メインコンテンツに移動

REIT Newsletter

上場ベンチャーファンド制度の見直し案

Ⅰ. はじめに

2026年7月22日、株式会社東京証券取引所(以下「東証」といいます。)は、「成長資金供給の充実のためのベンチャーファンドの上場制度の見直しについて」と題する制度要綱(以下「本制度見直し案」といいます。)を公表しました。本制度見直し案に対する意見募集期間は2026年8月21日までとされており、東証は、2026年10月を目途に改正後の制度を実施する予定です。

当事務所は、2024年9月号のREIT Newsletterにおいて上場ベンチャーファンド市場の制度概要及び実務上の留意事項を、同年12月号のCapital Markets/Private Equity/REIT Newsletterにおいてインサイダー取引規制の導入その他の法令・上場制度の整備をそれぞれご紹介しました。本制度見直し案は、これらに続く上場ベンチャーファンド制度の見直しと位置付けられます。

本制度見直し案は、未上場企業に対する成長資金供給の充実を目的として、上場ベンチャーファンドにおける資金供給方法の多様化と運用の柔軟性の向上を図るものです。主な内容は、①同一発行者の未公開株等を保有する場合に、その発行者の社債券及び一定の金銭債権を「未公開株等」に含めるとともに、一定の間接投資ビークルを追加すること、②新規上場申請時に提出する運用資産の組入計画の期間上限を6か月以内から2年以内に延長し、その進捗状況等について3か月ごとの開示を求めること、並びに③未公開株等投資比率の算定方法及び総資産有利子負債比率が20%を超えた場合の上場廃止基準の取扱いを見直すことです。

本ニュースレターでは、本日現在公表されている資料に基づき、本制度見直し案の内容と、上場ベンチャーファンドの組成及び運用を検討する上での実務上の留意点をご説明します。なお、本制度見直し案はパブリックコメントの段階にあり、最終的な規則、施行時期及び経過措置等は変更される可能性がある点にご留意ください。

Ⅱ. 本制度見直し案の概要

1. 主な投資対象資産の拡大

本制度見直し案では、ベンチャーファンド投資法人が、ある未公開企業の未公開株等(未公開株又は未公開株の発行者が発行する優先株等、新株予約権証券若しくは新株予約権付社債券をいいます。)を保有している場合に限り、次の資産を当該投資法人の「未公開株等」に含めることとされています。
 

  • 当該未公開株等の発行者が発行する社債券
  • 当該未公開株等の発行者を債務者とする、投資信託及び投資法人に関する法律施行令3条7号に掲げる金銭債権


ここでいう社債券からは、新株予約権付社債券が除かれていますが、これは、新株予約権付社債券が既に現行制度上の未公開株等に含まれているためです。東証は、通常の社債券又は金銭債権と新株予約権証券等を併せて保有する我が国のベンチャーデット実務を踏まえた見直しであると説明しています。

したがって、ベンチャーファンド投資法人による取引としては、典型的には、投資法人が投資先企業の株式又は新株予約権を取得するとともに、当該企業の社債を引き受け、又は当該企業に対するローン債権を取得する取引が想定されます。この場合、デット部分による利息・元本償還の収益機会と、新株予約権等を通じた投資先企業の企業価値上昇時の利益を組み合わせた投資設計が可能となります。

もっとも、社債券又は金銭債権が「未公開株等」として扱われるためには、投資法人が同一の発行者に係る未公開株、優先株、新株予約権証券又は新株予約権付社債券等を保有していることが必要です。

また、本制度見直し案の文言上、社債券又は金銭債権を未公開株等として取り扱うためには、同一発行者の未公開株等を「保有する」ことが要件とされています。このため、エクイティ又は新株予約権部分のみを先に処分し、デット部分を引き続き保有する場合には、未公開株等投資比率の算入可否への影響(下記6.参照)を事前に確認する必要があります。

2. 社債券及び金銭債権への投資額に係る運用方針

本制度見直し案では、投資法人の規約又はこれに類する書類に、社債券及び金銭債権への投資額(未公開株等関連資産のうちこれらに相当する部分の額を含みます。)の運用資産等の総額に占める比率を、原則として30%を超えないものとする運用方針、又はこれらの資産には投資しない旨を定める必要があるとしています。また、金銭債権への投資を行う場合には、投資信託法施行令3条7号に掲げる金銭債権を投資可能資産として規約に含めることが必要とされています。

なお、現行の上場基準では、規約上の投資制限として、①特定の投資先に取得時の純資産総額の10%を超えて投資しない、又は、②未公開株等又は未公開株等関連資産については15%を超えて投資せず、その他の資産については10%を超えて投資しないことのいずれかを選択することとされています。社債券及び金銭債権が「未公開株等」に含まれる場合には、①との関係では、同一投資先に対するエクイティ部分とデット部分を合算したエクスポージャー管理が必要となる可能性が高く、最終的な有価証券上場規程の内容及び東証の解釈を確認することが重要です。

また、本制度見直し案では、未公開株が金融商品取引所に上場する前から投資法人が継続して保有していた社債券及び金銭債権については、投資先企業の上場後も「継続保有株券等」として取り扱うことが予定されています。そのため、かかる社債券及び金銭債権については、未公開株等投資比率の分子に算入することが可能となります。

これにより、投資先企業の株式上場のみを理由として、既存のベンチャーデットを直ちに処分する必要はなくなり、契約上の満期、償還スケジュール又は投資回収方針に沿って保有を継続することが可能となります。もっとも、投資法人の規約上の社債券及び金銭債権に係る運用方針の対象には、投資先企業の上場前から継続保有している社債券及び金銭債権も含まれることが明記されています。このため、投資先企業の上場後も、当該デット資産は30%基準の管理から外れない点に留意が必要です。

なお、本制度見直し案上、社債券及び金銭債権と共に保有していた同一の発行者に係る株式、新株予約権証券等をIPO後に処分した場合の取扱い(引き続き「継続保有株券等」として取り扱うことができるか)については明確化されておらず、最終的な有価証券上場規程の内容及び東証の解釈を確認する必要はあります。

3. 社債券及び金銭債権に関する開示

社債券及び金銭債権を保有する場合には、既存の銘柄名、取得日、数量、取得価額及び貸借対照表計上額等の開示に加え、次の事項の開示が求められる予定です。
 

  • 社債券
利率及び償還期限
  • 金銭債権
利率、満期及び担保の内容
  • 社債券・金銭債権共通
新株予約権証券等と組み合わせる目的(リスク・リターン設計)の説明


したがって、投資判断時には、社債又はローンの条件だけでなく、新株予約権等との組合せを含む投資全体の経済合理性について、投資家向けに説明できる形で検討記録を作成することが重要となります。

4. 間接投資ビークルの拡大

現行制度では、主として未公開株等及び継続保有株券等に投資する匿名組合契約上の持分、投資事業有限責任組合の持分等、投資信託の受益証券、投資証券及びこれらに相当する外国の権利・証券への投資(いわゆる間接投資)が認められています。

本制度見直し案では、これらに加えて、次の間接投資ビークルが追加される予定です。
 

  • 資産を未公開株等及び継続保有株券等への投資として運用することのみを目的として設立された会社の株式
  • 特定目的会社が取得した資産を主として未公開株等及び継続保有株券等への投資として運用する場合の当該特定目的会社の優先出資証券
  • 信託財産を主として未公開株等及び継続保有株券等への投資として運用する特定目的信託の受益証券
  • 上記の権利・証券に相当する外国の権利及び証券


これにより、ベンチャーファンド投資法人についても、TMKその他のSPVを利用した投資等について選択肢が広がることが見込まれます。

5. 運用資産の組入計画

現行制度では、上場申請時に未公開株等投資比率が50%を超えていない場合、運用資産の組入計画及び当該計画を達成する旨の確約を証する書面に記載できる組入計画期間は、最長6か月とされています。

本制度見直し案では、この期間が最長2年に延長されます。ただし、かかる措置により、単に上場後2年間にわたって未公開株等投資比率を満たす必要がなくなるものではありません。組入計画を前提として上場した場合、投資法人及び資産運用会社は、その進捗状況を3か月ごとに開示する必要があります。

また、組入計画を変更する場合又は組入計画が未達となった場合には、その理由及び今後の組入計画を開示した上で、新たな計画の進捗状況を引き続き3か月ごとに開示する必要があります。上場後2年を経過する日以後最初に到来する営業期間の末日において未公開株等投資比率が50%以下である場合には、上場廃止に係る猶予期間に入ることとされています。

この見直しにより、上場による資金調達を先行させ、その後一定期間をかけて投資対象を取得する運用モデルも、従来より採用しやすくなる可能性があります。

もっとも、上場申請時には、組入計画期間内(最長2年)に未公開株等投資比率を50%超とすることについて、具体的な組入計画及び確約を示す必要があります。実務上は、投資候補先のパイプライン、想定投資額、投資実行時期及び案件が不成立となった場合の代替案件等について、東証及び主幹事証券会社に説明できる準備が必要となります。

6. 未公開株等投資比率の見直し

現行制度上、投資先企業の未公開株を上場前から継続保有していた場合、当該株式は上場後も継続保有株券等として未公開株等投資比率の分子に算入されます。これに対し、投資先企業の上場に際して新たに取得する株式は、上場前から保有していたものではないため、原則として継続保有株券等には該当しません。

本制度見直し案では、次の株式について、未公開株等及び継続保有株券等に準ずる資産として未公開株等投資比率の分子に含めることとされています。
 

  • 金融商品取引所への上場に伴う公募又は売出しに際して取得する株式で、親引けによるもの
  • 上記公募又は売出しに際して取得する株式で、有価証券届出書等に取得に関する関心の表明が記載されているもの
  • 上場に伴う第三者割当てに際して取得する株式


これにより、上場ベンチャーファンド投資法人が、既存の投資先企業のIPOに際して追加投資を行う場合や、新たな投資先のIPOにアンカー投資家等として参加する場合でも、一定の要件の下で未公開株等投資比率を維持しやすくなるものと考えられます。

また、本制度見直し案では、未公開株等投資比率を計算する際、運用資産等の総額から、運用報酬、管理報酬その他これらに準ずる費用の支払原資として留保されている資産の額、すなわち「管理報酬等留保額」を控除できることとされています。

この見直しは、投資に充てることを予定していない報酬・費用支払用の現預金が分母に含まれることにより、未公開株等投資比率が機械的に低下することを避けるものと考えられます。上場廃止基準における未公開株等投資比率の計算についても、同様の見直しが予定されています。

新規上場申請においてこの控除を利用する場合、投資法人及び資産運用会社は、管理報酬等留保額の明細及び算定根拠を示す書面を提出する必要があります。

7. 総資産有利子負債比率に関する例外

現行の上場基準では、投資法人の規約又はこれに類する書類において、①資金の借入れ及び投資法人債券の募集を行わない旨、又は②総資産有利子負債比率を原則として20%以下とする運用方針並びに借入れ等に関するリスク管理方針、目的、限度額及び使途を定めることが求められています。また、営業期間末日に総資産有利子負債比率が20%を超え、その後1年以内に20%以下とならない場合には、上場廃止となります。

本制度見直し案では、営業期間末日に総資産有利子負債比率が20%を超えた場合、投資法人が、その理由を記載した書面を東証に提出でき、東証が、比率超過の理由を一時的な資金需要その他のやむを得ない事由であると認めたときは、上場廃止に係る猶予期間入り又は上場廃止の対象としないこととされます。なお、この場合、投資法人は、提出した書面を東証が公衆の縦覧に供することに同意する必要があります。

この取扱いは、総資産有利子負債比率20%の基準そのものを撤廃し、又は通常の運用において20%を超えるレバレッジを一般的に認めるものではなく、例えば、資産取得と資本調達の時期のずれ等により一時的に20%を超える場合を念頭に置いた限定的な例外と考えられます。

Ⅲ. おわりに

本制度見直し案は、上場ベンチャーファンドについて、単なる投資対象資産又は組入計画期間に関する基準の緩和にとどまりません。エクイティを中心としてきた上場ベンチャーファンドに、デットとエクイティを組み合わせた資金供給や間接ビークルを通じた投資の可能性を拡大するとともに、上場後に一定期間をかけてポートフォリオを構築する運用モデルを可能とする点で、商品設計の選択肢を大きく広げるものと考えられます。

上場ベンチャーファンドの組成又は上場を検討する関係者においては、パブリックコメントの結果及び最終的な規則改正(施行日及び経過措置を含みます。)の公表を注視しつつ、規約、開示及び上場準備スケジュールを並行して検討することが重要となるものと考えられます。

関連するトピックス