メインコンテンツに移動

Wealth Management Newsletter

取引相場のない株式の評価に関する有識者会議の開催と通達改正

Ⅰ. はじめに

本年4月20日、国税庁は「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」(以下「有識者会議」といいます。)の第1回会合を開催しました。取引相場のない株式(以下「非上場株式」といいます。)の相続税評価をめぐっては、評価方式間のかい離を利用した株価対策が行われていることや、配当還元方式が現下の経済環境に十分対応していないとして、会計検査院からの指摘があり、有識者会議ではそれを踏まえて抜本的な評価ルールの見直しに関して議論することが予定されています。

第1回会合では、国税庁から資料が配布され、現行の評価ルールの問題点や具体的な評価額圧縮スキームが示されましたが、本格的な改正に係る議論は次回会合以降となる見込みです。

本ニュースレターでは、国税庁の配布資料を中心に、今後予想される改正の方向性や実務上の影響について概括します。

Ⅱ. 現行の非上場株式の評価ルールと総則6項による否認

相続又は遺贈により取得した財産の価額については、当該財産の「取得の時における時価」により評価して相続税・贈与税を計算することとされています(相続税法22条)。もっとも、非上場株式には市場価格が存在せず、時価の算定が困難であるため、実務上は、国税庁が定めた財産評価基本通達に従って算出した評価額を非上場株式の時価として取り扱って税額を計算しています。

具体的には、支配株主に対しては「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」、少数株主に対しては「配当還元方式」が適用されます。後述のとおり、類似業種比準価額は純資産価額を大きく下回る傾向にあるため、支配株主である企業オーナーやその親族等は、類似業種比準価額方式により自社株式を評価できるかどうかという点に強い関心を持ちます。

その上で、財産評価基本通達は課税庁内部の職務命令であることから、税務職員はこれを遵守する義務を負うため、原則として財産評価基本通達に従った納税者の株式評価を否認することはできません。ただし、いわゆる「総則6項」に基づき、税務当局は、財産評価基本通達の具体的な評価方法とは異なる方法で非上場株式を評価することができるようになります。

総則6項とは、財産評価基本通達6(この通達の定めにより難い場合の評価)のことであり、財産評価基本通達の定めによって形式的に評価することが著しく不適当と認められる場合に、国税庁長官の指示を受けて、財産評価基本通達の具体的な評価方法とは異なる評価方法により評価することを認める例外規定です。総則6項は「伝家の宝刀」と称されることもあり、一事務年度あたり数件の適用件数が確認される程度に謙抑的に運用されていました。他方、最判令和4年4月19日において一定の判断枠組みが示され1、課税庁の主張が認められたことで2、令和4事務年度以降の適用件数が大幅に増加しました。国税庁の資料によれば、直近10事務年度における株式に対する総則6項の適用件数は14件ですが、そのうち令和4事務年度と令和5事務年度だけで9件にのぼっています。

もっとも、総則6項により否認する課税処分については、日本税理士会連合会や日本公認会計士協会等から、納税者の予見可能性や課税の安定性を確保する観点から、通達の見直しを求める意見が継続的に示されていました3

Ⅲ. 会計検査院の指摘

会計検査院は令和6年11月、非上場株式の相続税評価に関する検査結果を公表しました4

検査結果では、無作為抽出した1,600件の申告を分析し、類似業種比準価額の中央値が純資産価額の中央値の4分の1程度の低い水準になっていることが示されました。検査結果では、さらに、会社規模ごとの純資産価額に対する申告評価額の中央値は、大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍と、会社規模が大きくなるほどに低くなることも確認されています。これは、評価会社の規模があがるほど、類似業種比準価額方式の折衷割合が増加する評価ルールになっているためです。こうした状況に、会計検査院は、異なる規模区分の評価会社の株式を取得した者の間で株式評価の公平性が必ずしも確保されているとはいえないという懸念を示しました。

また、特例的評価方式である配当還元方式についても、還元率(10%)が昭和39年の通達制定当時から変更されておらず、現代の金利水準のもとでは評価額が相対的に低くなっているおそれがあるとも指摘されています。

これを踏まえて、会計検査院は「国税庁において、相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間での株式の評価の公平性や社会経済の変化を考慮するなどして、評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要である。」と指摘しました。

国税庁が有識者会議の第1回会合で公表した令和4年分・令和5年分の申告データの分析においても、評価方式次第で評価額に約4倍の差が出るという会計検査院の指摘と同様の傾向が確認されました5

Ⅳ. 有識者会議の内容

1. 有識者会議の設置

国税庁が設置した有識者会議は、座長を慶應義塾大学大学院法務研究科の佐藤英明教授(租税法)が務め、委員13名で構成されています。7名の学識経験者にくわえ、日本商工会議所、日本税理士会連合会、M&A実務の関係者が加わり、理論と実務の双方を横断的に検討する体制となっています。なお、オブザーバーとして中小企業庁及び全国商工会連合会が参画しています。

2. 国税庁が示した見直しの4つの観点

第1回会合において、国税庁は現行の評価方法の問題点を整理するとともに、見直しにあたっての基本的な「4つの観点」を示しました。ここで重要となるのは、単に還元率や比準要素の数値を調整するのではなく、評価方式の役割そのものを再検討する姿勢が明確に打ち出された点です。要旨は以下のとおりです。
 

①「評価額の崖」の解消
  • 会社規模区分間の評価方式のかい離を是正し、評価額操作の誘因を排除して納税者間の公平性を確保
②評価額の「恣意性・操作性」の排除
  • 配当・利益・会社規模等の操作による株価圧縮スキームの排除
  • 配当還元方式について、特例的評価の趣旨を踏まえた見直しと適用株主を作出するスキームの排除
③実務・学術上の進展を踏まえた「今日的観点」からの見直し
  • 通達制定当時からの金利変動を踏まえた還元率の見直し
  • 継続企業の前提のもと、企業の収益力等を反映する評価方法の検討
  • 税務以外の企業評価手法(学術研究の成果)等も参考にした検討
④第三者への事業承継等の動向も踏まえた評価
  • M&Aによる事業承継等の増加を踏まえた企業価値評価手法を踏まえた検討
  • 継続企業を前提に、純資産価額方式における引当金の取扱い等を検討


このような姿勢を踏まえると、今回の見直しは、各評価方式の微修正に留まらず、取引相場のない株式の評価体系全体の見直しに及ぶ可能性があります。

3. 具体的に指摘されている評価圧縮スキーム

国税庁は、有識者会議の第1回会合における配布資料において、評価方式間のかい離を利用したスキームの具体例として、(i)グループ法人税制の寄附修正を利用して親会社が有する子会社株式の簿価を減額修正し人為的に評価差額を作出する手法、(ii)無議決権株式を利用して親族の一部を配当還元方式の適用対象とする手法、(iii)非上場会社の超過収益力分を役員報酬として社外流出させる手法を示しました。これらの手法に対する評価はなお議論を要しますが、その多くは、会社法や法人税法の改正(組織再編税制の整備・グループ法人税制の導入)に財産評価基本通達が十分に対応してこなかったことが背景にあると考えられます。

V. 今後予想される議論・改正の方向性

1. 今後の有識者会議の開催予定

報道によれば、有識者会議は今後、複数回の会合を重ねた上で、今年の夏から秋頃に論点整理や取りまとめが行われ、令和9年度税制改正大綱の公表、パブリックコメントの実施を経て、令和10年1月から新ルールが適用されるスケジュールが想定されるという報道がなされています6

2. 議論・改正の方向性

現時点で具体的な改正案や、改正の具体的な方向性は公表されていませんが、国税庁が示した論点を踏まえると、類似業種比準価額方式が見直しの中心になることが考えられます。その上で、純資産価額方式や配当還元方式についても見直しが行われる可能性があると思われます。したがって、今回の見直しは、個々の微修正ではなく、取引相場のない株式の評価体系全体の見直しに及ぶ可能性があります。

3. 類似業種比準価額方式の見直し

類似業種比準価額方式については、評価対象会社が無配当又は低配当であるケースが多く、比準要素としての「配当金額」が十分に機能していないと指摘されています。また、過去の通達改正により、しんしゃく率や会社規模の区分が導入されたことで、類似業種比準価額と純資産価額のかい離が拡大したと分析されています。これらを踏まえると、今後は、比準要素のウエイト配分やしんしゃく率、無配当会社の取扱いが主要論点になるのではないかと思われます。もっとも、議論の帰趨によっては、類似業種比準価額方式の廃止や、その代替として、収益還元法その他の手法7を取り込むような抜本的な改正にまで踏み込む可能性も、現時点では否定できないように思われます。

4. 純資産価額方式の見直し

有識者会議では、純資産価額方式についても検討事項として取り上げられています。会議資料では、継続企業を前提として、純資産価額方式における引当金の取扱いを実務に即して検討する旨が明記されており、これまで負債計上が認められてこなかった引当金等についても検討の俎上に載っています。具体的には、退職給付債務や資産除去債務のように将来のキャッシュアウトが相当程度見込まれる項目をどこまで負債として純資産価額の算定に織り込むかが論点となります。見直しにより負債計上が認められれば、純資産価額は相応に引き下げられることになります。

5. 配当還元方式の見直し

配当還元方式については、還元率10%が昭和39年の通達制定時から見直されておらず、低金利環境を十分に反映していない点が「今日的観点」からの見直し対象とされています。加えて、無議決権株式等を利用して配当還元方式の適用対象を人為的に作り出すスキームが問題視されていることから、同族株主及び中心的な同族株主の範囲や適用対象となる株主の判定方法そのものも見直しの対象となる可能性があります。

Ⅵ. 実務に与える影響

1. 評価額の引上げと事業・株式承継への影響

有識者会議は開始したばかりであり、改正の方向性は未だ示されていないことから、現時点でその影響を精緻に予測することはできません。もっとも、類似業種比準価額が引き上げられる方向で見直しが行われる場合、その影響は広範に及ぶことが想定されます。とりわけ、大会社や中会社においては、自社株式の評価額が大幅に上昇する可能性もあるため、現行の承継スケジュールや納税資金計画を前提とした事業承継対策を大きく見直す必要が生じる可能性もあります。例えば、すでに一定の対応を行ったものの、株式の承継自体は未了である場合は、有識者会議の議論の動向を注視しつつ、改正による影響を踏まえて、承継のタイミングを含めた対策を見直す必要が生じる可能性もあります8

2. 所得税法・法人税法上の時価への影響

財産評価基本通達が改正された場合の影響は、相続税・贈与税だけに留まりません。特に注意を要するのは、いわゆる所得税法上の時価や法人税法上の時価の算定にも波及する点です。所得税法上の時価は、個人が法人に対して非上場株式を譲渡する場合、法人税法上の時価は法人間で非上場株式を譲渡する場合などに用いられる税務上の時価をいいます。

所得税基本通達59-6及び法人税基本通達4-1-6・9-1-14は、非上場株式の時価は、一定の前提条件のもとに財産評価基本通達の例により算定することとしています。このような体系そのものが変更されない限り、財産評価基本通達が改正された場合は、これらの時価にも影響を与えることになります。したがって、個人から法人への譲渡、同族会社間の譲渡、第三者割当増資や新株予約権の発行9など、所得税法上の時価や法人税法上の時価が問題となる多様な場面において株価水準の見直しが必要になります。今回の通達改正の議論が、資産税だけではなく、所得税や法人税の分野においても大きな影響を与え得るという認識のもと、議論を注視する必要があり、議論次第では資本政策やグループ内取引全般について再検討が必要になる可能性もあります。

Ⅶ. おわりに

今回の見直しは、昭和39年に現行の非上場株式の評価ルールが制定されたこと以来の大きな転換点となる可能性があります。有識者会議の議論の対象は、相続税率の引上げや基礎控除の縮小を対象としたものではないとはいえ、日本の事業承継実務に極めて大きな影響を及ぼすといえます。他方、非上場株式の評価ルールは法律ではなく国税庁内部の通達であるため、国会審議を経ずに見直しが行われ得る点に注意を要します。国税庁は議事要旨を公開する方針を示していますが、国民の理解を広く得るために、今後も提出書類の開示に加えて、議論の過程についても詳細に開示することが望まれます。

今後は、有識者会議の議論の進展、令和9年度税制改正大綱、パブリックコメントという各段階において、取り上げられた論点がどのように改正案に織り込まれるか、又は織り込まれないかについて、有識者会議の動向を注視し、早期に情報を把握することが肝要です。本ニュースレターでも、議論の進展を踏まえて、今後も情報提供を予定しております。

  1. 令和4年最判の詳細については、弊所Wealth Management Newsletter 2022年5月号等をご参照ください。
  2. 本ニュースレターでは便宜上、「総則6項を適用する」という税務当局の立場に沿った記載を用いていますが、通達は行政機関の内部的な取決めに過ぎず、課税処分が適法か否かは、通達の適用によってではなく、法律の解釈によって決まることに留意する必要があります。前述の令和4年最判も、総則6項の適用について判断したものではなく、総則6項に基づいてなされた課税処分が平等原則違反の観点から適法か否かを論じたものです。
  3. 日本税理士会連合会「令和8年度税制改正に関する建議書」、日本公認会計士協会「令和8年度税制改正意見書
  4. 会計検査院「令和5年度決算検査報告」(2024年11月)
  5. 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」(2026年4月20日)
  6. 日本経済新聞電子版「非上場株の相続税評価 通達での変更、透明性確保と徹底議論が不可欠」(2026年4月21日)
  7. 例えば、有識者会議の委員である桜井久勝氏や八重倉孝氏は、残余利益モデルに関する論文を執筆されており、類似業種比準価額方式に代替する評価手法として議論される可能性もあると思われます。詳細は、桜井久勝「残余利益モデルによる株式評価-非上場株式への適用をめぐって-」(税務大学校論叢40周年記念論文集)、八重倉孝「残余利益モデルの拡張」桜井久勝編著『企業価値評価の実証分析-モデルと会計情報の有用性検証』(中央経済社、2010年)を参照。
  8. ただし、例えば改正通達の適用開始前の駆け込みによる株式移動とみられるようなケースでは、改正前であっても総則6項が適用されることによる否認の契機ともなり得るため、実際にどのような対応を行うかは、否認リスクも踏まえて慎重に判断する必要が出てくる可能性があります。
  9. 例えば、非上場スタートアップが発行するストックオプション目的での新株予約権の発行については、近時の通達改正やQ&A(国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)(情報)」)により、ストックオプションの行使価額や目的となる株式の価額についての評価方法が整備されています。今回の通達の見直しに関する議論が、こういった各種の取扱いにどのような影響をもたらし得るか、慎重に議論を注視する必要があります。

関連するトピックス