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Asian Legal Insights

Asian Legal Insights 第180号(2025年10月号)
【今月のトピック】インドネシア、タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピン、ミャンマー

Ⅰ. タイ:タイでデータセンター事業を行う際の規制概観とデータセンター事業のBOI投資奨励の改正

近年、タイにおいてデータセンターの需要が急速に拡大しており、タイ国外の事業者からも進出先・投資先として注目されています。本レターでは、日系企業を含む外資企業がタイのデータセンター事業に参入する際に留意すべき主要な規制枠組みと、タイ投資委員会(The Board of Investment of Thailand:「BOI」)による2025年6月5日付の告示に基づくデータセンター事業の投資奨励の条件の改正(「本改正」)について概説します。

1. 電気通信事業法上のライセンス規制

まず、データセンター事業は電気通信事業法(Telecommunications Business Act)上の「電気通信事業」に該当する可能性があるものと一般的に考えられており、国家放送通信委員会(National Broadcasting and Telecommunications Commission)から、同法上のType 1ライセンスを取得することが一般的です。

Type 1ライセンスは、Type 2やType 3ライセンスと比較して取得が容易であり、また、Type 1ライセンスには同法上の外資出資規制も適用されません。

2. 外資規制

電気通信事業法上の外資出資規制が適用されない場合であっても、タイにおける一般的な外資規制を定める外国人事業法(Foreign Business Operation Act)と、外国人の土地取得を制限する土地法(Land Code)上の規制には留意が必要です。

(1)外国人事業法
外国人事業法上の「外国人」は、タイ国内において、一定の規制対象事業を行うことが原則として認められておらず、データセンター事業は規制対象事業である「その他サービス」に該当します。同法上の「外国人」には、いわゆる外資が50%以上の株式を保有するタイ法人も含まれます。

同法上の「外国人」が規制対象業種を行うには、外国人事業許可(Foreign Business License:「FBL」)又は外国人事業証(Foreign Business Certificate:「FBC」)を取得する方法があります。一般にFBLに関しては当局の裁量が広いため、取得のハードルが高く、また、取得のために半年程度の期間を要する一方、FBCは下記のBOIの投資奨励を受けた場合には、比較的容易に取得が可能です。

(2)土地法
データセンターを建設するための土地に関して、第三者からのリースではなく所有権を取得して開発しようとする場合、土地法の規制にも注意が必要となります。

同法上の「外国人」は、原則として土地の所有が認められていません。なお、土地法における「外国人」の定義は、外国人事業法の「外国人」の定義と類似しているものの、株式の(50%以上ではなく)49%超を外資が保有するタイ法人や株主の人数の過半数が外国人であるタイ法人もこれに該当する点で異なります。

もっとも、①BOIの投資奨励を受けている場合に、当該投資奨励に基づきさらにBOIから許可を受けた場合、又は②工業団地内の土地の場合は、土地法上の「外国人」であっても、例外的に土地を所有することが認められます。

外資企業がタイで土地の所有権を取得して土地の開発を行う案件では、外国人事業法上の「外国人」及び土地法上の「外国人」に該当しないよう、ローカルパートナーが株式の51%以上を保有する合弁会社を設立するスキームがとられることが一般的です。もっとも、データセンター事業を行う場合には、ローカルパートナーが事業上又は資金面で重要な役割を果たすような例外的なケースを除き、両法上の「外国人」に該当することを前提としてBOIの投資奨励を受けた上でFBCを取得し、さらに、①BOIから土地所有の許可を得るか、②工業団地内の土地を取得するのが一般的です。
 

3. BOIの投資奨励と本改正

上記のとおり、外国人事業法上の「外国人」がタイでデータセンター事業を行う場合、BOIの投資奨励に基づきFBCを取得する方法があり得るところ、BOIは、2025年6月5日付の告示により本改正を行い、データセンター事業についての投資奨励のための条件を追加しました。

改正前の主な条件は、一定のサービス内容の提供、国内外4拠点以上との高速通信網の確保、一定のバックアップ・メンテナンス体制の確保、電力・防火・セキュリティ体制の確保、ISO/IEC27001認証の取得等でした。

本改正は、従来1つのカテゴリーであったデータセンター事業を、「高い電力利用効率を有するデータセンター」(PUE(Power Usage Effectiveness)が1.3以下)と「その他のデータセンター」の2つのカテゴリーに分けた上で、両カテゴリー共通して、従来の条件のほか、効率的かつ持続可能な水資源管理計画の策定及びタイ国内への貢献計画の策定(研修実施、教育機関との共同カリキュラム開発、R&D、中小企業支援等)を新たな条件として追加しました。

また、本改正により、BOIの投資奨励に基づく税制優遇の内容も修正され、高い電力利用効率を有するデータセンターについては、法人所得税の8年間の免除、その他のデータセンターについては法人所得税の5年間の免除となりました。また、本改正により、法人所得税の免除金額の上限が新たに設けられたことも留意する必要があります。

タイにおけるデータセンター事業への参入が活発化する中、BOIがエネルギー効率・環境配慮・人材育成の要件を追加した改正を行った点は、実務上注目に値すると言えます。また、他法域の経験に共通する傾向として、データセンター用の用地・電力・水の資源が徐々に逼迫しており、参入のハードルが上がっていくことから、早期参入が望ましいと思われます。

Ⅱ. フィリピン:外国投資家リース法の改正

2025年9月、外国投資家リース法の改正法(Republic Act No. 12252:「本改正法」)が成立し、同月施行されました。外国投資家リース法は、外国企業等によるフィリピンの土地の賃借に適用される法律です。本改正法により、外国企業等による借地期間は、一定の条件を満たす場合には、従前の最長50年(ただし、更新により25年延長可能)から最長99年に変更されます。

本改正法は、フィリピンに進出している製造業をはじめとして多くの日系企業に影響を与える改正であるため、その概要をご紹介いたします。

(本改正法における借地契約の概要) 

借地の期間最長99年間(ただし、国家安全保障や国の優先的な開発事項の観点から、重要なインフラ産業に従事している外国企業等については、政府機関の要請により、99年より短い借地期間となることがある。)
借地の目的外国企業等は、1991年外国投資法(Foreign Investments Act of 1991)、企業復興税優遇法(Corporate Recovery and Tax Incentives for Enterprises Act)その他関連法令に基づいて承認及び登録された投資プロジェクトを有しているか、投資促進機関が定める投資要件を満たしている必要があり、借地は、承認及び登録された投資プロジェクトのために使用する必要がある。
借地の登記

借地契約が登記局(Registry of Deeds)において登録され、借地の対象となる土地の権利証に付記されている必要がある。借地の登記を行うためには以下の要件が満たされている必要がある。

  • 投資の承認及び登録に関する証拠の提出
  • 借地の開始日及び期間が明確であること
  • 借地の対象が明確に特定されていること
  • 借地人が投資プロジェクトの準備行為を行っていること
  • 借地契約において、借地の目的に変更が生じた場合、又は、借地契約の締結から合理的な期間内に投資プロジェクトが開始されない場合、借地契約を終了させる条項が存在すること
借地の終了借地契約の締結から3年以内に投資プロジェクトが開始されない場合、関連する政府機関は、合理的期間内に投資プロジェクトを開始するよう命令し、当該命令にもかかわらず投資プロジェクトが開始されないときは、政府機関が借地契約の終了を命ずることがある。
転貸借転貸借は可能(ただし、原賃貸借に適用される条件は転貸借にも適用される。)


本改正法の概要は、上記表のとおりです。本改正法の施行から90日以内に施行細則(Implementing rules and regulations)が制定されることが予定されており、今後の動向に注目する必要があります。

Ⅲ. マレーシア:ギグワーカー法案2025の議会通過

マレーシアにおいて、いわゆる従来型の雇用労働者に属さない独立・柔軟な働き手であるギグワーカーについては、労働法の適用がされずその法的保護が不十分とされていました。この度、このような問題意識に対応するため、いわゆるギグワーカーの保護を主目的とするGig Workers Bill 2025(ギグワーカー法案2025:「本法案」)が、2025年8月28日に下院(Dewan Rakyat)で、9月9日に上院(Dewan Negara)でそれぞれ可決されました。本法案は王室の承認を経て、官報掲載後、別途人事労働省長官が指定する日から施行される予定です。本法案の主要な点について、以下のとおりご紹介いたします。

1. ギグワーカーの定義(2条)

本法案では、「ギグワーカー」を、以下の3つを満たす個人と定義しています。
 

  1. マレーシアの市民又は永住者であり
  2. (i)プラットフォーム提供者である契約主体のためにサービスを提供する目的で、又は(ii)プラットフォーム提供者でない契約主体のために法案の別表に列挙されたサービス(演技、撮影、音楽関連、美容、翻訳、ジャーナリズム、出産前後ケア、緩和ケア、高齢者ケア・リハビリ、写真・映像撮影等)を提供する目的で、契約主体とサービス契約を締結し
  3. 上記のサービスの提供によって報酬を受け取る者

上記の定義において、「契約主体」とは、個人、法律により設立・登録された法人又はプラットフォーム提供者のいずれかであって、ギグワーカーとサービス契約を結び報酬を支払う者を指します。「プラットフォーム提供者」とは、ギグワーカーによるサービスと利用者(サービス受領者)をつなぐデジタル仲介システムの提供者を指します。また、「サービス契約」とは、マレーシアにおいて報酬と引き換えにサービスを提供するギグワーカーと契約主体との間の契約を指し、口頭・書面、明示・黙示の形式面は問いませんが、雇用契約は含まないものとされています。

2. サービス契約において明示的に定めるべき事項(3条)

契約主体とギグワーカーの間の全てのサービス契約において、最低限、次の内容を明示することが求められています。
 

  1. 契約当事者
  2. 契約期間
  3. ギグワーカーが提供するサービス内容
  4. 各当事者の義務
  5. 報酬額及び報酬の詳細
  6. 報酬の支払い方法
  7. チップや追加給付金(もしあれば)

さらに、本法案の定めよりも不利な条件は無効とされ、本法案の定める条件に置き換えられます。

3. ギグワーカーの権利(8条・9条)

本法案は、ギグワーカーに対して、以下のような権利を保障しています。
 

  1. サービス契約で合意された条件や提供するサービス内容について通知を受ける権利
  2. サービス提供に合意する前に、報酬の率及び詳細を知らされる権利
  3. チップや追加給付金、その他福利厚生の支払い方法を通知され、合意期日(合意がない場合はサービス提供後7日以内)に受け取る権利
  4. サービス契約の条件が変更される場合に、協議を行い通知を受ける権利
  5. 正当な理由なく解約されない権利
  6. 紛争解決メカニズムを提供される権利
  7. 契約主体以外の第三者との契約締結を制限されない権利
  8. 契約条件、業務割当、報酬支払いに関して差別されない権利

さらに、プラットフォーム提供者と契約を締結するギグワーカーには、自動化された監視システムや意思決定システムをプラットフォーム提供者が用いている場合にはこれらについて通知を受ける権利と、これらの自動化されたシステムの結果につき自動化されていないレビューを受ける権利も保障されます。

4. 紛争解決メカニズム(17~45条)

本法案は、以下の手順を通じた紛争解決メカニズムを定めています。
 

  • ギグワーカーは、契約主体(個人又は個人事業主を除く)に書面で苦情を提出でき、契約主体は苦情を受け取ってから30日以内に内部の苦情処理制度を通じて解決を図る義務があります。
  • 苦情の対象が個人又は個人事業主である契約主体である場合や、内部苦情処理制度による紛争解決がなされない場合(内部苦情処理制度がない、内部苦情処理制度の結論にギグワーカーが納得しない等)には、ギグワーカーは調停官(Conciliator)のもとに調停を申し立てることができます。調停官は、産業関係局長(Director General for Industrial Relations)、副局長、又はIndustrial Relations Act 1967に基づき任命された者がこれを務めます。
  • 調停で解決しない場合、紛争はギグワーカー審判所(Gig Workers Tribunal)に付託されます。審判所はヒアリング終了から原則として30日以内に判断を行うものとし、審判所の判断は初級裁判所(Sessions court)の判決と同じものとみなされ拘束力を有します。審判所の判断に不服がある場合には高裁(High court)への上訴が可能です。

5. 社会保障(82~83条)

マレーシアには自営業者向けのSelf-Employment Social Security Schemeが設けられているところ、本法案において、プラットフォーム提供者は、ギグワーカーをSelf-Employment Social Security Schemeに登録し、ギグワーカーの報酬から拠出金を控除して支払うことが義務付けられています。

6. 労働安全衛生(103条)

契約主体は、ギグワーカーがサービスを提供する際の労働安全衛生を確保するため、次のような義務を負うとされています。
 

  1. 作業に伴う危険を評価してリスク管理措置を実施すること
  2. 使用器具・施設に対して適切な安全対策を講じること
  3. 作業プロセスや配置によってギグワーカーが過度の安全・健康リスクにさらされないよう配慮すること
  4. 十分な情報、訓練、指導、監督を提供すること
  5. 緊急時対応手順を策定・実施すること
  6. ギグワーカーがサービス提供中に被った事故・疾病を労働安全衛生局(Director General of Occupational Safety and Health)に報告すること

本法案は、マレーシア国内で120万人を超えるともいわれるギグワーカーの保護を目指すものです。本法案により小規模事業者が駆逐されギグワーカーの地位にかえって悪影響があるのではないかと指摘する声もありますが、労働組合等からはポジティブな受け止めの声もあります。

本法案により保護を受けるギグワーカーはマレーシアの市民権又は永住権がある者であるため、日本人ギグワーカーには原則として適用はされない見込みです。他方、現地に進出している日系企業においても、ギグワーカーを活用した事業展開をされている場合は、その運用が本法案に沿ったものとなっているかを見直していく必要があります。

Ⅳ. インドネシア:労働法制に関する近時の憲法裁判所判断

1. 解雇関連訴訟の出訴期限の起算日に関する判断

インドネシア憲法裁判所は、2025年9月3日、不当解雇訴訟等、解雇関連訴訟に関する出訴期間を「解雇通知受領日から1年以内」と規定する労使紛争解決法(2004年法律2号)82条について、「調停又は斡旋が不調に終わった日から1年以内」と解釈しない限り違憲無効とする判断を下しました(No. 132/PUU-XXIII/2025)。

従前、労使紛争解決法82条の文言上は、解雇関連訴訟について、労働者が解雇通知を受領した日から1年以内に提訴しなければならないと規定されていました。他方で、解雇された労働者が不当解雇等を争いたい場合、解雇通知受領後、訴訟提起に先立ち、労使二者間協議及び労働省による調停・斡旋といった手続を経る必要があります。しかし、使用者側の対応の遅れ等が原因で、(法令上予定されている各手続期間を超えて)前置される各種手続に時間を要する結果、これらの手続が不調に終わる頃には、既に解雇通知受領日から1年を経過しており、裁判所に提訴ができない事案も実務上は生じていました(なお、この問題を踏まえ、本決定における申立人は、憲法裁判所に対し、出訴期間を解雇通知受領日から3年とするよう求めていました。)。

これに対し憲法裁判所は、使用者・労働者双方の権利保護・法的安定性の確保等の観点から、出訴期間自体は1年を維持しつつ、その起算日を、「労働者の解雇通知受領日」ではなく、「調停・斡旋が不調に終わった日」とすべきと判断し、結果として、実質的な出訴期限の延長を認めました。

2. 住宅貯蓄制度(Tapera)に関する判断

インドネシア憲法裁判所は、2025年9月29日、住宅貯蓄制度(「Tapera」)を定める法律(2016年法4号:「本法」)全体を違憲とする判断を下しました(No. 96/PUU-XXII/2024:「本決定」)。

従前、本法の下位規則である政令2024年21号により、民間企業に勤める、20歳以上又は婚姻済みであり、かつ、最低賃金以上の給与を受給している全ての従業員(インドネシアで6か月以上就労する外国人労働者を含む。)を対象に、2027年5月20日までにTaperaに加入することが義務付けられていました。また、政令2024年21号では、民間企業の雇用主・従業員の社会保障拠出額が給与の3%(雇用主負担0.5%、従業員負担2.5%)と定めていたため、経済的負担の増加について企業側・労働者側の双方から懸念が示されていました。

憲法裁判所は、本決定において、貯蓄は本来強制ではなく任意に行われるべきものであること、Taperaが既存の社会保障制度(BPJS Ketenagakerjaan)と重複し、二重負担を課していること等を指摘の上、本法を違憲と判断しました。

本決定は、本決定日から2年以内に、制度そのものを見直した上で、本法及び関連する下位規則を改正することを求めています。

Ⅴ. シンガポール:SIAC再編・倒産仲裁プロトコルの公表

2025年8月26日、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)は、SIAC再編・倒産仲裁プロトコル(「本プロトコル」)の導入を公表しました。本プロトコルは、再編・倒産に関連する紛争について、2025年1月1日に発効したSIAC仲裁規則を一部修正する形で適用して、仲裁手続により迅速に解決することを目的として導入されました。本プロトコルに基づく仲裁手続の主な特徴は、以下のとおりです。

(1)手続期限の短縮
本プロトコルは、主要な手続の期間・期限を短縮することで、迅速な紛争処理を可能としています。例えば、本プロトコルでは、答弁の提出期限が仲裁の開始日から7日以内(SIAC仲裁規則では仲裁の開始日から14日以内)と通常の仲裁手続より短縮されているほか、仲裁判断の期限が仲裁廷の構成から6か月以内(SIAC仲裁規則に基づく通常の仲裁手続には期限なし)と設定されています。

(2)再編・倒産手続との整合性
本プロトコルは、仲裁廷に対し、再編・倒産手続特有の論点について、早期に検討することを求めています。例えば、本プロトコルでは、仲裁廷の構成から7日以内に初回のケース・マネジメント会議を開催し、第三者の参加の可否、管轄に関する争点が生じる可能性、調停や和解の可能性等について、協議することとされています。

(3)準拠法及び仲裁地の原則
本プロトコルに基づく仲裁手続は、当事者の合意又は仲裁廷の判断がない限り、シンガポールが仲裁地となり、シンガポール法が準拠法となります。

(4)単独仲裁人の選任
本プロトコルに基づく仲裁手続は、紛争の複雑性や係争額等を考慮して3名の仲裁人を選任すべき場合を除き、原則として単独仲裁人が選任されることとされています。

(5)専門家による仲裁手続
本プロトコルに基づく仲裁手続においては、再編・倒産分野に精通した専門家のリストから仲裁人を選任することができます。当該リストには、現時点において16名が掲載されています。

本プロトコルは、再編・倒産に関する紛争の解決に向けた枠組みとして、国際仲裁機関としては初めての試みであり、今後の運用や手続の利用状況等について注視が必要です。

Ⅵ. ミャンマー①:ミャンマーに対する経済制裁等のアップデート~米国による追加制裁の発表

2021年2月1日のミャンマーにおける国家緊急事態宣言の発出以降の対ミャンマー制裁の概要については、本レター第121号(2021年2月号)以降の各号でお伝えしてきたとおりです。直近では本レター第179号(2025年9月号)において、米国財務省外国資産管理室(OFAC)によるミャンマー関係者への制裁指定をご紹介しましたが、本レターではその続報をお伝えします。

OFACは、米国時間2025年9月25日、ミャンマーの個人3名及び法人1社を新たに資産凍結措置等の対象者(Specially Designated Nationals and Blocked Persons:「SDN」)として指定する旨を公表しました。制裁対象として指定された理由は、これらの個人及び法人が北朝鮮(DPRK)からの武器・弾薬の調達に関与し、ミャンマー国軍を支援してきたとされる点にあります。対象者には、ミャンマー人の個人3名のほか、ヤンゴンを拠点とするミャンマー法人Royal Shune Lei Company Limitedが含まれています。

米国政府は、この指定を通じてミャンマー軍政を支える物資・金融ルートの遮断を図るとともに、DPRKによる不法兵器輸出ネットワークの封じ込めも狙っていると説明しています。直前に行われたミャンマー関係者の制裁指定は9月8日付けで公表されたものですが、それはサイバー詐欺ネットワークを標的としたものでした。今回の制裁指定では、ミャンマー国軍への軍事物資の供給遮断と、DPRK(北朝鮮)との取引禁止が重視されています。こういった近時の制裁指定の動きを見ますと、OFACによるミャンマー関連制裁は、従来の「ミャンマー国軍による民主主義の否定や弾圧行為への懲罰」という趣旨に加えて、国際的な詐欺やDPRKとの軍需取引といった国際犯罪・安全保障上のリスクへの対応という観点も含んだ動きとなってきているように思われます。

今回の制裁による日系企業への特段の影響は想定し難いところですが、制裁対象の範囲が軍政中枢からその周縁ネットワークにまで及んでいる事実は、ミャンマー情勢が依然として国際社会の懸念の的であることを改めて示すものといえ、米国を含む主要国の動向を注視していく必要があると思われます。

(ご参考)
本レター第121号(2021年2月号)
本レター第179号(2025年9月号)

Ⅵ. ミャンマー②:国家委員会による追加手当支給額の引き上げ

最低賃金の決定に関する国家委員会(「国家委員会」)は、2025年10月14日付けのNotification第1/2025号(「本Notification」)において、労働者に対して支払うべき追加手当の金額を、従前の2,000ミャンマーチャット(約140円)/日から、3,000ミャンマーチャット(約210円)/日に引き上げることを公表しました。本Notificationに基づく追加手当は、2025年10月1日より、労働者が10名以下の場合及び家族経営事業の場合を除き、全ての事業に等しく適用されます。

最低賃金法上、労働者に支払われるべき最低賃金の具体的金額は、国家委員会において2年ごとの見直しを行うこととされています。2025年10月現在、最低賃金額は、600ミャンマーチャット(約40円)/時間、4,800ミャンマーチャット(約340円)/日(8時間労働の場合)であり、当該金額が定められた2018年5月以降、7年以上改訂されないままの状態にあります。本Notificationでも、最低賃金額自体は据え置いたまま、追加手当の金額のみを引き上げることが明らかにされています。

国家委員会の定める追加手当は、当初、2023年10月に1,000ミャンマーチャット(約70円)/日とされ、その後、2024年8月に2,000ミャンマーチャット/日に引き上げられました(2024年8月の引き上げの背景等については、本レター第166号(2024年8月号)をご参照下さい)。今回これが3,000ミャンマーチャット/日に引き上げられたことにより、8時間労働の場合の労働者に支払うべき賃金日額は、7,800ミャンマーチャット(約560円)(最低賃金4,800ミャンマーチャット+追加手当3,000ミャンマーチャット)以上とする必要があることになります。

国家委員会が最低賃金額を据え置いたまま追加手当のみ引き上げているのは、ボーナスや解雇補償金の計算の基準となる賃金については変更しない一方で、労働者の待遇自体は改善したいという要請のバランスを取るという意図に基づく可能性がありますが、そうした点も含めて今後も引き続きフォローして参ります。

(ご参考)
本レター第166号(2024年8月号)

今月のコラム ―霧の稜線を歩く(?)、ベトナム北西部の高原リゾート―

10月初めの週末、友人に誘われ、気づけばベトナム北西部の避暑地サパを訪れていました。首都ハノイから約300キロ。中国国境にほど近い山間に位置し、複数の少数民族が暮らす棚田で知られる町です。到着して思わず漏れた第一声は「涼しいけど天気悪いな」。旅情ゼロの感想ですが、実はこれがサパの正解。サパは霧の町として知られ、視界が白くなる瞬間すら観光資源のひとつ。中心地を散策する中で観光客は青空を求めて来るのではなく、霧の向こうの世界に会いに来るのだと腑に落ちました。
 


そんなサパの名所のひとつが、ベトナム最高峰のファンシーパン山。中心地からケーブルカーに乗り、棚田のパノラマを眺めながら進むこと15分で麓の駅に到着します。かつては数日がかりで登山道を踏破する必要があったそうですが、いまやロープウェイに揺られて山頂近くへ。文明の発達は人類の脚力低下を招く一方で、心にはとびきり優しいのだとしみじみ感じます。

とはいえ、ロープウェイが運んでくれるのはあくまで「山頂付近」まで。最後は自分の足で登り切らねばなりません。普段の運動といえばビリヤードとダーツの往復運動くらいの筆者にとって、ここが最難関。「二度と登らん」と心の中で幾度も唱えつつ、なぜか足は前へ。人間、追い込まれると進むものだと改めて痛感しました。


山頂付近には仏像や伽藍が点在し、霧が晴れたり寄せたりと、まるでゲームで裏ボスの潜むダンジョンを探索しているかのようで胸の高鳴りを覚えます。


そしていよいよ山頂へ。さっきまでの霧が嘘のように、目の前には一気に広がる青。サパ中心地では濡れていた空気が、突如として乾いた視界へと切り替わります。九分九厘はロープウェイに揺られていただけなのに、胸に押し寄せるあの達成感たるや——登山家の皆さま、どうか微笑ましくお許しください。
 


下山後、サパ市内へ戻り、フィーリングで入ったレストランのビーフ・ウェリントンは勝利の味がしました。
霧に包まれ、青空に抜け、棚田の綾を縫い、宗教建築を渡り歩く。天気や視界が「悪い」からこそ、ひとつ先の景色に出会える——そんなサパへ、足を運んでみてはいかがでしょうか。

執筆者

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