(後編(Vol.48)に続く)(後日配信予定)

目次
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Ⅱ. 強制公開買付規制及び関連概念の改正(以上本号)
Ⅰ. はじめに
2025年7月4日、金融庁は、同年3月14日から4月13日までの間に実施していた令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等に関するパブリックコメントの結果(「本件パブコメ」)を公表しました。また、これとともに改正後の関係政令・内閣府令等が公布されました1。
これは、2024年5月15日に成立した「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」(「令和6年改正法」)による改正後の公開買付規制・大量保有報告規制について、関係政府令等の規定の整備を行うものです2。改正後の法及び関係政府令等の施行日は2026年5月1日です。
本ニュースレターでは、本号(Vol.47)と次号(Vol.48)の2回に分けて、令和6年改正法による他社株公開買付規制の改正内容を、改正後の政府令等及び本件パブコメの内容も織り交ぜながら解説いたします3。
Ⅱ. 強制公開買付規制及び関連概念の改正
1. 強制公開買付規制の改正
(1)概要
今般の公開買付規制の改正点の中でも最も大きなものが、強制公開買付規制の適用範囲の改正です。現行法では、強制公開買付規制の適用範囲が、①市場外取引を対象とした5%ルール(現行法27条の2第1項1号)及び②市場外取引を対象とした3分の1ルール(同項2号)のほか、③ToSTNeT取引等に関する規制(同項3号)、④急速買付規制(同項4号・6号)、⑤他者の公開買付期間中の買付け等(同項5号)と、取引類型に応じて複雑に定められています。これに対し、新法では、強制公開買付規制の適用対象は以下の2つに整理され、急速買付規制と他者の公開買付期間中の買付け等に関する規制は廃止されることとなりました4。
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(2)3分の1ルールの変更(30%ルール)
現行法上の3分の1ルールについては、以下の2点の改正が行われています。
改正点 | 趣旨 |
対象が市場内取引にも拡大されたこと | 現行法上、市場内取引については、一定の透明性・公正性が担保されているとの考え方に基づき、原則として強制公開買付規制の適用対象外とされています。もっとも、近時は市場内取引を通じて議決権の3分の1超を短期間のうちに取得する事例も見受けられ、そのような会社支配権に重大な影響を及ぼすような取引については、投資判断に必要な情報・時間が一般株主に十分に与えられていないといった問題が指摘されており、これを背景に市場内取引も原則として強制公開買付規制の対象とされました(WG報告I.2.(1))。 |
閾値が3分の1から30%に引き下げられたこと | 公開買付制度の目的は会社支配権等に影響を及ぼすような証券取引の透明性・公正性を確保する点にあるところ、日本の上場会社における議決権行使割合を勘案すると、30%の議決権を有していれば、多くの上場会社において株主総会の特別決議を阻止することができ、株主総会の普通決議にも重大な影響を及ぼし得ることや、諸外国の水準に鑑み、閾値については30%に引き下げられました(WG報告I.4.)。 |
(3)急速買付規制の廃止
急速買付規制の廃止については、現行法上規制対象となる一定の取引類型(例えば、大株主から相対取引で29%取得した後3ヶ月以内に公開買付けや新規発行取得により6%の株式を追加取得する取引)が強制公開買付規制の対象ではなくなる点が注目されます。もっとも、令和6年改正法の立案担当者は、「各取引の目的の共通性や時間的近接性等の個別の事情を勘案し、実質的な観点から、複数の取引が一連の取引と評価される場合がある」としており6、今後の実務対応に当たって留意する必要があります。
2. 適用除外に関する改正
(1)適用除外買付け等に関する改正
新法では、現行法と同様、適用除外買付け等に該当する場合には、5%ルールや30%ルールの要件に該当しても強制公開買付規制の適用対象外となります(法27条の2第1項但書)が、今般の改正により、適用除外買付け等の内容に変更が生じます。その改正内容は以下のとおりです7。
改正点 | 条文 | 検討 |
第一種金融商品取引業者等により株券等の売付け等の取次ぎに準ずる行為のために行われる買付け等の追加 | 新令7条1項1号 新府令2条の2の3 | 第一種金融商品取引業者等が実質的に顧客の売買を仲介するために実施していると評価できる買付け等が阻害されないように追加された規定です(WG報告I.5.)。 この適用除外買付け等に関する本件パブコメの詳細については本件パブコメ(No.1~No.11)をご参照ください。 |
株券等所有割合が50%超の者による3分の2未満までの特定買付け等8の削除 | 現行令6条の2第1項4号 | 本件パブコメ(No.12)では、本号の削除について「既に過半数の議決権を有している場合であっても株券等所有割合が増加することにより支配力が漸進的に強まっていくと考えられるため、原則として公開買付けを必要とするものです。」と説明されています。 例えば、非公開化を目的とする公開買付けにおいて、総議決権の3分の2よりも低い下限(例えば51%)を設定し、公開買付けの結果3分の2の議決権を確保できず、その後の株主総会でスクイーズアウト手続に必要な議案が承認されなかった場合、現行法では市場内での買増しや本号に基づく市場外での追加取得により株主総会での承認が見込まれる水準まで議決権所有割合を高めることが可能ですが、改正後は(僅少な買付け等に該当しない限り)いずれもできなくなります。 |
対象を特定買付け等に限定していた適用除外買付け等(少数の所有者全員が同意している場合の買付け等、担保権の実行による買付け等、事業の全部又は一部の譲受けによる買付け等)について、対象を買付け等一般に拡大 | 新令7条1項9号、14号及び15号(現行令6条の2第1項7号、8号及び9号) | 現行令上、1年以上継続して兄弟会社又は関係法人等である者からの買付け等も特定買付け等を対象としていますが(現行令6条の2第1項5号及び6号)、新令上、これらについては特定市場外買付け等を除くものとされており(新令7条1項但書、7号及び8号)、実質的な改正はありません。 |
いわゆる並行買付けの追加 | 新令7条1項13号 | 現行法下では、特定の大株主等から、一般株主より低い価格での応募同意を得た場合であっても、買付価格の均一性の要請により、1つの公開買付けの中で買付価格を区分することができず、2回にわたって公開買付けを実施しなければならないという問題があることを踏まえて定められたものです(WG報告I.8.①)。 |
上記の並行買付けは、以下の要件を満たす買付け等をいいます。なお、①の要件との関係で、別途買付けの禁止の例外とする手当もなされています(新令12条6号)。
①公開買付けが行われる場合において当該公開買付けに係る株券等の発行者が発行する株券等について行う買付け等であること(新令7条1項13号柱書) ②当該公開買付けによる買付け等を行う者と同一の者が行うものであること(同号イ) ③当該買付け等に係る買付け等の価格が当該公開買付けに係る買付け等の価格を下回ること(同号ロ) ④当該買付け等に係る決済が当該公開買付けに係る決済と同時に行われること(同号ハ) ⑤当該買付け等に係る契約の締結までに、当該買付け等を行う者が、当該買付け等の相手方に対し、当該公開買付けの内容を記載した書面を交付し、又は当該内容を記録した電磁的記録を提供したこと(同号二) ⑥当該公開買付けに係る公開買付開始公告及び公開買付届出書において買付予定数の上限を付していないこと(同号ホ) ⑦当該公開買付けに係る公開買付届出書(その訂正届出書を含む)において当該買付け等に係る契約があること及びその内容を明らかにしていること(同号ヘ) |
本件パブコメでは、上記の要件について、以下の解釈が示されています。特に下記①関係については、必ずしも条文上明記されていない要件であるように思われるため、留意が必要です。
要件 | 本件パブコメで示された解釈 | 本件パブコメのNo. |
①関係 | 「公開買付けの対象となっている株券等と当該一部の株主から買付け等を行う株券等が同一の種類であることが必要」 | No.17 |
③関係 | 「同号に基づき公開買付けによらずに行う株券等の買付け等の相手方の人数に制限はなく、当該買付け等の価格は全ての相手方に対して均一である必要は」ない。もっとも、上記⑤及び⑦の要件からすれば、「当該相手方に対して他の相手方との間の買付け等に係る契約の内容を記載又は記録した書面又は電磁的記録を提供した上で契約を締結していることが必要」 | No.14、15 |
④関係 | 「公開買付けに係る決済と公開買付けによらずに行う株券等の買付け等の決済が同日に行われた場合には、通常、同時に行われたものと評価される」 | No.18 |
⑦関係 | 並行買付けは、公開買付けの開始「後」であっても、特定の株主と合意が得られた場合には、訂正届出書を提出することで利用可能。この場合、「訂正届出書において、当該株主との間で締結した契約があること及びその内容を記載する必要があるとともに、当該公開買付けにおいて買付予定数に上限が付されている場合には当該上限を撤廃するなどの対応が必要となる」 | No.19 |
(2)僅少な買付け等の導入
新法では、いわゆる僅少な買付け等が30%ルールの適用対象外とされていますが(新法27条の2第1項1号括弧書)、新令も踏まえるとその要件は以下のとおりとなります。
要件 | 条文 | 検討 |
①買付け等の前における株券等所有割合(小規模所有者等を除く特別関係者分を合算する。②及び④において同じ)が既に30%を超えていること | 新法27条の2第1項1号括弧書 | 本件パブコメ(No.32、No.33)では、僅少な買付け等として「公開買付けが不要になるのは、当該買付け等を行う前に既に株券等所有割合が30%を超えている場合に限られ」るとされており、30%を跨ぐ買付け等の場合には僅少な買付け等の要件を満たさないことが明らかにされています。 |
②買付け等により増加する株券等所有割合が0.5%未満であること | 新令7条3項 | 本件パブコメ(No.22~No.31)では、本項において「『買付け等により増加する…株券等所有割合』と規定されていることからすれば、買付け等により株券等所有割合が増加することが前提とされており、これが増加しない場合(例えば、特別関係者から買付け等を行う場合)には本項の適用はない」との解釈が示されています。したがって、このような場合には別途適用除外買付け等に該当するかを検討する必要があります。 |
③買付け等を行う者が買付け等を行う日前6ヶ月間において発行者が発行する株券等の買付け等(公開買付けによる買付け等及び適用除外買付け等を除く)を行っていないこと | 新令7条3項括弧書 | 新公開買付けQ&A問18では、買付け等を行う日前6ヶ月間において、特別関係者による買付け等が行われた場合であっても、通常、本要件には抵触しないが、「例えば、当該特別関係者がペーパーカンパニーである場合のように、実質的には買付者自身による買付け等の一形態に過ぎないと認められる場合には、この限りではない」とされています。 |
④買付け等の後における株券等所有割合が3分の2以上とならないこと | 新令7条4項 | ― |
⑤買付け等が特定市場外買付け等に該当しないものであること | 新法27条の2第1項1号括弧書 | 特定市場外買付け等、すなわち、市場外で61日間に10名超の相手方から買付け等を行い、その結果株券等所有割合が5%を超える場合には、買付け等前の株券等所有割合が30%を超えているか否かにかかわらず、かつ買付け等により増加する株券等所有割合が0.5%未満であるか否かにかかわらず、別途適用除外買付け等に該当しない限り公開買付けを行う必要があります。 |
なお、僅少な買付け等の要件に関しては、改正案段階では、1年間に行われた買付け等及び売付け等をネットして計算した議決権の増加が1%未満であることが要件とされていましたが、パブリックコメント手続を経て、これに代えて上記②及び③の要件が定められることとなりました。改正案では、例えば、大量の売付け後に大量の買付けを行うことが公開買付けなしにできてしまうこと等が考慮されたものと思われます。
3. 関連概念の改正
(1)「買付け等」に間接取得を追加
今般の改正により、強制公開買付規制の対象となる「買付け等」に、有価証券報告書提出会社の株券等の取得そのものではなく、当該株券等を所有する法人等(「株券等所有法人等」9)の株式・出資の有償の取得(いわゆる間接取得)が、一定の要件の下で含まれることとなりました(新府令2条の2第2号)。具体的には、かかる有償の取得のうち、以下の2つの要件を満たすものが、「買付け等」に該当することになります。
①取得後の株券等所有法人等に対する議決権所有割合(小規模所有者等を除く特別関係者分を合算する)が50%を超えることとなること ②専ら当該株券等を取得し、又は当該株券等に係る議決権の行使について株券等所有法人等に対して指図を行うことを目的として行うものであること |
これらの要件を満たし、株券等所有法人等の株式・出資の有償の取得が「買付け等」に該当する場合には、(株券等所有法人等の株式・出資ではなく)株券等所有法人等が所有する株券等の発行者である有価証券報告書提出会社の株券等に対する公開買付けを行う必要がないかを検討する必要があります。
この点、上記②の要件に関し、資産管理会社の株式の取得について定めた新公開買付けQ&A問9(変更前問16)では、有価証券報告書提出会社の株券等の30%超を所有する資産管理会社の株式を有償で取得することは「原則として当該有価証券報告書提出会社…の「株券等の買付け等」に該当するものではありません」としつつ、上記①②の要件を満たす場合にはこれに該当するとの解釈が示されています。また、本件パブコメ(No.99、No.100)では、株券等所有法人等の営む事業を取得する目的で当該法人等の株式・出資を取得する場合で、「たまたま当該法人等が有価証券報告書を提出しなければならない発行者の発行する株券等を所有していたにすぎないとき」は、通常、上記②の要件を満たさないとの解釈が示されています。もっとも、上記②の要件である「目的」をどのように判断するかについては、「個別事案ごとに実態に即して判断すべき」とのみ回答され、客観的な判断基準は示されていません。例えば、有価証券報告書提出会社の株式を所有している上場会社の株式を取得する(かつ議決権所有割合が過半数となる)場合、上場会社は他に事業や資産を有しているのが通常であるから、特段の事情のない限り、当該有価証券報告書提出会社の公開買付けまでは必要ないと思われるものの(本件パブコメ(No.100))、上記②の要件を満たすと判断されないか実態や目的に即して検討する必要があります。
なお、上記①の要件に関しては、本件パブコメ(No.102)では、「超えることとなる場合」とは、「取得を行った者(その者の特別関係者を含みます)が新たに総株主等の議決権の過半数を有することとなる場合をいう」との解釈が示されています。したがって、既に株券等所有法人等の過半数の議決権を有する者が当該法人等の株式・出資を追加取得する場合は含まれないことになります。
(2)「所有」概念の拡張
公開買付規制における「所有」には、所有に準じるものとして政令及び内閣府令で定める場合が含まれるところ(法27条の2第1項1号、新令7条2項(現行令7条1項))、かかる場合に以下の2つが追加されました。
追加内容 | 条文 | 検討 |
株券等を所有する法人等の株式又は出資の有償の取得をしている場合であって、間接取得に該当するとき | 新府令2条の7第2号 | 上記(1)のとおり「買付け等」に間接取得が含まれ得ることとなったことに伴う改正です。本件パブコメ(No.104)では、新府令2条の2第2号に該当する間接取得を行う場合に株券等所有法人等の所有する株券等について公開買付けを行うことを要するかは、当該株券等を「『所有に準ずる』ものとして株券等の買付け等を行う者の『所有』に係る株券等に含めて、法第27条の2第1項各号に掲げる株券等の買付け等に該当するかにより判断される」との解釈が示されています。 |
株券等の発行者との間で当該発行者が新たに発行する株券等の取得について合意している場合 | 新府令2条の7第3号 | 新規に発行される株券等の取得に公開買付けが必要なわけではありませんが、株券等所有割合の計算に当たっては本号の合意の対象となる株券等は「所有」しているものと取り扱われます。そのため、「株券等の買付け等の後に新たに発行する株券等を取得することを当該買付け等を行う時点で合意している場合であって、当該取得後の株券等所有割合が30%超となるとき」には、当該買付け等を公開買付けにより実施しなければなりません(本件パブコメ(No.105))。 本件パブコメ(No.106)では、本号の合意に該当するかは「個別事案ごとに実態に即して判断すべき」であるものの、発行者との「契約上、発行者が新たに発行する株券等を引き受ける権利又は義務が規定されている場合であっても、引き受ける株券等の数が定まっておらず、当該権利又は義務が具体化していない場合には、通常、同号の合意には該当しない」との解釈が示されています。例えば、上場会社との資本業務提携契約において、当該会社が新たに株式を発行し又は処分する場合には、契約相手方の株主が所有する株式の割合に応じて当該新たに発行又は処分される株式を引き受けることができる旨が定められることがありますが、買付け等の時点で引き受ける株式の数が定まっていない場合には、通常、本号の合意には該当しないと解されます。 |
(3)形式的特別関係者の範囲の変更
(i)形式的特別関係者の範囲の縮小
形式的特別関係者の範囲については、以下の改正が行われました。
項目 | 条文 | 改正内容 |
買付者が個人である場合の親族関係の除外 | 現行令9条1項1号の削除 | 個人である買付者の親族は形式的特別関係者でなくなりました。 |
現行令9条1項2号及び3項の「その(者の)親族を含む。」の削除 | 個人である買付者との特別資本関係や、個人である買付者の被支配法人等・みなし被支配法人等の判断において、買付者の親族が有する議決権は加算されないことになりました。 | |
買付者と特別資本関係を有する法人等の役員等の除外 | 現行令9条1項2号及び2項2号の「及びその役員」の削除 現行令9条2項3号の「並びに当該法人等の役員」の削除 | 法人等・個人である買付者が特別資本関係を有する法人等の役員は形式的特別関係者でなくなりました。 また、法人等である買付者に対し特別資本関係を有する法人等の役員も、形式的特別関係者でなくなりました。 なお、法人等である買付者自身の役員については、改正後においても引き続き形式的特別関係者となります(新令9条2項1号) |
現行法上、買付者との間で特別資本関係を有する法人等の役員は形式的特別関係者となるため、例えば子会社・孫会社等が多数に上る企業が買付者となる場合、子会社・孫会社等の役員による対象者の株券等の所有状況を調査し、必要に応じて公開買付届出書に記載しなければなりません。この点、実務上、案件の守秘性等との関係から、一定範囲のグループ会社の役員の所有状況については案件公表後に調査を行い、必要に応じて訂正届出書を提出するという対応がなされています。改正後は子会社・孫会社等の役員について対象者の株券等の所有状況を網羅的に調査する必要がなくなるという点で、実務上の負担を軽減するものといえます。
ただし、今般の改正により形式的特別関係者の範囲から外れることになった者でも、共同議決権行使等の合意をしている場合には実質的特別関係者(法27条の2第7項2号)に該当することには留意が必要です。
なお、上記のとおり、形式的特別関係者の範囲が狭まることに応じて、適用除外買付け等の一類型である1年以上継続して形式的特別関係者の関係にある者からの買付け等(法27条の2第1項但書)についても、範囲が狭まることになります。これに関連して、別類型の適用除外買付け等である1年以上継続して関係法人等である者からの買付け等(新令7条1項8号(現行令6条の2第1項6号))について、「関係法人等」の定義に、以下の者が含まれることになりました(新府令2条の4第1項10号イ乃至ハ)。
- 買付者の親族10
- 個人である買付者(その親族を含む)が法人等に対して特別支配関係を有する場合における当該法人等
- 個人(その親族を含む)が買付者に対して特別支配関係を有する場合における当該個人
もっとも、これらの者が「関係法人等」に該当するのは、買付者との間で共同して当該株券等の発行者の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合に限られます(新府令2条の4第1項10号柱書)。このような合意がない場合、親族や親族が特別支配関係を有する法人等からの買付け等については、たとえその関係が1年以上継続している場合であっても、適用除外買付け等(1年以上継続して形式的特別関係者又は関係法人等の関係にある者からの買付け等)には該当しない点に留意が必要です。
(ii)株券等所有割合の計算上加算されない特別関係者の範囲の拡大
株券等所有割合の計算においては、特別関係者の株券等所有割合も買付者の株券等所有割合に加算されるのが原則ですが、形式的特別関係者のうち一定の者の株券等所有割合については加算されません(法27条の2第1項1号)。現行府令ではかかる一定の者は小規模所有者に限定されていますが(現行府令3条2項)、改正後は、小規模所有者に加えて、金融商品取引業者等が投資運用業として買付け等を行う場合又は信託会社等が信託財産として所有するために買付け等を行う場合において一定の措置を講じているときに、買付者に対し特別資本関係(みなし特別資本関係を含みます)を有する者が含まれる(すなわち、買付者の株券等所有割合の計算において、当該者の株券等所有割合は加算されない)ことになりました(新府令3条2項2号)11。
(iii)当局承認により形式的特別関係者から除外する制度の不導入
買付者とその形式的特別関係者は必ずしも利害が一致するわけではないため、例えば、ある会社(A社)が上場会社(B社)の株式の取得を検討している場面で、A社と対立するA社の形式的特別関係者がA社に先んじてB社の株式をA社と合わせた株券等所有割合が30%となるまで買い付けることにより、A社が公開買付けによらずにB社の株式を取得することができなくなってしまうという事態が生じることもありえます。この点、WG報告では、「公開買付制度の柔軟化・運用体制」として、「形式的特別関係者に関する規制(一定の資本関係がある場合であっても、一定の場合には形式的特別関係者から除外することを含む)」について、「個別事案ごとに当局の承認を得ること等によって、規制が免除される制度を設けるべきである」との提言がなされていましたが(WG報告I.6.)、今回の改正には盛り込まれませんでした。本件パブコメ(No.67)では「形式的特別関係者に係る規制の免除のあり方については引き続き検討して参ります。」と回答されており、今後の検討課題とされています。
- 本書では、金融商品取引法を「法」、金融商品取引法施行令を「令」、発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令を「府令」、公開買付けの開示に関する留意事項について(公開買付開示ガイドライン)を「公開買付開示ガイドライン」、株券等の公開買付けに関するQ&Aを「公開買付けQ&A」といい、改正前後で内容の異なるものについては「現行法」「新法」等といった形でその旨を示します。
- 令和6年改正法制定までの経緯として、金融庁金融審議会において公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループが設置され、その検討結果の取りまとめとして2023年12月25日に「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」報告(「WG報告」)が公表されています。その概要については、当事務所ニュースレター「金融庁金融審議会『公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ』報告について」(Corporate Newsletter Vol.42(2024年2月号))をご参照ください。
- 本文記載のとおり令和6年改正法では大量保有報告規制の改正も行われていますが、その概要については、当事務所ニュースレター「令和6年金融商品取引法等改正案―大量保有報告制度の見直し―」(Capital Markets Newsletter Vol.85(2024年5月号))及び「令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表―大量保有報告制度の見直し―」(Capital Markets Newsletter Vol.92(2025年4月号))をご参照ください。
- ただし、他者の公開買付期間中の買付け等に関する規制は、3分の1ルールの適用対象外とされている市場内取引による買付け等を捕捉する趣旨のものであり、今般の改正後は30%ルールの適用対象となります。
- 5%ルールについては今般の改正による実質的な変更はありません。
- 野崎彰ほか「公開買付制度に係る金融商品取引法等の改正」(旬刊商事法務No.2363(2024年)11頁以下)15頁
- なお、本文表記載のもののほか、1年以上継続して形式的特別関係者の関係にある者からの買付け等及び1年以上継続して関係法人等である者からの買付け等についても、関連概念の変更により範囲が変更されています(3.(3)(i)参照)。
- 61日間に10名以下の相手方からの市場外での買付け等をいいます(現行令6条の2第1項4号、同条3項)。新法においては、市場外における買付け等のうち、①店頭売買有価証券市場における取引並びに一定の要件を満たすPTS取引及び外国金融商品市場における取引と②61日間に10名以下の相手方からの買付け等を除いたものが「特定市場外買付け等」と定義されたことに伴い(新法27条の2第1項2号、新令7条5項及び6項)、新令では「特定買付け等」の定義が削除されています。
- 法令上定義された用語ではありません。
- 配偶者並びに一親等内の血族及び姻族に限られます。新府令2条の4第1項10号イ乃至ハにおいて同様です。
- 本号に関する本件パブコメの詳細については本件パブコメ(No.39~No.45)をご参照ください。