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Tech, IP and Telecoms Law Newsletter

Tech⁠, IP and Telecoms Law Newsletter Vol⁠.16 2025年7月号

1. デジタル行財政改革会議:「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」

デジタル行財政会議は、2025年6月13日、「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」を決定し、公表しました。本基本方針は、昨年末からのデータ利活用制度・システム検討会における約半年にわたる集中的な議論をふまえたもので、日本のデータ利活用(特に異なる主体間でのデータ連携)をめぐる現状を確認した上で、今後のデータ利活用のための環境整備や分野横断的な改革事項を示しつつ、さらに医療をはじめとする個別分野での改革事項まで踏み込むなど、日本社会におけるデータ利活用による新たな価値の創造や、データとAIの好循環に向けて必要なロードマップを包括的に示すものです。

本基本方針は、個人データから非個人データ、民間事業者のデータから行政データまで幅広い領域のデータ利活用を対象としており、分野横断的な改革事項としては、①データ連携の基盤整備及びデータ標準化の推進、②データ提供インセンティブの確保、③信頼性の高いデジタル空間の構築(データガバナンスの確保、データセキュリティの確保、データ連携プラットフォームの整備、個人情報の適正な取扱いの確保)などを示しています。政府の当面の対応としては、官民データ活用推進基本法の改正(又は新法の制定)など必要な検討を行い、2026年の通常国会に法案を提出することを目指しているほか、個人情報保護法についても同時並行でアップデートする必要性を示しています。

個別分野での改革事項としては、医療、金融、教育及びモビリティ分野などを重点領域と位置付け、データスペースの整備等を進めることとしています。特に、医療分野については、個人の権利・利益の保護と医療データの利活用の両立に向けた特別法の制定を含め、実効的な措置を検討するとされ、2025年末を目途として中間的に取りまとめを行ったうえで2026年夏を目処に議論を整理し、法改正が必要であれば2027年通常国会に法案を提出することを目指す旨を明記しています。また、金融分野についても、クレジットカード分野でのAPI連携の強化を含め、2025年度中に課題への対応の方向性や工程をとりまとめることとしています。

2. 知的財産推進計画2025

知的財産戦略本部は、2025年6月3日、知的財産推進計画2025を公表しました。知的財産推進計画2025は、我が国における知財戦略について今後の方針性と重点施策を取りまとめたものです。本計画は、日本の国際的な競争力が低下傾向になる中で、「IPトランスフォーメーション」を標語として掲げ、我が国の技術力、コンテンツ力、国家ブランド力などの知的資本を最大限活用し、社会課題の解決を図ることを目指すことが示されています。IPトランスフォーメーションを実現するには、グローバルでのマーケティングや収益の最大化を意識したうえで、知的財産の創造・保護・活用からなる「知的創造サイクル」を回すことが必要であるとし、「イノベーション拠点としての競争力強化」「AI等先端デジタル技術の利活用」「グローバル市場の取込み」という三本柱に沿った取組を実行していくと定めています。

本計画には、知的財産の創造・保護・活用の各段階について、様々な重点施策などが定められています。例えば、海賊版・模倣品対策の強化として、海賊版等に対する厳正な水際取締りの実施や、知的財産の侵害を抑制するための制度的手当の検討や法改正を含めた必要な措置を講ずることが予定されています。また、スタートアップ向けに不足している知財人材の派遣や育成を支援するなど、スタートアップの知財面からの支援策を行うことも予定されています。本計画においては具体的なKPIも定められており、例えば、2035年までに世界知的所有権機関(WIPO)におけるグローバルイノベーション指数の上位4位以内を目指すこと(2024年は13位)、日本ファンの拡大に向けて「日本が大好き」の割合を2033年までに10ポイント上昇させること、日本初のコンテンツ海外市場規模を2033年までに20兆円に拡大することなどが定められています。

我が国の国際的競争力が低下傾向にある中、我が国のコンテンツ産業の国内外の市場規模はなお大きく、日本の基幹産業の一つと言えます。ソフトパワーを強化していくためにも、我が国の知的資本を最大限に活かしていくことが非常に重要であり、官民が連携して、今後本計画に沿って進められる様々な施策に取り組んでいくことが期待されています。

3. 総務省:「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」の公表

総務省は、2025年6月9日、「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を公表しました。本ガイダンスは、広告主が望まない媒体への広告配信によるブランドの毀損や広告費の流出、偽・誤情報等の拡散の助長等のリスクに対応するため、「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ」における議論を踏まえ、広告主(広告担当者および経営層)、デジタル広告配信等を行う事業者を対象として策定されたものです。

本ガイダンスでは、広告主等が実施することが望ましい取組として、①体制構築·目標設定:体制構築、広告配信の目的および指標の設定、情報の開示、②具体的取組:契約段階における取組、品質認証事業者との取引、技術的対策、広告プラットフォームの機能の利用、配信先の取捨選択、③配信状況確認:継続的な効果把握、必要に応じた改善を挙げています。本ガイダンスの付録資料には、体制整備に向けたフローチャート、配信状況確認の手順および着眼点の例、情報開示方法も掲載されており、具体的で実務に即した内容となっています。

なお総務省は、本ガイダンスの策定に先立つ2024年6月21日には、大規模SNS等事業者に対して、なりすまし型「偽広告」について、出稿時の事前審査や、なりすまし型「偽広告」の事後的な削除等の対応を要請していました。総務省はデジタル広告をめぐる諸課題に積極的・継続的に取り組んでおり、今後の動向も注目されます。

4. 美容クリニックにおける薬剤の生産について、知財高裁大合議判決が特許権侵害と判断(知財高判令和7年3月19日)

知財高裁特別部は2025年3月19日、大合議判決において、美容クリニックにおける薬剤の生産について特許権侵害を認める判断を下しました(令和5年(ネ)第10040号。本判決。)。本件は、①自己由来の血漿、②塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)、③脂肪乳剤の3つの成分を含有する「豊胸用組成物」の発明(本件発明)に関する特許権(本件特許権)を有するX(原告・控訴人)が、医師であるY(被告・被控訴人)に対して、Yの経営する美容クリニックにおいて「血液豊胸術」に用いるために薬剤を生産したことによって本件特許権が侵害されたとして、損害賠償請求をした事案です。第一審の東京地裁判決は、Xの請求を棄却していました。

知財高裁では、以下が主な争点となりました。
 

  • 本件発明は、組成物という「物の発明」として特許されているものの、実質的には「医療行為」の発明を特許するものとして、産業上の利用可能性の特許要件(特許法29条1項柱書き)に違反した無効理由があるか(争点ア)。
  • Yが被施術者から採血して豊胸用組成物を製造する行為は、医師の処方せんにより調剤する行為を特許権の効力の対象外とする特許法69条3項の規定により、特許権侵害の責めを負わないこととなるか(争点イ)。
     

争点アについて、特許庁の出願実務(特許・実用新案審査基準)においては、人間を手術、治療又は診断する方法(「医療行為」)は、産業上の利用可能性の特許要件を満たさないとされています。本判決は、「人間から採取したものを原材料として医薬品等を製造する行為は、必ずしも医師によって行われるものとは限らず」、これらの技術の発展には、「医師のみならず、製薬産業その他の産業における研究開発が寄与するところが大きく、人の生命・健康の維持、回復に利用され得るものでもあるから、技術の発展を促進するために特許による保護を認める必要性が認められる」と指摘して、産業上の利用可能性の特許要件に違反しないと認めました。

また、争点イについて、特許法69条3項は「二以上の医薬(人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物をいう。・・・)を混合することにより製造されるべき医薬の発明」を対象として、特許権の効力の対象外となることを規定しています。本判決は、本件発明に係る組成物は、明細書等の記載からして、豊胸のために使用するものであり、その目的は主として審美にあるとされており、「人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物」と認めることはできないと判断し、特許法69条3項の規定は適用されないとしました。

特許法69条3項に関して判断した裁判例はあまりなく、本判決が同条項について示した判断は今後の実務の参考になります。また、医療行為の特許法上の扱いについては、技術の発達に伴い検討が重ねられてきたところであり、本判決も踏まえたさらなる議論が注目されます。

5. 自動運転に関する施策・議論状況のアップデート

2025年5月30日、国土交通省が設置した自動運転ワーキンググループ(自動運転WG)は、「自動運転ワーキンググループ 中間とりまとめ」(本中間とりまとめ)を公表しました。本中間とりまとめは、2024年6月に公表された「モビリティ・ロードマップ2024」において重点施策として示された、自動運転タクシーの社会実装に向けた議論の結果を主に取りまとめたものです。

自動運転WGでは、自動運転車の社会実装の推進に向けた制度の在り方として、「ビジネスモデルに対応した規制緩和等」及び「自動運転SWG1にて検討すべきとされた3つの観点」が検討課題とされました。前者については、①管理の受委託の運用の明確化、②特定自動運行時に必要な運行管理の在り方、③タクシー手配に係るプラットフォーマーに対する規律の在り方が、後者については、④認証基準等の具体化による安全性の確保、⑤事故原因究明を通じた再発防止、⑥被害が生じた場合における補償が検討され、本中間とりまとめにおいて、それぞれの現状・課題、整理した考え方、今後の対応等が示されました。そして、今後、本中間とりまとめで示された方向性を基本として、必要な制度整備や対応体制の構築など、具体的な取組を進めていくことが重要であるとの認識が示されるとともに、今後は、タクシー以外の自動車運送事業についても、レベル4の自動運転車の社会実装の推進や、将来的には、レベル5の自動運転車の実現なども見据えて検討を進めていくべきであるとされています。

また、2025年6月13日、デジタル庁に設置されたモビリティワーキンググループが、「モビリティ・ロードマップ2025」(本ロードマップ)を公表しました。本ロードマップでは、自動運転の社会実装に向けた取組が実証段階を脱しておらず本格的な事業化の見通しが立っていない現状を踏まえ、これまでの実証成果から、需給一体となったモビリティサービスの再設計の観点、初期の設備投資の負担低減をはじめとする適切な事業構造の観点等から新たな検討を加えつつ、「モビリティ・ロードマップ2024」で取りまとめた施策を改めて見直し、今後の対策の方向性を取りまとめたものです。本ロードマップを踏まえた施策は、2025年度に進捗評価が行われ、新たな課題を整理・明確化しつつ、「モビリティ・ロードマップ2026」へと更なる改訂を行うことが想定されています。

今後も自動運転の実証から実装に向けた制度整備の動向や、これを踏まえた法制度の動向を引き続き注視する必要があります。

6. 内閣官房国家サイバー統括室(NCO):インシデント報告統一様式案

2025年7月1日、内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)を改組する形で、内閣官房国家サイバー統括室(National Cybersecurity Office:NCO)が発足しました。

同室は、同月10日、DDoS攻撃事案及びランサムウェア事案が発生した場合における関係省庁への報告等に利用可能な共通様式の案についてのパブリックコメントの募集を開始しました(同年8月9日まで)。

サイバー攻撃被害等のセキュリティインシデントが発生したとき、被害組織は、既存の制度に基づき当局への報告が必要です。例えば、個人情報の保護に関する法律26条に基づく個人情報保護委員会に対する個人データ漏えい等の報告義務、各業法に基づく所管省庁への事故報告義務、サイバー犯罪被害者としての警察への通報・相談などがあります。そして、2025年5月16日に成立した能動的サイバー防御に関するサイバー対処能力強化法(概要について、本レター2025年5月号(No.15)もご参照ください。)に基づき、基幹インフラ事業者には、セキュリティインシデントの報告義務が新たに措置されます。

このような状況を受けて、インシデント報告に関する被害組織の負担軽減を図るため、2025年5月29日に開催されたサイバーセキュリティ戦略本部会合において、様式の統一を実施し、報告先の一元化についても必要な制度改正等を行うことが喫緊の課題とされ、同会合の資料として「インシデント報告様式の統一について」が公開されました。上記様式案は、これを踏まえたものです。

具体的なタイムラインは大きく2段階であり、まず第1段階では、2025年10月1日より、DDoS攻撃事案とランサムウェア事案の報告(潜伏型サイバー攻撃は含まない)に関する統一報告様式の運用を開始し、その後、第2段階として、サイバー対処能力強化法に基づく報告義務の施行(2026年11月23日まで)にあわせて、報告受付システムの整備を進め、報告窓口が一本化される予定です。

  1. AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ
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