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Wealth Management Newsletter

取引相場のない株式の評価に関する有識者会議における議論の状況

Ⅰ. はじめに

本年7月3日に国税庁は「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」(以下「有識者会議」といいます。)の第4回会合が開催しました。4月20日の第1回会合以降、月に1度のペースで会合が行われており、公表されている議事要旨や配布資料を通じて、有識者会議における議論の内容が見えてきました。

Wealth Managament Newsletter 2026年4月号(Vol.33)においては、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議の開催と通達改正」と題して、議論の経緯や有識者会議の第1回会合について取り扱いましたが、本ニュースレターでは、その後公表された有識者会議の会合の議事要旨及び国税庁の配布資料を踏まえた議論の状況、予想される改正の方向性や実務上の影響について概説します。

Ⅱ. 有識者会議における議論の状況

第2回会合以降の有識者会議では取引相場のない株式(以下「非上場株式」といいます。)の評価方法について意見が交わされ、第4回会合の配布資料(以下「本資料」といいます。)1では、これまでの有識者会議における参加委員からの主要な意見がとりまとめられています。国税庁が作成した資料において取り上げられている意見を通して、国税庁側の関心の所在をうかがい知ることができることから、その概要をご紹介します。

1. 原則的評価方式の一本化・類似業種比準方式の見直し

現行の原則的評価方式では、類似業種比準方式と純資産価額方式が採用されています。いずれの評価方式を採用するかは、評価対象会社の会社規模によって異なります。具体的には、評価対象会社を総資産価額、従業員数及び取引金額に基づいて大会社、中会社又は小会社に区分し、大会社については類似業種比準方式、小会社については純資産価額方式、中会社についてはこれらを併用する方式を、それぞれ原則として採用しています。

この原則的評価方式に関して、類似業種比準方式や純資産価額方式が有する問題点を踏まえて、評価方法をいわゆるインカムアプローチに一本化するべきとの意見が紹介されています。

もっとも、インカムアプローチの問題点として、他の参加委員から、「インカムアプローチ、特にDCF法については、信頼性の高い事業計画が前提となるものの、中小企業では事業計画自体を策定していないケースがほとんどであり、仮に策定されていたとしても、後継者不在を背景とするM&Aの場面では、既存の事業計画を誰が責任を持って実現するのかを説明することは容易ではない」といった指摘もなされています2。それ以外では、インカムアプローチのうち残余利益モデルを用いる方法や、純資産価額方式に評価方法を一本化すべきとする意見も紹介されています。もっとも、残余利益モデルについては、将来利益や自己資本コストをどのように算定すべきか等の点も議論されています3

加えて、類似業種比準方式には、算定方法等に理論的・実証的な裏付けがないといった問題点を指摘する意見も紹介されています。これに対しては、同方式には簡便性という実務上の利点があることや、事業承継の役割を担ってきた一連の流れと歴史があること等が反対意見として挙げられています。しかし、少なくとも経緯や歴史という点は、現行方式を維持すべき理論的根拠として十分な説得力を有するものではないようにも思われます。

2. 純資産価額方式の見直し

純資産価額方式については、継続企業を清算価値に相当するもので評価することの合理性を問う意見、評価額が過大ではないかという意見や問題意識を前提として、評価会社が保有する資産について時価への洗替えを行う事務負担の大きさを指摘する意見や、現物出資等により著しく低い価額で受け入れた資産について法人税額等相当額を控除しない現行の取扱い4を廃止すべきとの意見が紹介されています。

後述する各種スキームが検討・実行される背景には、純資産価額方式による評価額が他の評価方式と比較して高額となりやすいという事情もあると考えられるところ、純資産価額方式については、評価額がより低く算定される方向で見直しが行われる可能性も考えられます。

3. 配当還元方式の見直し

配当還元方式は、少数株主が保有する非支配株式について、その株式から期待される経済的利益は配当に限られるとの考え方を前提として採用されている特例的な評価方式です。

配当還元方式については、還元率を現行の10%から引き下げるべきとの指摘が会計検査院から指摘が行われていますが5、還元率を引下げて配当還元方式によって算出される評価額が上昇した場合、少数株主の整理が難しくなる懸念や、一般に配当還元方式による評価が使われている従業員持株会を事実上設立できなくなる懸念のほか、そもそも配当還元方式について資本金が巨額であっても、無配当である場合には、低株価となることの問題点を指摘する意見が紹介されています。

また、後述する本資料で言及されたスキームの中には、無議決権株を利用して、配当還元方式による評価を前提として設計されたものがありますが、当該スキームへの対応として、配当還元方式の適用対象の判断を、議決権ではなく、持株比率によって行うことを提案する意見も紹介されています6

4. 特定の評価会社の判定等

現在、特定の評価会社のうち比準要素数1の会社に該当するか否かは、配当、利益及び純資産といういわゆる比準3要素(「1株当たりの配当金額」、「1株当たりの利益金額」及び「1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)」)の状況を踏まえて判定されています。しかし、現行制度では、比準3要素のうちいずれか2つ以上が0でない場合に、比準要素数1の会社に該当しないこととなるため、基準時点に合わせて配当額や利益水準を調整することにより、判定結果を左右し得る余地があることが指摘されています。

また、評価会社の実態と評価額が必ずしも整合していない場面があることも問題として挙げられています。例えば、継続して赤字を計上している会社が、比準要素数1の会社に該当することよってかえって高い評価額となる場合があり、企業の実態を十分に反映しているとはいえないケースも存在します。

有識者会議では、判定基準が評価会社の実態をより適切に反映するものとなるよう、判定方法そのものを見直すべきとの意見が紹介されています。具体的な制度設計は今後の議論に委ねられるものの、判定基準の在り方について見直しが行われる可能性があります。

Ⅲ. 評価圧縮スキーム事例への言及

本資料では、各評価方法の理論的な問題点を整理した上で、それらを利用した具体的な評価圧縮スキームが別添資料として紹介されています。この構成からは、評価方法そのものの見直しだけでなく、現行制度の下で利用されている評価圧縮スキームへの対応も、本件見直しの重要な検討目的の一つとなっていることがうかがわれます。なお、第1回会合の配布資料7においても、評価額圧縮スキームの事例が取り上げられていましたが、第4回会合では類型が複数追加される等、国税庁が問題意識を有しているスキームがより具体的に整理されています。

これらの類型は、グループ会社間で資産を移動等することによって意図的に会社規模区分を変更したり、特定の評価会社に該当しないようにしたりすることにとどまらず、借入による不動産取得により純資産価額を圧縮するスキームまで多岐にわたります。そのため、単に評価方式間の乖離を見直すだけでは、これらのスキームの全てに対応することは難しいようにも思われます。これらのスキームは、有識者会議の配布資料において明示的に紹介されたものである以上、今回の有識者会議において、非上場株式の評価制度全体が改正の検討対象となる可能性も否定できないところです。

Ⅳ. 実務への影響

第4回会合の開催後においても、新しい評価方式に関する議論がどのように着地するのか、いまだ明らかにはなっていません。しかしながら、今回の財産評価基本通達の改正が実現した場合、資産税実務に少なからぬ影響を与えることが見込まれています。特に、過去に何らかの株価対策を実行しつつも、株式の承継が済んでいない企業オーナーにおいては、通達改正による影響の検証と対策の再設計が求められる可能性があります。今後の有識者会議の議論の動向、そして令和9年度税制改正大綱の内容次第で、改正後の通達が適用される前に駆け込み的な株式承継が行われることが想定されます。

これに加えて、企業オーナーの株式承継のスケジュールをより複雑にしているのが、特定の所得基準金額の課税の特例(以下「ミニマム課税特例」といいます。)の改正による影響です。ミニマム課税特例は、令和8年度税制改正により、令和9年分の所得税から税率の引き上げと特別控除額の引き下げが行われることになっています8。企業オーナーが後継者に対して贈与により株式を承継する場合には、ミニマム課税特例の改正による影響は考慮する必要はありませんが、例えば非後継者の遺留分に配慮して、後継者(又はその資産管理会社)に売買により株式を承継することはしばしば行われています。このようなケースでは、ミニマム課税特例による税負担が重くなる前に、通達改正を待たずして株式承継を実行することも想定されます。

このような、通達改正前に駆け込み的に行われた株式承継については、当然に改正前の財産評価基本通達に基づいて評価が行われることになります。ただし、本資料において様々な評価圧縮スキームが紹介されていたこともあり、駆け込み的な株式承継について税務当局が総則6項を適用するリスクがあるのではないかと懸念されるところです。この点、最高裁令和4年4月19日判決9が示した規範を踏まえれば、評価方法の改正前に取引を行ったという事情のみをもって直ちに「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」が認められるとは考えにくく、財産評価基本通達にも基づかない課税処分の可否は、従前からの事業承継計画の有無や、評価圧縮を目的とした行為が実施されているか等、個別の事案に即して判断されるものと考えられます。

なお、第4回会合において日本商工会議所からの参加委員より提出された意見書において、非上場株式の評価方法の大幅改正の影響が広範囲となることから拙速な議論を避け、調査を実施すべきとの意見や仮に新たな評価方法を導入する場合、負担増となる事業者がいないか綿密にシミュレーションを実施し、影響の範囲や大きさ等を十分に検証すべきを行うべきとの意見が表明されています。

現時点では具体的な改正内容は明らかではありませんが、有識者会議において評価制度の根幹に関わる論点や具体的な評価圧縮スキームまで議論の対象とされていることを踏まえると、今後の議論の動向を注視するとともに、非上場株式の承継や譲渡を予定している案件については、改正時期や経過措置も含めた慎重な検討が求められるといえます。

Ⅴ. おわりに

以上で見てきたとおり、今回の取引相場のない株式の評価方法に関する見直しの議論は、従来から問題視されてきた類似業種比準方式や配当還元方式といった個別の評価方法にとどまるものではありません。特定の評価会社の判定、評価圧縮スキームへの対応等、取引相場のない株式の評価制度全体を視野に入れた検討が行われている点が注目されます。

非上場株式の評価は、事業承継、M&A、組織再編、相続・贈与等幅広い場面に影響を及ぼすものであり、評価方法の見直しは実務にも少なからぬ影響を与えることが予想されます。今後も有識者会議における議論や制度改正の動向を注視するとともに、非上場株式の譲渡や承継等を検討する際には、改正の内容やタイミングも踏まえながら、税務・法務双方の専門家と連携の上、適切に対応することが肝要といえます。

  1. 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第4回)」(2026年7月7日)。
  2. 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第2回)」(2026年5月11日)熊谷委員説明参照。
  3. 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第3回)」(2026年6月4日)櫻井委員質問等参照。
  4. 現行の評価方法では、適格現物出資等によりグループ会社間で簿価の低い資産を評価対象会社が取得することで、人為的に評価差額を作出し、法人税額等相当額の控除を受けることができてしまうことから、法人税額等相当額の計算上、現物出資等受入れ資産の相続税評価額と帳簿価額との差額は考慮しないこととされています。
  5. 会計検査院「令和5年度決算検査報告」(2024年11月)。
  6. 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第3回)」(2026年6月4日)玉越委員説明参照。
  7. 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」(2026年4月20日)
  8. 詳細については、弊所Wealth Management Newsletter 2026年5月号等をご参照ください。
  9. 令和4年最判の詳細については、弊所Wealth Management Newsletter 2022年5月号等をご参照ください。

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