(野々口 華子)
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文化芸術に関する最近の動向(~2026年3月11日)
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1. アメリカ合衆国最高裁判所がAI単独生成アートの著作権保護を否定
【AI】【著作権】【外国法】〔野々口 華子〕2. 「メディア・エンターテインメント業界における性的暴力・ハラスメント問題の理解と対話救済メカニズムの強化にかかる報告書」の公表
【エンターテインメント】【ビジネスと人権】〔山下 泰周〕3. 「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)」に対して各関係団体が意見を表明
【AI】【知的財産】〔朴 威洋〕4. 分野横断権利情報検索システム・個人クリエイター等権利情報登録システムと未管理著作物裁定制度の運用開始
【エンターテインメント】【著作権】〔奥山 裕規〕 -
ドラマの中の法 第2回(虎に翼) 〔横山 経通〕
Mori Hamada Culture & Arts Journalでは、今月も、文化芸術活動に関連する様々なニュース、裁判例、コラム等を皆さまのもとにお届けします。文化芸術活動に関心や接点を有する皆さまの気付きやアイデアの端緒・きっかけとなれば幸いに存じます。
Ⅰ. Monthly Topics
| Date | Culture & Arts Topics |
| 2025.12 | 責任ある企業行動のための対話救済フォーラム及びメディア・エンターテインメントと人権検討会は、「メディア・エンターテインメント業界における性的暴力・ハラスメント問題の理解と対話救済メカニズムの強化にかかる報告書」を公表。 → Lawyer’s Pick 2. 「『メディア・エンターテインメント業界における性的暴力・ハラスメント問題の理解と対話救済メカニズムの強化にかかる報告書』の公表」 |
| 12.2 | ドイツ政府が、ナチス時代にユダヤ人らから略奪した美術品などの返還請求を判断する仲裁裁判所を首都ベルリンに設置。 |
| 12.10 | 米国上院が全会一致で「Holocaust Expropriated Art Recovery (HEAR) Act of 2025」を可決。 |
| ~2026.1.26 | 内閣府が、生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)に対するパブリックコメントを募集。 → Lawyer’s Pick 3. 「『生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプルコード(仮称)(案)』に対して各団体が意見を表明」 |
| 1.28 | Artistic Freedom Initiative(AFI)がDemocracy Forward、Human Rights First等と提携し、米国における芸術的自由への脅威を体系的に追跡する初のプラットフォームを立ち上げ。 |
| 1.29 | 2024年に美術品担保ローンの証券化に乗り出したサザビーズの金融サービス部門が、その第2弾として美術品とコレクターズカーを対象とする債権の証券化を発表。 |
| 2.9 | 欧州委員会は、持続可能製品のためのエコデザイン規則(ESPR)の下で、売れ残りの衣料品・服飾雑貨・履物の廃棄破壊を防止する新措置を採択。 |
| 2.26 | 文化庁が、「分野横断権利情報検索システム」及び「個人クリエイター等権利情報登録システム」の運用を開始。 → Lawyer’s Pick 4. 「分野横断権利情報検索システム・個人クリエイター等権利情報登録システムと未管理著作物裁定制度の運用開始」 |
| 2.27 | 公正取引委員会が、知的財産権を巡る企業間取引の実態調査の結果を発表。 |
| 2.27 | 文化庁が、国立の博物館や美術館の運営について、5年間の次期中期目標で、収支均衡を目指した数値目標を設定。 |
| 3.2 | アメリカ合衆国最高裁判所は、人工知能(AI)が自律的に単独で生成した画像に対して著作権を認めるかどうかが争われた訴訟の上告審理を受理しないと決定。 → Lawyer’s Pick 1. 「アメリカ合衆国最高裁判所がAI単独生成アートの著作権保護を否定」 |
| 3.3 | 文化庁が、著作物等の利用に関する裁定制度に係る「裁定の手引き(令和8年3月改訂版)」を作成。 |
| 3.4 | 米メタが、米メディア大手のニューズ・コーポレーションと記事を人工知能(AI)学習などに利用するためのライセンス契約の締結を公表。 |
Ⅱ. Lawyer’s Pick
1. アメリカ合衆国最高裁判所がAI単独生成アートの著作権保護を否定
画像生成AIや文章生成AIなど、AIは今や誰もが気軽に利用することのできる日常的なツールとなっていますが、著作権に関する問題も度々浮上しています。
米国では、2026年3月2日、AIが単独で生成した画像に対して著作権を認めるかどうかが争われた訴訟について、合衆国最高裁判所は上告審理を受理しないと決定しました。この決定により、著作権保護には人間による創作的関与が必須であるとする下級審の判断が維持され、米国においてAIが単独で生成した作品には著作権が認められないとする判断が確定いたしました。
この訴訟の対象となったのは、コンピューター科学者のStephen Thaler氏が自ら開発したAIシステム「DABUS」により作成された、《A Recent Entrance to Paradise》という作品です。Thaler氏は2018年にこの作品の著作権を米国著作権局(U.S. Copyright Office)に対して申請しましたが、同局は、著作物として認められるためには、作品が「人間の精神と創造的表現の結びつき」によって創作されたことが重要であるとして、申請を却下しました。その後、連邦裁判所もこの決定を支持していました。詳細は、当事務所のMHM Culture & Arts Journal - Issue 16 -(2023年9月号(Vol.25))の1.でもご紹介しております。
今回、合衆国最高裁判所は理由を示すことなく上告受理の申し立てを却下したため、下級審の「人間著作者要件」(著作権法は人間の創造物だけを保護するものであり、人間の手が加わらない技術によって生成される作品を保護するまでには及ばないという考え方)が支持されたこととなります。
今回の訴訟において特筆すべき点は、原告であるThaler氏は、自身に著作権を付与することを求めたわけでも、AIの補助を受けて自らが制作したと主張したわけでもなく、むしろ彼は《A Recent Entrance to Paradise》はAIシステム「DABUS」が独立して制作したものだと主張し、AIシステムが著作者であると主張していた点です。したがって、本訴訟で争点となったのは、「AIシステムが人間の直接的な創作関与なしに出力した作品に著作権が認められるか」という点のみであり、人間がAIを使用して制作した作品の著作権については、本訴訟の判断の射程ではありません。すなわち、実務上より多くの場面で問われる論点――人間がAIを使用して制作した作品にはどのような場合に著作権が認められるか――については、まだ未決着となっています。
日本でも、2026年3月4日、AIを発明者とした特許出願が認められるかについて争われた訴訟において、最高裁判所は出願者の上告を受理しない決定をし、これにより、「特許を受けられる発明者は自然人に限られる」という判断が確定しました。また、文化庁は、「AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断される」1としています。日米の各判断とも、「人間の関与」が鍵となっている点が共通しています。
今回の合衆国最高裁判所の判断は、少なくとも現時点では「創作の主体は人間であるべき」という原則を明確にしたものと言えますが、人間がどの程度制作に関与すれば著作権が認められるのかという線引きについては、上記のとおり、まだ明確な答えが出ておらず、今後も議論が続くこととなりそうです。
2. 「メディア・エンターテインメント業界における性的暴力・ハラスメント問題の理解と対話救済メカニズムの強化にかかる報告書」の公表
2025年12月、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)、ビジネスと人権ロイヤーズネットワーク(BHR Lawyers)、ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)を事務局とする「責任ある企業行動のための対話救済フォーラム」の下、専門家・有識者で構成される「メディア・エンターテインメントと人権検討会」は、「メディア・エンターテインメント業界における性的暴力・ハラスメント問題の理解と対話救済メカニズムの強化にかかる報告書」(以下「本報告書」といいます。)を公表しました2。本報告書は、メディア・エンターテインメント業界における人権課題を取り上げ、「ビジネスと人権」の考え方において企業に求められる社会的責任の観点から、メディア・エンターテインメント業界に携わる①スポンサー企業、②メディア企業(放送局や広告代理店等)、③芸能事務所による、業界の人権課題への取り組み方を示唆したものとなります。
「ビジネスと人権」は、ビジネス活動に関連して生じ得る人権侵害及びそのリスクについて、人権を保護する法的義務を負う国家のみならず、企業も、法的責任の有無にかかわらず、社会的責任として取り組むべきであるという考え方であり、2011年には国連人権理事会において「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」といいます。)が採択されました。指導原則においては、企業が実施するべき取組として、人権方針の策定、人権デュー・ディリジェンスの実施、救済へのアクセスの確保の3つが挙げられており、人権デュー・ディリジェンスにおいては、対象となる人権を特定し、当該人権への負の影響に対する企業の関わり方(惹起・助長・直接関連)に応じて是正・救済に取り組み3、その取組をモニタリングし、開示することが求められています。
本報告書は、上記「ビジネスと人権」の考え方を前提に、メディア・エンターテインメント業界における商流に関連する企業として、①広告主となるスポンサー企業、②当該スポンサー企業からの発注を受け、広告製作又は番組制作を請け負う放送局・広告代理店、そして、③当該放送局・広告代理店からの発注を受け、タレント等による広告出演等をマネジメントする芸能事務所を例示し、芸能事務所においてタレント等に対する人権侵害が認められる場合の各企業の取り組み方を分析しています。ここにおいて、人権侵害を惹起している③芸能事務所においては、当該人権侵害行為を停止し、是正に向けた取組を図るべきことは明らかとなりますが、本報告書は、芸能事務所から見て一次取引先となる②放送局・広告代理店や、二次取引先となる①スポンサー企業においても、当該人権侵害に直接関連又は助長する4企業として、是正・救済に向けた影響力の行使が求められ得ることを明示しています。影響力の行使とは、人権侵害を惹起する企業の不当な慣行を変えさせる力を指し、人権侵害を行っている対象企業に対し、人権侵害の是正に対する能力構築その他のインセンティブを提供することや、将来的な取引継続やブラックリスト化を通じて、人権侵害の是正を動機付けること等が挙げられます。
本報告書においては、人権問題におけるメディア・エンターテインメント業界の構造的課題として、芸能事務所とタレント等の不均衡な権力関係(契約によるタレント等の法的保護の欠如や生殺与奪権を握られた関係性)・権力集中構造(キャスティング権を有する者、監督・演出家、師弟関係における師匠、傑出した才能を有する者に対する権力集中)のほか、放送局やスポンサー企業がネガティブなイメージを嫌がることからタレント等も人権侵害に対する声を上げづらいという構造的特徴を指摘しています。本報告書は、かかる構造的課題から、メディア・エンターテインメント業界が、性的暴力・ハラスメントを含む人権侵害が助長されやすく、軽視されやすい業界であることに鑑みて、芸能事務所のみならず、スポンサー企業や放送局・広告代理店も含めて、業界全体として人権に係る取組が促進されるべきであると提言しており、メディア・エンターテインメント業界に関連する企業においては、今後の企業活動において留意が必要となりそうです。
(山下 泰周)
3. 「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)」に対して各関係団体が意見を表明
内閣府知的財産戦略推進事務局は、2025年12月26日から2026年1月26日までの1か月間を意見募集期間として、「AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)」(以下「プリンシプル・コード案」とします。)について、パブリックコメントの募集を行いました。本稿では、プリンシプル・コード案の概要について説明するとともに、各関係団体がプリンシプル・コード案に関して公表した意見を紹介します。
(1)プリンシプル・コード案の概要
プリンシプル・コード案によれば、同コードは、生成AI技術の進歩の促進と知的財産権の適切な保護の両立に向け、権利者や利用者にとって安全・安心な利用環境を確保することを目的として、生成AI事業者5が行うべき透明性の確保や知的財産権保護のための措置の原則を定めるものであり、具体的には、以下の3原則を定めています。
【3原則の内容】
① 自らの管理及び運営するコーポレートサイト等において、「概要開示対象事項」(下表参照)を開示し、利用者及び権利者を含めたすべての者が閲覧可能な状態にする。
【概要開示対象事項】
| 透明性確保のための措置 | 知的財産権保護のための措置 (下記事項への対応状況を開示すること。) | |
|---|---|---|
| 使用モデル関係 |
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| 学習データ関係 |
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| アカウンタビリティ 関係 |
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② 自らの権利又は法律上保護される利益の実現のために訴訟提起等を現に行い、もしくは準備をしている者等から、学習及び検証等に用いられたデータに、URL等の情報が含まれているか否か等について開示の求めがあった場合に、開示の求めが「開示の求めが満たすべき事項6」を満たすときは、それに対する回答を行う。
③ 生成AI事業者の提供する生成AIシステム等を用いて、映画、音楽等を生成した者から、原則②と同様の開示の求めがあった場合に、開示の求めが「開示の求めが満たすべき事項」を満たすときは、それに対する回答を行う。
プリンシプル・コード案の特徴として、同コードがコンプライ・オア・エクスプレインの手法7を採用していることが指摘できます。すなわち、プリンシプル・コード案は、生成AI事業者に対して、上記3原則の実施を強制せず、ただし、生成AI事業者において実施しない原則がある場合には、実施しない理由を十分に説明し、当該説明を行う際には、実施しない原則に係る自らの対応について、利用者や権利者の理解が十分に得られるよう工夫すべきとしています。
(2)各関係団体の意見表明の内容
一般社団法人AIガバナンス協会は、プリンシプル・コード案に基づく「情報開示を行わない事業者が生じる可能性がある一方、対応した事業者が負担に対しメリットを感じにくく不均衡を生じるため、本コード案の目的が継続的に達成できるかの懸念がある」とし、また、原則②及び原則③については、「開示対応や過剰な開示要求対応の負荷により、事業者の開発やサービス提供が圧迫される懸念」があると否定的な意見を表明しています。また、「事業者ごとの情報が不均衡である中で一律でコンプライ・オア・エクスプレインを課すことの影響は大きく、対象範囲は極力最小限にとどめるべき」とし、対象事業者の範囲を限定すべきとの意見を表明しています。
一般社団法人新経済連盟は、原則①について、「粒度の細かな情報の開示は、企業の競争上の機微な情報流出を招き、公正な競争環境を阻害する」とし、原則②及び原則③についても、開示請求の濫用防止の必要性についての意見を提出しています。また「API等を通じて他社モデルを利用してサービス提供を行う「生成AI提供者」に対し、把握不可能な学習データの詳細開示を求めることは過度な負担であり、実効性を欠く」とし、対象事業者の範囲を限定すべきとの意見を表明しています。
一方で、一般社団法人日本新聞協会は、その意見表明において、プリンシプル・コード案の実効性に懸念を示しつつ、より踏み込んだ内容を提案しています。まず、原則①について、生成AIが検索結果を要約して回答する際に参照される「知識データ」を蓄積している場合は、当該「知識データ」も開示対象に含めるべきとし、開示対象の拡大を求めています。また、原則②及び原則③については、現在のプリンシプル・コード案では、URL等の情報が含まれているか否か等について開示の求めができるとされているところ、別のURLで展開されている海賊版コンテンツへの対応等の観点から、URL情報等だけでなく、要求者が指定するコンテンツが含まれるか否かについても開示要求を可能とすることを要請しています。
(3)まとめ
今後、パブリックコメントを踏まえ、最終的なプリンシプル・コードが策定されることとなります。コンプライ・オア・エクスプレインという新たなアプローチを採用したプリンシプル・コードのもとで、生成AI技術の進歩の促進と知的財産権の適切な保護の双方が図られることとなるか、今後の進展には注目を要します。
(朴 威洋)
4. 分野横断権利情報検索システム・個人クリエイター等権利情報登録システムと未管理著作物裁定制度の運用開始
文化庁は、2026年2月26日(木)10時から、分野横断権利情報検索システム(以下「検索システム」といいます。)及び個人クリエイター等権利情報登録システム(以下「登録システム」といいます。)の運用を開始しました8。
これらのシステムは、いずれも、権利探索を効率化して他人の著作物や実演など(以下「著作物等」といいます。)の利用の円滑化を図ることを目的として、それぞれ以下の機能を提供しています9。
① 検索システム
検索システムにおいては、団体検索機能が提供されており、著作物等の「分野」「種類」「利用方法」を選択すれば、選択した条件に関係する著作権等管理事業者や、権利者団体のウェブサイト等へのリンクが表示されます。著作物等の利用希望者は、検索システムを利用して、著作権等管理事業者及び権利者団体のウェブサイト等にアクセスし、権利者情報の探索を効率的に行えることになります。
② 登録システム
登録システムは、個人クリエイターの方々など、著作権等管理事業者が管理していない著作権等の著作者や権利者が、自身の著作物等についての権利情報を登録するとともに、当該著作物等の第三者による利用について意思表示を行うことができるシステムです。利用希望者は、登録システムを通じて、権利者の連絡先や著作者・権利者が登録した著作物等の第三者による利用についての意思を確認することができます。
また、検索システム及び登録システムは2026年4月1日から開始された未管理著作物裁定制度の運用にも資するものです。
そもそも、著作物等を第三者が利用する場合には、原則として、権利者や著作権等管理事業者から許可を得る必要がありますが、著作物等の利用可否に関する権利者の意思が確認できない場合があります。未管理著作物裁定制度とは、そのような場合に、文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託することにより、権利者の意思が確認できない著作物の適法な利用を可能とする制度(著作権法67条の3)です10。
もっとも、同制度の対象となる未管理公表著作物等は、公表等されている著作物等のうち、①著作権等管理事業者によりその著作権が管理されておらず、かつ、②著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報が公表されていないものです(同条2項各号)。また、同制度利用に当たっては、利用希望者が一定の権利者情報の取得措置を講じたにもかかわらず、権利者の意思の確認ができなかったことが必要です(同条1項1号)11。
著作物等の利用希望者は、検索システムを用いれば、上記のとおり著作権等管理事業者及び権利者団体のウェブサイト等の情報を通じて権利者の探索を効率的に行えるため、上記①及び②の要件の充足・不充足の判断が容易になります。なお、検索システムで検索し、表示された団体等のウェブサイトを閲覧することは、上記利用希望者が講ずべき権利者情報の取得措置の一つとされています(同条1項1号・文化庁告示6号1条1項3号)。
また、著作物等の利用希望者は、登録システムを用いて、権利者の意思を確認することができることがあります。この場合、未管理公表著作物等と扱われるための要件②は充足しないことになると思われ(同法67条の3第2項2号・同告示3条2号)、利用希望者は、直接、権利者との交渉を行うこととなります。
本稿では、新たに運用が開始された検索システム・登録システムと、未管理著作物裁定制度についてご紹介しました。今後、これらのシステムや制度の利用が進み、著作物等の利用希望者による権利探索が効率化されるとともに、我が国において活用されずに眠っている著作権の有効な利用が促進されることが期待されます。
(奥山 裕規)
Ⅲ. Column
ドラマの中の法 第2回(虎に翼)
2024年に放送されたNHK朝ドラ「虎に翼」は、女性として初の弁護士、判事として活躍された三淵嘉子をモデルとする猪爪寅子が主人公の連続ドラマであり、伊藤沙莉が寅子を演じた。毎朝涙するとともに、実在の事件をモデルとする場面もあり、どのようにドラマとして描かれるのか、興味津々であった。やや時機を失した感もあるが、2026年3月にスピンオフドラマ「山田轟法律事務所」も放送されたので、「虎に翼」に描かれた実話を紹介したい。
寅子の父であり、岡部たかし演じる猪爪直言が贈賄の疑いで逮捕される共亜事件が発生した。昭和9年に発生した帝人事件がモデルである。寅子の師である小林薫演じる穂高重親が弁護人を務め、松山ケンイチ演じる桂場等一郎が裁判官を務めた。穂高重親のモデルは、東京帝国大学教授で最高裁判事となる穂積重遠であり、桂場等一郎のモデルは、後の最高裁長官である石田和外である。穂積重遠や石田和外という法律の教科書や判決文でしか見たことがないような人物がドラマの登場人物として生き生きと活躍することに興奮した。共亜事件は、検察側の証拠がすべて否定され、全員が無罪となった。その判決の中で、裁判所は、「あたかも水中に月影を掬いあげようとするかのごとし」と非難したが、この文章は、帝人事件で実際に石田和外が書いたものである。
寅子の同級生であり、岩田剛典演じる花岡悟裁判官が栄養失調で亡くなった。これは、昭和22年に山口良忠裁判官が亡くなった事件がモデルである。当時、食糧難の中、食糧管理法による配給制度の下、闇米は禁止されていた。山口良忠も、違法な闇米に手を付けず、栄養失調で亡くなったとのことである。
寅子は、司法省事務官に任官し、滝藤賢一演じる多岐川幸四郎のもと、家庭裁判所の設立に尽力する。多岐川幸四郎のモデルは、「家庭裁判所の父」と言われる宇田川潤四郎裁判官であり、三淵嘉子も実際に設立に関わり、昭和24年に家庭裁判所が発足した。なお、多岐川の同僚として登場する沢村一樹演じる久藤頼安は、高遠藩主の末裔で殿様判事と言われた裁判官内藤頼博がモデルである。現実の内藤頼博は子爵であったので、沢村一樹は男爵から子爵になったと揶揄されていた。
その後、寅子は、右陪席裁判官として原爆裁判を担当した。原爆裁判とは、被爆者とその遺族が原爆投下について損害賠償等を求めた裁判である。昭和38年に、東京地裁は、個人に賠償請求権はないとして請求は棄却したが、原爆投下は国際法に違反するとの判断を示した。ドラマでも約4分にわたり判決文が朗読された。なお、現実の原爆裁判で左陪席裁判官を担当したのは、後に、当事務所に客員弁護士として参加された若き日の高桑昭であった。ドラマの放送時には、高桑昭弁護士はご存命であり、インタビュー記事が掲載されていた。当事務所在籍中に原爆裁判の話を直接お伺いすることはなかったが、今となっては、心残りである。
現在は廃止された尊属殺重罰規定、すなわち、尊属殺人については、通常の殺人より重く罰するという規定については、最高裁長官となっていた桂場が裁判長を務める大法廷で違憲判断が下された。現実にも、尊属殺重罰規定については、昭和25年に最高裁で合憲判断がなされていたが、昭和48年に石田和外最高裁長官のもと、判例変更し、大法廷で違憲と判断されている。昭和25年の合憲判断には、最高裁判事となっていた穂積重遠が反対意見を述べたが、ドラマでも穂高が反対意見を述べていた。
他にも、日本国憲法制定、初代最高裁長官三淵忠彦著の「日常生活と民法」の改訂作業、少年法改正やブルーパージ等が描かれており、フィクションとはいえ、戦前から戦後の司法の歴史を実感として知ることができる名作である。(敬称略)
(横山 経通)
【編集後記】
✧ Lawyer’s Pick 1. で取り上げたとおり、米国においても、AIが単独で生成した作品には著作権が認められないとする判断が確定しました。今後生成AIをはじめとする各種の技術進展が見込まれる中で、創作とは何か、著作権として保護すべき権利とは何か、という根源的な問いについて、向き合い続けていく必要があります。Lawyer’s Pick 3. で取り上げた「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)」も、技術の進歩の促進と知的財産権の適切な保護の両立という文脈に位置づけられる取組といえるでしょう。 ✧ 特にメディア・エンターテインメント業界においては、文化芸術領域で伝統的に議論されてきた著作権をはじめとする知的財産権の他に、Lawyer’s Pick 2. で取り上げた、「ビジネスと人権」の観点からの人権尊重・権利保護の議論も近年活発化しています。メディア・エンターテインメント業界をはじめとして、文化芸術領域においては、様々なステークホルダーの権利・人権が関わる中、これらの権利の侵害に対する声を上げづらいという構造的特徴が存在するため、それぞれの権利・人権をどのように実効的に保護していくのか、今後の議論に注目する必要があります。Lawyer’s Pick 4. で取り上げた分野横断権利情報検索システム・個人クリエイター等権利情報登録システムは、まさに実効的な権利保護施策の一つとして、今後の運用が注目されます。 ✧ Columnでは、2026年3月にスピンオフドラマが放送されたことも踏まえ、虎に翼に描かれた実話をご紹介いたしました。法曹関係者においては大変話題となったドラマですが、法曹関係者の目から見ても非常に面白く見ごたえのある内容となっておりますので、未だ視聴されていない方は、ぜひご視聴ください。また、「虎に翼」の法服に纏わる話について、当事務所のMHM Culture & Arts Journal - Issue 27 -(2024年9月号(Vol.36))のColumnにてご紹介しておりますので、ご関心のある方はこちらもご覧ください。 ✧ 森・濱田松本法律事務所 外国法共同事業 文化芸術プラクティスグループでは、皆さまのご意見等をお待ちしております。Culture & Arts Newsletter / Mori Hamada Culture & Arts Journalへの掲載内容へのご質問のほか、誌面への感想、取り上げてもらいたいテーマ等のご要望も大歓迎です。 |
- 「AIと著作権に関する考え方について(令和6年3月15日)」(文化審議会著作権分科会法制度小委員会)
- メディア・エンターテインメントと人権検討会_ 報告書_final-1.pdf
- 指導原則においては、企業が人権への負の影響を惹起・助長している場合には当該行為を停止することが求められ、当該負の影響に直接関連する場合には、当該負の影響を引き起こし若しくは助長している企業に対して影響力を行使し、防止軽減に努めるものとされています。
- 本報告書において、念頭に置かれる人権侵害が、一次取引先である放送局・広告代理店が人権デュー・ディリジェンスを実施していれば知り得た人権侵害である場合、放送局・広告代理店は当該人権侵害を助長したものと評価される場合があるとされています。
- プリンシプル・コード案は、生成AI開発者と生成AI提供者を総称して、生成AI事業者と呼称しています。
- 開示の求めに係る回答の利用目的が明示されており、かつ、かかる開示要求者が当該目的以外の目的で利用しない旨を誓約していること等の事項を満たす必要があります。
- 原則を実施するか、実施せずにその理由を説明するか、どちらかを求める手法です。
- 文化庁「『分野横断権利情報検索システム』及び『個人クリエイター等権利情報登録システム』が運用を開始します」(令和8年2月24日)
- 分野横断権利情報検索システム「制度説明」
- 同趣旨の制度として著作権者不明等の場合の裁定制度(著作権法67条)がありますが、未管理著作物裁定制度の方が、より簡素な手続で、迅速に著作物等の適法利用が可能になるとされています。著作権者不明等の場合の裁定制度に関するより詳しい話はMori Hamada Culture & Arts Journal - Issue 37 -(2026年2月号(Vol.46))トピック3をご覧ください。
- 文化庁「裁定の手引き 概要版」(令和7年12月)2,6頁