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Structured Finance/Banking Newsletter

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新株予約権付融資に関する法的論点についての最新動向

Ⅰ. はじめに

2026年2月19日、新株予約権付融資に関する検討会(事務局:一般社団法人全国銀行協会)から、「新株予約権付融資に関する検討会報告書」(以下「JBA報告書」といいます。)が公表されました。

JBA報告書は、金融機関等がスタートアップへの資金供給を強化する上での新たな融資形態として新株予約権付融資への期待が高まっていること、及び、新株予約権付融資の普及・拡大における課題の一つとして、利息制限法及び出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)上の課題が指摘されていることを受けて、2025年6月に設置された上記検討会の検討結果を取りまとめたものです。

JBA報告書は、新株予約権付融資の概要及び特徴について明らかにした上で(下記Ⅱ.)、①新株予約権付融資において割り当てられる新株予約権の利息制限法及び出資法上の「利息」への該当性(下記Ⅲ.)、②新株予約権が利息に該当する場合における新株予約権の価格の算定方法(下記Ⅳ.)、③借入人が期限前弁済を行った場合の新株予約権の取扱い(下記Ⅴ.)を中心に、想定される論点を体系的に整理しています。

また、JBA報告書の内容は、2025年12月26日に金融法委員会が公表した「新株予約権への上限金利規制の適用関係に関する検討~ベンチャーデット/スタートアップ向け融資を念頭に置きながら~」(以下「FLBペーパー」といいます。)で論じられた内容と一部重なります。

本ニュースレターでは、JBA報告書及びFLBペーパーにおいて検討された内容について紹介いたします1

Ⅱ. 新株予約権付融資の概要・特徴

1. 新株予約権付融資の意義・メリット

新株予約権付融資は、いわゆるベンチャーデット2においてみられる、エクイティとデットを組み合わせた資金調達のスキームを指します。ベンチャーデットは、融資先企業の当座のキャッシュフローや担保に依存せず、将来にわたる事業の成長可能性を与信の基礎とする点に特色がありますが、貸付人としては、一般的なコーポレート・ローンと比較して高いリスクを伴う場合があり、また、融資実行時点では担保として差入れが可能な資産を借入人が有していないケースも多いため、借入人の事業が成功した場合のアップサイドを享受できる権利等、リスクに応じたリターンの確保が通常求められることになります。

融資に際して借入人が発行する新株予約権を貸付人に対して割り当てることにより、①借入人にとっては、エクイティでの資金調達に比べて株式発行による即時の希薄化を回避しつつ、通常の融資を受けられない場面における資金調達や、新株予約権の割当てがない場合と比べて有利な条件での資金調達を実現することができるメリットがあり、②貸付人にとっても、借入人の事業が成功した場合等において、新株予約権の権利行使により取得した株式の売却等によるキャピタルゲインが期待でき、リスクに見合ったアップサイド・リターンを確保しやすくなるというメリットがあると考えられます。

2. 新株予約権付融資の一般的な特徴

新株予約権付融資の商品設計はさまざまであり、必ずしも確立した実務が存在するわけではありませんが、JBA報告書では、従来の金融機関における新株予約権付融資の取組事例を踏まえ、新株予約権付融資にみられる一般的な特徴を以下のとおり整理しています。また、FLBペーパーにおいても、概ね同一の特徴を有する新株予約権付融資をモデルとして検討が行われています。

貸付人(金融機関等)と借入人(スタートアップ等)の間で、融資契約と新株予約権割当契約を別個に、かつ同時期に締結する。
新株予約権には、借入人の上場やM&Aといった一定の権利行使条件が設定される。
新株予約権は(少なくともその割当契約上は)無償で貸付人に割り当てられる。
融資完済後も貸付人は新株予約権を保有し、これを行使することができる。
貸付人は将来的なキャピタルゲインの獲得を目的として新株予約権の割当てを受ける。

Ⅲ. 新株予約権の利息該当性の検討

1. 利息制限法・出資法上の利息の意義と判断のポイント

利息制限法及び出資法上の規制対象である「利息」については、元本使用の対価であり、貸付額と貸付期間に比例して支払われる金銭その他の代替物を指すという説明が一般的です。

JBA報告書では、新株予約権付融資において貸付人に割り当てられる新株予約権が「利息」に該当する(上限金利規制の適用を受ける)かどうかを判断するにあたって、「元本使用の対価性」が認められるか否かが重要なポイントであると指摘されています。そして、かかる新株予約権の「元本使用の対価性」の有無については、新株予約権付融資の具体的な商品設計を踏まえて判断することが適当であると整理されています。FLBペーパーにおいても、新株予約権に元本使用の対価性が認められるかどうかの検討を中心に、利息該当性について議論がなされています。

なお、利息制限法及び出資法上のみなし利息は、条文上「金銭」であることが予定されている(利息制限法3条、出資法5条の4第4項)ため、新株予約権はみなし利息には該当しないと考えられるところ、JBA報告書及びFLBペーパーにおいても、同様の整理がなされています。

2. 新株予約権に元本使用の対価性があると認められ得る商品設計

JBA報告書では、Ⅱ.2.に記載した一般的な特徴を持つ新株予約権付融資については、

  • 融資取引のリスクを踏まえた適切なリターンの確保が新株予約権を割り当てる目的の一つとなっていること
  • 新株予約権の無償割当てを受けていること
  • 新株予約権の割当てをもって融資取引の金利を軽減する等、与信条件に関連するケースがあること

を踏まえると、新株予約権に「元本使用の対価性」があることを否定することは難しく、新株予約権付融資を行う金融機関は、割り当てられる新株予約権が「利息」に該当するものとして整理される可能性も念頭に置く必要があると指摘しています。

FLBペーパーにおいても、貸付人に割り当てられた新株予約権の価値の分だけ通常の融資よりも利息が軽減されるという「金利減免効果」が認められる場合には、新株予約権は本来金利で支払われるはずだった利息に置き換わるものとして捉えられ得るとして、新株予約権について元本使用の対価性が認められる整理に結び付きやすいとされています。

3. 新株予約権に元本使用の対価性がないと認められ得る商品設計

一方で、JBA報告書及びFLBペーパーは、新株予約権付融資に以下のような事情が認められる場合には、貸付人に割り当てられた新株予約権に元本使用の対価性がないと認められ、「利息」に該当しないと整理し得るとしています。

(1)金融機関等が新株予約権の対価として金銭等を支払う場合
まず、JBA報告書及びFLBペーパーは、融資に際して貸付人に新株予約権が割り当てられる場合であっても、新株予約権の対価として適切な価額が合意され(新株予約権について有償発行が行われ)、融資契約において新株予約権の価値を踏まえた金利の減免調整が行われない場合には、新株予約権の割当ては融資とは独立して行われたものであって「元本使用の対価性」がないと認められ得るとしています。

また、FLBペーパーでは、新株予約権として合意された価額について、借入人が融資に関して貸付人に対し支払義務を負う金員(本来の現金利息やアップフロントフィー等)との間で相殺又は差引計算により精算する処理を行う場合には、貸付人による新株予約権の対価に相当する金額の支払がなされず、新株予約権の発行により金利等が減免されたような外形が生ずるものの、かかる外形は支払精算の結果にすぎず、新株予約権が利息に置き換わる形で発行されたとの評価は当てはまらないと解される旨を述べています。

(2)融資の返済がなされない場合の補填を目的として新株予約権の割当を受ける場合
さらに、JBA報告書では、(1)の場合に加えて、

  • 新株予約権割当契約において、融資が予定どおりに返済された場合には新株予約権を放棄すること
  • 約定に従い融資が返済されないときのみ新株予約権の行使が認められること

を定める場合、新株予約権は万が一の場合に融資の元利金を補填する手段として位置付けられ、このような担保的な位置付けが明確である場合には、新株予約権について元本使用の対価性がないと認められるように考えられる旨を述べています。

なお、JBA報告書は、貸付人がこのような目的で取得した新株予約権を行使して株式を取得し、精算が行われた場合には、当該株式の評価金額の分、融資に係る元利金が消滅することになる旨を述べています。

Ⅳ. 新株予約権の価格算定方法の検討

1. 新株予約権の算定基礎

新株予約権付融資における新株予約権が「利息」に該当する場合、上限金利規制違反とならないよう、貸付人に割り当てられる新株予約権の価値を加味して算定される実質利率が、上限金利の範囲内に収まるように諸条件を決定する必要があります。この場合における実質利率の算出に関しては、

  • いかなる期間を基礎として、実質利率が上限利率の範囲内かを判断すべきか
  • 新株予約権の価値の評価基準時をいつとすべきか
  • 時価を算出した新株予約権について、その後の評価額の変動を受けて再評価を要するか

といった点について、JBA報告書・FLBペーパーでそれぞれ検討されています。

(1)新株予約権の算定基礎となる期間
金融法委員会が2011年1月10日に期限前弁済手数料やアップフロントフィーの利息制限法及び出資法上の取扱いに関して公表した「期限前弁済手数料及びアップフロントフィーと利息制限法及び出資法に関する中間論点整理」においては、アップフロントフィーがみなし利息に該当すると評価される場合に当初約定貸付期間を基に実質利率を計算すべき理由として、以下の点が挙げられていました。FLBペーパーでは、新株予約権との関係でもこれらが同様に当てはまる旨を指摘しています。また、JBA報告書も、新株予約権が「約定貸付期間全体」に対して付与される利息と解される旨を述べています。

アップフロントフィーについては、特定の利息計算期間に対応するものというよりも、融資自体(当初約定期間全体における融資金額の利用)の対価として付与されるのが実態といえること。
(アップフロントフィーがみなし利息に該当すると評価される場合に、当初約定貸付期間をもとに実質利率を計算するという整理は、)金銭消費貸借契約に利息制限法を適用する際に実務において使用されている最高裁判所事務総局公表の実質利率による計算方法とも整合的であること。

(2)新株予約権の価値の評価基準時
FLBペーパーでは、新株予約権の価額の評価基準時として、

  • 融資契約及び新株予約権割当契約の締結時点
  • 新株予約権の発行・割当時点
  • 新株予約権の行使等によるエグジット時点

があり得るとした上で、新株予約権の価値を織り込んだ一連の融資条件が合意される、融資契約及び新株予約権割当契約の締結の時点を新株予約権の価値の評価基準時と解するのが合理的である旨を述べています。

また、FLBペーパーでは、仮に融資契約と新株予約権割当契約が別々の日において締結される場合には、新株予約権の価値を織り込んだ一連の融資条件が確定する時点を踏まえていずれかの契約締結日を評価基準日と解すべきと考えられる旨を述べています3

(3)会計上の価値評価に合わせた新株予約権の再評価の要否
JBA報告書では、(2)の時点で評価を行った新株予約権について、その後の新株予約権の価値の変動に応じて再評価を要するかという点に関して、会計上は原則として四半期ごとの時価評価が必要となるのに対し、利息制限法及び出資法の上限金利規制との関係では、あくまで新株予約権付融資を行った時点における「将来のキャピタルゲインの期待値(の現在価値)」が上限金利の範囲内であれば足りることから、上限金利の範囲内であるかを確認する観点からの再評価については不要である旨を述べています。

2. 新株予約権の評価手法等

(1)総論
JBA報告書では、新株予約権はオプションの一種であるためその評価手法についてはオプション価値の算定方法が用いられること、及び、オプション価値の算定方法は案件の特性や貸付人の態勢等を踏まえて貸付人が選択可能であり、実務上は比較的簡便なブラック・ショールズモデルの活用が一般的であることを述べる4とともに、ブラック・ショールズモデル等の活用により新株予約権を評価する際に必要なパラメータ(株価・権利行使価格・ボラティリティ等)やそれらの算定方法、その他新株予約権の価値算定手法や条件決定プロセスにおいて、貸付人が上限金利規制を遵守しつつ借入人の既存株主の利益の侵害を防止する等の目的で行うべき手当の内容について整理を図っています5

(2)スタートアップにおける資金調達の特性を踏まえた、新株予約権の評価に必要なパラメータ等
JBA報告書では、スタートアップにおける資金調達の特性を踏まえた、新株予約権の評価に必要なパラメータについて、参考となる言及がなされています。

例えば、JBA報告書では、ブラック・ショールズモデル等を活用した新株予約権の評価に必要な原資産価格(新株予約権の目的となる株式の価格)の算定方法としては、直近のファイナンス価格、インカムアプローチ(DCF法)及びマーケットアプローチ(マルチプル法)が挙げられています。原資産価格の算定にあたっては、(直近のファイナンスから時間が経過している場合やファイナンス実績がない場合のように、直近のファイナンス価格を使用できない場合以外には)簡便さや客観性の観点から直近のファイナンス価格を使用することが一般的であるとされています6

また、ブラック・ショールズモデル等を活用した新株予約権の評価に必要なボラティリティ(株価変動率)は、(ステージにもよるものの)リスクが相対的に大きい非上場スタートアップにおいては、ボラティリティも高く、算定も実務上は難しい場合もあると思われます。JBA報告書では、ビジネス内容や成長ステージ等から対象企業の類似会社を選定することや、成長ステージにある企業も多い東証グロース市場に上場する銘柄のボラティリティを使用すること等も考えられるとした上で、ボラティリティは使用する株式銘柄の数と期間によって数値が変動し得ることから、複数の銘柄を選定する、新株予約権の期間を踏まえた相応の期間のボラティリティを参照する、特殊事情によるボラティリティの急変の影響を除外する等により、数値を適切に平準化することも検討する必要があるとしています。

さらに、非上場スタートアップの、いわゆる「エグジット(exit)」(株主等による換金可能性の確保)の手段として、金融商品取引所への株式上場やM&Aによる株式譲渡等が多いことに伴い、新株予約権付融資で割り当てられる新株予約権の権利行使条件としても、上場やM&Aが設定されることも多いところです。JBA報告書では、ブラック・ショールズモデルで算定したプレーンな新株予約権の価値に、必要に応じて、権利行使条件の充足確率を乗じることが考えられるとしています。権利行使条件の充足確率の設定にあたっては、類似会社(ビジネス内容や成長ステージ等で類推)における上場等の条件充足の確率を使用することが考えられるとされていますが、類似会社の適切な選定に加えて、その時々の市況や、近時の日本のスタートアップにおけるM&Aエグジットの増加等の傾向も踏まえて、実態に即した検討を要することになると思われます。

その上で、これらの新株予約権の価値算定方法や条件決定プロセスには恣意性が入るリスクもあることから、JBA報告書では、客観性を担保するための評価マニュアルを制定すること、株価等の評価に際しての重要な前提条件を借入人に開示すること、貸付人として会計上の時価を算定するプロセスが確定している場合に当該時価を活用すること等、新株予約権の価値算定方法や条件決定プロセスにおける一定の手当を行う必要性が挙げられていることも重要です。

Ⅴ. 期限前弁済時の新株予約権の取扱いの検討

1. 問題の所在:実質借入期間に基づく実質利率の再計算の要否

JBA報告書及びFLBペーパーでは、新株予約権付融資における新株予約権が「利息」に該当する場合であって、かつ、融資及び新株予約権の割当てが当初において上限金利規制の範囲内でなされた後、借入人による任意の期限前弁済が行われた場合に、実質借入期間に基づき実質利率の再計算が必要になるか、それとも、かかる再計算は不要であるとして、貸付人が当初割り当てられた新株予約権を保持すること(以下「不精算扱い」といいます。)が許容されるかという点が検討されています。

仮に実質利率の再計算が必要になるとすると、期限前弁済の時期や融資残高、新株予約権の価格等の条件によっては、期限前弁済の時点で再計算された実質利率が上限金利の範囲を超える事態が生じ、一定の精算を要する可能性があることから、不精算扱いが認められるか否かが問題となります。

2. 検討内容

(1)融資契約に基づく借入金の期限前弁済時における利息の取扱い
貸付期間中に期限前弁済が行われた場合、期限前弁済以後は元本が存在しなくなることから、当初約定貸付期間のうち期限前弁済日から当初合意した支払期日(満期日)までの残存期間に対応する利益(元本使用の対価)については、これを「利息」として収受することはできないように考えられます。一方で、民法591条3項では、消費貸借契約に基づく債務の期限前弁済によって貸付人に生じた損害については、借入人が賠償義務を負うとされているところ、同項に基づき当初の支払期日までの利息相当額の損害賠償が認められる場合としては、「事業者間の取引における高額の貸付けのように、期限前に返済を受けたとしても金銭を再運用することが実際上困難であり、他方で返済期限までの利息相当額を支払ってもらうことの代わりとして利率が低く抑えられていたようなケース」が考えられるとされています7

(2)新株予約権付融資における「不精算扱い」の許容性
JBA報告書及びFLBペーパーでは、新株予約権付融資については、一般に、消費者向けの金銭消費貸借契約等とは異なり、案件ごとの個別性が強く、期限前弁済後に同等の利回りでの再運用を行うことが困難であることを踏まえ、残存貸付期間に対応する新株予約権を民法591条3項に基づく損害に見合うものとして期限前弁済以降も保持し、実質借入期間に基づき実質利率の再計算を行わない扱いが、代物弁済(民法482条)としての合意及び当該合意に基づく措置として許容されると考えられることについて論じています。

(3)「不精算条項」の規定について
民法591条3項における損害の発生及び損害額、並びに期限前弁済と損害との因果関係については貸付人による立証を要するため、不精算扱いが認められる場合であっても、借入人の期限前弁済により、貸付人が当初の支払期日までの利息相当額(すなわち、新株予約権の価額)に相当する損害を被ったことは、本来、貸付人の側で立証する必要があります。

この点に関して、JBA報告書及びFLBペーパーは、法的安定性を高める観点から、あらかじめ、借入人が任意の期限前弁済を行った場合には不精算扱いを行う旨を融資契約に規定すること(以下、かかる条項を「不精算条項」といいます。)を、591条3項に基づく損害についての賠償額の予定の合意(民法420条、421条)又は代物弁済の予約に係る合意として整理し得るかについて検討しています。

また、FLBペーパーは、かかる不精算条項の効力は、一般条項によって規制される可能性が理論上はあるものの、新株予約権付融資において取引当事者が十分な判断能力を有し、交渉が自律的に行われることを前提にすれば、一般条項によりその効力が否定されることは考えにくい旨を論じています。

Ⅵ. おわりに

JBA報告書及びFLBペーパーは、①新株予約権付融資において割り当てられた新株予約権の利息該当性に関する、元本使用の対価性についての検討を中心とする判断枠組み、②かかる新株予約権に上限金利規制が適用される場合の価格算定方法、及び、③期限前弁済時の新株予約権の取扱いについて整理し、実務上の一定の指針及び理論的裏付けを提示しています。

利息制限法及び出資法との関係が新株予約権付融資の普及の障害の一つであると指摘される中、これらの論点について一定の整理が進んだことは重要な前進といえます。とりわけ、新株予約権付融資において貸付人に割り当てられた新株予約権について「金利減免効果」がある場合には元本使用の対価性が認められるという分析、新株予約権の具体的な価格算定方法についてのオプション評価モデルを前提とした整理、さらに期限前弁済時における新株予約権の不精算扱い・不精算条項の法的構成に踏み込んだ検討は、従前必ずしも十分に議論が尽くされてこなかった論点に対して重要な指針を示しており、新株予約権付融資に関する実務・理論に与えるインパクトは小さくないと考えられます。

新株予約権付融資は、伝統的なデット又はエクイティのいずれか一方のみによる資金調達を補完する、いわばハイブリッド的な資金調達のスキームです。法的安定性と市場の健全性を確保しつつ、その活用にあたって過度な萎縮を生じさせない制度運用がなされることにより、今後のスタートアップの発展に資する実効的なファイナンス手法の選択肢として定着していくことが期待されます。当事務所では、引き続き新株予約権付融資の利用に向けた議論の動向を注視し、随時情報発信に努めてまいります。

  1. なお、本ニュースレターの執筆者の一部はJBA報告書及びFLBペーパーの作成に関与していますが、本ニュースレター記載のうち意見にわたる部分は執筆者らの私見であり、JBA報告書及びFLBペーパーの作成・公表主体の見解を示すものではありません。
  2. 「ベンチャーデット(Venture Debt)」とは、スタートアップを中心としたベンチャー企業による負債性の資金調達をいいます。ベンチャーデットの特徴や日本のベンチャーデットの事例については、当事務所のStructured Finance/Banking Newsletter 2022年10月27日号もご参照ください。
  3. なお、JBA報告書においては、融資契約と新株予約権割当契約の締結日が異なる場合にどちらの契約締結日を評価基準日と解すべきかに関して、「両契約の締結日が異なる場合であっても、極めて近接して行われると考えられることから、その場合には融資契約または新株予約権割当契約の締結日のいずれの時点で新株予約権の評価を行ったとしても評価が大きく異なることはないと考えられる」と指摘しています。
  4. JBA報告書は、複数の新株予約権の評価手法の例を挙げつつ、「金利差(金利の軽減効果)による算出」も例として挙げていますが、かかる評価手法については、新株予約権付融資の主な借入人として想定されているスタートアップ(非上場会社)についてマーケットでの金利観測ができず、「新株予約権がついていない場合の金利」の妥当性についての説明に難しさがあることも指摘しています。
  5. 詳細は、JBA報告書10頁-14頁をご参照ください。
  6. 原資産価格の算定に際して、スタートアップは、優先株式(会社法上の種類株式の一種として、残余財産の分配が普通株式よりも優先すること等を内容に含み、投資家に対して出資の対価として発行される株式)を発行して資金調達を行うことが一般的です(M&Aに際しての売却代金の分配が普通株式よりも優先すること等も内容とされますが、M&Aに際しての売却代金の分配の優先構造は、残余財産の分配と異なり、種類株式の内容そのものではないことを理由に、株主間契約等により定められることが一般的に行われています(いわゆる「みなし清算」条項)。)。その上で、実務上、段階的資金調達モデルの下で、ベンチャーデットは株式による資金調達と近似したタイミングで実行されることが多く見られます(詳細について、脚注2記載の当事務所Newsletterもご参照ください。)。そのため、優先株式の発行価額は、原資産価格の算定における重要な指標となり得ます。特に、新株予約権付融資では直近で発行した優先株式を目的とする新株予約権を割り当てることも多いことからすると、実務上は、優先株式の発行価額を原資産価格として用いることができる場合も多いものと考えられます。
  7. 筒井健夫ほか編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2018年)299-300頁。

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