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Tech, IP and Telecoms Law Newsletter

Tech⁠⁠⁠, IP and Telecoms Law Newsletter Vol⁠⁠⁠.18 2025年11月号

Ⅰ. 人工知能基本計画骨子及び適正性確保に関する指針骨子の公表

人工知能戦略本部は、2025年11月21日、「人工知能基本計画骨子」及び「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針骨子」を公表しました。2025年11月21日から2025年11月27日までの間、パブリックコメントに付されています。政府は、2025年9月に全面施行したAI法18条に基づいて、人工知能基本計画を策定し、また、同法13条に基づいて適正性確保に関する指針を整備することが求められており、今回公表された案はそれらに対応するものです。

人工知能基本計画骨子案では、改めて「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指すという政府の基本構想が強調されています。日本はAI利活用や投資が諸外国に比べて出遅れているとの認識の下、人口減少といった社会課題の解決や産業競争力の強化のためにもAIの開発・利用を積極的に推進する国家戦略が不可欠であるとしています。

そのうえで、人工知能基本計画骨子案は、基本方針として、①AI利活用の加速的推進(「AIを使う」)、②AI開発力の戦略的強化(「AIを創る」)、③AIガバナンスの主導(「AIの信頼性を高めること」)、④AI社会に向けた継続的変革(「AIと協働する」)、の4本柱を設定しています。具体的施策として、政府・自治体でのAI活用の徹底、医療・金融・教育等の各分野でのAI導入、AIスタートアップの支援、基盤モデルやフィジカルAIの開発支援などが挙げられています。さらに、AIガバナンスに関して、「AIセーフティ・インスティテュート」に、AIモデルの技術的評価やリスクの実態把握と必要な措置を講じることができるような機能強化をすることが示されています。

また、公表された「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針骨子」は、AIの研究開発・活用における適正性確保の基本方針として、①リスクベースのアプローチ、②ステークホルダーの積極的関与、③一気通貫でのAIガバナンスの構築、④アジャイルな対応という4つの方針を示しています。そのうえで、AIを活用する事業者が特に取り組むべき事項として、以下の5つの項目を掲げています:

① AIガバナンスによる俯瞰的な適正性の確保:リスクの特定・評価・対処をするための組織的プロセスを含むAIガバナンスの構築等
② ステークホルダーとの信頼関係の構築に向けた透明性の確保:学習データの出所と出力される生成物について、知的財産、プライバシー等の保護の適切な実施を含め、合理的な範囲での説明性確保等
③ 十分な安全性の確保:サイバー攻撃等の違法行為のリスクへの対応等
④ 事業継続性確保による安全な環境の維持:インシデント発生時における損害を最小限にとどめ、事業継続をするための対応等
⑤ AIのイノベーションの基盤となるデータの重要性を踏まえたステークホルダーへの配慮:知的財産等のデータ保有者等に対する利益還元のエコシステム構築に向けた方策の検討・実施に努めること等

現時点では、人工知能基本計画及び適正性確保に関する指針のいずれも骨子のレベルにとどまっており、今後、パブリックコメントの結果も踏まえて、より詳細な内容が議論されることが予定されています。具体的には、人工知能基本計画は、2025年内を目途に閣議決定されることが予定されており、適正性確保に関する指針も2025年内にAI戦略本部会合への報告が予定されています。さらに、政府においては、民事責任の在り方や知財保護の適正化など、法制度面での検討も進められており、今後の政策展開が実務にも大きく影響することが見込まれ、今後も最新の動向を注視する必要があります。

Ⅱ. 証券口座の悪用事案に関する監督指針及びガイドラインの改正

1. 金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針の改正

まず、金融庁は、2025年7月15日~2025年8月18日にかけてパブリックコメントを募集し、その結果を踏まえて「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)を2025年10月15日に公表しました。

今回の金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(以下「本指針」といいます。)等の一部改正は、証券会社のウェブサイトを装ったフィッシングサイト等で窃取した顧客情報(ログインIDやパスワード等)によるインターネット取引サービスでの不正アクセス・不正取引(第三者による取引)の被害が多発したことを踏まえ、インターネット取引における認証方法や不正防止策を強化するために行われるものです。具体的には、本改正の主要なものとして、①メールやSMSにパスワード入力を促すページのURL等を記載しないことや②ログイン、出金、出金先口座変更等の重要な操作における「フィッシングに耐性のある多要素認証」の実装及び必須化が挙げられます。②のワンタイムパスワードを電子メールで送信する多要素認証は、いわゆるリアルタイムフィッシングへの耐性がないとされている点に留意が必要となります。なお、改正後の本指針は、既に2025年10月15日より適用が開始されています。

2. インターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドラインの改正

次に、日本証券業協会は、2025年10月15日付けで「インターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます。)を改正しました。この改正も、本指針の改正の趣旨と同様、近時の証券口座の悪用事案の増加の対応を目的とするものです。
本ガイドラインの改正の概要は、以下のとおりです。

① ログイン時、出金時、出金先銀行口座の変更時など、重要な操作時におけるフィッシングに耐性のある多要素認証の実装及び必須化(本ガイドラインIV.1.(2)①)
② 不正売買、不正出金等を防止・検知するための設定等の利用状況確認等(本ガイドラインIV.1.(3))
③ フィッシング詐欺等被害未然防止のための措置(本ガイドラインIV.4.(1)~(5))
④ 社内教育、顧客の被害拡大・二次被害等を防止するための周知・注意喚起等ガイドライン(本IV.7.(1)・(2))
⑤ その他所要の改正

3. 小括

以上のような本指針及び本ガイドラインの改正を受けて、今後は日本において証券口座の悪用事案が減少することが期待されます。また、これらの改正は証券業界を対象とするものですが、今後金融業界全体にこのような趣旨の改正が拡大していく可能性があります。

Ⅲ. 公正証書に係る手続きのデジタル化

公正証書とは、法律行為その他私権に関する事実(金銭貸借、売買、賃貸借、遺言など)について、公証人が作成する証書です。従前、公正証書の作成、保存、利用などに係る一連の手続は書面・対面を前提としていましたが、「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」による改正公証人法が施行されたことにより、2025年10月1日から一連の手続が全面的にデジタル化されました。具体的な変更内容は以下のとおりです。
 

手続現行の仕組みデジタル化の主な内容
嘱託(申請)
  • 公証役場に出頭して嘱託を行う
  • 印鑑証明書等の書面による本人確認
  • 公証役場に出頭せずとも嘱託可能に
  • 電磁的記録での本人確認も可能に
嘱託人の陳述、内容確認等
  • 公証人が対面で、嘱託人の陳述聴取、真意確認、内容の正確性の確認等を行う
  • 嘱託人が希望し、かつ、公証人が相当と認めるときは、ウェブ会議の利用が可能に(リモート方式)
公正証書原本の作成・保存
  • 公正証書原本を書面で作成・保存
  • 嘱託人・公証人の署名・押印が必要
  • 公正証書は原則として電子データで作成・保存
  • 電子データへの署名等の規律を整備
正本・謄抄本の交付
  • 公正証書の正本・謄抄本を書面で交付
  • 電子データでの受領も可能に
    ※書面での交付も引き続き選択可能

法務省「公正証書の作成に係る一連の手続のデジタル化の概要」から抜粋、編集

リモート方式による公正証書の作成については、公証人が相当と認めることが要件となっているところ、ビジネス目的で利用される公正証書であって、代理人による嘱託が可能なものについては、リモート方式の利用を広く認めて良いとされているため(「公証実務のデジタル化に関する実務者との協議会~議論のとりまとめ~」)、ビジネスにおいては特にリモート方式の活用が見込まれます。

また、公正証書作成手数料にも変更があり、①法律行為の目的の価額が50万円以下の場合の手数料の引き下げ、②子どもの養育費の取り決めや死後事務委任に関する公正証書の作成手数料の引き下げ、および③近時の物価上昇等に対応した、法律行為の目的の価額が200万円を超える場合などにおける公正証書の作成手数料の見直しが行われました。

IV. 総務省「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」中間取りまとめの公表

1. はじめに

総務省は2025年9月17日、「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」における検討結果を取りまとめられた中間取りまとめを公表しました。本取りまとめは、検討会傘下の①デジタル広告ワーキンググループ(デジタル広告WG)と②デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループ(制度WG)のそれぞれにおける検討の結果を整理した中間取りまとめから構成されています。

2. デジタル広告WG 中間取りまとめ

SNS等などデジタル空間での情報流通において、誹謗中傷や虚偽情報、違法・有害広告の拡散といった問題が深刻化し、また、生成AI等の技術の高度化によってこれまで想定されなかったリスクも生じている状況を踏まえて、デジタル広告WGでは、デジタル空間における情報流通に伴う課題について議論されてきました。

2023年以降、著名人や企業を装う投資詐欺広告(なりすまし型「偽広告」)の被害が増えたことを受け、総務省は主要プラットフォーム事業者に対し、広告審査や削除対応の強化を要請していました。本取りまとめでは、その後の事業者へのヒアリングを経て、依然として被害が継続していることを確認し、継続的モニタリングの必要性を指摘しています。

また、「デジタル広告の流通を巡る諸課題への対応に関するモニタリング指針」を制定しました。対象となる事業者は1,000万人以上の月間利用者を有する大規模SNS事業者で、広告出稿時の事前審査体制の整備、事後的な削除対応体制整備や透明化などを評価項目としています。

さらに、本取りまとめは、広告が意図せず偽情報媒体や違法サイトに表示されることにより、(1)ブランド毀損、(2)アドフラウドによる広告費流出、(3)誤情報拡散への加担といったリスクが生じる可能性を指摘しています。総務省は、2025年6月には「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」が公表しており(ガイダンスの概要については本レター2025年7月号(Vol.16)をご参照ください。)、ガバナンス強化を促しています。

3. 制度WG 中間取りまとめ

制度WGは、情報の流通が複雑化する中で、インターネット上の違法・有害情報に対する法制度面からの対処について、事業者等へのヒアリングを実施し、検討を進めてきました。

本取りまとめは、流通する情報を、①他人の権利を侵害する「権利侵害情報」、②法令で流通が禁止される「法令違反情報」、③青少年に悪影響を与える情報、健康被害を生じさせうる情報等の「有害情報」に区分したうえで、区分ごとの対処方針を示しています。権利侵害情報については、被害者本人だけでなく第三者からの削除申出を迅速に扱う制度の整備、法令違反情報については、行政機関が専門的判断に基づき削除要請できる仕組み、有害情報については、表現の自由を配慮し警告表示や収益化停止など削除以外の措置等が検討されています。

さらに、利用者同士の交流の仕組みや投稿の表示方法、アルゴリズムによる情報提示の仕組みなど「サービス設計レイヤー」にも着目し、事業者が違法・有害情報の流通状況、サービスがもたらすリスクを把握・分析・評価し、軽減する体制を求めています。業界による自主的な行動規範づくりと総務省のモニタリングを組み合わせ、必要に応じて法的規制に進む段階的アプローチを提示しています。

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