベトナム政府の承認が必要とされている点にも留意が必要です。JCMプロジェクトに関しては二国間合同委員会の承認を得ることで足りるのか、それともJCMのプロセスに加えて各段階で本政令に基づくベトナム政府の承認を要するのか、本政令とJCMのプロセスがどのような関係に立つのかについて整理が必要となりそうです。
4. プロジェクト類型ごとの移転割合
本政令は、相当調整付きの国際移転について、プロジェクト類型に応じた最大移転割合を定めています。
付表Iの「リスト第1号」(優先的に国際移転される排出削減措置・活動)に該当するプロジェクトについては、排出削減成果・クレジットの最大90%が移転可能です。付表Iの「リスト第2号」(国際移転が奨励される排出削減措置・活動)に該当するプロジェクトについては、最大50%が移転可能です。リスト第1号又は第2号に記載されていない類型のプロジェクトについては、相当調整を認めない趣旨だと解されます。なお、相当調整を伴わない国際移転の場合は、全てのプロジェクトについて最大90%の移転が可能です。
この点、相当調整付きの国際移転が認められるプロジェクトが限定列挙されたという点に留意が必要です。リストの中で特に注目されるのは、従来型の太陽光再エネ案件が除外されている点や、日本企業の関心が高いAWD(水田の間断灌漑)が最大90%のカテゴリーに含まれている点です。また、既存の再生可能エネルギー又は省エネに関するJCMについては(リストの対象にならないプロジェクトであったとしても)最大50%の移転が可能とされています。
5. 日本企業への実務的示唆
本政令の施行により、ベトナムにおけるJCMプロジェクト実施のための制度的枠組みが明確化されました。ベトナムにおけるJCMプロジェクトは本政令の制定を待つ形で停止した状態が続いていました。本政令の施行によりJCMプロジェクトに関する手続が本格的に動き出すことが予想されます。ベトナムでJCMプロジェクトを実施中又は計画中の日本企業は、本政令の各手続要件を早期に確認すると共に、日本の関連省庁とも連携し、JCMプロジェクトに関する手続を早期に開始されることをお勧めします。なお、本政令の内容についてJCMプロジェクトの実務を踏まえたより詳細な分析を行っています。ご関心のある方はご連絡を頂けますと幸いです。
(武川 丈士)
今月のコラム ―ベトナムで愛される「ビダ」の世界―
「この国、ビリヤードホール多くないか?」
出張や旅行等でベトナムを訪れた方なら一度は思ったことがあるのではないでしょうか。現地では「ビダ(Bida)」と呼ばれるビリヤードは、ベトナムではもはや国民的娯楽の域に達しているといえます。SNSでも「#bida」のハッシュタグには多くの投稿が並んでおり、その人気度合いがうかがえます。
東京で金曜の夜にカラオケの空室を探す感覚に近いでしょうか、筆者も週末の夜に空き台を求めてビリヤードホールをはしごした経験は一度や二度ではありません。
2人で1時間、ドリンク込みで合計6万ドン(約360円)ほど—筆者も仕事終わりに近場のビリヤードホールに行くことがよくありますが、ベトナムではとにかくお手頃な価格で遊べます。初めて訪れた時は桁が一つ間違っているのではないかと思い、二度確認したほどです。日本だとコンビニでおにぎりと缶コーヒーを買うぐらいの値段で、友人と1時間キューを振り回せるのですから、もはや趣味として反則です。

そんなビリヤードですが、日本で一般的に持たれているイメージとはやや異なり、ベトナムでは高い戦略性と繊細な技術が求められる知的スポーツとしてのイメージが強いように思われます。エアコン完備の清潔感あふれるビリヤードホールは、コーヒーや軽食も楽しめる社交の場としても機能しており、スマホを置いて友人と笑い合うひとときを提供しています。ハスラーの気配はゼロ、漂うのはベトナムコーヒーの甘い香りだけです。
ところがこの「街中の娯楽」、実は世界レベルの競技力を育んでいるというから驚きです。特に、スリークッションキャロム(ポケットのないテーブルで行われるビリヤードの一種)世界選手権において過去3年で2度世界チャンピオンとなっており、国際大会の表彰台にベトナム国旗が翻る光景はもはや珍しくありません。街中のビダ台で腕を磨いた少年少女が、やがて世界の頂点に立つ—ベトナムではそんなシンデレラストーリーが現実に起きています。次にベトナムを訪れた際には、ぜひビダ台の前に立ってみてはいかがでしょうか。ただし、地元の常連に勝負を挑むのは、それ相応の覚悟を持ってからにすることをお勧めします。サンダル姿のおじさんが涼しい顔で繰り出すショットに、あなたのプライドが木っ端微塵にされても、筆者は一切責任を負いかねます。

(千村 大樹)
- 最低公開株式比率(Minimum Public Ownership)は、上場会社が維持しなければならない、発行済株式における流通株式(Public Float)の比率です。なお、流通株式の算定において、発行済株式の10%以上を保有する株主が保有している株式は、流通株式から除外されます。